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√B ルートB  作者: もんく
9/10

沈黙のビル

春休みに入るとローワンが大きめの仕事を持ってきた。内容はある村で巨大な獣が暴れたような跡が町のあちこちに見られるから、それをどうにかしてくれとの事だった。


いつも通り車庫経由で依頼者のいる村に行った。村は両側を山で挟まれた谷の底にあった。

今回の依頼者は魔法使いではなく一般人なので俺だけならともかくヒナも連れて行くと相手が怪しむだろうから車で待っておく。

それにしても魔法協会への仕事の依頼は相当高く付くらしいからこんな村に住んでいるのに依頼者は金持ちなのだろう。妬ましい限りだ。

今は春休みとはいえまだ2月である。今日はTシャツとダウン、その上に前にローワンから貰った上着だけで来たが、もう一枚くらい何か着てこれば良かった。

しかしながらこの上着、貰った時はまだ暖かかったので気が付かなかったが、全体的に緩いので中に色々と着込めて寒い時に便利である。それに内側にポケットが多いのも地味に便利だ。

ちなみにヒナはヒートテックとセーターにダウンそしてローワンから貰った上着。更に魔法で羊毛を生やしているのでかなり暖かそうだ。

暇だったので近くの自販機でココアを買って2人で飲む。

甘くて幸せだ。旨いの語源は甘いだという説があるらしいが、俺はこの説を全力で支持する。

しばらくココアを飲んでほこほこしていたらローワンが戻ってきた。


「何話してたの?」


「どこに獣の暴れた跡があるのかを聞いてきた。今からそこに向かうぞ。」


着いた先の森沿いのコンクリートの壁に大きな穴が空いていた。地面にはなんだか大きなトカゲの足跡の様な物と何かがのたうち回った様な跡が付いている。ほかの跡を見に行く途中に田んぼが大きく陥没しているのを見つけた。


「この穴の感じからするとどうやら獣の正体はリュウの様だな。」


「リュウって前に山で見た精霊だよな?」


「そうだ。」


「あんなのに勝てる気がしないんだけど。」


「痕跡から想像するに、2メートル程の大きさだから前よりもずっと小さいから大丈夫だ。」


「それでも勝てる気がしないんだけど…。せめてリュウの習性だけでも教えてくれ。」


「オォ、相手の情報を欲するとは戦闘に関する基礎が出来てきたな。

では説明しよう!リュウとはワニから進化した精霊だ。よって基本的な習性は同じだ。違うのはまず第1に水を操る魔法を使う事。

第2にとても大きく大きくなる事。これは前に大型個体を見たから知っているな?

第3に見た目、岩の隙間に隠れる為に細長く、幼少時に魚なんかに飲まれるのを防ぐ為の角があり、首回りを守る為毛が生えている。またヒゲは濁った水の中でも獲物を探すセンサーの役割がある。

第4に住処となる水辺が無くなると、自分で住処を作る事。この穴はどうやら住処を作ろうとしてやめた物らしい。」


「じゃあ時間が経てば解決するんじゃ無いか?」


「そうだな今回の依頼は特に何もしないと言う方針で、どうせ村にリュウが住処を作る事なんて無いだろうし。」


「なんで無くなったの?」


今まで黙っていたヒナがそう言った。


「何が?」


「リュウの住処。」


「確かに…!2メートル級のリュウが住む水辺なんて早々無くなるものじゃ無いし最近この辺りに土砂なんかの災害も起きていない…それにコンクリートの壁に穴が空いたいのは住処を作るの為の行動とは思えない。もう少し調査してみるか。」


そう言ってローワンは地図でリュウの住んで居そうな水辺を探して、それを虱潰しに見て行った。

そのうちの1つに行く途中に魚の死体が落ちていた事に気がついた。


「こんな所に魚が落ちているのっておかしく無いか?一番近い水辺まで50メートルはあるぞ。」


「ふむ、おそらくキツネやタヌキなんかがおとしていったのだろうが、一応この魚は採取しておこう。」


目的地の池に着くとその周辺に何匹か魚が落ちていた。だ新しいものから古いものまである。


「なんだこれ…絶対これは異常だよな?」


「ああ、何か変な病気にでもかかったのだろうか?それともリュウがそのような漁を習得したのだろうか?それなりに知能も高いし。」


そう話していると後ろからガサガサと音がした。後ろを振り返るとキツネが飛びかかってきた。

手をかざし、触れた瞬間に力学魔法でキツネが怪我しない程度に吹き飛ばす。

それでもまだ襲ってくる。キツネは普通人を襲わないのに何故だろう?しかもこんなにしつこく。

よく見るとキツネは口から泡を吹いている。狂犬病にしては異常だし、そもそも日本で狂犬病が見つかったら大ニュースだ。

仕方がないから魔法で強制的に気絶させる。


「こいつも持って帰るか?」


「おおそうしよう。」


「こいつは生きてるから元気になったら逃してやってくれよ。」


「ああ、研究班の者にそう言っておく。」


その後ほかの水辺も調査してみたが、異変があったのはこの池だけだった。



後日ローワンから池の水とキツネや魚の検査結果が伝えに来た、どうやら魔法で作った薬が微量に検出されたらしい。


「この薬は攻撃性を高める効果と全身に痛みを与える効果、そして視力を低下させる効果がある。おそらくリュウは痛みから逃れようと飛び回った結果あの壁にぶつかったのだろう。」


