表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

南の島の日は暮れて

「明日はもう日本に帰るのねぇ……」


 ホテルのバーで、メルがポツリと言った。


「楽しい時間は、あっという間に過ぎるっていうけど……」


 タマエとリエも、バーカウンターに肘をついてカクテルグラスをしみじみと見つめる。


「ウチのお店も、いろいろあったわよねぇ。最初はタマちゃんとアタシしかいない小さなお店でさ」


 メルが言うと、タマエが「あの頃は若かったわ」と言うので、リエは「二人がいくつの時に始めたんですか?」と質問した。


『20歳』


 メルとタマエは、同時に答えた。


「はいはい、お二人がハタチの頃から始めたお店が、今では立派なショーパブになりましたね」


 リエが苦笑いして言う。


「あ~、リエちゃん、信じてないでしょ~」


 酔いがまわっているのか、メルが薄ら笑いを浮かべながらリエの腕をつねって言った。


「でもさ、アンタたちには、本当に感謝してるんだから」


 メルがグラスを掲げながら言い、三人は静かにグラスを合わせた。


 ※※※


「いやー、正直、驚いたわ。マーサちゃん、腕を上げたわねぇ」


 マーサとエリカ、そして美衣の即席ユニットで臨んだショータイムは、観客からの拍手喝采で幕を閉じた。


 三人は、控室で汗を拭きながらミネラルウォーターを飲み、反省会を行っていた。美衣はマーサの成長ぶりを嬉しそうにほめる。


「美衣姉の指導は厳しかったからね。そりゃあ、あれぐらい踊れるようにはなるよ」


 マーサは「当たり前だ」というように言ったが、いつになくウキウキした表情だった。


「うん。もちろんダンスが上手いのもそうなんだけど、私がマスカレードにいた頃って、マーサちゃん、余裕がないっていうか、自分のダンスを見てほしくて、『ボクがボクが』って感じだったじゃない?」


 美衣が言うと、マーサは「そうだったっけ?」と、顔を赤らめた。


「うん。そうだったんだけど、今日はちゃんとエリカちゃんが踊りやすいように、リードしてあげてたわよね。ココのステージはマスカレードより広いから、大きく動けるようにしてあげたりとか」


 美衣の指摘を受けて、エリカは「どうりで初めてのステージなのにうまく踊れると思った」と合点がいった。


「今日は、とても勉強になりました! ありがとうございました」


 エリカが礼を言って頭を下げると、マーサは「今日も2回ステップ間違ったろ。帰ったら特訓な」と言い、美衣が笑いながら「また遊びに来てね」と言った。


 ※※※


「ふう、こんなもんかしらね」


 墓掃除を終えたナナが額の汗を拭きながら言った。


 つるつるの墓石に、まぶしく日光が反射し、新たに供えた花が風に揺れている。


「おばあちゃん……」


 小さな声で呼びかけた。


「また来るからね」


 額をそっと墓石に寄せる。


「温かい」


 祖母の心に触れたように感じ、ナナは微笑みを浮かべた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