多量生成者、木内ヒナの魔法に関する研究
後日、研究班から電話がかかってきた。
準備が整ったのでいつでも来いとの事だったが、正直いつでも暇なので次の日には研究班のところに行く事にした。
「ヒナは留守番するか?」
と聞くと、
「ついてく。私も気になる。」
との事だった。今まで全くそんな素振りを見せなかったので意外だったが、自分の事だし多少は興味があるのだろう。
研究班の研究室はSF映画のラボ的な内装だったが置かれているものはミイラだとか血の入った瓶だとかオカルトチックなものだった。
迎えにきてくれたのは小麦色の肌に金髪、深い緑色の目の男だった。人種はよく分からない。左耳の中ほどに鎖の先にひし形八面体の宝石のようなものがついた耳飾りをつけている。歳は恐らく二十代前半くらいでちょっとホスト系だ。
「四条研究官のカフです。良吾くんとヒナちゃんの世話係を任されました。よろしくね〜。」
そう言って手を差し出す。当然その手は魔法防止用の手袋をはめている。
カフか〜、出身はフランツだろうか?
そんなしょうもない事を考えながらこちらも手袋をつけて手を差し出す。
「よろしくお願いします。」
「その耳のやつ何?」
「これはイヤーカフだよ〜。」
カフさんがイヤーカフを着けてる、と言うよりはカフと言うのは偽名でイヤーカフをいつも着けているからカフと言う名前なのだろうな〜と思う。
「それよりヒナちゃんの魔法について調べに来たんだっけ?」
「ああそうでした。ウツシガミについての資料があれば見せて欲しいんすけど。」
「オッケー。じゃあ図書館に案内するね。」
そう言って別館の図書館に連れて行かれた。
図書館と言っても沢山の机と受付があるだけで本棚は無く、国会図書館の様に受付で本を注文してその本を渡してもらう形式の様だ。カフさんが受付の人にウツシガミに関する本を注文してくれた。
20冊近くの本が運ばれて来たのでとりあえず読み始める。真面目に読んでいたらきりが無いのでウツシガミの魔法に関する項目だけを読んでいく。
専門用語が多くてなかなか苦労したが、魔法用語辞典を片手に読み進める。
李さんとの修行をしてから速読が身に付いたのでだいぶ早く読み終えた。
要約するとウツシガミの魔法は自分が体の一部を所持している(所持しているの定義は、程度近にある事)生物の肉体を作れて、触れている間はその肉体を自由に操れる。
作る肉体の大きさは魔力が許す限り自由に変えれる。
とここまではヒナと同じだったが、自分の肉体を作れるとはどこにも書いていなかった。
なのでカフに聞いてみたが知らないとの事だったので精霊学に詳しい人に聞いてくれた。
その人はペスト医師の様なカラスを模したマスクを着け、全身を黒い革製の服で一切の露出無く覆い、更にその上から白衣の代わりに白い魔法総会支給の上着を着た人だった。声的に恐らく女である事とエレーナという名前だという事以外の情報は一切ない。
「ウツシガミが自分の体を作ったという記録はありません。そもそもウツシガミの体はただの球体なので作る必要性が無いでしょうが。」
「じゃあ再生能力が高いって言う記録はありませんか?」
「それも無いですね。むしろ少しの傷ですぐに破傷風になると言われています。」
と言うことは自分の肉体を作れないのだろう。そこはヒナと少し違う様だ、つまりヒナがウツシガミの魔女である可能性は消えた。(そもそもヒナは処女だったのでその時点で消えていたが、まだ知られていない魔女になる方法があるかも知れなかったので一応調べた)
今のところ、ヒナがウツシガミの魔女説以外には、人の肉体を所持しているウツシガミ(自分がウツシガミである事を知らない)説もあるが、それも虫に変身したりと明らかにウツシガミより小さい生物に変身しているので、その時に本体のウツシガミが現れないのはおかしい。
