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√B ルートB  作者: もんく
6/10

夜目 身近 危機の内

その日の夜、屋根裏部屋での出来事を思い出して寝られなかった。ヒナの事を守る為と言い訳して魔法を習った挙句ヒナを危険に晒し、更にはヒナに守ってもらった。

情けない。

大した考えも無く自分のやりたい事をした結果がこれだ。

一晩中考えた結果、次の日の朝早くローワンに電話した。


「どうした?こんな朝早くに。」


「戦闘の訓練をして欲しい。」


本当は訓練と言うよりも修行と言った方が正しいのかも知れないが、修行と言うと少年漫画みたいで恥ずかしいので訓練と言っておく。


「何故だ?」


「昨日、俺は何も出来なかった…ヒナを守ると言って結局ヒナに助けてもらった。だから、せめてヒナに迷惑を掛けないくらいには強くなりたい!俺を訓練してくれ!」


「…確かに戦闘の場においては何も出来ていなかったが、調査の時は活躍していたじゃないか。

教えてもいないのに送音魔法を応用して盗聴したのは私も関心したぞ。」


ローワンが優しい声でさとした。だが、


「それじゃあヒナを守れないだろ!俺は協会の役に立ちたいんじゃない!ヒナを守りたいんだよ!」


思わず大声を出してしまったせいでヒナが一度起き上がり、少しヒヤリとしたが再び布団に潜り込んで寝始めた。


「そうか…」


何か納得したようにローワンが呟いた。


「そういう事なら何も言うまい。戦闘に関してなら私よりも適任者がいるからそいつに頼んでみる。」


何故か機嫌が良さそうな声色である。


「ありがとう!いつ訓練を始められる?」


「あいつは暇だから明後日には始められるだろうが、精神の一つや二つ壊す覚悟しておけ。」


そう言ってローワンは電話を切った。

物凄く恐ろしい事を言い残したがまあ良いか、と思った。この楽観的な性格のせいでこんな事になったのだが、これは俺の長所でもある。



その次の日の夜ローワンから電話がかかってきた。


「明日例のやつの所に行くから泊まる準備をしておけ。」


「泊まるって何日位だ?」


「それはあいつ次第だから色々用意しておけ。」


そう言われたので一番大きなカバンに色々と詰め込む。訓練中にヒナが暇だろうと思い、昨日買って来た読み仮名が振ってある本も入るだけ入れて置いた。


その又次の日の朝、ローワンがやって来た。アパートの下にはまた車が止まっている。


「また車で行くのか?」


まだ寝ぼけているヒナを車に乗せながら聞く。


「途中まではな。早く車に乗りたまえ。」


とローワンはニヤニヤしながら急かした。


「俺を訓練してくれる人ってどんな人だ?」


「それは着いてからのお楽しみだ。」


そう言ってローワンは相変わらずニヤニヤと笑いながら俺とヒナを見た。



十分ほどで車が停まった。


「ここから何で行くんだ?」


「まあそう焦るな。」


とさっきは急かしたくせに今度は焦るなと言いながら近くにあった車庫を開ける。すると車庫の奥の壁があるべき場所にに森が広がっていた。


「何が起こった?」


「車庫の壁に転移魔法がかかっているんだ。」


そう言って車を車庫に入れた後に降りた。

ローワンの後に続いて行くと小さな小屋があった。その扉をローワンがノックすると中から男が出てきた。背丈はいわゆる中背といった所だが、服の上からでも分かるほど筋肉質である。浮浪者の様な無気力そうな顔つきである。着物の様な服の下に中国の達人が着ていそうな足首辺りがすぼんだズボンを履いている。髪は長髪で後ろで一つに結び、肩甲骨あたりまで垂らしている。ヒゲも長く顎髭は胸あたりまで伸びている。


「久しぶりだな、李。」


「おう!待ってたで、ローワンちゃん。ほんでどっちが俺の弟子になるん?」


まさかの関西弁である。


「この男の方だ。」


「オッケーオッケーよろしくな。」


と手を出してきたので、


「よろしくお願いします。」


と握手する。


ローワンは「じゃあ後はよろしく」言って元来た道を帰って行った。

それを見届けると李さんはいきなり蹴りかかって来た。それを見たヒナが大きな腕を出し李さんを殴ろうとしたが、李さんはその腕を短剣を突き立て、短剣を支えにして体を回して腕を避けた。


