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√B ルートB  作者: もんく
3/10

ローワンの指輪

その後もヒナを学校に連れて行ったが、特に問題も無く土曜日になり、約束どうりローワンがやって来た。


「魔法の練習はちゃんとしたかい?」


「ああ、ホラ見てくれ。」


この一週間で出した物質を入れておいた袋をローワンに見せる。


「おお、中々種類が多いな…複雑な物質を作っているじゃないか。努力家だな。」


と褒めてくれた。


「じゃあ嘘を見抜く魔法を教えてくれよ。」


「記憶力が良いな…仕方ない教えてやろう!」


「言わなかったら教えないつもりだったのかよ!」


ローワンはとぼけた顔をして話し始める。


「それは置いておいて、感情受信魔法を教えよう。感情受信魔法は相手の大まかな感情を受信する事が出来る。マナに相手の脳波のコピーを自分に送りつける様に語りかけるんだ。

ただしこの魔法を1人の人に使い過ぎると、そいつの感情に囚われてしまう事があるから気をつけろ。

昔の話だが捕虜から情報を得ようと相手の感情のみならず、記憶を受信しようとした魔術師がいた。そいつは捕虜の記憶と感情を受信し過ぎて、自分が捕虜なのか自分なのか分からなくなり、錯乱した後に自殺したらしい。」


「さらっと怖い事を言うなよ!」


「そんなに重くとるな。強い力を使いすぎるなという教訓だ。と言う事で実践練習をしよう、私に何か質問したまえ。」


何を質問しようか。まずはあまり重要じゃない事を聞いて、慣れて来た時に核心を聞こう。


「ローワンって結婚してんの?」


「イヤ、してない。」


ローワンの感情は読み取れなかった。


「なんか意外だな、美人だし結婚していると思った。」


そう言った瞬間、胸の奥がくすぐったい様な、脊髄から脳に血液が湧き上がってくる様な、そんな心地良い感覚に襲われた。


「アッハハ、そんなに褒めても何も出ないぞ!」


とあからさまに嬉しそうな反応をしたので、さっきの感覚は恐らくローワンの感情だろう。

魔法に成功したがまだ成功していない事にして、もうちょっと色々と聞き出そう。


「あんたは本当に俺たちの味方なのか?」


「当然だ。」


特に何も感じないから本当なのだろう。これで一応ローワンの事を信用できる。


「ところで少年、君はもう感情受信魔法が出来ただろう。」


まだ質問しようとしていたので、


「イヤ、出来てない。」と答えたが、


「嘘はいけないよ、少年。私も感情受信魔法を使っていないとでも思ったのかね?」と言われた。


今思えば始めて会った時にもこんな事を言われたが、あの時も感情受信魔法を使っていたのかも知れない。


「それにしても魔法って言うのはマナの使い方さえ覚えれたら結構簡単に出来るんだな。」


「今教えたのは基礎的な魔法だからな相手を操る様な高度な魔法になるとまた難しくなってくる。」


感情受信魔法だなんて仰々しい名前だからてっきり難しい魔法だと思っていたがそうでも無いらしい。それならもっと簡単な名前にして欲しいと思うが、ではどんな名前が良いかと言われると特に思いつかない。


「じゃあヒナも練習すれば直ぐにこの魔法が使えるのか?」


と聞くと出来る筈だとローワンが答えた。


「ヒナもやってみてよ。」


と言ったら、ヒナは


「マナの使い方知ら無い。」と答えた。


「ではどうやって魔法を使っているんだ?」


とローワンが聞いたがヒナは「感覚。」と短く答えた。ローワンはしばらく黙って考え込み、しばらくしてまた話し始めた。


「言い忘れていたがもう一つ注意だ、この魔法は友人には使わない方が良い。友情を壊したくなければね。」


どうやらヒナのことに関しては考えるのを諦めたらしい。


「感情受信魔法もできた事だし、魔法に関する授業をしよう。本当は魔法を教える前にしなくてはいけなかったが、早く魔法を知りたかっただろうからな。」


「それはありがとうございます。」


と適当に答えたが、少し嫌味っぽくなったかも知れない。


「まず魔法使いというのは魔法に関わる者の総称で、魔術師は魔法を理解し、使えるようになった者のことだ。つまり、私達は魔術師だが、魔法使いは元から魔法を使えたり、魔法を習う以外の方法で使えるようになった奴らも含む。

次に精霊についてだが、これは体内に大量のマナを溜め込んでいる生物のことだ。ほとんどの精霊は固有の魔法を使えるように進化している。多くの精霊は魔法総会によって隠蔽され、見えなくなっている。なのでそれが見えるようになる道具をやろう。」


