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将来設計

ユーツバーだなんて突拍子もない話題転換だと思っていたが、真島くんの中では一貫している話だったらしい。



駅へ着いたので玲奈は改札がある方へ歩き始めたのだが、真島くんは駅前にあるマッケンバーガーに玲奈を誘った。


「詳しいことを話すよ。打ち合わせを兼ねておごるから、ちょっと寄っていこうよ。喉も乾いたし」


確かに玲奈も喉は乾いている。

けれどここのマッケンBにはまだ入ったことがない。高校生になったとはいえ、まだ中学生の頃の校則に囚われていて、喫茶店やこういう店に学生だけで入ることを、なんとなく遠慮してしまう。

「旧世代の学生じゃあるまいし、玲奈は真面目過ぎる」といつも真紀に笑われるのだが、実際、前世は昭和の時代を生きていたので、そういう感覚がどこかに残っているのかもしれない。


なんか背徳感があるな。

真島くんに続いておそるおそる店内に入った玲奈だが、注文の段階になるとそこはハンバーガーを食べ慣れた現代っ子、スラスラと自分の好きなものを選び、無事に品物が満載されたトレーを受け取った。


「二階に行こっか」


真島くんはゆっくり話をしたいのだろう。自分のトレーを持ってスタスタと階段を上っていく。

二階には学生のグループがチラホラ座っていたが、席には余裕があった。


ブース席に落ち着いた二人は、代わる代わる席を立って、近くの手洗いで手を洗ってきた。

今日初めて一緒に食事をするのだが、こういう所作がお互い自然で、やり方がよく似ている。

血のつながりがあると似てくるものなのかしら。


「まずは温かいうちに食べよう」


「そうね」


普通、この時間だと飲み物だけにするのかもしれないが、真島くんがセットメニューを選んだので、玲奈もテリヤキバーガーのセットにして、ポテトもアイスティーもLサイズにしていた。


ハンバーガーを食べ終わると、ポテトをつまみながら真島くんが話し始めた。


「好きなことは食べることですって言ってたけど、本当のことだったんだな」


何を言っているのかと思ったが、よく考えれば玲奈がクラスの自己紹介で言ったセリフだった。


「よく覚えてるわね」


「ああ、こっちは(はな)から親戚の子ってわかってたからな」


「ふーん、私は親戚だとわかってなかったけど、真島くんの自己紹介はなんとなく覚えてるかも。確か、音楽が嫌いなのよね。選択はなんにしたの?」


「美術。そっちは大友和樹の娘らしく音楽だろ?」


「あら、音楽を選択したのは、母の影響でピアノを習ってたからよ」


「へーーー、亜紀ってピアノも弾けるんだ。あ、ごめん。亜紀さんだよな」


「あ、そういう言い方は小さい頃から慣れてるから大丈夫。芸能人は敬称を略される人間の方が有名人だって父もよく言ってるし」


「ハハッ、さすが大御所。言うことが違う。……その大御所のためにもなる話なんだよ、今回の真島グループのキャンペーンガールのこと」


「どういうこと?」


「和樹さんは、アウトドアショップを経営してるだろ? 今回、うちのアウトドアやスポーツ用品の部門とコラボして大友ブランドを作る話も出てるらしい」


「へー、そうなの。でもそれはそれでやればいいし、私個人が関わる必然性はないと思う」


「かたくなだな」


くっ、こいつにまで言われた。

私ってそんなに頑固? ただ、自分が苦手なことをしたくないだけじゃん。


「悪い、俺の言い方が悪かった。君がどう考えているのかは理解している。ただ、もったいないなと思ってさ。今回の話は大友家にとって利点しかないんだよ。君の負担以外はね。君も芸能界に詳しいから、自分は抜きにして客観的に判断すれば利点しかないってことがよくわかると思うよ」


「どういうこと?」


「弟の翔くんたちのことだけど、新人歌手が一気にスターダムに駆け上がるのは難しい。新人はまず、あちこちに顔見せ営業して回るのは知ってるだろ。けれど彼らにはバックに大友和樹というネームバリューがある。一般の新人よりは一歩抜きんでていることは確かだ。そこに姉が大手企業のキャンペーンガールをするとなると、話題性の点からいえば、もうぶっちぎりのトップを走れる。いろんな企画を考えていたり番組を持っている人たちの耳や目にのぼる回数が増えるっていうのはわかるだろ。つまり、これから出す曲を番組でかけてもらえたりして、リスナーの耳に届きやすくなる。そこから先のことは、彼らの実力にかかっているけどね。音楽事務所やCDを出すレーベルが、うちの親父さんのアイデアにもろ手を挙げてのっかったのは、ここら辺の事情が大きいと思うよ」


なるほど、これが父さんが言ってた大人のしがらみか。



そりゃあ、父さんや翔たちの応援になるのならっていう気持ちが全然ないとはいえない。

でも、ことは「私」にかかわることだからね。


プロのモデルって写真写りがいいだけじゃなくて、その時の企画に合わせて、自分をいかに見せるかっていうセンスが問われる。企画によっては自分を抑えて、服を目立たせるテクニックも持っている。

歌手にしても、プロの歌い方は人に訴えかけるものが違う。

これは大友和樹の娘を長年やってきているからこそ、よくわかっている。

ただの歌のうまい一般人とは隔世の感があるのよねー、プロの歌って。


「大友家の利点はわかった。でもね」


「ちょっと待って。俺も昼休みの時から考えてた案があるから、ちょっとプレゼンさしてくんね?」


「はぁ~、もうしつこいなぁ。聞くだけよ」


「ありがと。俺も子どもの使いじゃないんだから、親父のとこに持っていくなにがしかの成果が欲しい。けど君の将来設計に大きな迷惑はかけたくないし、芸能活動が苦手だっていう人に無理強いはしたくない」


「ふうん、無理強いしないのに、ユーツバーってどういうこと?」


「ユーツバー、そこに両者の利点があると思うんだよね」



自信満々に話す芳孝の姿に、玲奈はいつしか引き込まれていた。

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