人形の遊び方
さて。此処に、貴方がおじい様から受け継いだか、亡くなった恋人の部屋から持ち出したか、外国の没落した元富豪から買い取ったかで手に入れた人形があります。それは赤い、いかにも高級そうな椅子にゆったりと腰掛けています。垂れた脚は爪先が床に少し触れていますね。ええ、立ち上がっても140㎝もありません。
このままを愛でたい、と仰る気持ちは分かりますが、折角なのでちょっとひと手間かけていかれませんか。きっとその方が楽しまれるでしょうから。それに、この手間というのも中々、楽しいものです。
それでは。まず、この子の目蓋に、閉じられた目に触れてみましょう。左右どちらでも構いませんよ。ただ余り力を入れすぎないように。……柔らかいでしょう? 弾力もあって。目蓋の下の眼球に、光を当ててみたいでしょう。睫毛の隙間から零れる眼光をその身に受けたいでしょう。触るのは……余りお勧めしませんが、私からはお止めしません。いずれにせよ、まずはこれに、瞬きをさせるところから。
では、貴方がこの人形を見た時に最も注目した──ええ、ええ当然です。誰だって其処に目が行くでしょう。愛らしい相貌よりも、柔らかそうな頬よりも、仄かに紅い唇よりも、細い首筋よりも、華奢な身体よりも、子供らしい小さな手よりも。割れた頭に視線を奪われるのは、極々当たり前のことです。今からこの、頭部の空洞を埋めて貰います。さて、失礼ですが一度手を洗って頂いて……有難う御座います。何しろ、素手で作業して頂く必要がありまして。では、此方をご覧ください。貴方から見て右手から、「星間を飛ぶ蝶の翅」「雪を吸った木の葉」「海に輝く月の破片」「朝焼けの間に降った雨粒」です。これらをお好きなように、お好きなだけ詰めて下さい。嗚呼でも、少しの隙間を残されることをお勧めします。統計上、そうした方が長く、好い結果が出ていますので。それではどうぞ、指が求めるのに従って。
……お疲れ様でした。丁寧なお仕事ぶりで。では、次の工程に参りましょう。此処からは手早く済むものばかりでございます。これの髪を決めるのです。色、長さ、髪質の違うウィッグを十六種類用意しております。お好みでお選びください。但し、一度頭に被せると暫くは固定されてしまいますのでご注意を。
成程、そちらを選ばれますか。いいご趣味です。嗚呼、被せる前に幾つか注意点を。まず、被せる位置や角度など、上手くいくかご不安かもしれませんが、ご安心を。普通に被せたら最適にフィットするようになっております。「普通じゃない」場合、というのは例えば裏返しになっている、等です。
次に、こちらが重要なのですが……髪を被せて、一秒から五秒後に、二度瞬きをします。ですのでどうか、御見逃しなさいませんよう……。「後の楽しみにとっておく」という方もいらっしゃいますが、私個人の感想を述べますと起きた後とはまた違った趣が楽しめますので。ではどうぞ、これに髪を与えてあげて下さい。
……いかがでしたか。お気に召したようで何よりです。では次ですが、こちらの櫛をどうぞ。ゆっくり、髪を梳かしてあげてください。うっとりと、それはそれは長い間される方もいらっしゃいますし、それはそれで素晴らしい時間ではありますが、工程としては一通り梳かす程度で構いません。ただ、貴方には要らぬ注意でしょうが一応申しておきますと、ご自身の髪よりも丁寧に。……ええ、そのようにやって頂ければ。どうぞそのまま。…………はい、充分ですよ。物足りないのと待ちきれないので悩んでいらっしゃいますね。では、手が止まったのをいいことに次の説明を。
……嗚呼、そうでした。この子の服を選びたい、着替えさせたいというのは当然、人形遊びとしては前提と言える程ですが、もう少しご辛抱を。この子が目を覚ましてから、好きな服を選ぶも、選ばせるも、着せ替えるも、着替えを見守るも、お好きなだけできますから。
では、次で最後になります。まずは足の爪先……左右どちらでも構いません。爪先に口づけを、一度。次に両手の甲に一度ずつ。そして手を握ってあげながら、顔のお好きなところに口づけを、二度。但し、唇は避けて頂きますようお願いします。二度の口づけの後に──嗚呼、同じところに二回でも、別のところに一回ずつでも──口づけが終わられましたら、この子をじっと見つめてあげてください。暫くも経たないうちに、この子は目を覚まします。目が合って、一度瞬きをすれば完了です。では私は邪魔になりますので、退室致します。余り焦らぬよう、逸る心臓を抑えて臨まれてくださいませ。それでは、楽しい人形遊びを。
「遊び方」じゃないな、と投稿二時間後に気付きましたがこのままいきます。