つまり振り出しに戻った。
行き詰まってしまったので、別の方面も攻めてみる。
ヒナの魔法は魔法の内容だけでなく、作れる物質の量が多い事も珍しいらしい。魔法協会の魔法使い達にとってはこちらの方が重要な様だ。
作れる物質の量が多い理由として考えられるのは、
1.精霊並みにマナを蓄えている。
2.体内、あるいは体表でマナを作っている。
3.体外でマナを作っている。
4.周囲のマナを集めている。
5.ヒナの魔法のはマナの消費が少ない。
の四つが考えられる。ヒナが魔法を使う際、
1.なら、ヒナの体から大量のマナが出てくる。
2.なら、1.と同様、ヒナの体から大量のマナが出てくる。
3.なら何処かからマナが溢れてくる。
4.なら、周囲からマナがヒナ、もしくは作られる物質の元へ吸い寄せられる。
5.なら、普通の人が魔法を使う時と同じようなマナの動き。
が見られるはずなのでマナの動きさえ見えたらこの内どれか絞れるはずだ。
「カフさん、マナが見えるようになる道具有りますか?前にローワンが空中に粉を振りかけて、マナを可視化してたんてますけど、」
「マナ付加視粉ならあるよ。」
「それ使わせてもらっても良いですか?」
「良いよ〜。結構高いけどヒナちゃんの魔法の謎が解明出来たらお釣りが出てあまりあるくらいの価値があるからね。」
「ありがとうございます。」
カフさんはそこらを歩いていた若い研究員に、第2物理実験室に粉を持ってきて、と頼んだ。
「じゃあ俺たちも実験室に移動しよっか。」
「あの、私も付いて行って良いですか?多量生成者の魔法発動時のマナの動きを見れる事なんて滅多に無いですから。」
とエレーナさんも付いてきた。
第2物理実験室はあちこちにカメラがセットされた大きな白い部屋だった。
まずマナ付加視粉を部屋にバラまく、そしてヒナに何か大きな物を作るように頼む。ヒナは「うん。」と答え魔法を使おうとした。するとヒナの手のひらから沢山のマナが出て来て、それが変化して蛇を形作っていった。
「沢山のマナが放出されたって事は1.もしくは2.ですね。」
「あ、でも普通なら魔法を使った後はマナが術者に集まるはずなんです。だから多分ヒナさんはマナを作ってるんだと思います。」
「なるほど〜、さっすがエレーナちゃん。」
「カフさん!ちゃん付けやめてって言ってるじゃないですか」
「あー、ごめんねーつい癖でさー」
「カフさんが若かった時と違うんですよ。今時そういうのはセクハラって言うんですよ。」
「い、今だって若いよ!ねぇ!良吾くん?これって何ハラだと思う?」
「えー、知らないっすよ。ジェネレーションハラスメント?」
「それだ!ジェネハラだ!ジェネハラ!」
「ていうか、こう言う会話ってもう少しおっさんとやるもんじゃ無いですか?」
「騙されちゃダメですよ良吾さん!この人本当はおっさんなんてもんじゃ無いですよ!」
「カスさんって何歳なんですか?」
「327歳だよ。」
「そんなデーモン閣下みたいな…」
「本当ですよ!この人、アクマですから」
「え!そうなんですか?」
「そうだよ。」
金髪、緑目、で小麦色の肌って何人だよ、と思っていたらヒトですら無かった。
「悪魔…絵本の?王子様カエルにする?」
「ヒナ、王子様をカエルにするのは魔女だな。悪魔はあれだよ、魂取ろうとするやつ」
「それはfuckin Godどもが流したデマだよ!」
「うぉ、急に口調が荒くなりましたね。」
よく見たらカフさんの牙やら耳が少し尖ってるし角も少し出てる。
「カフさん、カミとかテンシ関係の事になると物凄く短気なんです。」
とエレーナさんが耳打ちした。
