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√B ルートB  作者: もんく
4/10

精霊の山嶺

朝早くにローワンが来た。今日はスーツでは無く、丈夫そうなズボンにTシャツを着て、その上に薄手の上着を羽織っている。


「諸君、山に行くぞ!」


と何故かローワンは張り切っているが、俺はローワンが鳴らしたインターフォンで目が覚めたので、まだ着替えてすらいない。ヒナに至ってはまだ寝ている。


「ちょっと待ってて、朝飯作るから。」


「朝食くらい途中で買ってやるから早く着替えたまえ。」


そう急かすので、取り敢えずヒナを起こす。

まだ寝足りないようで、布団を離さないので抱き上げて立たせ、着替えさせる。

俺も着替え終わったので出発する。


「山ってなにでいくんだ?」


「電車。」


「魔法でパッと行けないのか?」


「そういう魔法はあるが今回はヒナの社会勉強も兼ねて電車で行こうと思う。」


そうは言っているが本当はそういう魔法が使えないのだと思う。



ヒナは電車に乗るのが初めてらしく、駅の中でキョロキョロとしていたので、迷子にならないように手を繋いで歩いた。


電車の外の景色の色の割合が灰色から段々と緑が増えていく。少しずつ都会では見かけない鳥なんかが増えてきて、電車内に俺たち以外は誰も居なくなった頃に終点に着いた。

無人駅を出た所には寂れた商店が数店並んでいたが、空いている店はコンビニしかなかった。そこで朝食と昼食を買い、山に向かう。

正直なところ田舎特有のお食事処みたいな物を期待していたがこれが現実なのだから受け入れるしか無い。

山は精霊の数も種類も街より多かった。見ていると数が増え、瞬きをすると一匹に戻るチョウや尾が花に変わるトカゲ、跳ねた後に空中でもう一度跳ねるカエルなど奇妙な精霊が沢山いる。

良く茂みがガサガサと鳴ったが何もいなかった、なんて事は良くあるが、あれの中には精霊が混じっていたのだろう。もちろん本当に何もいなかったことの方が多いだろうが。

山の中腹辺りまでは登山道を通ってきたが途中で茂みの中を通り始めた。日が真上にきた頃大きな岩が現れた。その岩の前にタヌキが椅子に人間の様に座っている。


「これも精霊か?」


「そうだ。バケダヌキの泰平だ。」


名前がタヌキのイメージとあまり合っていない。


「こちらは良吾とヒナだ。今日はこいつらに主を見せに来た。」


そうローワンが言ったのを聞いて泰平はコクリと頷いた。それを見てローワンが岩に触れると岩が透明になっていった。岩のあった場所を通り過ぎると水平線が見えるほど大きな湖があった。


「明らかに今まで歩いていた場所と違う場所だよな?」


「そうだ。ここは協会が保有している人工的に作った空間だ。ここに住んでいるものを見せるためにここに来た。」


そう言うが早いか湖から巨大な龍のようなモノが現れた。ワニを引き伸ばした様な姿で、ヤギの角をツルツルにした様な角が生えている。鬣は長く、体には藻が付いていて緑色に見える。腕は体に見合わず小さいがそれだけでも人を潰せるくらい大きい。鼻先には二対の長い髭が生えている。口の隙間から見える歯はきっと俺の身長より長い。


「おぉ!デカイな…これ触ってもいいか⁉︎」


「いいぞ、間違えて食べられないように気を付けろ。」


「さり気無く怖いこと言うなよ!」


そう言いながらも触ってみると藻が付いているせいで少しヌルヌルとしていた。

ヒナも最初は怖がっていたが、しばらくすると慣れてきたようで滅茶苦茶に撫でた。昨日から思っていたが、ヒナは動物が好きなようだ。


「凄え楽しいけどなんで俺をここに連れてきたんだ?純粋にレクリエーション的な理由?」


「魔法を学ぶ上で大切なのはとにかく知識だ。多くの知識を身に付ければ自ずと思考力も付いてくる。今日は己の無力さを教えようと思ってな。」


「別に自分に力があるとは思ってないけど…ところでこいつは何て名前だ?精霊なのか?」


「そうだ。水分子を操る固有魔法を持っていて、リュウという種だ」


本当に龍だった。


「水分子を操るってどういう事だ?」


「そのままだ。自由自在に操れる。雨も降らせられるし、体内の水分子を操って浮く事も出来る。」


「それって凄いのか?ローワンは水分子を操れないのか?」


「私は基本的な魔法しか使えないからな、水に上方向の力を与えて浮かすことが出来ても水に浮力を付ける事は出来ない。」


「…」


「あまりピンと来ていない様だな、では彼に実力を見せてもらおう。」


そう言ってローワンはリュウに触れた。

すると後ろから風が吹いたと思ったら湖が音もなく持ち上がった。風が吹いたのは水があった場所に空気が流れ込んだからだった。

湖があった場所には大きな窪みが残り、上にはその窪みと同じ形の水が浮いている。水の中から何匹か魚が落ちて来てた。


「凄えな…これをぶつけただけで一つの都市を破壊できるぞ…」


「それどころか彼は国一つくらいは潰す力がある。」


ローワンは再びリュウにそっと触れた、すると水がゆっくりと元の位置に降りていった。


「ちなみに私が水を浮かせようとするとこんな感じだ。」


そう言ってローワンが水に手を突っ込むとバケツ一杯分の水がビチビチと雫を飛び散らしながら上に上がった。


「私は魔力も常人レベルだし、上方向の力学的エネルギーを水に加えることしか出来ないから水の形も安定しない。だが精霊であるリュウは膨大な量の水を自由自在に操れる。このように世の中には人間の力ではどうにもならない存在が多く存在する。そういうものと対峙する時はとにかく逃げろ。もし逃げる事すら叶わなかったとしたら毅然とした態度で相手を見つめるんだ。」


