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吸血鬼少女ラミカちゃん/666は悪魔の数字?

作者: 守 秀斗
掲載日:2019/01/23

 あたしの名前はラミカ・ドラクル。

 ルーマニアから日本に移り住んできた吸血鬼少女。

 年齢は99歳。

 よろしくね!


 え? 99歳は少女じゃないって?

 うるさい! 外見が少女なんだからいいじゃない。

 

 今は小学6年生ということにしている。

 ちょっと背が高いんだけど、女の子の方が成長が早いというし、外国人だから大丈夫ね。


 何で日本に来たのかって?

 住んでたルーマニアが共産主義国になって、あたしの自慢の城を人民委員会に取られちゃったのよ。

 人民のモノだってさ。

 貴族は労働者階級の敵だと。


 仕方が無いので、世界を放浪したあげく、日本まで逃げて来た。

 え? そういう設定の吸血鬼コメディ映画が昔あったぞ、パクるなよって?

 違うって、偶然よ!


 何で日本に住み着いたのかって言うと、十字架が嫌いなんで、キリスト教圏以外で住みやすそうなの選んだら日本になった。

 何たって経済大国世界第二位。

 けど、最近は斜陽ね。

 三位になっちゃった。

 もっと、頑張りなさいよ。


 けど、移住してみたら、けっこう教会が建っている。

 まあ、多少は仕方が無い。

 あと、後日ルーマニアは共産主義をやめたけど、日本の方が治安がいいのでそのまま住んでいる。


 ただ、ルーマニアに比べると日本は物価が高い。

 安アパートに住んでいる。

 食事は基本トマトジュース。

 人間の血は吸わない。

 最近の人間は悪いもんばっか食べてるから、そんな血を吸ったらこっちが病気になっちゃうよ。

 

 さて、小学校へ行くとするか。

 通っているのは公立鳴老小学校。


 あたしは黒いニット帽子、黒いジャンパー、黒いセーター、黒い長袖シャツ、黒いスカート、黒い靴下、黒い靴、黒いランドセル。

 全身、真っ黒。

 やっぱり、吸血鬼と言えば夜。

 夜と言えば黒。


 だけど、髪の毛は金髪。

 黒くしようとしたら、髪を染めるのは校則違反だって。


 あたしは毎日登校する際に日課がある。

 それはイジメ。

 なんだと、イジメをするなんて、お前は酷い奴だって?

 だって、吸血鬼だもん。


 お、獲物が来た。

 日暮信夜。

『ヒグラシ、シンヤ』と発音する。

 あたしのお気に入り。

 肩掛けカバンを掛けて歩いている。


 あたしの同級生で教室も一緒。

 色白で大人しい。

 顔もカワイイ。

 カワイイとイジメたくなるよね、ムフフフフ!


 それに、何と言っても名前がいい。

 日が暮れて、深夜。

 いい名前ね。


 あたしは信夜を自分の眷族にするつもりだ。

 ただ、百歳まで待たないといけない。

 何か知らんがそういう掟が吸血鬼界にあるらしい。

 今日は平成30年12月6日。

 だから、来年、平成31年まで待たなくてはいけない。


 おっと、元号が変わるんだっけ。

 さっさと決めろ、アベ!


 それはともかく、信夜が近づいてきた。

 電柱の陰に隠れて、通り過ぎるのを待つ。

 後ろから襲いかかる。

「おい、シンヤ!」と叫んで、あたしは背中に覆いかぶさった。

 信夜は身長があたしより十センチくらい低い。


「わあ!」と悲鳴をあげる信夜。

 ぐしゃっと歩道につぶれて、手足をバタバタしている。

 笑える。

 楽しいー!


 そのまま歩道にねじ伏せて、首を絞める。

「だらしないぞ、シンヤ! それじゃあ、立派なケンゾクになれないぞ!」

「く、苦しいー! 僕は健三君じゃないよ!」と情けない声を出す信夜。

 おもしろーい!


「やい、シンヤ! あたしを小学校までおぶって行け!」

「無理だよー!」

「うるさい、あたしの言う事を聞け!」

 ヒーコラ言って、あたしをおんぶしようとしては、また歩道にへたばる信夜。

 アハハ!