そう言ってローワンはシンプルなデザインの銀色の指輪を二つ渡して来た。内側に金字でよく分からない文字が書いてある。


「小さい方はヒナの分だ。」とローワンが言った。


テレビを観ながらゴロゴロしていたヒナがそれを聞いて跳ね起きた。


指輪を着けるぴったりだった。どうやってサイズを測ったのだろうか?あたりを見渡すと部屋の隅に黒く蠢くものが見えた。よく見ると小さな粒子が集まっているようだ。


「ローワン!あれ何?」


とヒナのテンションが珍しく高い。


「あれはスミズミだ。昼間はああやって隅の方に固まって身を守り、夜は散らばって精霊のマナを少し吸う粘菌みたいなやつだ。無害だから放っておけ。」


「次に魔人と言うものは高い知能を持った精霊のことだ。頭が良いので、人間の様に固有の魔法の他にも魔法が使える。頭足類、甲殻類、げっ歯類、霊長類、鳥類などに多い。これも実際に見せよう。」


転送魔法を使い、ゲートの中に金貨と紙を投げ込んだ。すると煙の様なものが出てきて、それが甲羅の丸く膨らんだ1メートルほどのカニを形造った。脚には成金趣味のアクセサリーをいくつか付けている。


「こいつは寝かし屋という種族の魔人でトルシュタインという名前だ。その名のとうりに対象を眠らせ、夢を見せる固有魔法を使う。因みに魔人は転移魔法を使う時に、体が切れても大丈夫な様に原子魔法という体を原子レベルにバラバラにして、また組み立てる魔法を使う。バラバラにする際、組み立てる時の核の原子を決めるので、その核さえこちら側に来ていたら転移が成功する。」


「オィ、ローワン…もしかしてオメィこいつに説明する為だけにぃ〜…オウィラを使ったのかぁ?」


いきなりカニが喋り始めたので驚いた後。

あの扉の様な口をモゴモゴさせながら喋る様はなかなか気味が悪い。


「そんなわけ無いだろ。もうこいつは夢の中さ。」


だんだんあたりが暗くなっていき、感覚が無くなっていく。ただ体温が下がっていくことだけがハッキリと分かる。

これが死と言うものだろうか?ジェットコースターに乗る前の様な不安とプールに入った後の様な心地よい脱力感の中、意識が深く沈んでいく。

誰かが俺の肩を揺する。体温が肩からジワジワと上がっていく。幼い頃、迷子になった時に母親に会えた様な安心感。


「起きて!ねぇねぇ!良吾?」

とヒナの声が遠くで聞こえる。


目を覚ますとヒナの心配そうな顔が見えた。体を起こすとローワンはがチェシャ猫の様なニヤニヤ笑いを浮かべている。

今になって恐怖が襲ってくる。


「ありがとう」と言ってヒナをギュッと抱きしめる。いつから俺は眠っていた?と聞くと、


「さあ?」とチェシャ猫はトボけた。

ヒナに聞くと煙が出た時から、と言っていたので最初っから寝ていたようだ。

ローワンはチェシャ猫のまま説明を続ける。


「契約者は魔人の力を借りる代わりに代償を支払う者のことだ。ちなみに昔話の様に魂が代償だなんて事は無い、あれはお話の中だけの話さ。実際は金や魔法に使う素材を代金として払う。今見せた通りに私も契約者だ。」




「次に仲介者について説明しよう。生物の脳の構造を変える固有の魔法を使える魔人だ。

脳の構造を変えた生物を契約者に貸してくれることもある。これも見せてやろう。」


そう言って、再び魔人を召喚した。

今度の魔人は大きさはネズミくらい、目と頭が巨大化した、鼻面の伸びたウサギの様な姿だった。その体は甲羅の凹んだ亀の上のクッションに埋もれた様に座っている。


「ダーナ、こいつに挨拶してやってくれ。名前は良吾だ」


「良いわよ。宜しくね!良吾くん」と頭にキンキン響く高音で答えた。


「宜しくお願いします。ダーナさん。」


「仲介者たちは大体えげつない性格だが、ダーナは金さえ払えば騙して来たりする事はない。」


「金さえ払えばって何よ!私の事を信用していなかったなんて。エーンエーン」とわざとらしい嘘泣きをした。


「アッハッハ!契約者と魔人はお互いに信用しないのが礼儀だろ。今後、良吾が世話になるかもしれないからその時は宜しくな。」


とそう言ってローワンはスーツの内側に隠していたステッキを地面に打ち付けた。それと同時にダーナは


「じゃあね、良吾くん!」と言い残して煙になって消えた。


「最後に使い魔について説明する。

使い魔とは仲介者によって脳の構造を変えられた生物の事だ。

多くは仲介者の契約者や仲介者の命令を聞くことが至上の喜びにやるように脳の構造を変えられている。多くの場合は知能の低い精霊が使われるが、普通の動物など、脳を持つ生物なら何でも使い魔にすることが出来る。

