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悪魔と天使のシンデレラ  作者: 風帆 満
9/20

蒼夜、再び!

 今朝も早朝から、怜良が作った弁当を持った真里菜が、家を飛び出すのが見える。

 以前のとげとげしさは多少取れて、真里菜は一応怜良に礼を言うと、駅へと猛ダッシュしていった。


 あのクラス会の日、深影がアンジェを伴って、気絶した美智子と明菜と真里菜の三人を、瞬間移動で新出家に運んだ。

 アンジェが意識の無い三人の心に温かみを植え付け、怜良につらく当たらないよう術をかけたのが功を奏しているようだ。

 木の上から一羽のカラスが見守る中で、玄関先に出てきた父親の浩史が、怜良を労ってから奥に引っ込むのが見え、こちらも悪鬼の支配から解放されたことを知る。

 ほっとして飛び立とうとしたとき、怜良が庭に出てきてキョロキョロ辺りを見回すのに気が付いた。


「コルボー。コルボーいない?餌を持ってきたわよ」

「ギャッ」

 思わず鳴いてしまい、羽でくちばしを覆ったが、怜良に気づかれてしまった。

「やぱりいた。コルボーおいで」


 な、なんで?思い出したのか?

 逃げた方がいいのか、下に降りても大丈夫なのか、蒼夜は緊張のあまり羽毛を逆立てながら、木の幹を右往左往する。

「反応ありね。じゃあ、この名前に決定。英語のクロウじゃ苦労するに聞こえるから、響きのいいのにしたの。ねっ、卵焼き食べる?」

 怜良が広げた手の平には、黄色に輝くふっくらとした卵焼きが載っている。蒼夜はごくんと唾を飲んだ。


 近くの垣根に下りて、怜良が怖がらないか様子を見る。怜良の方もコルボーを驚かさないように、ゆっくりと歩を進めながら腕を伸ばす。

「コルボーは他のカラスと雰囲気が違って、艶々の黒い羽ときりっとした顔がすごく素敵。人間だったら、ものすごくカッコいいでしょうね」

 照れた蒼夜が片足で頭を掻こうとしたとき、軸足が垣根の中に沈み込み、バランスを崩して前に傾いた。怜良が驚いて腕を差し伸べる。少し羽ばたいてその腕に‥‥‥

 あ~載っちゃったよ。どうすんだこれ?

 蒼夜は困った顔ですぐ近くにある怜良を見つめ、怜良もまさかの展開に目を見張ってフリーズしている。


「コ、コルボー。こ、怖くないよね?いい子ね。これ食べて」

 自分の方がビビッているくせに、カラスの気持ちを思いやる怜良にキュンとしながら、コルボー蒼夜は、怜良が差し出した卵を咥えた。

「うわっ。食べた!コルボー、美味しい?」

「カァ~~ッ」

「えっ?からい?」


 んなわけないだろ。と思いつつ、カラスの声では、美味しいとは言えない。カーかアホ―になってしまう。仕方がないのでフルフルと首を振り、残りの卵を顔を上に向けてくちばしの奥に移動させてごっくんと飲む。うん、上手い!思わず羽を震わせると、怜良が嬉しそうに、美味しい?と聞いた。今度はうんと頷いてやる。

 すると、遠慮がちに伸びた手がコルボ―の首筋を撫でた。

 うわ~っ気持ちいい!蒼夜コルボーが首を伸ばすと、怜良が笑いながら首筋や背中、頭まで撫でまわしてくる。蒼夜は鳥で良かったと思った。人型だったらマジやばい状態だ。


「コルボーは誰かに似ている気がする。誰だっけ?思い出そうとすると、少し掴みかかったことさえ一気に消えちゃうの。会いたい気がする。覚えていたら、とっても大事な人になっていたかも」

 突然、コルボーがブルっと身を震わせたので、怜良の思考が引き戻される。何か言いたげに、コルボーがじっと怜良を見つめていた。ファサっと羽を広げてコルボーが飛び立ち、怜良の腕が軽くなる。大事なものを失う感覚が、また強く押し寄せてきた。