 カワイイー!


 信夜は気が弱くてあたしには逆らえない。

 まあ、いずれは眷族にして絶対服従なんだけどね。

 

 歩道の上を二人でドタバタしていると、大柄な男の子が近づいて来た。

「お、信夜、今日もガイジンの彼女を連れて登校か。うらやましいなあ」と声をかけてきたのはクラスメートの大神太陽。

『オオガミ、タイヨウ』と発音する。


 あたしはこいつが気にくわない。

 名前が大げさ。

 まずは大神。

 神っていうとキリストを思い出してしまう。


 しかし、何と言っても下の名前。

 太陽。

 腹立つ―!

 

 おまけに、日焼けして真っ黒な顔に歯が真っ白。

 いつも歯をキラキラさせていて、眩しいったらありゃしない。

 冬でも半袖シャツ。

 いかにも健康優良少年。

 と思いきや、たまに休む。

 ズル休みだと思うけど。

 健康優良不良少年か。


 ムカつくので「タイヨウ」ではなく「タイヨー」と呼ぶことにしている。

 え? 同じじゃないかって? ヨウとヨーじゃ違うんじゃないの。

 日本語難しいね。


「タイヨーうざい、あっち行け!」

「おー怖、ゴス女」走って逃げる太陽。


「シンヤ、ゴスってなに?」

「君のような恰好している人のことを言うみたい」 

「なによ、この格好がヘンなの」

「……変だと思う」


「なんだと、ケンゾクのくせに生意気だ!」とあたしは再び信夜の首を絞める。

「く、苦しい。だから僕は健三君じゃないって、信夜だよ」

「うるさい、シンヤ! 太陽は吸血鬼……じゃなくてお肌の天敵よ」

「はあ、そうなんだ」

「そうなのよ」

 あたしは信夜を小突きながら、学校へ向かった。

 

 学校に到着。

 二階の教室、一番後ろの窓際の席が信夜。

 その隣があたし。

 あたしの前がうざい大神太陽。


 担任の先生が入ってきた。

 十文字麻梨亜先生。

 若くて美人で優しくて生徒に人気がある。

 しかし、あたしは気にくわない。


 まずは名前。

 十文字というと十字架を思い出させる。

 下の名前もマリア。

 キリストを産んだ人じゃないか。


 おまけに、この先生はキリスト教徒。

 首にちょっと大きい十字架のネックレスを下げている。

 許せん。

 徹底的に反抗してやるぞ。


 出欠をとる先生。

「ラミカ・ドラクルさん」

 あたしは無視。

「ラミカ、先生が呼んでるよ」と信夜が小声であたしに注意するが、やっぱり無視。

「ラミカちゃん、聞こえないんですか?」と困った顔をする十文字先生。

「日本語は難しいのでわかりません」とあたしは答える。


「日本語わかってんじゃねーか、ゴス女」と大神太陽が振り返ってからかいやがった。

「ウルセー! タイヨー!」と太陽の頭をぶん殴る。

「痛い! やる気か、ゴス女」

「やる気よ! かかってこい、タイヨー!」

 あたしと太陽は取っ組み合いの喧嘩をする。


「やめなよ、二人とも」信夜が止めにはいるが、無理矢理信夜も巻き込んで三人でドタバタ。 

 他の生徒も囃し立てて笑っている。

 授業にならない。

 まあ、日常茶飯事だけどね。

 恒例行事。

 おかげで学級崩壊状態。

 

「いい加減にしなさい!」と大声を出して、十文字先生が出欠表を教壇に叩きつけた。

 教室がシーンと静まる。

 十文字先生が怒っている。

 怒ったのを見たのは初めてだ。


 あたしら三人組をにらみつけている。

 怖~い顔。

 いつもは、ただオロオロするだけなのに。

 堪忍袋の緒が切れるとはこの事かと、古い日本語の表現を使ってみる。

「あなたたち三人は、今日放課後、教室に居残ってなさい」と先生に言われてしまった。


 授業が終わって、クラスメートが帰る中、あたしと信夜と太陽の三人で教室に残っている。

「何で僕まで居残りさせられるんだよー」と信夜がブツブツ言ってる。

「ケンゾクはご主人様に従うものよ」

「だから、健三君じゃないって」


「ウルサイ! ケンゾク、じゃなくてシンヤ! あたしに従ってればいいの」と信夜を後ろからヘッドロックする。

「く、苦しいー!」ともがく信夜。

 アハハハハ!