「薬が検出されたって事は人が関わっているって事だろ?それが誰かは分からないのか?」


「あぁ、薬の成分からは分からなかった。」


「じゃあ、村の人に聞いてみるのか?」


「あぁ、その予定だ。」


そんな訳で再び村に行った。

この村に最近知らない人や怪しい人を見かけなかったか、もしくは最近変わった事が起きていないかと村人に聞いたが、得られた情報の殆どが俺たちが一番怪しいと言うことだった。しかし村人達のわずかな情報から六代目長手会とか言う暴力団がこの村にダムを作ろうとしていることが分かった。


「長手会…知ってる。魔法使ってたから覚えてる。」


そうヒナが言った。どうやら暴力団を締めてた時に関わったことがあるようだ。


「やつらがどこに居るかわかるか?」


「ん〜…多分…」


「では案内してくれたまえ。」


ヒナに案内されて長手会の事務所に行った。寂れてはいるがまあまあ大きなビルだ。

中に入ると柄の悪いお兄さんがスーツを着ていた。何だか田舎の成人式みたいな違和感がある。

そのお兄さんはヒナを見るなり、


「ねぇさん!どうしてここに⁉︎」


と明らかにビビり始めた。てかヒナはヤクザにねぇさんって呼ばれてたんだな、何と無くジワる。


「リュウを暴れさせた?」


「何の話っすか?」


どうやら何とことか分からないようで、キョトンとしている。ヒナはそれを知ってか知らずか


「ダム作ろうとして暴れさせた?」


と淡々と聞いた。なんだかヤクザのお兄さんが可哀想になってきた。


「?、すみません、分かんないっす…今兄貴に聞いてくるんで少し待って頂いても良いすか?」


そう言ってお兄さんは逃げるように走って階段を上がって行った。

しばらくするとまた降りて来て


「会長がねぇさん達を上にご招待しろと行ってたんで上に来て下さい。」


言われたとうりに上に上がると、三十人ほどのガラの悪い男と、雰囲気のある中年の男が座っていた。中年の男の体系は肥満気味で少し白髪の混じり始めた頭をしている。眼光鋭く、さすがヤクザと言った感じだ。


「お久しぶりです、ねぇさん。それにローワンさんも、さあさあそちらにお座りください。」


男は立ち上がって、そう言った。メチャクチャ敬語だ。しかもローワンと知り合いだとは。


「白木、お前がマフィアだったとは思わなかったぞ。」


どうやら男の名は白木のようだ。長手会会長なのだから長手さんだと思っていたが白木さんだった。


「魔法総会に職業を公表する義務はありませんから…それより今日はどのようなごようけんで?」


「お前、今ダムを作ろうとしているだろう?」


「…えぇそうですが、それが?」


「そして村人を追い出すためにリュウを使っているだろう。」


「……どこまで知っている?」


急に敬語じゃ無くなった。その変わり身の早さにちょっとだけ笑いそうになった。


「それで?私を捕まえに来たのか?」


「そうだ。抵抗せずに投降しろ、そうすれば命は助けてやる。」


ローワンは敬語じゃなくなったことに関してはスルーしている。


「投稿しても解放される頃には私では無くなっているだろう!そんなもの死と何も変わらない!」


そう言って拳銃を取り出した。


「野郎ども!やっちまえ!」


何と無くデジャブだ。だがあの時と違って恐怖感はない。

銃口の向きから何と無くの弾道を予測してかわしつつ、向かいのソファーを物理魔法で吹き飛ばす。その先にいた男達はソファと壁に下半身を潰され、ギャッとか何とか声をあげて動かなくなった。これで5人くらいは始末できた。男達の方に物理魔法で一気に接近して近場の男にボディーフックをかける。残念ながら防がれたが、物理魔法で吹き飛ばす。それに巻き込まれて更に二人ほど伸びた。

ボディついでにそのまま体を捻り、後ろを振り返ると別の男がドスのような物でオレを刺そうとしていた。その後ろには銃を構えた男もいる。ドスを避けつつ銃弾を作り、奥の男に向けて物理魔法で飛ばそうとしたが、ヒナがドスを持った男を巨大な腕で吹き飛ばし、そしてそのまま俺を掴み、引き寄せた。