「なかなかセンス良いなぁ、チビちゃん。男の方は全然反応出来てへんかったけど。まあ良えわ、出来の悪い子ほど可愛いって言うしな。」


メチャクチャな言われようだが実際にそうなのだから訓練してもらいに来たので文句は言えない。


「まずお前らの部屋を案内するから着いて来ぃ。」


言われるがままについて行くと四畳半くらいの大きさの部屋があった。


「ここがお前らの部屋や、荷物はここに置いて早速修行しよ。」


そう言って李さんは表の森の中に歩いて行った。俺は恥ずかしくって訓練と言ったが李さんは堂々と修行と言う。


「お前をローワンちゃんから大体話は聞いてる。まずお前が自分の身を守れる様にしよ。」


「よろしくお願いします。」


「魔法使い相手の護身に置いて最も大事なんは反射神経や。それを底上げする為にお前に死の恐怖を与える。」


「…どういうことですか?」


「死にそうな時ってゆっくりに見えたりするやろ?」


「そんな経験無いですけど、そう聞きますね。」


「その状態にいつでもなれたら反射神経が上がったのと一緒や。せやから今からお前を何回も死にかけさせて、その状態に慣れさせる訓練や。」


ローワンが精神の一つや二つ壊す覚悟で行けと言った理由が分かった。


「じゃあ行くで。」


そう言って李さんが一歩近づいた。それだけで視界が白黒になり時間の流れがゆっくりになった。これが例の状態か。

恐怖で思わず後ろに跳ね退く。


「おぉ、良い反応やな、この調子でやって行くで。」


そう言ってまた近づいて来た。




「じゃあそろそろお昼にしようか。」


李さんがそう言って小屋に帰って行く。

午前中はずっと李さんが近づいては飛び退いての繰り返しであった。ただそれだけなのに心臓は痛い程に伸縮し、まさに滝の様に汗をかいた。


李さんは無気力そうな顔付きの割に表情豊かでお喋りだった。ヒナに出会ってから今までの事はもちろん俺の家族構成や住んでいる町の事まで聞かれた。更には李さんが月餅は嫌いだがそれ以外の甘い物は好きだとか聞いても無いのに李さんの事も色々と話して来た。

それと李さんはこれまた見かけによらず料理が上手かった。個人でパラパラの炒飯を作る人を見るのは李さんが初めてである。



午後も午前と同じ修行をしたが途中で感覚が麻痺して李さんが近づくだけでは恐怖を感じなくなったので、李さんが突きをする様になった。


「今度は逃げるんじゃなくて、いなした後にカウンターしてみ。」


と無茶を言う。

何とかいなせる様になった頃には日がとっぷりと暮れていた。



次の日の朝、全身が筋肉痛で動けなくなっていた。運動量としては大した事は無かったが、恐怖で始終震えっぱなしだったのが効いたのだろう。


「今日は休んでても良えよ、筋肉痛の時に運動しても良い事ないし。まあ明日には始めるけど。」


と優しいのか優しく無いのか分からない事を李さんが言ってくれたので今日は安静にする事にした。


「口開けて。」


とヒナが朝食のお粥を持って来て食べさせようとしてきた。


「もう大分慣れて来たから自分で食えるよ。」


と言ったがヒナは無理矢理俺の口にスプーンを押し付けてきた。唇に当たって思わず「アッツい!」と叫んでしまった。


「すいません。自分で食べさせてください。」


とヒナに頼んで自分で食べた。今までほとんど一人で生きて来たのだから仕方ないが、ヒナは恐ろしく人の世話をするのが下手だった。


そんな調子で李さんとヒナによる悪意無き責め苦が始まってから6日経った。

もう随分と体が慣れて来て筋肉痛で動けない程では無くなって来たので今日は1日散歩をする事にした。ヒナは普段買ってきた本は読まずに散歩をしているらしく、この辺りに随分と詳しくなっていたのでヒナに色々と案内してもらおうと思う。

李さんにその旨を伝えると弁当を作ってくれた。


「いつ帰って来てもいいけど、明日の特訓に支障がない様に無理せんときや。」


「分かってます。」そもそも身体中が痛くて無理が出来ない状態である。


まず最初に着いたのは泉である。

泉に着くなりヒナは泉の中に走って行って飛び込んだ。

水飛沫でヒナの姿が見えなくなり、水紋の間から人ほどの大きさの魚が現れた。ヒナがどこにも見当たらない。焦ってヒナを呼ぶと魚がこちらに飛んできた。エラを掴んでそのまま後ろに投げとばそうとしたら、魚の腹からヒナが出てきて飛び付いてきたので右手で魚を投げ、左手でヒナを受け止める。