「本当にあのクッッッッッソ野郎どもは昔っから××で×××な上に×××××××××××××××××××…」
なぜか急になんて言っているのか分からなくなった。
「カフなんて言ってる?」
「あー、日本語で表現しきれない罵倒語を連発しているから元の言語のまま聞こえるんですね。カミとかテンシを罵倒する言葉を延々と言ってるだけなんで気にしないでください。」
「ところでアクマってどんな魔人ですか?」
「それはですね、自分の姿形を変える固有魔法を使う魔人です。ウツシガミと似てますけど、ウツシガミがゼロから自分の所持している生物の体を作るのに対して、アクマは自分の体をあらゆる物質に変えれるんです。だからスイカに変身している時にスイカ割りされると割れた状態ので元に戻っちゃいます。日本のバケギツネの固有魔法と同じです。」
「エレーナ、どんな魔人?」
とヒナが聞く。
「私は魔人じゃないですよ。」
「なんでマスク?」
「顔を見られたくないからです。」
「なんで?」
「ヒナ、そろそろやめておけ。」
エレーナさんが困っているように感じたので止めておく。
「なんで?」
「秘密にしたい事の理由なんてきっと言いたくないだろうし。」
ヒナは納得していないようだが質問するのをやめた。
「別に構いませんよ。私達はヒナさんの秘密を知ろうとしてあるのに私の秘密だけ教えないのもフェアじゃない気がするので。私が顔を隠しているのは私の顔が醜いからです。顔だけじゃ無くて体もですけど。」
「どんな顔?」
「それは見せられません。」
「エレーナさんはすごく美人さんだよ。」
さっきまでカミに対する悪態をついてたカフさんが戻ってきた。この変わり身の早さ、もしかして二重人格なんじゃ無いだろうか?
「カフさん誰にでもそういうじゃ無いですか!」
「だってみんな綺麗だもん。」
それを聞いてエレーナさんはマスクの上からでも分かるくらい怒っていた。
「ねー、私の魔法は?」
とこの会話に飽きて来たヒナが話題を戻す。
「そうだったね。えーっと、ヒナちゃんはマナを作ってるって事が分かったんだってけ?どうやって作ってるんだろうね?」
「今までマナが作られた例はありませんもんね。」
「ちょっと俺マナについて勉強してきます。」
「マナに関してなら専門分野だから教えてあげるよ。」
「本当ですか?ありがとうございます。」
研究者に良くあることで、自分の分野になるとカフさんはめちゃくちゃ喋った。その内容を大まかに説明すると、
マナは人の脳波に反応して物質、エネルギーに変化する「魔力」というものとそれを包む膜で構成された物質。
マナはあらゆる物質を少しずつ分解してそれを魔力に変える。(正確には物質を魔力が無尽蔵にある世界に送り込み、その対価として魔力を受け取る。)
マナは魔法で作った物質を優先的に分解するので、魔法で作られたものは劣化しやすい。
マナは魔力がある程度溜まると二つに分裂する。
マナは均等に広がる性質がある。
大学生活で溶けた脳には内容が難しすぎて頭が痛くなってしまった。
「ごめん、ごめん。喋りすぎちゃった。」
俺がグロッキーになっているのに気がついて、カフさんがそう言った。
別に急いでいるわけでも無いんだから今日はこれでお開きにする?俺も定時で帰りたいし。」
「んー、そうですね。今日は帰ります。」
「と言うわけで今ヒナの魔法に関して調べてるんですよ。」
次の日、李さんに相談してみた。
「俺は科学者や無いからよく分からへんけど、体動かしてたら何か閃くかもしれへんで。と言うわけで組手しようか。」
「李さんって結構脳筋ですよね?」
そう言いながらこちらも構える。
