眠れぬヒナ、或いはリリス
食事を済ませ、城を後にする。
「そう言えばローワンとか姫君とか李さんとかみんな日本語ペラペラだけど魔法総会の人はみんなそうなのか?」
「いやそんな訳ないだろう。李も及ばずの姫君も日本語は喋れないよ。君たちの着けている精霊が見えるようになる指輪があるだろう?」
ローワンは前にくれた銀色の指輪を指して言った。
「その指輪には翻訳機能も付いているんだ。」
「マジで?」凄え高性能じゃん!」
「因みに及ばずの姫君が作られた。」
「凄い人だったんだな。」
そう感心しているとローワンが運転手に
「それじゃあ取り敢えず、処女の髪を取りに行こう。」と言った。
それを聞いてヒナが
「処女って何?」と聞いた。
今までこういう話をしている時は興味無さそうにしているのに何故か今回は聞いてきた。
コレは教育的に答えない方がが良いのだろうか?いや、でもヒナは二十歳くらいだし知らない方が不健全かも知らない。と考えていたらローワンが
「セックスをした事の無い女の事だ。」
とアッサリ答えた。
「セックスって何?」
とヒナが聞く。
今日のヒナさんはグイグイ攻めて来る。
「あ〜、確かにそうか。ヒナの経歴だと知らなくても仕方が無いかもな…」
そう行ってローワンは辞書的にセックスのやり方と子を作るためと男女間の絆を深めるためにするという説明した。
ローワンがこれだけ淡々と説明すると何だか魔法の説明でもしているみたいだ。
ローワンは全く恥じらいも無く話したが俺が童貞だからなのか、小っ恥ずかしくて仕方がない。前を見ると運転手の耳も真っ赤になっていたので、ローワンがおかしいのか、運転手も童貞なのかのどちらかである。
「入れる⁉︎痛い?」
「最初は痛いかも知れないが、基本的には気持ち良いものだ。」
女二人は気にせず会話を続けているがこっちはもう生きた心地がしない。これはセクハラで訴えたら勝てるのでは無いだろうか。
「話戻すけど処女の髪なんて当てはあるのか?姫君の言ってた条件結構厳しくなかった?」
恥ずかしくて仕方がないので頑張って話を戻す。
「それに関しては心配ない。私の孤児院に行けばいくらでも条件の合うやつがいるからな。」
「私の孤児院ってどういう事だ?」
「そのままの意味さ。私が経営、投資している孤児院だ。この仕事をしてると私のせいで孤児になる子供が多いからな、そいつらを引き取っているんだ。親がどんなに悪い奴でも子に罪は無いからな。」
何だかんだローワンは良い奴である。
再び車庫を経由してローワンの孤児院に行った。
なかなか大きな孤児院である。
孤児院に入ると三人の子供が玄関から外に出ようとしているところだった。その内二人の年は9歳くらいであるが、一人の歳はよく分からない。何なら人間と言うよりトカゲである。おそらく魔人の子供なのだろう。
「ローワン!今日は仕事早く終わったの⁉︎」
そう言って三人は嬉しそうにローワンに駆け寄る。
「悪いな。仕事の都合で一回帰ってきただけだ。悪いがサファエをよんできてくれ。」
そう言われ、三人は渋々ながらサフェラを呼びに言った。三人が連れて来たのは金髪青眼の少女だった。
「悪いが髪を少し切らせてくれないか?」
少女は良いよ、と二つ返事で快諾した。
「嫌だったら断ってもいいんだぞ?魔法使いが処女の髪を欲しがる時は大体魔人にやるんだぞ?奴ら一体何に使うのか…」
「私はそんなの気にしないよ。それに珍しくローワンが頼ってくれるのが嬉しい。」
そう言ってエヘヘー、と照れ笑いの様な自慢げな様な笑いをローワンに向けた。
ここの子供達はローワンに親を殺された子も居るはずなのに物凄くローワンを慕っている。
俺の事と言い、この子供達の事と言い、ローワンは警戒心を解くのが上手い様だ。まあ俺に関しては俺がチョロかっただけかも知れないが。
そんな訳で処女の髪はすぐに手に入った。次にマンドレイクのドライフラワーだが、それをするにはもう時間も遅いのでその日は帰ることにした。
ローワンいわくマンドレイクと言うのは人の形に似た根を持つ精霊で、薬草として使われるそうだ。葉は強烈な匂いを発し、その匂いを嗅ぐと言語障害などを引き起こし、更に人間の口あたりの部分が掘り出されると大きな音を発し、その声を聞いた者は頭が破裂して死ぬらしい。
ちなみにナス科のマンドレイクとはまた別で、ナスよりもダイコンに近い仲間だそうだ。
「昔はマンドレイクはなかなか見つからない貴重な植物だったが、今では栽培されている。収穫はオートメーション化されているからほとんど危険性も無い。今日はせっかくだから見学させてもらおう。」
マンドレイクは水耕栽培で育てられていた。そこからロボアームのような物で収穫されてベルトコンベアに乗せられる。引き上げられる時マンドレイクの人間でいう
