最終回 ベラまた帰る
新連載だけど今日で最終回です。ご愛読ありがとうございました。
「ふぅ……」
ベラはオルデン大陸のレスレクシオン共和国にある三角湖に来ていた。ジライア村という蛙の亜人が多く住む村だ。
あの後ベラはソフィアの住む村に戻り、お礼に新しくマントと靴を用意してもらったのである。
テンガロンハットにポンチョだが、昔海賊からもらったものを、修繕して保存したというのだ。
アルチョムはベラに怯えていたが、村の問題を解決した英雄として、受け入れた。他の村人も大喜びであり、寝たきりの村長も見送りをしてくれた。
そして徒歩でここまでやってきたのだ。ひさしぶりにアイアンメイデンの住む村、ライゴ村に向かおうと思った。
途中でアメリカナマズを釣り上げた蛙の亜人から、それを買い取り、血を吸い取る。
蛙は驚いたが、彼女がベラだと知り、納得した。
腹ごなしを終えて、てくてく歩いていると、前方に顔見知りが歩いていることに気づく。
「おや、あんたはカルメン……、か?」
ベラが道行くアイアンメイデンを見つけて、声をかけた。アイアンメイデンとは全身が黒い鉄の皮膚に覆われている種族である。髪の毛は石綿で、目は水晶だ。関節部分はまるで稼動する人形のようである。
振り向くと顔の造詣は少し違う気がした。
ちなみにここでは体育会系の喋りは抑えている。
「いいえ、私はカルメンではありません。ですが姉をご存じなのですか?」
「姉? じゃああんたは妹のイエロなのか? 私はベラと言う」
ベラは驚いた。確かアイアンメイデンはあまり自分の村から出ないと聞いた。興味のあることは割と覚えているのだ。
イエロはベラと面識はある。しかし彼女はまったく容姿が変わっていない。イエロは幼少時は普通の人間だったが、不愛想だった。
アイアンメイデンは初潮を迎えると、皮膚が鉄のように硬くなるのである。
「ベラ様でしたか、おひさしぶりです。姉は十年前に亡くなりました。ビッグヘッドに喰われたのです」
イエロは無表情で答えた。感情が皆無ではなく、表に出さないだけである。
何しろ彼女の肌は鉄でできているため、本物の鉄面皮なのだ。
声色が少し重いのはそのためである。
「そうか。カルメンは死ねたのだな。羨ましいことだ」
「なんですって?」
イエロは非難をあらわにした。ベラは数百年も生きているので、死に恐怖はない。むしろ解放だと思っている。百年前にフエゴ教団にその身を晒し、火あぶりや凍り責め、口から硫酸を飲まされても死ねなかったのだ。
もちろんキノコ戦争の炎でも身体は炭になったが、すぐに再生してしまったのである。
昔の吸血鬼は弱点が多かった。太陽の光に、ニンニク、十字架といろいろあったという。
ところが20世紀になると吸血鬼は無敵の存在になった。万能無敵で、美男美女が多いが、美女はエロ同人誌のような目に遭うという。エロ同人誌が何かは不明だが。
「……確かあなたは吸血鬼女王でしたね。人が死ぬことを妬む方とか」
イエロは水晶のような目で、ベラを見下した。死を肯定する考えはあまり受け入れられない。森や山に住む遊牧民の獣人族くらいのものである。
だがすぐ思い出したように声をかけた。
「ベラ様、この後どちらに向かわれますか?」
「コミエンソにでも行こうかと思っているけど?」
「それならば姪のホビアルに伝言をお願いできませんか? 人間で、電化製品の部品製造を担当するセバスチャン司祭の家に厄介になっております。その子にこう伝えてください。私はあなたを愛していると、ですが私はお天道様に背を向けて生きることになるので離れて暮らさなくてはなりません。すごく大好きだから、自分の罪のせいで巻き込まれるのがつらいのです。だから別れました。でもホビアルのことは絶対忘れない。いつも心の中で想っていると……」
「わかった、そう伝えよう。だがなんであんたは自分で伝えないのかね?」
それは愚問であった。彼女は日陰者として生きていくことを決意しているのだろう。
ベラは無言のまま別れた。イエロがなぜここにいるかは知らない。いちいち相手に理由を聞くなど野暮である。
「そうだ。もし不死王国に行くことがあれば、エカテリンブルグにいるバーバ・ヤーガに会いに行くといい。そいつは両親を探している。案外君がそいつの母親になれるかもな」
ベラはそう伝えると、今度こそその場を立ち去った。
数分後、イエロは黒蛇河の銃流に向かおうとしたが、はっと思い出したことがあった。
「そうだわ。ベラ様に肝心の事を伝えられなかったわ」
それはイエロが歌う子守歌だ。姉のカルメンが作ったものである。
ホビアルが生まれたとき、彼女は娘のために新たな曲を作ろうとした。
しかし、それは叶えられなかった。村をスマイリーというビッグヘッドが襲撃し、夫のジャヴェールも一緒に喰われてしまったのだ。
あの日の義兄の顔は忘れられない。「なんでこいつらが来るんだ!!」と驚愕していたからだ。
イエロ自身も表情は変わらないが、死の恐怖に身体が震えたものである。
さてイエロの子守歌だが、本来子守歌はその人のために作られるものである。
カルメンは母親から教わり、イエロも子供ができれば作ることになっていた。
ホビアルはこの事を知らない。本当ならイエロが教えるべきだったが、生活に余裕がなく、忘れていたのだ。
「ホビアルは純粋だから、勘違いするかもしれないわ。自分は母親に愛されていないと」
しかしイエロは追いかけることはできない。自分はこれから村の仇を取りに行かねばならないのだ。
あの日に見た魔女のビッグヘッドを殺さねば気が済まないのである。
ベラは歩きながらクラシックギターを鳴らす。周りの旅人たちはそんな彼女に振り向くのだ。
渡り鳥のベラはブラッドメイデンから登場しています。
モデルはカプコンの魔界村とガンスモークからでした。なんでこのゲームから思いつくのか、不思議に思う人もいるでしょう。
私がモデルと言い張っても、他の人にはどこを参考にしているのか、理解できないのが難点です。
ブラッドメイデンのときからアイディアはありました。しかしボスキャラが決まらず、ずっと頭の片隅に追いやっていたのです。
ネクロヘッドをボスにしても、どうにも決まらない。私の悪い癖で変に凝って難解な話になりかねなかった。
偶然ネイブルパイレーツで新たな船員を出したが、そのひとりバーバ・ヤーガがボスにふさわしいと思ったのです。
作中では名を明かしていませんが、バーバ・ヤーガのモデルは実在した人です。
最初は短編のつもりで書いてましたが、一万文字も読むのはつらいので、4編に分けました。