ホテルまでは何マイル?
「もう! 誰よ、アラモアナショッピングセンターからホテルまで歩こうなんて言ったのは!」
メルがプリプリしながら言い、「あー、足が痛い」と不満を漏らした。
「えー、だって、二人ともイケるって言ったじゃないのよ」
大量のショッピングバッグを抱えたタマエも、疲れた表情で言う。
「あきらめて、タクシー拾いましょうか……」
リエの控えめな提案に、誰も反論する気力を持ち合わせていなかった。
※※※
「ちょ、ちょっと待ってください! 私もショーに出るんですか?」
マーサの無茶振りに、エリカが慌てて言った。
マーサは「当たり前だろ」と切って捨てて、「どうする、美衣姉」と迫った。
「いいわ」
美衣は不敵に笑い、「マスカレードのトップダンサーの実力、とくと見せてもらいましょうか」と受けて立った。
尻込みするエリカをよそに、化粧直しと着替え、簡単なリハーサルが、猛スピードで済まされた。
「美衣さん、行けますか?」
ミラーの前で、ダンスのフォーメーションを確認していた三人のところへ、ショータイムの進行係がやってきて言った。
「ええ。すぐ行く」
美衣が答えてマーサのほうを振り返ると、マーサは黙ってうなずいた。
※※※
「いつも、春のお彼岸に来られなくてごめんね、おばあちゃん」
ナナは、墓前で合掌してつぶやいた。
春と秋の彼岸の頃には、ナナの家族や親類たちが墓参りにやってくる。鉢合わせになっても、今さらケンカでもないだろうが、お互い気まずい思いをすることになる。
「顔を合わせないで済めば、それに越したことはないのよね……」
ナナは小さくため息をつき、花筒から枯れた仏花を抜きとると、洗いやすいように墓石から外した。
さらに、バッグから使い古しのタオルを取り出し、水にぬらして墓石を磨く。日差しが強く、ナナの額に汗がにじんだ。