「びっくりした⁉︎」


「心臓が止まるかと思った…蛇とか腕以外の物も出せるんだな。」


「色々出せる。」と得意げである。


「他には何が出せるんだ?」


「鳥と鹿と猿と熊と綿と…」


「色々出せるな、確かその生物の一部が有れば作れるんだっけ?どこで手に入れたんだ?」


「動物は森とかで倒して、綿は服。」


「お!服が綿で出来てるって良く知ってるなぁ〜。」


と褒めるとエヘヘ〜と笑いながら


「良吾が買ってきた本に書いてあった」と言った。


「本読んでたのか?」


「うん、散歩の途中で。」


本は結構高いので勿体無いから俺が読もうかと思っていたが、読んでいたなら良かった。


「他の動物とかも出して見てよ。」


そう言うとヒナはまず巨大なトビになり、空高く舞い上がった。普通のトビよりも翼と胸筋の割合が少し大きい様だ。


「おお、凄いな、体一つで空を飛んだ人間ははヒナが初めてじゃ無いか?」


と叫ぶとクルクルと旋回しながら地面に滑り降り、背中から顔を出して


「ローワンも空飛んでた。」


と答えた。背中から顔ってなんだかギリシャ神話に登場する怪物みたいだ。


「マジか、じゃあ俺も飛べるかな?」


確か魔法って言うのはマナを物質やエネルギーに変える技術の事だったから上向きの力学的エネルギーを作ったら浮けるのだろうか。今までやってきた魔法の感じだと自分を上に押し上げろとマナに命令すればいけるはずだと思いやってみると、髪なんかが少し浮き始めた。少しずつ力を強めていくとゆっくりと浮き上がり始めた。

しばらくやっているとそれなりに自由に飛べる様になった。入ってくるマナの量と使うマナの量が同じくらいだと歩くくらいのスピードで飛べる。一度に半分のマナを使うと一気に百メートルほど飛べた。

しばらくヒナと飛び回りながら遊んだ後にまた歩き始める。

森の中の開けた草原や滝壺、渓流、巨木のある所狐の巣穴、可愛い精霊のいる場所などヒナのお気に入りの場所を案内してもらう。

日が暮れた頃にヒナの一番のお気に入りの山から飛び出た岩の上に来た。そこで、


「ねー、なんで人の嫌がる事しちゃダメ?」


と急に不良少年の様な事を聞いてきた。

しかしその質問はなかなか答え辛い。俺はそんな事を疑問に思うほどガキでは無いが「何でも」と誤魔化せるほど世間ずれもしていない。


「……例えばヒナが人に嫌な事をされたらその人の事を嫌いになるだろ。」


「うん。」


「だろ、だから人に嫌われたく無かったら嫌な事をしちゃダメだ。」


ヒナは少し考え込んだ。


「もう会わない人にはしていい?」


確かに今の話だとそうなってしまうが、嫌な事をしていい訳では無い。


「みんながもう会わない人に嫌な事をしたら自分も嫌な目に遭う事が多くなるからやっちゃダメだ。」


「嫌な事をしなくてもみんな嫌な事をした。」


「…次誰かに嫌な事をされたら俺に言ってくれ。そうしたら二度とヒナに嫌な事をさせないようにするから。」


それを聞いてヒナは今までで一番の笑顔で俺の腕に抱きついた。

何故だか心臓が少し痛くなった。



小屋に帰ると李さんがシチューを作って待っていた。


「おぉ丁度いい時間に帰って来たな。良吾、ヒナ、皿とか並べて食べる準備しといて。」


「はーい。」


普段は自分でご飯を作っているので家に帰ったらご飯が出来ていると言うのがとても幸せに感じる。実家で暮らしていた時はなんとも思わなかったが母は偉大であると最近改めて感じている。

今日の事を李さんに話すと


「教わらずに物理魔法を使うなんてなかなか魔法の才能があるなぁ。ローワンちゃんから物質魔法の練習めっちゃしてて努力家やとも聞いてるし、きっと良い魔術師になるで。」


と褒めてくれた。照れ臭かったので、


「いや、物質魔法に関しては楽しかったからやってただけなんで努力家では無いですよ。」


と謙遜した。


「いやいや好きこそ物の上手なれって言うし、好きって言うのが一番大事な才能やで。女好きな奴ほどモテるし、勉強できる奴だって勉強好きなだけやろ。」


「俺もモテないし勉強も大して出来ないんでよく分かりませんがありがとうございます。」


後半は何と無く李さんの妬みを感じるが、こんなに褒められるのも久しぶりなので素直に嬉しい。


それから更に6日経った。

身体的な疲労は1日置きにの休憩により大した事は無いが精神的にだいぶ参って来た。何しろ殆ど一日中、死の危険を感じているのだ。頻度だけで言うなら戦場にいるよりもキツイ。昨晩は寝返りを打ったヒナの腕が俺に当たっただけで反射的にカウンターをかけそうになった。本当に戦争から帰って来た兵士の話で聞いたことがある様な事をしているから洒落にならない。