「避難する。」


そう言って離し、俺の手を引いて部屋から出た。ローワンがそのすぐ後に部屋から出てきてドアを閉めた。それと同時に空気が震えるほどの爆音が扉越しに聞こえた。

ドアを開けると部屋の中心が焦げ付き、ガラスは全て割れて物や人が部屋の隅に飛ばされていた。

どうやらローワンが爆弾か何かを放り込んだようだ。

ローワンは白木の方へツカツカと歩いて行った。白木は腕がもげていたがまだ話ができる程度には元気そうだ。


「立て白木、死なない程度には加減をしてやったのだ。本部まで来てもらおう。」


そう言ってローワンは白木を睨みつける。白木は流石に諦めたようでされるがままに拘束される。白木を連れて外に出ようとした時、外からヘリの音が聞こえた、それを聞くや否やローワンが部屋を飛び出し、階段を駆け上がった。

屋上に出ると白木がヘリコプターで逃げようとしていた。どうやら先ほどの白木は誰かが白木の姿に化けていた様だ。


「逃すものか!」


そう言ってローワンは火球の様な物をヘリコプターに向かって飛ばしたが、それは途中で転送魔法が現れて火球はその中に入って行き、ローワンのすぐ横から現れた転送魔法の出口から出てきた。

間一髪でローワンもその転送魔法に被せるように転送魔法を作り、その火球をどこかに飛ばした。


「来る!」


ヒナがそう叫んだと同時にあたり一面に多数の転送魔法が現れ、その中から人が100人ほど出て来た。恐らく白木の部下だろう。ヒナとローワンがいてもこの人数を相手にするのは無理だろう。絶体絶命というやつだ。白木の部下たちが一斉にさっきローワンが作った様な火球を放とうとしたその瞬間、

全員が爆発して赤い霧状になった。

これも何らかの攻撃か?と思ったが何も起こらない。ただ鉄臭い匂いがあたりを包む。霧が晴れるとそこにはリュウがいた。

そのすぐ後ろにヘリコプターが墜落してきた。


「リュウが苦しめられた報復に奴らの体内の水分を操り爆発させた様だな…」


「待て待て、リュウが報復に来たってリュウは犯人を知ってたのか?それに生物に魔法で干渉する時は直接触れなきゃいけないんじゃなかったのか⁉︎」


「リュウは魔人程ではないがそれなりに頭が良いからな。 それと直接触れなければ生物に干渉出来ないのは人間程度の魔力の時だけだ。リュウなどの強力な精霊たちは触れなくても干渉する事が出来る。」


リュウがこちらに向かってきたので身構えたが、頭上を通り過ぎてどこかへ飛んで行った。


「私達も帰るか。」


そう言ってローワンが踵を返す。


「なあ、俺にも転送魔法を教えてくれよ。」


「転送魔法は使い方を間違えると体が切れたりして危険だからまだやめておけ。」


「…むう、あれが使えれば李さんのところに行く時とか便利なのに…」


「君がもう少し魔法を正確に使えるようになったら教えてやろう。」


「じゃあさ、もし白木が捕まってたらどんな刑罰を受ける予定だったんだ?」


「人間以外の生物に無許可で魔法を使った場合は記憶の消去、更に白木の場合、知能の高い精霊に魔法を使ったから肉体の交換だな。」


「それって元の白木が何も残っていないじゃん。」


「同時にやるわけでは無いから自己同一性は保たれているだろう。」


「そうか?」


「大体それを言ったらヒナだって何度か肉体を取り替えているし。」


衝撃的な話だ。ヒナも魔法協会に捕まって肉体を取り替えられたのだろうか?


「はぁ⁉︎どういう事だ?」


「一応言っておくが魔法協会がやったわけでは無くてヒナが勝手にやったんだぞ!」


珍しくローワンが慌てている。


「詳しく説明してくれよ。」


「ヒナは逃げる時に良く肉体を捨てて鳥だとか虫だとか他の生物の姿で逃げていたんだ。」


「そうなのか?ヒナ。」


「うん。」


という事はヒナは肉体的には何度か死んでいるのだろうか?そもそも肉体を捨ててって、その肉体に脳は含まれるのだろうか?だとしたら捨てられたヒナの脳、つまり精神も何度も死んでいるのだろうか?もしそうなら肉体を捨てる前のヒナと捨てた後のヒナは同一人物なのだろうか?まるでスワンプマンの様な話だ。

当の本人は全く気にしていない様だが…


「そう言えばヒナが作った生物はヒナから離れた途端に動かなくなるだろ?だから元の肉体を捨てて新しい肉体で逃げようとしてもただヒナの肉体が作られてそこに倒れるだけじゃ無いのか?」


「そうだな、ヒナから離れると動かなくなるのはヒナの魔法が生物を作ると言うより生物の肉体を作り、それを魔法で動かすといった形式の魔法だから、元のヒナが死んでしまったら作られたヒナも動かなくなる筈だ。」


そもそもヒナの魔法って何なんだ?前にローワンがウツシガミとか言う魔人の魔法に似ているって言っいたが…


「気になるか?」そうローワンが聞いてきた。


「ローワン!今、俺の感情を読んだだろ!」


「何のことやら?それより魔法総会の研究班の奴らに協力頼もうか?」


ローワンは、そう白々しくトボけたが実際その提案は魅力的だったのでそうしてもらうことにした。

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