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入学

四月にしては澄み渡った空に、ハラハラと桜の花びらが舞っている。

例年より暖かい日が多かった今年の春は、花たちも生き急いでいるかのようにみえる。


玲奈(れいな)は、十五歳の春を迎えていた。


十五年以上もこの世界で生きていると、凡平悦子(ぼんぺいえつこ)であった時の記憶は薄れてくる。

それは前世を忘れたとかではなく、時を経るごとに新たに積み重なってきた記憶の波にのみ込まれていったということなのだろう。印象的な記憶以外は、細部がおぼろげになってきていた。


けれどそれを覚えていたからといって、たいして役に立たない。


中学生になり行動範囲が広がった玲奈は、自分がかつて生きていた場所に行ってみた。

どうしても好奇心を抑えられなかったのだ。

けれどそこに見知った人たちは誰もいなかった。


やっぱりね。

玲奈が、ずっと考えてきたことを最終確認したようなものだった。


どうやらここは、凡子が生きていた世界と似ているようでちょっと違う世界のようだ。

玲奈がそれに気づいたのは小学生の時だった。歴史上の人物の名前が覚えていたものと違っていたのだ。

同じように人が生き、科学技術を使い、歴史を刻んでいるはずなのに、名前が違う。

ここは、たぶんものすごく昔に、以前住んでいた世界から時間軸が枝分かれしたパラレルワールドのような世界なんだろう。


だから歴史上の人物は、最初から覚えなきゃいけなかったのよね~


計算や漢字などには転生の恩恵を感じたが、それ以外のことは、自分の中の記憶のズレを修正することに結構な手間と労力を取られ、同じ国への転生が良かったのか悪かったのか、よくわからなくなってしまった。


転生チート、少なっ!て感じ。


けれど赤ちゃんの時から意識的に勉強を頑張ってきたためか、玲奈は麻木(あさぎ)市でもトップの麻木中央(あさぎちゅうおう)高校に合格することができた。


小さな頃から勉強ができたので、真島の祖父母や母親は、玲奈にエスカレーターで大学まである私立学園の付属幼稚舎の入試を受けさせようとした。けれど、父親の和樹と玲奈本人が嫌がったため、ずっと公立オンリーで教育を受けてきた。

今回も推薦ではなく一般入試を受けて、堂々と合格している。

玲奈としては中高一貫の公立校を考えないではなかったが、まったく別の学校に通う方が新鮮な気持ちになるかなと思い、敢えて大学受験での優位性は捨てることにした。

どっちにしろ、小さな頃から学年を越えて自学自習をしてきたので、いまさらの感もあったのだ。



今日はその麻木中央高校の入学式だ。


校門を入ってすぐ、たぶん上級生なのだろう、係の腕章を付けた人が新入生が行く受付の場所を教えてくれた。

玲奈がそちらに足を向けると、後ろで「スゲー、美人! 天使じゃね?」という声が聞こえた。

へー、今年の新入生には、そういう人もいるんだな。後で私も見てみよう。


玲奈は自分のことを言われているとは思っていない。


中身が凡子の意識を引きずっているので、周りの人に「綺麗になったね」と言われても、お世辞の部分が多いと思い「ありがとうございます」とだけ言って、ほとんど聞き流している。


玲奈は知らないが、中学校の同級生たちは、玲奈のような美人過ぎる人間にはなれなれしく声をかけにくいと思っていた。


そんな事情もあり、玲奈の友人は親友と呼べる二人だけだ。

今生はたくさん友達を作りたいと思っていた凡子だったが、なかなかうまくいかないものである。




この後、受付で入学書類を渡した人、玲奈にクラス分けの掲示板の位置を教えてくれた人、それに玲奈の側を同じ方向に歩いている新入生やその保護者にいたるまで、大勢の人が玲奈のことをチラチラ見ていた。


けれど、やはりと言うべきか、当の本人だけがそのことに気づいていなかった。



掲示板の所に行くと、玲奈は知った顔を見つけた。

玲奈の数少ない友人の一人であるホリリンが、熱心に掲示板を見上げている。


「ホリリン、おはよう! クラス、どうだった?」


「ふっふっふ、一組で……一緒だよーん」


「うわぁ、やったー!」


玲奈が飛び上がって喜ぶと、ホリリンと呼ばれた堀井真紀(ほりいまき)はクラクラと眩暈がするような恰好をしてみせた。


「もー、玲奈ったら朝から眩しすぎる~ おお、ジュリエッタ! 湧き出でる魅力の光を押さえたまえ! わたくしの瞳は、過ぎた美しさを映し、熱く焼け焦げつぶれてしまいます」


「ハイハイ、もうそのネタはいいから。さっさと教室に行こう」


「えぇ、もうちょっとやらせてよー」


ホリリンはまだふざけたかったようだが、玲奈は彼女を引っ張って、一組の札が貼ってある靴箱に向かった。


玲奈は中学校三年生の時の文化祭で、クラスの劇に出て、『ロメオとジュリエッタ』のジュリエッタ役をやったことがある。

真紀ともう一人の親友である沙也加(さやか)は、いまだにそのことをからかって、こんな風に演劇調の口調で話すときがある。

真紀は中学校の時に演劇部に入っていたので、こういう悪ふざけは得意なのだ。


玲奈は親の仕事を見てきたためか、演劇には食傷気味だった。そのため中学では料理部に入った。

食いしん坊の(さが)を最大限生かして、三年生の時には部長も務めた。


ちなみにホリリンとコンビを組んでふざけていたもう一人の親友の沙也加(さやか)は、私立聖花(せいか)女子高校へいったので、ここにはいない。


ホリリンと同じクラスでよかった。

玲奈の特殊な家庭事情を説明しなくてもいい友達が側にいることに、玲奈は一安心していた。

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― 新着の感想 ―
[一言] チート少な! って 色々チートな状況に当人が気がついていないだけなんじゃないでしょうかねw
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