口に当たる所が裂けて穴が開いたのが見えたが、防音加工のされたガラス越しなので音は聞こえなかった。その後マンドレイクは隣の部屋にしばらく貯められて、一定の量に達したら次の部屋に送られる。次の部屋には人が居て、切り干し大根の要領でマンドレイクが干されていく。
「なんで姫君はローワンにマンドレイクを頼んだんだ?栽培されているなら自分で農家に注文すれば良いじゃん。」
「実の事を言うと今回は君に魔法世界の社会見学をさせると言うのと、姫君が君とヒナに会う口実を作る為の仕事だったから君は正直何もしなくても良い。」
ローワンは俺とにヒナといったが、実際は及ばずの姫君はヒナに会いたかったのだろう。別に良いけど何だかなぁ、と思う。
次はペリカンの胸の血を採りに行った。
ここで言うペリカンと言うのは嘴に袋の付いた鳥の事ではなく黄緑色のキジに近い仲間の精霊である。ワシほどの大きさで雌鶏の様な赤いトサカがある。尾羽は飾り羽になっていてよく目立つ。
全体的に鳳凰に似ている。
「ペリカンは子供が死ぬと自分の胸を嘴で傷付けて血を子の死体にかけるんだ。するとペリカンの子は生き返る。」
「凄いな。それをかけたら死んだ人も生き返るのか?」
「ああ、生き返る。だがオススメはしない。」
「何で?」
別に生き返らせたい人も居ないが、
「生き返った人達の関係者いわく、生前と比べると何と無く違うらしい。例えるなら同じサイズの他人の制服を間違えて着た様な違和感があるとか。」
「へぇ、何でだろうな?」
微妙に構成物質が変わったせいだろうか?でも生物は常に構成物質が変わり続けているからそんな事では変わらないか。やはり禁忌を犯した神の罰とかそう言う物なのだろうか?
「さあ?昔から神の領域とされていた事をした罪悪感から来る錯覚かもな。そもそも人はしばらく会わないと何と無く雰囲気変わるものだし。」
「…ローワンってあんまり神サマとか信じないタイプ?」
「カミと言う魔人が居るから存在は信じるが信仰はしないな。」
「そんな魔人いるのか⁉︎」
「あぁ、奴らは慕われるのが好きな魔人でよく人を感動的に演出した救い方をする。」
本当に魔法と関わってからと言うもの、夢を壊される事が多い。
ペリカンは動物園とかにある様な鳥小屋で飼われていた。
その中から捕まえ、胸に傷を付けて少しずつ血を取る。百羽ほど採血してやっと頼まれた500ml手に入れた所でもう日も暮れたので今日の所は帰ることにした。
次の週は仕事は無かった。李さんの所に行こうかとも思ったが、ヒナが動物が好きだから前々から動物園に連れて行ってみたいと思っていたので良い機会だと思い動物園に行く事にした。
ヒナは動物園に行くのは当然、初めてなのでテンションがすごく高かった。ヒナが走り回るのについて行くために俺も走ったのでとても疲れた。
ヒナは帰りの電車の中で寝過ぎたらしく、その日の晩は眠れず、ずっと話しかけてきたので、疲れて眠いがしばらく相手をしてやった。
「そろそろ眠くなったか?」
「全然。」
「じゃあストレッチでもして、温かい飲み物でも飲むか?」
「いい、それよりギュってして。」
なんだか今日は妙に甘えてくる。動物園に連れて行ったのがそんなに嬉しかったのだろうか?とりあえずヒナを抱き枕みたいにして寝る。
ヒナも俺の胴に腕を回したが、下側のヒナの腕が肋に当たって少し痛いのでヒナを抱いたまま仰向けになる。
目をつぶっているとヒナが上の方に這ってきた。
目を開けるとヒナの顔がすぐ目の前にある。
「どうした?やっぱり寝れないのか?」
と聞くとヒナは黙って口付けをした。突然の事で避ける暇もなかった。歯が当たって少し痛かった。
「セックスの前にするでしょ?」
眠かったのもあって、しばらく何を言っているのか分からなかった。何を言っているのかを理解した後はもっと訳が分からなくなったが、頑張って平静を装う。
「セックスがしたいの?」
ヒナはコクリと頷いた。
なんだかエロ漫画みたいな展開だ、それも絵面だけ見たらロリコン向けの。戸惑いと興奮で心臓が早鐘を打つ。この状況で多少なりとも興奮するなんて俺はやっぱりヒナの事が好きなのだなと改めて実感した。俺がロリに目覚めた可能性もゼロでは無いが…
だがまだジョニーに主導権を渡すわけにはいかない。
別にヒナとやる事に関して何も問題は無い、二人とも成人しているし、ヒナの方から誘って来た上に俺はヒナの事が好きなので倫理的にも全く問題ない。しかし俺はこう言う状況になると思っていなかったので避妊具の類を全く持っていない。
「ヒナ、セックスする時は避妊具を使わないと子供が出来ちゃうかも知れないんだぞ、俺はまだ学生だし子供が出来ると子供が可哀想だ。」
「避妊具ならローワンに貰った。」
そう言ってコンドームを出した。
「…」