 楽しいー!


「ウヒョー、お熱い二人」と太陽がまたからかう。

「何だと、やる気か、タイヨー!」

「おお、上等じゃねーか」

 二人で掴み合いの喧嘩。

 

「ちょっと、もうやめなよ」と信夜に止められる。

「まあ、ギャラリーがいないとつまらんからやめるか」

「そうね」とあたしと太陽はあっさり喧嘩をやめた。


「それにしても、遅いわね、先生」

「それに何で、机と椅子を全部教室から廊下へ出しちゃったんだろう」と信夜が不思議そうな顔している。

 六時間目の授業が終わった後、ホームルームで十文字先生が命令して、そうしてしまったのだ。


「前から聞きたかったんだけど、ラミカは何で八重歯をそのままにしてんだ。外人には珍しいな」と太陽に聞かれる。

「八重歯の何がいけないのよ」

「外国では吸血鬼とか言われて嫌がられるんだろ」

「吸血鬼の何が悪い! じゃなくて、日本では八重歯はチャームポイントでしょ。だからいいのよ」

「歯医者に行って矯正したらどうだ」

「ウルサイ! あたしの勝ってでしょ」

 矯正なんてしたら、いざという時に血が吸えなくなっちゃうじゃない。 


 十二月なんで、陽が落ちるのが早い。

 いつの間にか、外は真っ暗。

 まあ、あたしはご機嫌だけどね。


 午後6時ちょっと前。

 やっと、十文字先生が教室に入ってきた。

 あれ、変な恰好している。

 黒い革製のオーバーバストコルセットを着ている。腕には黒い長手袋。

 下は黒いミニスカートに、黒い網タイツ、黒いハイヒールを履いている。

 顔は派手な化粧。

 いつもはすっぴんなのに。

 何、このSMの女王様風スタイルは。


 おまけに、ネックレスの十字架を逆に下げている。

 剣みたい。

 他にダークスーツを着た男たちが五人一緒に入ってきた。

 いったい、なんなの。


「さて、時間もないし、始めますか。お前たち、準備しなさい」と先生が男たちに命令する。

 男たちが教室の床に黒い絨毯を広げた。

 絨毯には怪しげな五芒星のマークが描かれている。


 唖然としている信夜に男が近づいて、首の後ろを叩く。

 あっさり気絶する信夜。

 五芒星の中央に信夜をあおむけで寝かせた。

 そして、でっかい丸い鏡を信夜の頭の近くに置く。


「ちょっと、あたしのケンゾク、じゃなくてシンヤに何すんのよ」

「こいつは生贄よ」

「何だってー!」とあたしと太陽が驚く。


「先生、これはいったい何のまねよ」

「日暮信夜は2006年6月6日6時6分6秒にこの世に誕生したのよ」

「それがどうしたのさ」

「666よ、悪魔に捧げるために生まれて来たのよ」

「何、わけのわからない事言ってんの。だいたい、その恰好は何なの、ババア」

「ババアじゃないわよ! まだ27歳よ!」と先生が怒っている。


「あんただってゴスロリじゃないの!」と反撃してくる十文字先生。

「うるさいSMババア」

「だから、まだ27歳って言ってんでしょ! あと、SMじゃないわよ。サタン様を信奉する、わが666教団はこの恰好をすると決まってるのよ」

「なによ、教団って? あんたは教壇に立つのが本職でしょ、この変態ババア!」

「そうなんだけど、あんたらのせいで学級崩壊して、うつ病になったの。それで教団に入って治療中よ」


 そうなんだ、あたしらにも責任があるんだ。

 うーん、ちょっと悪い気がしてきた。

 ババアって言うのはやめとくか。

 だいたい、あたしの方が年上だっけ。


「ところで、何でいきなり今日はじめたのよ」

「今日は2018年12月6日、18は6の3倍、12は6の2倍、そして6。つまり、666666となるのよ。信夜の666666をくわえて、666666666666」

「はあ」

「それに、もうすぐ午後6時6分6秒になる。ついでに小学校6年生だから、それも加えると、6666666666666666となるのよ、何て素晴らしいのかしら」

 なんだか陶酔した表情を見せる十文字先生。

 いかれてる。


 しかし、あたしはある事に気付いた。

「致命的な間違いをしているわ、先生」とあたしはニヤリと笑う。

「間違いって何のことよ」

「ここは日本よ。神様は天皇陛下。現人神よ。西暦じゃなくて元号が優先されるの。つまりシンヤは平成18年6月6日生まれ、866よ! どうだ、まいったか!」とあたしが腕を組んで威張っていると、

「天皇は人間宣言してる。今は単なる象徴だぞ」と後ろでボーっと立っていた太陽が言いだした。


「ウルサイ! 天皇陛下は神様なの! あと、ちゃんと陛下とつけなさい。もしかして、タイヨー、あんたは公衆の面前で平然と中指を立てるパヨクか!」

「パヨクなんて専門用語、誰も知らないぞ。それに平成でも18年だから6の3倍で666にならないか? あと、今年は平成30年だから、6の5倍で66666とも言えるぞ」