まず李さんが右のストレート、それを左に交わしつつ後ろ回し蹴りをする。しかし李さんが脇腹に剣山を作ったので物理魔法で自分自身を逆回転させてそれをかわす。李さんがこちらに粉を飛ばしてきたので、急いでプラスチック製のゴーグルを作り、目潰しを防ぐ。
粉の陰に隠れて李さんがしゃがむのが少しだけ見えた。次の動きが予想できないので後ろに飛び退くとクナイの様な飛び道具が飛んできた。
なんとか、かわしたが、少し体勢が崩れた。そこに李さんが物理魔法で加速し、突っ込んでくる。結構マナを消費するが、大きな剣山を出してそれを迎える。
李さんはそれを避けて左側から回ってきた。体勢は直せたが、自分が仕掛けた剣山のせいでギリギリまで李さんの姿が見えなかったため、対応が遅れた。
李さんが剣を出してメタメタに斬りかかってくる。それをなんとか両手を使っていなす。李さんがお大振りで頭を狙ってきたのでそれを白刃どりで止め、投げ捨てようとしたが、李さんがもう一本、刀を出して脇腹に切りかかってきた。
ダメだ。負けた。せめて手がもう一本有ればその手で刀を受け流し、蹴りでも決めて形成逆転出来るのだが…
そんな妄想をする。
「お前もヒナみたいに手とか出せるようになったんか?」
何のことだ?と思い李さんの視線の先を見ると俺の脇腹から腕が生えていた。
「ナンジャコリャ⁉︎」
それも動かそうとしたら普通の腕と同じように動く。
気持ち悪い。何これ。てかヒナの魔法と一緒?どうやってとるの。引っ張ったら痛いし、怖い怖い怖い!誰か助けて〜!誰か〜!って言うか、
「ヒナ!ヒナ!助けて!これどうやって取るの⁉︎これヒナと同じ魔法かな⁉︎」
そうヒナに助けを求めると
「おんなじなら取れろってやる。」
「それで取れるのか?」
取れろ!取れろ!と心の中で念じたが取れなかった。焦っているとヒナが、
「落ち着いて、深呼吸。」
と言ったので深呼吸する。少し落ち着いた。取り敢えず、この手は動かそうとすると普通の腕のように動くので腕を動かすくらいの気持ちで取ろうとすると取れるのでは無いか?
そう思ったのでやってみたら簡単に取れた。そう言えばヒナに魔法の使い方聞いた時グッてやるって言ってたな。この腕も魔法にしては感覚的過ぎる。やはりこの腕はヒナと同じ魔法なのだろうか?
「何で使えるようになったんだろう?」
「良吾、魔女?」
「何の?ウツシガミ?」
「私」
「お前ら性交したんか⁉︎」
「…えぇ、まぁ。」
こう口に出して言わされるとものすごく恥ずかしい。それに少し罪悪感も出てくる。
「えー、ホンマかー。前からそんな気はしてたけどやっぱり良吾はロリコンやったか〜。」
「俺はロリコンじゃ無いですよ!好きになった人の見た目が幼かっただけで!」
「ハハハ、名言!」
「じゃかあしいですよ!」
「まぁそれは置いといて、確認の為に、もう一度、他のやつもだせるかやってみ?」
ちょっとはぐらかされた気もするが、取り敢えず足を出そうとしてみると簡単に出来た。
「出せましたけど、これ結構マナの燃費が悪いですね。あんまり使い勝手が良くなさそう。」
「やっぱりヒナと同じ魔法を使えるようになったって事はヒナは精霊やったんやろうか?」
「どうなんでしょう?もしかしたら知られてないだけで精霊以外でも交わる事で能力を得られる現象が有るかも知れませんよ。それにヒナと違ってマナを作れる様にはなって無いですよ。」
「ならマナを作れんのとヒナの魔法は関係無い可能性もあるな。」
ますます謎は深まるばかりと言った感じだ。
「そう言えばヒナって近所のばあちゃんに魔法を教えてもらったんだよな?」
「うん」
「その人が魔法総会に所属していたら会えるかも、カフさんに聞いてみるか。」
次の日、カフさんに聞いてみると調査班に連絡を取ってくれるとの事だった。
「調査班ってそんな事も調査してくれるんですか?」
