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0歳児の考察

ンゴクンゴクン

目下のところお乳を飲み、オシメを汚し、クークー眠るのが仕事になっている。

寝る子は育つと言われているので、これはこれでいいのかな?



私の名前は、お七夜の日に「玲奈(れいな)」と名付けられた。

奇しくも元の世界では初七日法要が行われていたようだが、転生してきた私は知らない。



父親の和樹が下手くそな字で一生懸命、命名の紙に名前を書いてくれたらしい。母親の亜紀が「やっぱりこっちが良かったわね。玲奈~、玲ちゃん、うん、呼びやすい」そう言っているのを聞いて、私はホッとしていた。

玲奈か、あまりキラキラし過ぎない名前で良かった。


前世では苗字がひどかった。凡平悦子(ぼんぺいえつこ)という名前だったので、小学校の頃から友達に「凡子(ぼんこ)」というあだ名で呼ばれ続けてきた。

結婚して波島(なみしま)という家に嫁いだのだが、今度は同窓会で「並子(なみこ)」と名付けられてしまった。

本当にひどい悪友たちよね。


けれど、生まれ変わったからには、今生(こんじょう)こそ平凡という殻を脱ぎ捨てたい、そう凡子は決意していた。


苗字の方はもう知っている。

病院で「大友(おおとも)ベビー」と言われていたので、両親は「大友和樹(おおともかずき)亜紀(あき)」という名前なのだろう。


大友玲奈(おおともれいな)


今度は、どんな人生になるのかしら?


異世界転生じゃなかったから、チート能力はない。神様にも一度も会わなかった。ということは、転生主人公補正もなさそうね。

まぁ、小説の登場人物でもないのだし、地道に努力して力を付けていくしかないのかも。

ただラッキーなことに前世の記憶があることから、小学生ぐらいの勉強なら楽にこなせそうな気がする。


前世ではマンガを読みすぎて、学業がおろそかになっていたので、今度は同じ(てつ)を踏まないように気を付けなきゃいけないな。

それにピアノを習っていたのに、練習をさぼっていたので、ちっともうまくならなかった。

そろばん教室にも通ったが、3級どまりだ。

中学生の時はテニス部に入っていたが、走り込みなどの基礎練習をせずに、部活帰りに買い食いばかりしていたら太ってしまった。

英語の勉強も最初の単語のスペルでつまずいて、ずっと苦手なままだった。

高校入試では第一志望校に落ちて、苦手なテストばかりさせられる地元の普通科に通うことになった。

その高校では演劇部活動に夢中になって、まったく勉強をしなかった。

大学入試なんか、言わずもがなである。


もちろん、年齢=彼氏がいない歴を常に更新し続けていた。


クラスの中にいたら、埋没してしまう個性のない凡子。

一握りの友達とだけ付き合ってきた凡子。


……本当に私って、なさけない子ども時代を過ごしていたのねぇ。



玲奈は、お乳を飲み終わってゲップした。


いや、寝る子は育つなんて悠長なことを言っている場合じゃない。

私のような凡子が人並みにやっていこうと思ったら、赤ちゃんの時から頑張るしかないのではないだろうか。


0歳児は脳細胞が一番発達する時期だと聞いたことがある。

えーっと、なんて言ったっけ?

早期……そう、早期教育よ!


父親の和樹は、防音室とやらにこもって、コンピーターを使いながら音楽鑑賞ばかりしている。たまに出かけているので仕事はしていると思うのだが、非常に不規則な生活だ。

子どもができて、家族を養っていけるような仕事なのだろうか?


母親の亜紀の方は、家事が苦手なようで「あー、また焦がしちゃった」とか言いながら料理をしている。側で聞いているとハラハラする。


この両親はあてにできない。

目がハッキリ見えるようになって、手足がまともに動くようになったら、自分で自分を育てよう!


玲奈は生後一ヶ月にして、そんな決心をしたのだった。




目が見え始めた玲奈は、両親の顔を見て驚いた。

スゲー、イケメン!

父さん、俳優になれるよ!

音楽を聞いてばかりいないで、発声練習をして劇団のテストを受けに行きなよ!


目を丸くして「うーうー」言いながら、小さな丸っこい手でテステスと父さんの肩を叩いて訴えたら、和樹に「あー玲奈、いい気持ち、そこそこ」とえらくほめてもらった。

……肩たたきしたんじゃないんだけどな。


防音室の中には、ギターが何本も置いてあったので、歌手になるのもいいかもしれない。

あ、でも子持ちのアイドル歌手っていうのは、難易度が高いか。



母さんはナイスバディのお姉さんだった。

若いっ、そして綺麗すぎる。

父さんは面食いだったんだな。

これなら少しぐらい料理ができなくても許されるのかも。


目がくりっとしていて可愛いのに色気もあって、羨ましい限りだ。

世の中にはこんなふうに容姿にとことん恵まれた人もいるんだなぁ。


母さんは玲奈をくすぐるのが大好きだ。

「こちょこちょこちょっ!」と言われると、反射反応で「キャハハハッ」と笑ってしまう。

赤ちゃんっぽいと、言わないでほしい。

歳には関係なく、くすぐったいものはくすぐったいのだ。





寝返りができるようになると、私はしょっちゅうベビーサークルの中に放り込まれるようになった。

……これってちょっと屈辱的だ。動物じゃないんだからね。


それでもこの頃になると外に連れて行ってもらうことも増え、住んでいる地域のことがわかるようになってきた。


うちの両親は、買い物はほとんどネット通販を使っているようで、マンションの玄関に置かれている戸別のボックスからよく大きな荷物を取り出している。

店が近くにないのかも。

だから私はずっとここは田舎なんだろうと思っていた。けれど車で出かけた時に窓から外を見ると、ビルの群れがずっと続いていた。

どう見ても首都クラスの大都会だ。私たち家族が住んでいるのは、もしかしたら東京なのかもしれない。



そしてお宮参りの日に、玲奈は衝撃を受けることになる。

初めて会った両親の親、つまり玲奈の祖父母たちにも驚いたのだが、その場で交わされていた会話を聞いて、仰け反ってしまった。

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