「うるさい、余計な事考えるな!」


「そう言われてもなあ、あんまり天皇にこだわるともっとまずい事になるぞ」

「へ? どういうこと」

「皇紀だと信夜は2666年生まれだぞ」

「は? 何のこと?」

「皇紀は、神武天皇即位の年を元年と定めた日本の紀元で、皇紀元年は西暦を660年遡るんだよ」

「何よそれー! なんでそんなこと知ってんの? あんた、人間ウイキペディアか、それともネトウヨか」

「そーゆーレッテル貼りはやめてほしいなあ。単に歴史が好きなだけだよ」

「クソー、授業でそんなこと全く習わなかったぞ!」


 あたしと太陽がゴチャゴチャと話していると、

「オホホホホ! それはいい事を聞いたわ。平成18年と平成30年と皇紀2666年も加えましょう。つまり、


『666666666666666666666666666ー!』


 ってことね。6がいっぱい。最高よ! 快感よ!」と十文字先生が恍惚とした顔ではしゃいでいる。

 年末ジャンボ宝くじで十億円当てた人ってこんな感じかね。


「そんなに『6』にこだわってどーすんのよ。ただの文字じゃない」

「文字には力があるのよ。『6』は悪魔の数字。私の名前もそうよ」と十文字先生が笑う。

「何のこっちゃ?」

「私の名前は麻梨亜。『麻』に『鬼』、『亜』に『心』をつけると『悪魔』よ。オホホホホ。両親もこの教団メンバーなの。心を鬼にして生贄に剣を突き刺すわ」


「ちょっと待ってよ、『麻梨亜』の真ん中の『梨』はなんなのさ」

 途惑う十文字先生。

「えっと、うーん、多分適当に付けたのかしら」

「やーい、適当に名前付けられてやんの、ダセー! 梨って何よ、能無し!」とあたしがバカにする。

「うるさい、このガキ!」ヒステリーを起こす十文字先生。


「ところで、あたしとタイヨーは何の関係があんのよ」

「単なる復讐よ、散々授業妨害しやがって。あなたたちには死んでもらうわ。生贄にもならないけど」

 私怨も含めるのはオカルト団体でもまずいんじゃないかとあたしは思った。


「で、シンヤに何するのよ」

「もちろん悪魔に捧げるのよ」

「どうすんの」

 十文字先生はネックレスから逆さまの十字架を引き抜く。

 先端が尖っている。


「これを日暮信夜の胸に突き立てるのよ。午後6時6分6秒にね」

「ちょい待ち! それ、殺人じゃないの」

「そうよ、だから生贄って言ってるでしょ!」

「そんなことして、どーすんの」

「サタン様をこの世にお招きするの。この鏡から現れるのよ」


 ふざけんな、あたしの眷族候補を殺されてたまるか。

 吸血鬼の魔力を思い知らせてやる。

 と思ったら、

「うっ!」あたしは急に元気がなくなってきた。


「ウフフ、あなたが吸血鬼だってことは事前に調べてあるわ、市販の健康食品ニンニク玉を小さいカプセルに入れて、昼の給食に仕込んでいたのよ。それが効いてきたのね」

 くそー! ニンニクは、今や99歳で陽の光や十字架にも耐性があるあたしの唯一の弱点だ。

 単に好き嫌いという話でもあるが。


 あたしがうずくまると、

「大丈夫か、ラミカ」と太陽に支えられる。

 ん? 腕が毛むくじゃら。

 顔が犬。

「どうしたの、その顔」

「実は俺、狼男なんだ」