 蒼夜は新出家の家の屋根を超えて、怜良のいる反対側へと身を隠すつもりだったが、超えた途端にシラサギとバチっと目があった。

 やっぱり見てたよな?と思いながら、知らん顔をして飛び続けると、すぐに白い羽が横に並んだ。

「蒼夜。卵焼き美味しかったですか?僕も食べたかったな」

「はっ?あれは俺に作ってくれたの。コルボーは他のカラスと違ってかっこいいってさ。怜良は良く分かってるじゃないか」

 会話までは聞こえていなかったのか、怜良がコルボーと同じ名前で蒼夜を呼んだことを聞いて、天真はひどく驚いた様子だ。


「深影さんの術が効かないほど、怜良さんは蒼夜を思っているのでしょうか?」

「いや、偶然だって。英語でカラスを呼ぶと、日本語の苦労を連想させるから嫌だってさ」

「でも、もし、僕のことを忘れるように術をかけたとしても、怜良さんはシラサギの僕をエグレットとは呼ばない気がします。蒼夜。考えていたのですが、僕は一生昇格しなくてもいいです。蒼夜がもし‥‥‥」

 黒い身体が天真の視界から消えたと思った途端、上から体当たりをされ、シラサギの身体が空の上でよろめいた。カラスがアホ~ッ、アホ~ッとシラサギに向かってがなり立てる。


「何するんですか。墜落するところでしたよ」

「お前が昇格するかどうかなんて関係ない。怜良がプリンスと出会って幸せな結婚ができなかった場合、願ったこととは反対の運命になるんだろ?」

「ええ、そうですが、神が選んだ王子と結婚して、怜良さんが本当に幸せになれるかどうかは分かりません。それなら、思っている者同士が一緒にいるほうがよっぽど幸せだと思います」

「な、何言ってんだ。それって両想いってことだろ?俺たちはそんなんじゃないぞ」

 焦る蒼夜を見て、天真がフ~ッとため息をついた。

「無自覚って怖いですね。傍から見ても、十分二人が思い合ってるのは伝わってきますよ。試しに人間の姿で怜良さんの前に現れたらどうです?記憶が無くても、怜良さんは蒼夜に好意を持つと思います」


 蒼夜が何か言いかけてやめた。そうこうするうちに森の中の館に着き、まずは蒼夜が西側の風よけに降り立ち姿を変える。続いて天真がシラサギから人へと姿を変えるのを見て、蒼夜が言った。

「天真には白い羽が似合う。これ以上じいさんに逆らえば、本当に羽をもがれるかもしれないぞ。俺のことを思ってくれるのはありがたいが、俺は天真が天使でいられなくなるのは嫌だ。怜良の相手が本当にいい奴か見極めるために、俺もついていく。その前に転校生としてもう一度怜良に会うよ」

「ええ。それがいいです。相手が悪い奴なら、思いっきりぶち壊してください。良い奴でもぶち壊せばいい。そうしたら、蒼夜は黒い羽を失わずに済みます」

 蒼夜がにやりと笑って片手を上げると、天真が片手で打ち付ける。そのまま二人は肩を組んで屋敷に入り、出迎えたスケルトンにただいまと上機嫌で挨拶をした。

 

それから間もなくして、怜良と天真のクラスに、真っ黒い髪と切れ長の目を持つ長身の転校生がやってきた。

 教師が紹介する間、教壇の上の蒼夜と目を合わせた怜良が、コルボーみたいと呟くのが耳に入り、蒼夜はふと怜良の言葉を思い浮かべた。

「コルボーは他のカラスと雰囲気が違って、艶々の黒い羽ときりっとした顔がすごく素敵。人間だったら、ものすごくカッコいいでしょうね」

 実際の姿を見た怜良がどう思ったのか気になって、蒼夜がじっと怜良を見つめる。怜良の頬がほんのりと赤く染まったのを見た途端、蒼夜は例えようのないほどの幸せに飲まれ、思わず叫び出したい気分になった。


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