勝利と再会?
結構簡単に飛べるもんなのね。
もっと難しいんじゃないかと思ってたよ。
実際は翼はあまり動かさず、翼に魔力を通すことによって飛んでいるようだ。
感覚としては足が2本増えたみたい。
さて、今まで流していたが限界だ。
なんで翼はえたん?
俺の背中には、さっきのハーピークイーンによく似た黒緑の翼があった。
なあ…種族名はてなマークついてるし、やばいんじゃないか?
そのうち鳥人間とかになったらやだぞ?
あっ、そんなこと考えてる間についたわ。
ちなみにシーサーペントの現在のステータスはこれである。
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シーサーペント
LV83
体力:4800/8600
魔力:3600/10030
物攻:8700
魔攻:12400
敏捷:8400
物防:9500
魔防:11000
固有スキル
【鉄砲水LV─】
スキル
〈水魔法LV7〉〈氷魔法LV6〉〈水棲LV6〉〈身体強化LV6〉〈魔力操作LV6〉〈魔力感知LV6〉
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いい感じに消耗してるな。
数値的に残ってる体力と魔力は俺が上だ。
はたから見たら俺は圧倒的に優位に立っているように見えるだろう。
しかし、俺はまだこのステータスになれていない。
加えてスキルもぶっつけ本番だ。
なんか、俺こーゆーの多い気がするなー。
そのうちうっかり死んじゃいそうでやだね。
それにステータス的にはあいつは速さ、俺は威力が足りない。
さっきのハーピークイーンとの戦いもここらへんが長引いていた原因だろう。
そう考えると、実力が拮抗しているように思えるがそれは間違いだ。
俺はどうにかして威力を上げなければ勝てないが、あいつは攻撃が当たりさえすれば勝ちになる。
なので、正直なめてたら死ぬ。
俺は俺で奥の手として魂魄強奪があるが、そろそろ実戦的なものも経験しておきたい。
魂魄強奪が使えなければ何も出来ませんじゃやっぱ話にならないからな。
しかしどうしたものかと考えていると、大きな水球が飛んできた。
それも、何個も…
どうやらもうゆっくり考えてる時間はなさそうだ。
俺は飛んできた水球を避け、霊体化を使う。
自分の魔防より強くなければ霊体は魔力的な干渉も受けない。
鉄砲水は無理そうだが、氷魔法ならこれで防げる。
そうして飛んでくる水球のみを避けながら、こちらも攻勢に出る。
ハーピークイーンとの戦闘から考えるに生半可な攻撃はまず効かない。
だが、ハーピークイーンが持っていた固有スキルの空気圧縮は有効のようだ。
あいつの体力がそれを物語っているし、何よりさっきの俺の攻撃は効いていた。
なので、俺は水球を避けながら風魔法で空気を集め、それを空気圧縮で圧縮する。
そうして高密度な空気の玉を立て続けに6つ作り、出来るだけ小さくしシーサーペントの周囲に円を描くように配置する。
配置した玉にさらに風魔法で空気を送り、また空気圧縮で圧縮していく。
俺はその作業をしながら一気に後退し距離をとる。
シーサーペントに見えやすいよう位置取りをしたら準備完了だ。
「シュァァァ━━━━!!!」
シーサーペントがガラスを擦り合わせたような嫌な声を上げながら、周囲に水球が展開し一斉に撃ち込んでくる。
だが先程より数が少なく距離もあるため十分に余裕を持って避けられる。
これじゃただの魔力の無駄遣いだ。
(所詮獣か…)
しかし、俺は認識を改めさせられることになる。
避ける直前、どういう原理か水球が破裂したのだ。
破裂した水球は霧状になり、俺の視界を覆う。
─囮!?
─不意─死角──大技!!
俺は全力で横に飛ぶ。
しかし危機察知はガンガン警報を鳴らしはじめる。
仕方なく一旦、空気の玉に風を送るのをやめ、背中に風魔法でブーストをかける。
ギリギリ回避が間に合ったようだ。
俺の真後ろをバカでかい水球が半端ない速さで通りすぎた。
今のはかなり危なかった。
俺ってば油断してばっか、これじゃまるで馬鹿みたいじゃないか。
このままやられっぱなしでは悔しいので、少し早いが勝負を決めにかかる。
高密度な空気の玉に周りの空気を一気に送り思いっきり圧縮、そうすることでシーサーペントの周囲だけ瞬間的に真空にする。
残りの魔力の大半を使い作った、雷魔法で作った5つの雷球をそれにあわせて撃ち込む。
最後に圧縮した空気の玉をシーサーペントにぶつける。
「───死ね」
結果、極限まで圧縮されていた空気がシーサーペントに触れた瞬間、爆発的に膨張。
大気が歪み。雷鳴が響き渡る。
大分離れたのに衝撃がビリビリ伝わってくる。
ものすごい風圧で体を圧迫され、反射的に顔を右腕で庇う。
風が止むとシーサーペントは木っ端微塵で、もはや原型がまるで分からない。
もう少し威力を上げようとか考えてたが…
「少しオーバーキル気味だったか?」
少しどころか大分だろう。
シーサーペントがいた湖は、今やボロボロであたりは焼け野原だ。
当のシーサーペントは強烈な破壊痕のみを残し消え去った。
これこそまさに大災害である。
シーサーペントの鉄砲水より威力が高く、規模が大きい。
危ないのでいい子は真似しないでね。
実際、もう少し近かったら俺も巻き込まれるところだった。
今の俺のステータスはハーピークイーンとほぼ変わらない。
使ったスキルもハーピークイーン譲りなので、理論上ハーピークイーンにも似たようなことができる。
空を飛び、魔法を使い、ステータスも極めてたかく、一撃の破壊力も群を抜くとなれば全くどうしようもない化け物だ。
まぁ、体力はともかく魔力はかつかつなんだがな。
工夫とは偉大だ。
人の力?に感心していると体が軽くなった。
どうやらシーサーペントの魂も無事に強奪出来たようだ。
マジでそろそろ魔力が限界なので、地面に降りる。
翼を閉じようとしたら…
……翼は…なんかズブズブ体に埋まっていった。
全部体に入ると全て元通り、いつもの俺の背中が見える。
服まで無傷、いやそもそも傷がつかなかったのか。
なるほど。
・
・
・
怖!!