ローワンに感謝すれば良いのか恨めばいいのか、よく分からなかったが、結論から言うとその夜俺はヒナと交わった。
そのそれからローワンから連絡のないまま冬季休暇に入った。夏はなんやなんや実家に帰っていなかったので今回は帰ることにする。ヒナは当然置いていくわけにはいかないので連れて帰る。その件についても含めて母に先にLINEで連絡しておく。
今回は12月の27日に帰ります。
あと彼女も連れて行きます。
と送った。(あの後もヒナと何度かしたのでもう彼女と言っても差し支えないだろう。と言うかもう否定が出来ない。)
すると直ぐに電話がかかってきた。
「あんた彼女出来たの⁉︎なんで早く言わないの?えー、来るとき何着よう?その日は化粧とかしようかな?あ、ちょっと真斗!良ちゃん彼女出来たって!」
予想どうりの反応である。俺が母でもこう反応するだろう。
「別にわざわざ連絡するような事でも無いかな〜って、それと服は何でもいいから、あんまり外見気にするタイプじゃ無いし。」
「そうでしょうね。あんたを選んだくらいだし。」
「うるさ!」
「それより彼女さんの方は実家に帰らなくて良いの?」
「詳しくは知ら無いけど両親が居ないらしいからそれは大丈夫。」
「そう…じゃあ何か美味しいもの作って待ってるから!」
「ありがとう。」
そんな訳で実家にヒナと共に帰ることになった。
実家に帰るとすぐに母が出て来てヒナに挨拶した。そしてヒナをリビングに案内した後、俺を台所に引っ張った。
「ヒナちゃんって何歳?」
「20歳だよ。」
「本当に?あんた子どもに手出したらダメだからね!」
「当たり前だよ!俺をなんだと思ってんの⁉︎」
ヒナは身長だけでなく顔も幼いから本当に子供に見える。太刀川と篠谷が何で子供じゃないと思ったのか不思議だ。
この後、弟の真斗にも父にも同じような事を聞かれたがすぐにウチに馴染んだ。
ヒナは遠慮をし無いので人との距離の詰め方が早い。
「ヒナさんと良ちゃんはどうやって知り合ったの?」
真斗が聞いてきた。真斗は高二なのでこういう話が気になる年頃である。
「俺も良く覚えて無いけど酔ってる時にほぼホームレス状態だったヒナを拾った感じ。」
「出会い方が特殊!」
「なかなかやるな。」
と、真斗と父も驚いている。
「ていうかヒナさん大学生じゃ無かったんですか?」
「うん。」とヒナが答える。
「ヒナちゃんは良吾なんかのどこが好きなの?」
と母が聞く。息子に対して酷い言い様である。
「…」
しばらく沈黙が続く。少しだけショックだ。
「怒らないところ?」
「良ちゃん俺にはめっちゃ怒るじゃん!女には甘いの⁉︎」
「弟に怒らない兄なんて存在しねぇよ。」
本当のところは子どもには甘いと言った方が正しいが、最初は子どもだと思っていたと言うと色々と面倒なので指摘しないでおく。
その後ヒナはすぐ寝た。ヒナはだんだん就寝時間が早くなっている。最初の頃は全然寝なかったが、22時にはもう寝るようになった。
てっきり俺の家に慣れてきたからだと思っていたが、ここでもすぐ寝たので場所は関係無いようだ。ヒナが寝た後に母が、
「ヒナちゃんってどんな子なの?悪い子では無さそうだけど、ご両親が居ないってどういうこと?良吾と出会った時はホームレス状態だったってなんで?」
と質問責めにしてきた。まあ親としては当然の心配である。
「なんかDVを受けてて、それで家を出てきたとかなんとか。」
流石にヒナが父親を殺したと言うことは言えない。
「そうなの…」
結構重めの話なので返事に困っているようだ。
「ヒナの親はクズだったっぽいけどヒナ自身は良いやつだよ、俺が疲れてたりすると察して元気付けてくれたりするし。あと結構物覚えが良い、時々料理を手伝って貰ってたら最近では一人でも作れるようになったし。」
「まあ、あんたの選んだ人だから大丈夫だと思うけど。」
なら何でヒナがどんなやつか聞いて来たんだよ!それに結婚する事が決まっている訳じゃ無いんだからダメだったら別れたら良いじゃん!と思ったが、それを言うと喧嘩になりそうだし、別れるつもりも特に無いので言わないでおいた。
正月の前後には父方、母方の祖父祖母の家に行ったが、実家と同じ様なやり取りが繰り返されただけなので割愛する。
冬休みが終わり、学校が始まるとローワンから細々とした仕事がいくつか来た。
大体は魔法で何か物を作るような、今時3Dプリンターで出来そうな仕事ばかりだったが、何度か銃などの武器を作らさせた。おかげさまでいつでもどこでも銃刀法を違反出来る様になった、というかもう銃刀法違反しているが。
一番訳がわからなかったのはひたすら直径10センチのスクロースの球体を作らされた事だ。
地味に複雑な分子である上に何に使うのかサッパリ分からないものを作らさせられるのは辛かった。