魔人や人間などの知能の高い生物は使い魔にすることが難しいらしく、並みの仲介者には使い魔にする事が出来ない。」


「ダーナは並みの仲介者なのか?」少し気になったので聞いてみた。


「そうだ、だがダーナにはこの事を言うなよ。あいつはプライドが高いから。」


そう言いながらローワンはが灰色の10センチほどのトカゲを召喚した。ローワンはトカゲを手のひらに乗せ、


「これはジトバシという精霊で、ダーナから借りた使い魔だ。今からこいつの固有魔法を見せる。」


そういうが早いかローワンとジトバシの姿が見えなくなった。


「ジトバシは短い距離を飛ばして移動出来る。」


と後ろからローワンの声がした。振り返るとローワンが後ろにいた。


「つまり、短い距離をワープ出来ると言うことだ。」


そう言ってローワンは部屋中を二メートルほどのワープを繰り返しながら歩いた。インベーダーゲームのインベーダーみたいにチカチカ動いていて気持ちが悪い。


「これを戦闘時などに使うと相手が混乱するし、隠密行動の時にも使える。」


そう言ってジトバシを宙に放ると勝手にゲートが現れジトバシはその中に入っていった。


「一区切りついたし、外の精霊を見ながら昼食でも食べに行こう。このしみったれた部屋にはたいして精霊が居ないが外には沢山の精霊が居るからな。」


玄関から出ただけで、沢山の精霊達がいた。大体は大きなカゲロウのような姿で、そこらを飛んでいる。


「たくさん飛んでいる虫は何?」


とヒナが聞く。


「あれはマナオシエ、マナを直接食べる事ができる今のところ確認されている中では唯一の生物だ。世界中に生息していてマナが多い所に沢山いる。」


「じゃあここは結構マナが多いんじゃないか?」


と聞くと、


「ここがというより、ヒナの周りにはマナが多いな。」


「何で?」と聞くと


「時々そういう奴がいるが、それがなぜなのかが分かったら六条勲章ものだろうなぁ」


と急に専門用語を使い始めた。


「六条勲章って何だ?」


「私は魔法協会と言う組織に所属しているが、魔法協会では 偉業を達成した者には勲章が与えられるんだ。一から六まであって六が最もくらいが高い。」


俺だけでなくローワンもヒナの事をよく知らないとは、ヒナは一体何者なのだろうか?


「そう言えばヒナの魔法って具体的にはどんな魔法なんだ?」


とヒナに聞いたて見た。


「それは私も気になる。」とローワンも同調した。


「生き物の体持ってたらその生き物出せる。大きさとか変えれる。」


「それは例えばアリの体の一部を持っていたら巨大なアリを創り出せるって事か?」


「そう。」


「…じゃあもう一つ質問だ。ヒナは明らかに自分より大きな物を創っていたが、なぜそんな事が出来るんだ?」


「え、大きさに制限なんてあるのか?」と聞くと、


「ああ、そう言えば説明していなかったが、魔法で作り出せるものは個人差はあるが大体、自分の体の体積と同じくらいまでなのだが、ヒナは自分の何倍も大きな物を作り出している。そんなのは精霊以外では聞いたこともない。それにヒナの魔法もどうやらウツシガミという魔人の固有魔法と同じな様だ。」


「そうなの?」とヒナも驚いた顔をしている。


「みんな出来る事と思ってた。」


「ウツシガミってどんな魔人だ?」


「ウツシガミとは契約していないので実際に見せることは出来ないが、黒くて丸い球体らしい。体の一部を保有している生物の体を作り出す事ができて、作り出す体の大きさは自由自在らしい。つまりヒナと全く同じ魔法を持っている。」


「そんな変な魔法を一体ヒナは誰から教えてもらったんだ?」


と気になったので聞いてみると「おばあちゃん。」と答えた。


「おばあちゃんってヒナの祖母の事か?」


とローワンがたずねるとヒナは首を横に振った。


「近所のおばあちゃん。」


「その人は今どこに?」


「魔法使えるようになった時消えた。」


そうヒナが答えたその時、後ろから風が吹いたので振り返ると、長さ5メートルほどある細長い魚がゆっくりと飛んで来た。

俺とヒナは驚いてしゃがみこんだが、ローワンは立ったままだった。それはローワンの上をかすめて飛んでいった。

魚は折り畳まれた大きな口を広げてマナオシエを食べながら何処かへ行った。


「精霊は基本的に精霊しか襲わないし、むしろ協会の魔法に精霊以外のものを避けて通る様になっているから避けなくても大丈夫だ。」


そう言ってローワンは再び歩き始めた。

今の魚の名前を聞いたが、ローワンも知らなかった。


男子大学生と黒人女性と少女の組み合わせは珍しいらしくファミレスの店員が少し変な顔をしたが、そんな事を気にしているのは俺だけらしく、二人は全く気にしていなかった。

ヒナは随分と箸に慣れてきて、箸の使いやすさに気づいたようでハンバーグを箸で食べていた。

昼食を食べ終わった後、明日は山に行く!と言い残してローワンは帰って行った。

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