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「配膳者」という肩書

 会社の食堂にてご機嫌に鼻歌を歌いながらせっせと料理を作っている女性が一人。

スーツ姿のまま上から割烹着を着こみ、華麗な手捌きで次々に料理を進めていく。


 時刻は10時を少し回った所、朝食と昼食の間、ブランチと呼ばれる物に当たるだろうか。

大皿一杯に盛り上がるレバニラ炒めと、何やら見た事の無い鮮やかな色のキノコの入った味噌汁。

そして山盛りのご飯を盛られた茶碗、と見た目だけで腹が膨れそうな景色であった。


 呼び出されて渋々席に座っている渡良瀬は、目の前に置かれている山盛りレバニラから香る美味しそうな匂いに誘惑され、口の中を涎で一杯にしていた。


(悔しいですけど、炊江(かしきえ)さんの作る料理はどれも素晴らしい味なんですよね……)


 嫌々ながら呼び出されたとはいえ、目の前に置かれればそれはそれは食欲をそそられるわけで、

他にも呼んだ人が来ていないから。などとお預けを言い渡された渡良瀬は、いつまで待てばいいのかと鳴り続ける腹の音を響かせる。


「それにしても遅いですねー? (みてぐら)さんは。……様子を見に行って貰えませんかー?」


 絶えず手を動かしながら、そう渡良瀬に言葉を投げかけるのは、

「配膳者」――炊江(かしきえ) 調(しらべ)。どんな物も、食べる事が可能な物ならば手にしただけで成分や栄養、効果の把握。それに加えて最適な調理方法などを瞬時に知る事が出来るという能力を持つ。


 疫病の流行った異世界に飛ばされた彼女は、その疫病に効く薬草を、高価になる「薬」としてではなく、料理として、調理法を確立。

薬よりも効果を高めた料理とし、さらに薬を作る量と同じ量で、薬とした場合の人数の数10倍の人数に行き渡らせる事を可能とした。

 ただの料理人だった彼女は、比喩でも何でもなく文字通り世界を救ったこの功績を称えられ、英雄と呼ばれていたという。


 炊江(かしきえ)に言われ、(みてぐら)の様子を見に行こうと席を立とうとした渡良瀬だったが、


「調っちー、(みてぐら)は能力使ってくれたから副作用でダウンしてるよ。――あ、凄いいい匂い。私も食べるー」


 ドアを蹴破る勢いで食堂に入ってくるなり、(まく)し立てる様に言う頼住によって、渡良瀬の行おうとしていた行動は全てキャンセルされた。


「あらあら、それなら彼用にお粥でも作ろうかしらね」


 頼住にも山盛りのご飯をよそいつつ、ほんわかと言う炊江は、


「そう言えば(あきら)ちゃんからも頼まれてたものがあったのだったわ。……あ、食べ始めていいわよー、渡良瀬君」


 ようやくお預けを解除し、頼住の元へご飯を届け、また何やらを作り始める。


「いただきます。――(あきら)さんがリクエストを送るとは珍しいですね。何を頼まれたので?」


 ガツガツとご飯をかき込み、全く臭みの無いレバニラを満足そうに味わって、渡良瀬はふと尋ねる。


「腹いっぱい杏仁豆腐が食べたいって言われたのよー。だからこれでもか! ってくらいに作ろうと思ってね」


 心底楽しそうに、大鍋にて牛乳を加熱している炊江は本当に上機嫌で、やっぱり鼻歌を歌い始める。


「調っち、この鮮やかな色のキノコは食べて平気なの? かなーり抵抗ある色をしてるんだけど」

「自分も怖くて未だに手を付けて無いんですよね。……念の為の確認ですが、毒ではありませんよね?」


 こちらも食べ始めた頼住が、みそ汁の椀を持ち上げ不安そうに尋ね、それに乗っかる形で渡良瀬も質問する。それに対しての炊江の回答は


「毒キノコよ? 食べても平気なようにしてあるのよー」


と、一瞬で警戒するようなものだった。


「ど、毒なのこれ!?」

「だーかーらー、食べても平気なのよー。0度以下で1日以上冷やすと毒成分が働かなくなると()()()()()()のよー?」

「かと言って、……その。やはり毒キノコは……抵抗が……」

「ていうかナチュラルに異世界の食材を使うの辞めてよ。怖いし、何より美味しくてまた食べたくなった時に気軽に手に入らない物だったら私嫌よ」


 現実世界でもまず毒キノコか? と警戒するような見た目のキノコは案の定毒だったわけであるが。

それを毒が働かなくしたと言い切る炊江。

渡良瀬と頼住の2人は、およそ彼女以外が口にしても絶対に信用はしなかっただろうが、何より彼女が()()()()()()と言うのだ。

彼女の能力にも、そして彼女自身にももちろん信頼を置いている二人は、同じタイミングで意を決して恐る恐るキノコを口に運ぶ。


「――あ、うまい」

「ええ、美味しいですね。味噌汁によく合います」

「でしょう? 何事も食べず嫌いはダメよー?」

「食べず嫌いっていうか、人として躊躇うでしょ。毒キノコなんて言われたら」

「じつは脅かす為で、お腹を壊す程度の毒キノコだったりしたのではないです?」


 一度食べてみればそこからは止まらず、元々美味しい彼女の料理に、味わった事の無い美味なるキノコのコンボを堪能しつつ軽口を言い合う3人。


 しかし、


「いいえー? 毒の効果は食べたら即死のはずよー?」


 とのありがたくない炊江の毒の効能説明を聞いて、2人は文字通り戦慄及び動きを凍結(フリーズ)させる。


 ゆっくりと首を回してお互いに目を合わせて、


(大丈夫だよね?)(大丈夫ですよね?)


 とお互いの安否をアイコンタクトにて行うのだった。

毒キノコの毒抜き処置については全くのでたらめなので、絶対に現実で行わないでください。

念の為ですが全部フィクションです。


一応念の為、書いておきます。

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