転生ですか?
生まれ変わったんだと、そう思っていた。
でもちょっと何か変なんだよね。
最初に転生を意識したのは息をした時だった。
いまわの際に家族に向かってお別れを言ったのはなんとなく覚えている。
病状も末期になってくると意識も夢うつつになって、自分が起きているのか、眠って夢の中にいるのかよくわからなくなる。
一緒に住んでいる息子のお嫁さんが、孫を連れて駆けつけてくれた。たぶん病院からおばあちゃんが危篤状態だと連絡がいったのだろう。
仕事優先の生活をしている息子には残念ながら会えずじまいだ。
プップッと脈をひろっている機械の音がひどく遅くなっていたが、しだいに間延びした感じになり、とうとうプーといったまま脈が拾えなくなってしまった。
高校生の孫が二人で、だんだんと冷たくなっていく私の足を優しくさすってくれていた。
最後に感じたのは、その娘たちの手の温もりだった。
そこからフッと意識が途切れ、次に感じたのは途轍もない息苦しさだった。
身体中を万力で締め付けられているような、骨が折れてバラバラになっていくような不快感の後、やっと息がつけるかと思ったら、お尻を大きな手で叩かれた。
痛い!
何するのよ!
抗議して泣きべそをかいたら「ふにゃあぁふにゃあ~」と猫が頼りなく泣いているような声が自分の口から漏れて出た。
泣き疲れて大きく息を吸い込むと、肺がミシミシいう。
まるで初めて息をした人みたいだ。
あれ? あれれれれ?
死んだら天国に行くんじゃないのぉー?!
休みもなく、即、セカンドステージに突入ですか?
けれど何やら違和感を覚える。
赤ちゃんになったのなら、もとの人格のまま考えられているのって、おかしいよね?
そこで私は気づいてしまった。
これって、記憶を持ったまま転生するってやつじゃない?!
マジっすか……
あの、よくネットで読んでた小説みたいな人生が、自分に降りかかっているということなんですか?
ということは、もしかしてここは中世ヨーロッパ風の世界で、母親の髪の色がピンクだったりするのかしら?
おー、ちょっとドキドキするな。
赤ちゃんの、視点がはっきりしない目で周りを見てみると、ぼんやりとだが人型のようなものが見えた。
この人は……身体を洗って下着を羽織らせてくれている人だから、侍女さんか看護師さん?
その向こうを歩いている大柄な人は……たぶんお医者さんか産婆さん?
でも私が見た感じでは、髪の毛があるはずの頭の辺りは黒色に見える。
まさか、再び地球のアジア圏の人生なんですか?
それはちょっと残念かも。
できたら異世界のお姫様とかに生まれてみたかったなぁ。
「お待たせしました。綺麗になったから抱いてあげてくださいね。はい、お父さん」
ん? 言葉が日本語に聞こえるけど……
「うわぁー、ちっせー」
「和樹、私にも見せて!」
「ほら、見てみろよ。あ、そういえば胸の上に置くんだったかな? あの母親学級で習ったカンガルーケアってやつ」
「うん、赤ちゃんの服の前をはだけさせてね。肌が直接触れ合う方がいいんだって」
私は下着を背中にマントのように背負ったまま、母親の汗ばんだ胸の上に抱きつかせられるようにして降ろされた。
本能なのか胸にギュッとしがみついてしまう。
あったかい。それに安心する。
眠くなっちゃうな~
「この目のあたりは亜紀そっくりじゃね?」
「そうかなぁ、和樹にも似てるよ。鼻筋が通ってるし」
「こいつ美人になるぞー」
「ふふ、もう親バカなのぉ?」
自分の親だと思える若者たちの名前、それに彼らが言っている内容も合わせると、どうもこの世界は現代日本で決定みたいね~
そんなことを考えながら、疲れていた私は眠ってしまった。
けれど大きくなってから、自分が考えていたような世界ではなかったことが徐々にわかってきた。
これは、こことよく似ているけれど、ちょっと違った別の世界の日本に生まれた、ある平凡な少女の物語である。