「調査してくれるっていうか、調査班は色々な仕事をしてくれてて、人事的な仕事も調査班の管轄だから調査班に聞くのが一番早いんだよ。」
「あー、そういう事ですか。」
後日、調査班の人が結果を届けに来た。
「やっほー、カフくん、前に頼まれた資料持ってきたよ。」
「トルベンさん⁉︎わざわざ届けに来てくれなくても送ってくだされば良かったのに。」
その人を見るなりカフさんがそう言った。
敬語のカフさんを初めて見たので変な感じだ。
「誰ですかこの人?」
「この人は六条調査官のトルベンさん。40歳以下の六条官はローワンさんとトルベンさんしか居ないんだよ。」
ローワンってやっぱり凄かったんだなーと思う。
トルベンさんは黒髪、黒目、そしてメガネの白人で、整った顔立ちをしている。痩身中背、線の細い印象の男だった。真面目そうな見た目だがなんとなく人懐っこそうな印象である。
「君達が良吾くんとヒナくんかい?」
「あっ、はい。」
「どうぞよろしく。」そう言って手を差し出して来た。当然手には手袋がしてある。手を出そうとした時エレーナさんやって来て、
「この人だけには絶対に触れちゃダメですよ。」
と操音魔法で耳打ちした。
何故だろうと思ったが、まあ魔法使いには触れないのが鉄則なのでこちらも手袋をして握手する。
「いや〜、あえて光栄だよ!マナ多量保持者のヒナくんとあの李さんの一番弟子の良吾くんと会えるだなんて、今度一緒にディナーでも行かないかい?」
「あ〜、ぜ…」
「やめておいた方が良いですよ。トルベンさんと食事に行ったら人肉食べさせられますよ。そして肥え太らされて次の料理の食材にされちゃいますよ。」
「ちょっと〜、エレーナさ〜ん。そんな根も葉も無い話するのやめてよね〜。僕が食べるのは死刑囚とかお肉だけだよ。」
「食べるんですか⁉︎」
「食べるよ〜。あ、勘違いしないで欲しいんだけどね。僕はヒトが大好きだからたべるんだよ。僕はヒトに関する事なら何でも知りたい。だから色んな人と交流するし、ヒトに関する論文は必ずチェックする。それで昔ヒトの味が知りたくなったから食べてみたら美味しかったんだよ!これが!」
「…興味ない事も無いですけど、俺は遠慮しときます。」
「良吾くんって結構、変態性が高いよね。」
「えっ⁉︎」
「私もそう思う。」
「ちょっと気持ち悪いところありますよね。」
とカフさん、ヒナ、エレーナさん、の三人から変態認定を受けた。
しょうがないじゃん、好奇心が無いって言ったら嘘になるもん。
「ダメだよ君たち。そうやってヒトの趣味を否定して〜。いいかい?世の中に絶対悪い事なんて無いし絶対に善い事も無い。もしも絶対に善い事があるとすれば、それは多様性だ!生き物だってそうだろう。色んなやつがいればそれだけ生き残る可能性が高くなるだろう?」
確かにその考えは的を射ていると様に思える。
「だから僕みたいカニバリストだって必要なんだ!」
それは違うと思う。
「ところでエレーナさんこの前の返事貰えますか?」
そう言ってトルベンさんはエレーナさんの前に跪いて手を取ろうとしたが、エレーナさんはその手を持っていた本で叩いた。固そうな本だったのでゴッと鈍い音がした。痛そう。
「貴方みたいな変態と付き合うわけないじゃ無いですか‼︎」
いきなり振られるシーンを見せられた。
それにしてもエレーナさん、トルベンさんに好かれてたり、カフさんに美人だと言われてたり、とモテモテである。本人は醜いと言っているが、実際は美人なのでは無いだろうか。
「ふふ、嫌よ嫌よも…」
「やめてください。そのストーカー的発想!」
トルベンさんめちゃくちゃメンタル強いな。
「ねー、おばあちゃんは?」
「そうですよ!資料を置いてさっさと帰ってください。」