 何てご都合主義。

 大神ってオオカミことだったの。

 まあ、緊急事態だからいいわね。

 

「今日は満月じゃないんだけどなあ。新月に近いんだけど。なぜか狼男に変身しちゃった」

 なんだか太陽の奴、でっかい丸い鏡を見て、反応しちゃったらしい。

 またまた、なんて言うご都合主義。

 つーか、そういう漫画があったような。

 とにかく、緊急事態だからいいか。

 それにしても太陽は狼男だから満月になる日に休んでたのか。


「何なのよ、狼男に変身って! 唐突よ! お前たち、この二人をさっさと抹殺しなさい」と先生が男たちに命令した。

 666教団の男たちが襲いかかってくる。

 しかし、狼男になって強くなった太陽が、男たちを片っ端から二階の窓から放り投げた。

 まあ、二階から落ちても死なないでしょう。


「あ! もう6時6分6秒になる」と叫んで、十文字先生が信夜の胸に剣を突き立てようとする。

「させるか!」

 あたしは信夜に覆いかぶさった。


「ウギャ!」

 剣はあたしの腕を貫通。

「痛いよ、先生」

「邪魔すんな、吸血鬼」


 ん? 貫通した剣の先が、信夜の腕にちょっと傷をつけて、血が滲んでいる。

 ペロッと血を嘗める。

 久々の人間の血だ。

 おまけにカワイイ信夜の血!

 元気百倍!


 あたしはフルパワーで十文字先生を窓から吹っ飛ばす。

 悲鳴を上げながら、二階から落ちる先生。

 666教団の男たちが下でキャッチ!

 そのまま黒いワゴン車で逃走していった。


 ふう、助かったと思いきや、

 ありゃ! 鏡から大きい手が出てきた。

 すごいかぎ爪。

 サタンかな。

 あたしは腕に刺さっている十字架風の剣を引き抜いて、鏡に投げる。

 鏡が割れて、サタンの手は引っ込んだ。

 セーフ!


 腕の傷もあっさり治った。

 信夜の血のおかげね。

 しかし、吸血鬼が最後に十字架を使って、事件を解決していいんだろうか。

 まあ、いっか!


 鏡が割れたんで狼男の太陽は、普通の男の子に戻った。

 その後、鏡の破片やらを掃除、絨毯はゴミ捨て場に捨てて、机と椅子を教室に戻す。


 ようやく信夜が起きた。

「あれ、十文字先生が変な恰好で入ってきて、その後、変な男たちが来たのはどうなったの?」

「何言ってんだ、夢でも見てたんじゃないか」

「あんたが居眠りしている間に、先生の命令であたしとタイヨーが教室を掃除して、机と椅子を元に戻したのよ、感謝しなさい」

「そうなんだ、ありがとう」 


「そういうわけで、あたしをアパートまでおぶって行け、シンヤ!」とあたしは信夜に飛びかかる。

「わあ!」

 ぐしゃっと潰れる信夜。

 笑える。


「痛い!」と信夜がうめく。

 腕から血が出ている。

 さっき十文字先生に刺された傷がまだ治ってないんだ。

 けど、本当のことを喋ったら、あたしとタイヨーの正体がバレてしまう。


「倒れた時、どっかにひっかかって、シンヤにケガさせちゃったみたい。ごめんなさい」と謝ると、

「うーん、大したキズじゃないからいいや」と信夜は怒らない。

 やさしい信夜。


 やさしいから、もう一回飛びかかる。

「わあ!」

 ぐしゃっと潰れる信夜。

 楽しいー!