「良吾、外に行こう。」


夕食後にヒナがそう言って来た。疲れていたので正直休みたいが、修行を始めてからあまり相手に出来ていないので皿洗いを終わらしてから行くことにした。李さんは料理を全てやってくれる。李さん曰く他の奴に料理をやらせると不味くなるからだそうだが、それでも皿洗いくらいやっておきたい。

皿洗いを済ませて外に出る。


「どこに行くんだ?」と聞くと


「この前見つけた所。」


そう言って俺の手を引っ張って行く。

着いた先には沢山のホタルがいた。ゆらゆらと辺り一面に光が踊る。昔の人はホタルを死者の魂だと考えたらしいが、あらためてホタルを見てみるとそれも頷ける怪しさがある。

俺は残念ながらこういうのを見てもあまり美しさを感じる程美的センス、もとい感受性をも居合わせていないが、これだけ多くのホタルを見たのは初めてなのでそれについては素直に感動する。


「凄いな!これだけ沢山のホタルを見たのは初めてだ。」


「元気出た?」


「え?」驚いてヒナの方を見る。


「最近、良吾、元気無い。」


疲れを表に出しているつもりは無かったので気付かれていたとは思わなかった。


「良吾、強くならなくて良い。今の良吾好き。」


どうやら辛いなら修行をしなくても良いと言いたいらしい。けどこの修行はヒナを守りたいからやっているのだが、ヒナを危険な目に遭わせたくないと言うよりはもっと利己的な理由、ヒナを守りたいという自分の欲求の為にやっている。そもそもヒナは俺に助けて貰わなくっても大丈夫なくらい強い。

では何故ヒナを守りたいと思ったのか。自分でもはっきりとは分からない。

だけどきっと、


「俺も別に今の自分が嫌いなわけじゃ無えよ。だけど、今より良くなろうとしない自分は好きじゃ無い。」


そういう理由なのだろう。本当に自己中心的な理由だ。


「でも良吾が死んじゃいそう。」


「大丈夫、絶対に死ぬ事は無いから。」


「本当?」


ヒナが俺の顔を見てそう言った。


「あぁ。」


「居なくならない?居なくなったら死んだと一緒。」


そうか…ヒナは俺が居なくなるのを、再び一人になるのを恐れているのか。


「…ヒナが居なくなって欲しいって思うまで居なくならないから。」


「約束。」


そう言うとヒナが小指を立てた。


「約束する時する。本に書いてた。」


どうやら指切りげんまんがしたいらしい。小指を絡ませるとヒナが歌い出した。しかし本で読んだだけで実際に聞いた事は無いらしく棒読みだったので俺も歌う。

ヒナと目が合う。しっかりとヒナの顔を見るのは最初に出会った時以来かも知れない。

大きく澄んだ目、出会った時は青白いほど白かった肌は少し焼けたが健康的で綺麗だ。ボサボサだった髪も黒絹の様な光沢があり、光の輪が入っている。唇も艶っぽく可愛らしい。

歌い終わった時、ヒナがニーッと笑うのを見て思わず、


-好きだな-


と思った自分に驚いた。

この好きは恋情だろうか?それとも愛情だろうか?俺は恋愛経験が全くと言って良いほどないのでよく分からない。

心理学的にはこの二つの情に違いなんて無いのかも知れないが、生物学的には恋情は性欲も関わる感情で、愛情は性欲に関係無い感情だろう。

しかし生物の使命は子孫を残す事では無くて、自分と共通の遺伝子を残す事だと考えると、恋情は自分と共通した遺伝子を持った子を残すことで、愛情は自分と共通した遺伝子を持つ個体を守る事で、自分と共通した遺伝子を守ろうとする感情の事を指すのだからやはり違いは無いのだろうか?

よく分からなくなってきた。

しかし今、俺は何となく一つの事を確信した。俺がこの修行をしたいのは、ヒナを守りたいと思うのは、ヒナにもっと近づきたいからだという事だ。この前の様に守られるだけの存在で無く、お互いに守り合える存在になりたいからという事だ。

