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「作成者」という肩書

 渡良瀬と頼住が二人でご飯を食べながらフリーズしている頃。ペタリ、ペタリ、と軽い足音が会社の廊下に響く。

寝起きのボサボサの髪、まだ半開きの目を擦り、片手に持ったテディベアを引きずって、何やら誘われるように小さく揺れながらどこかへ向かう。


 向かった先は――


「あら? 開出(かいで)さん、おはようございます。……おそようございます?」

「おはよー。ふぁ~、よく寝たにゃ~! 一週間ぶりの睡眠はとてもとても甘美なモノだったにゃー」


 まさしく2人がご飯を食べてる食堂に匂いで釣られ現れた彼女は、


 「作成者」――開出(かいで) (あきら)。本人にもよく分からないが、何故だか自分の望んだ発明品を作り出せるという能力を持ち、この会社で使う異世界関連の道具を全て一人で作った人物である。

よく分からないけど作れる、という能力の性質上、同じ物を作る事が出来ないのだが、それを予め念頭に置いて発明をしているため、かなり柔軟な開発品を作り出している。


 異世界にて誰も、もちろん自分すらも原理が分からない発明品は、彼女が望んだ以上の結果をもたらした。

治水、学業、農業、計算、あらゆるジャンルにおいて水準を底上げした彼女の発明品は、国宝に指定され、厳重な警備の元で今も稼働を続けている。


 そんな彼女の便利過ぎる何でもありの能力ではあるが、使うたびに睡眠障害が発生する。という副作用があり――。

発明品の規模や効果により違いはあるが、数日間は眠れない。という割とキツイ副作用で、そのせいで1週間眠る事が出来ないなどざらにある。


 そのせいか、可愛い系の彼女の顔には似合わない深いクマがいつまでも消えないのが彼女の悩み。

ストレスで周りに当たり散らさないよう、部屋に引きこもる事が多い彼女は、たまに死亡説が社内に広がる。


 いわゆるレアキャラ扱いすらされつつある彼女が自分から食堂に現れたのは本当に珍しい事で。

食堂に居た3人は目を丸くして驚くほどだ。


「杏仁豆腐はまだ出来てないんですよー」

「あー、とりあえず汁物欲しいにゃー。……味噌汁? それ」

「飲みますか? かなり美味しいですよ」

「調が作る料理が不味いはずないでしょ。見た目があれな事はあるかもだけど」


 味噌汁をよそって貰い、立ったまま飲み始める発を


「座って飲んでくださいねー」


 と冷ややかな目で見ながら低い声で注意する調は、手に持つおたまが凶器に思えるほどのオーラを放っていた。


「ご、ごめん」


 あまりの威圧感に思わず素になって大人しく座り、椀を傾け一気に味噌汁を飲み干した彼女は、


「杏仁豆腐はどれくらいで出来るかにゃー?」


 と顔をテーブルに突っ伏させ、ダルそうに呟いた。


「あとは固めるだけなのでそこまでかからないと思いますよー」

「そういえば発さん。社長が何やら作って欲しいと言ってましたよ?」

「まーた無茶なもん作らせる気だろうにゃー。……あいつのせいで今回1週間不眠になったのに」


 見つからないようにしなきゃ、と笑顔で言い放ち、伸びをして大あくびをする発。


「睡眠はもう充分なのですか? 相変わらずクマは消えて居ませんが」

「クマ消えるまで寝ると、季節変わっちゃうにゃー。んー、睡眠欲より食欲が勝った感じかにゃー。気が付いたら目が覚めてここに向かってたにゃ」


 素直に発の身を案じてそう聞いた渡良瀬に、気怠そうに答える発。

季節が変わるほど寝るとは、一体何日寝る気なのか。思わず苦笑する3人をよそに、テーブルに突っ伏した状態のまま目を閉じ、寝ようとする発に、


「杏仁豆腐出来ましたよー」


と調から声がかかり。


「直ぐ食べるにゃ!」

「自分にもください」

「私も欲しー」


 発以外の2人、たった今大盛のレバニラと大盛のご飯を完食したばかりの渡良瀬と頼住も加わり、早く早くと調を急かす。


「はいはい、一杯作りましたからねー。好きなだけ食べてくださいー」


 そう言って調は冷蔵庫から、巨大なタッパーを16個ほど取り出してテーブルに並べる。

その全てが杏仁豆腐で……下手すると50人分以上にもなりそうな量であった。


「量が量なので味に飽きた時用にフルーツソースもありますよー」


 と調が言う間にそれぞれタッパー1つ分を食べ終えて、


「とろける……、うまい……」

「デザートは別腹って言うけど、調っちのだけは本当に別腹よね」

「ガツガツバクバクモグモグガフガフ」


 天を仰いで美味しさに体を震わせる渡良瀬と、苦笑いしながらも止まらない手に逆らえない頼住と、ただひたすらに無言でかき込み続ける発は次のタッパーへと手を伸ばす。


 そんな3人を見ながら、あらあらうふふ、と微笑んだ調は、体調を崩した(みてぐら)の為に、お粥を作り始めるのだった。

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