「逃げるのは分かるけど何で相手を見つめると助かるんだ?」


「相手に知性が有れば見逃してくれる事が有るし、助からなかったとしても格好いい死に様になる。何よりこれで生き残ったら生ける伝説になるからな。私はこの方法で二度助かって四条勲章を貰った。私はこれで一度、六条勲章を貰った。」


そう言ってニカッと笑った。ローワンは馬鹿なのか凄いのかよく分からない所がある。


「何でこの龍にここに閉じ込めているんだ?暴れたりしないようにか?」


「閉じ込めているんじゃない。リュウは良い住処が、つまり深い水と豊富な食料のある場所が無くなったら自分で住処を作る。このサイズの龍が住処を作ろうとすると周囲に甚大な影響を与えてしまうから、こちらから住処を提供しているんだ」


「どうやって住処を作るんだ?」


「地面に穴を掘り水を魔法で操って水を溜めて自分のサイズに合った住処を作る。」




「そう言えばなんで一般人に魔法が知られたら行けないんだ?」


そう帰りの電車の中で聞いた。行きと同じく人が一人も居ない。


「それは一般人が魔法の事を知ってしまったら協会の仕事が減るからだ。」


「そんな現金な理由なのか⁉︎もっと世界の秩序がどうのこうのだと思ってた。」


「ハハハ!世の中に正義の組織なんか有るわけないだろう。」


何だか夢を壊された気分だ。


「ちなみに一般人に知られちゃったら何か罰とかあるのか?」


「いや、特に無いがその一般人の記憶を消すか今の君のように魔法を教えなくてはならない。因みに魔法の記憶だけを消すのはかなり高度な技術が必要だから、大体は記憶がゴッソリ消える。」


もう少しで記憶を消される所だったのかと思うと恐ろしい。


「何で俺の記憶を消さなかったんだ?」


「それは君の記憶を消したらヒナが更に私の事を警戒するだろうと思ったからだ。」


俺はヒナに知らず知らずの内に助けられていた様だ。元はと言うとヒナと出会ったのが全ての始まりだか、


「じゃあ一般人に知られたら行けないのにしょっちゅう人前で魔法の話をしてるのは何でだ?」


「普通の人は私達の会話を聞いても漫画かゲームの話をしているか、変な宗教団体だと思うから大丈夫だ。」


またもや現実的な返答でガッカリした。てっきりそういうのを防ぐ魔法が有るのだと思って期待していた。

途中でローワンは別の電車に乗って行った。ローワンは来週もウチに来る、と言ったがテストが近いのでテスト後にしてくれと言った。

ヒナは慣れない山歩きに疲れた様ですぐアホそうな顔でヨダレを垂らして寝てしまった。

西日な強いのでヒナの顔に手で影を落としてやる。

コイツと出会って一週間ほど経ったがヒナは見た目よりもガキっぽい。あまりに何も知らなさすぎるし、話し方も拙い。何より行動が感情的だ。もしかしたら実際はもっと幼いのだろうか?

そんな事を考えていたら、うちの最寄駅の一つ前の駅に着いたのでヒナを起こす。

「まだ眠い。」と言ったっきりで起きないので結局ヒナを抱えて帰る羽目になった。




「そちらもデートですか〜?」


と帰り道に太刀川が声をかけて来た。隣には篠谷も居る。


「せめてもう少しデートっぽい状況で言えよ。どちらかと言うと子守してるみたいな状況じゃねーか。」


「アハハ確かにね。」と篠谷が笑う。


「けどお前ヒナちゃんの事を女として見てるだろ。」


と太刀川がいやらしい笑みを浮かべて言って来た、多分本人は悪戯っぽく笑って居るつもりなのだろう。


「何言ってんだ?人をロリコンみたいに。」


「いや、ヒナちゃんの歳知らないんだろ?もしかしたら同い年かもよ?」


と食い下がる。


「確かにこんな感じの大人もいるかも知れないが、ヒナは違うだろう。言動が子供っぽ過ぎる。」


「でも普通は突然ウチに子供が居たら警察に連絡するか、親を探すかするよね?それをしないって事は子供じゃ無くてヒナちゃんの事を異性として見てるんじゃ無い?」


と篠谷も追求して来た。


「いやいやそれは極論過ぎだろう。警察に連絡したら俺が誘拐して来たと思われるかもしれないし、コイツ家が無いって言ってたから親も居ないだろうし。」


ローワンの事を話す訳にはいかないので少し省いて話す。嘘は言っていない。


「家が無いってホームレスって事か⁉︎それなら尚更子供じゃ生きて行けないだろ。やっぱ大人なんじゃ無い?」


ヒナは魔法を使って生き延びたんだろうが、そんな事を二人に話せない。ついに言い返す事が出来なくなった。


「ヒナちゃんの事を幸せにしてやりなよ。」


と篠谷がちょっとカッコつけて言ってきたので


「言われなくてもそうするさ。」


とこちらもカッコつけた。


ニヤニヤと笑って居る太刀川の背後に太陽がが最後の光を弱々しく放って消えた。後に残るのは空に映る色水を溢したかの様に白々しいくらいに鮮やかな夕焼けだけである。


その後話す事も無くなったのでウチに帰った。

次にローワンに会ったらヒナの歳を知っているか聞いてみようと思った。

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