ゆんらりゆらりとホタルが飛んできて俺の手に止まった。どのホタルより強い輝きを放っている様に見えるが、もしかしたら近いからそう見えるだけなのかも知れない。



その夜から更に二週間週間ほど経ったある日ヒナが茶碗を落とした時に景色が白黒になり、ゆっくりと落ちていく茶碗をキャッチできた。


「今ゆっくりに見えました。」


「ほんまか⁉︎じゃあ今からじゃんけんしようや。お前その時にゆっくり見えるようにしてみ。」


と言って来たのでじゃんけんをする。

すると再びあたりがゆっくりに見え李さんがゆっくりとチョキを出していくのが見えたので、グーを出す。


「出来ました!」


「よっしゃ!じゃあ明日からは実践練習やな。俺も魔法を使っていくからお前も魔法を使えよ。」


「はい!」


遂にあの死の恐怖から逃れらると思うと嬉しい。きっと実践練習の方が実際は危険だろうが。




「ほな早速実践や。技とかはやってる途中で教えていくわ。何やかんや言うて実践に勝る修行は無いからな。そんな訳で始めるで。」


そんな李さんの持論により李さんとの組手をが始まった。

まず李さんが顔に向かって突きを入れてくる。間一髪それを避けたが、その腕がそのまま真横に飛んで来る。予想外の動きに動揺して思いっきり食らってしまった。


「これが魔術師の戦い方や。避けられても物理魔法で真横に力を加えたら今みたいに相手に当てられる。じゃあ次いくで。」


と休む間も無く始める。

今度は中段の蹴りを入れて来たので腕でガードし、足が触れた瞬間に李さんの足に物理魔法を使い吹き飛ばそうとしたが、当たる直前に李さんの足が加速し、俺が吹き飛ばされた。

「こうやって攻撃を加速させる事も出来る。これによって魔法をかけるタイミングをずらさせることも出来る。他にも相手との間に服とか布一枚挟むだけで相手が魔法かけれるのを阻止出来るで。」


「今まさに体験しましたよ。」


「じゃあ次は武器を使った訓練しよか。」


と休む間も無く始まった。


「生物の体に魔法をかけるには直接触れへんとあかんのは知ってるな?」


「はい。確か、その生物のマナが他の生物のマナが入って来るのを邪魔するんですよね?」


「そうや。生物以外にもう一つ直接触れへんと魔法をかけれへんのが、誰かのマナが込められたモノや。魔法は干渉したい空間、物質にマナを送り込まへんと発動出来ひんねんけど、対象にマナを送り込む事でその対象に相手のマナを入れへん様にできる。じゃあ実践や。」




そんな修行が二週間程続いた。

最初は一撃で倒されて居たがもう随分と組手も様になって来た。



まず俺が李さんの腹に殴りかかる。李さんはそれを払うついでに物理魔法で俺の腕を横に弾く。弾かれた勢いを更に物理魔法で補足して回転力に変え、反対側の足で横から上段蹴りを入れる。蹴りの入る直前に俺の脚を加速させる。

李さんは自分に下向きの物理魔法をかけて避け、更に体を寝かした状態で俺の軸足に蹴りを入れる。軸足を上げて避けると李さんが反対の足に物理魔法をかけて蹴り上げて来た。マナが半分近くなって来たので蹴り上げて来た李さんの足を蹴り、接触するタイミングをずらしてわざと上に飛ばされる。

落下する地点に李さんが待ち構えていたので、李さんに当たる直前で後ろ向きに物理魔法をかけて李さんの正面に着地点をずらし、サマーソルトを決めようとしたが、李さんが更に俺の後ろに回り込みんだ。軌道修正をしようとしているうちに背中を殴られ、吹き飛ばされた。


「空中に逃げんなって何回も言ったやんけ。」


と李さんが笑う。


「そろそろお昼にしようか。」


と李さんが言ったので組手は中断された。


「そろそろ学校が始まるんですけど。」


ご飯を食べながら李さんに言った。


「あ〜そっか、お前もなかなか様になって来たし、学校始まってからは週に1回だけここに来るようにしようか。」


「ありがとうごさいます。」


「これでやっと街で女と遊べるわ。」


「え⁉︎ここに住んで無かったんですか?」


てっきりここで仙人のような隠遁生活を送っているのかと思っていた。


「当たり前や!誰がこんな所に好き好んで住むかい!ここは俺が修行する時に女の誘惑に負けへん様にする為に住んでるんや。」


「李さんって結構女好きなんですね。」


「おう、だからモテるで。」


とゲラゲラ笑う。女好きの奴はモテるって言うのは実体験だったようだ。もしかしたら自称モテる人かもしれないが…


「魔術師のキスは死神の味って言うけど、俺のキスは天使の味やからな、やったら一発で落ちる。」


「その「『魔術師のキスは…』ってやつ結構有名なんすか?」


一応心配になったのでヒナに手を出さないでくださいよかと釘を刺しておいたら、未成年には興味ないわ。との事だったのでヒナの歳は言わない事にした。


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