「エレーナちゃんがそう言うなら僕は帰るよ。じゃあね〜。それと良吾くん、ヒナくん、今度ディナーに行こうね。」
「人肉以外の食材でお願いします。」
そう言うと、分かった分かった〜。と気の抜けた返事をしながら部屋を出て行った。
「なかなかキャラの濃い人でしたね。」
「あの性格だけだったらまだしもあの人の魔法はエゲツないんですよ。」
「どんな魔法なんですか?」
あれをまだしもと言わしめるなんてどんな魔法なんだろう。そう言えば、さっき、「この人だけには絶対に触れちゃダメですよ。」って言っていたな。
「あの人は精神系の魔法が得意で記憶操作、感情受信魔法はもちろん洗脳なんかも出来るんですよ。しかも洗脳された人は洗脳された事に気付かないですし、周りの人も洗脳されたって気がつけないそうです。魔法総会の中にも何人か洗脳されてる人が居るとか。」
「怖‼︎じゃあエレーナさんとかカフさんも洗脳されている可能性があるって事ですね?」
「私は自分の部屋以外で肌を見せることが無いので洗脳されてはいないと思います。もし洗脳されていたらそれは本当にストーカーですよ!」
「俺もトルベンさんと肌が触れたことが無いから洗脳されてないと思う……あー、でも触れた記憶を消されてる可能性があるか。」
「本当にあの人、精神魔法と経営の才能だ・け・は天才的ですからね。ほぼ固有魔法のレベルですよ。これで性格がアレだから本当にタチが悪いです。」
「褒めたり貶したりしますね。」
「ねー、おばあちゃんは〜!」
「あ、そうだったな。悪い悪い。」
トルベンさんが置いていった資料を見る。いくつかあったヒナのおばあちゃん候補の写真の中の一つを指差して「これおばあちゃん!」とヒナが言った。
その人の名前は「佳子(Kako )」と表記されていたが、多分カコじゃなくてヨシコだと思う。
色々と書いてあったが、重要なのは以下の二つだろう。
ウツシガミの魔女
8年前に姿を消す
「ウツシガミの魔女がヒナに魔法教えたのか。ていうかどうやって教えたんだ?そもそも教えれるのか?魔女が魔人の固有魔法を他の人に教えた、前例はあるんですか?」
「いや、無いね。って言うか八年前ってヒナちゃんがヒナちゃんのお父さんを殺したのと同じ時期だよね。」
「…そうですね。ヒナ、おばあちゃんはヒナに魔法を教えた後に居なくなったんだよな?どうやって教えたんだ?」
「教えるって言って、ローワンが魔人出すみたいにタコ出して、タコがおばあちゃんに触って…その後、分かんない。」
「タコみたいな魔人って言うと…憑かせ屋かな?」
「憑かせ屋って言うと触れずの姫君の母親が使ったやつですか?」
「うん、でもそのカコちゃんって子は何を願ったんだろうね?」
この老人のことをちゃん付けで呼ぶって、カフさんは本当に女性なら誰でも綺麗に見えるのだろうか?
「多分カコさんじゃ無くてヨシコさんだと思います。」
「エッ!マジで?でも日本人がそう言うんだからそうなのかな?」
「まあそれは置いといて、佳子さんはヒナが魔法を使える様にしたいって憑かせ屋に願ったのでしょうか?」
「憑かせ屋の固有魔法は正確に言うと、誰かを半永久的に魔法をかけ続ける存在、死霊にする魔法ですよ。」
「じゃあ考えられるのは佳子ちゃんはヒナちゃんが魔法を使いたいって思った魔法を代わりにかける死霊になった、とかかな?」
もしそうだとしたら自分の命を犠牲にヒナが一人で生きていける様にしたのか。なかなか泣ける話である。当のヒナは
「…怖。」
と呟いていたが…
「でもなんで俺も魔法が使える様になったんですかね?」
「それにこの説だと何でヒナさんがマナを作れるのかが説明出来ません。」
「…何でだろうね?」
色々な事が分かってきたが、まだ謎は残っている。