 翌日、登校すると十文字先生は辞めたと他の先生から連絡があった。

 うつ病で辞めたとのこと。

「ヤッター! ババア引退だあ!」

 ヒャッホー! と教室の後ろで踊っていると信夜が立ち上がって、あたしに近づいて来た。

 パチン!

 顔面に信夜の平手打ちをくらってしまった。

 びっくりするあたし。


「ラミカが虐めるから十文字先生は辞めちゃったじゃないか。かわいそうだろ。なに喜んでんだよ!」

 初めて怒られた。

 自分を殺そうとした人をかわいそうとは何てやさしい信夜。

 って、本人は寝てたから知らないけど。


 帰り道。

 信夜に後ろから近づくと、

「君とは二度と喋りたくない」と言われた。

 何だか寂しい。


 追いかけて、信夜の前に立つ。

「もう二度と授業妨害とかしないから、許してよ」

 しかし、信夜は無言であたしの横を通り過ぎた。 


 完全に嫌われてしまったのかと、あたしはしょんぼりとうつ向いている。

 しかし、信夜は少し歩いた後、立ち止まってこっち向く。

「……わかった。許すよ」と言ってくれた。

 やっぱりやさしい信夜。

 嬉しいー!


 前から飛びかかる。

 やっぱり潰れてバタバタする信夜。

 オモシローイ!


 ……。

 さて、月日が経って、今は平成31年4月。

 あたしは公立鳴老中学校に進学。

 信夜も一緒。

 クラスも一緒。

 嬉しいな。


 大神太陽は山奥に引っ越した。

 サタンの魔力の影響のせいか知らんけど、車のタイヤを見ても狼男に変身するようになってしまった。

 喧嘩ばっかりしてたけど、居なくなると寂しいね。


 制服はセーラー服。黒っぽいし、血の色の赤いスカーフ。

 気に入っている。


 さて、登校するか。

 信夜が近づいてきた。

 黒い学生服を着ている。

 ますますよい。


 電柱の陰に隠れて、通り過ぎるのを待つ。

 後ろから襲いかかる。

「おい、シンヤ!」と叫んで、背中に飛びかかる。

 しかし、信夜はつぶれない。

 信夜はあっという間に大きくなって、今やあたしより背が高くなってしまった。


「ラミカ、重いね。太ったんじゃないか」

「何よ、失礼ね」と信夜の頭を叩く。

「痛い、痛い」と情けない声を出す信夜。

 カワイイ。


「シンヤ、中学校まであたしをおぶって行け!」

「しょうがないなあ」とあたしをおんぶして学校まで歩いてくれる。

 背は高くなったけど、信夜のやさしい性格は変わっていない。


 あたしは信夜を眷族にするのをやめた。

 眷族だと完全にあたしに従うだけ。

 それじゃあ、つまらない。

 このままでいいや。

 眷族にしなくても、あたしの言う事聞いてくれるし。


 おっと、5月からは新元号。

 つーことは5年後には、新元号6年。

 アホ集団の666教団が活動再開するかもしれん。

 また対決するかも。

 けど、まだ5年ある。

 それまでヒマだから、信夜をこれからもイジめて可愛がってやろっと!


(終)

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― 新着の感想 ―
[一言] 太陽とラミカの驚いた時の「何だってー!」に笑ってしまいました(笑) 全体的な文章も語り部のラミカ目線の為か可愛らしく感じました。
[良い点] ラミカちゃんの軽快な語り口とゆるいギャグ、ライトなストーリーがマッチしていて、楽しく読ませていただきました。 [気になる点] シンヤくんにはキメるところでキメて、かっこいいところを見せても…
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