気持ち悪!!
まるで、入ってくる感覚がないとこが余計怖いわ!!
あぁ、どんどん人から遠ざかっている気がする。
物凄いスピードでどこかに落ちているようだ。
最強を目指してはいるが、最強になったとき俺は果たして人でいられるのだろうか?
…もうすでに手遅れとか思った奴はぶっころ。
そんな事よりステータスだ。
困ったときはステータスを見るに限る。
しかし「ステータスオープン」と唱えようとした時──
──突然体に力が入らなくなった。
(な、なにが!?)
お陰で無様に顔から地面にダイブしてしまった。
……おい、口に砂利が入ってジャリジャリするだろうが。
なんて、呑気なことを考えられたのもここまでだった。
ドクン!と強く心臓が拍動すると共に、どんどん体が熱くなってきたからだ。
体を内側から焼かれていると、錯覚してしまう程に。
ドクン!ドクン!と、更に心臓が跳ねる。
しかし、突然の異変はこの程度ではなく、筋肉や健が千切れはじめた。
物凄い力で四方から全身を引っ張られているようで、ブチブチと体に音が反響する。
「ぐっ、あぁぁぁ!!!」
それでも体は熱くなり、高熱の時のように思考がぼやける。
万力のような力で体を圧迫されているみたいで、蛇に締め付けられているように呼吸が浅くなる。
「かはぁ!はぁ!はぁ!はぁ!」
あたかも、頭部を棒か何かで殴られているように、ガンガンと衝撃が脳を揺らす。
──死ぬ。
……死ぬ?
俺は……死ぬのか?
こんなところで?
ふと浮かんだ言葉を、俺は強く否定する。
だめだ…それは許されない。
それだけは許されない!
死んでしまったら、今度こそ、大切なものを失ってしまう。
それはだめなんだ。
必死に痛みに耐えるが。
体を締め付ける力に情などなく、骨も折れはじめた。
「ぐぶっ!…がぼ…ごぼ…ごほ…」
肋骨が肺に刺さったのか、口から血が溢れる。
(肉の次は骨かよ…くそ…息が…出来ない…)
「…あ…あぁ…ぐ…が…ああ!!」
体を圧迫する力も、熱にあわせて強くなっているようで、血だけじゃなく臓器まで口から出て来そうだ。
「…ぐっ!…は…ぁ…は…ぁ…」
このまま死ねないと、ズリズリ這って進む。
何処に行けばいいのかも分からないのに、必死に進むその姿は、さぞ無様だったろう。
でも、諦められないものがあるんだ。
捨てられないものがあるんだよ。
やり残したことが……まだまだあるんだ。
ドクン!!と心臓が力強く拍動する。
しかし、心臓はそれっきり沈黙してしまった。
「かは!あっ、かっ、」
体もそれにあわせるように、ミシミシと悲鳴をあげる。
あぁくそ、手も、足も、動かなくなっちまった。
さっきまであんなに熱かったのにすごく寒い。
俺は歯を食い縛り自分を奮い立たせ、首のみで前へ進む。
(死ねない…死んでたまるか…)
咲…
自分の、たった一人の家族。
俺はお前に縋っている。
父さんを…ろくに何も返せず死なせてしまった。
─だからお前に幸せになって欲しい。
母さんを…子供だからと自分に言い聞かせて見殺しにした。
─だからお前だけは守りたい。
俺がお前に与える優しさも愛情も……ただ、許されたと思いたいだけだと認めよう。
「それ…でも…」
不意に、涙がこぼれた。
「愛し…て…いると…言わせて…くれ…」
たった一人の家族に縋り付き、親にしてやれなかった事をすることで償いを求め、なんと度しがたい。
愛と呼ぶには、この想いは程遠い。
なのに、自らの思いとは裏腹に口は動く。
「お前を…大切…だと…言わせ…て……くれ…」
違うと、どれだけ心で叫んでも、涙は止まらない。
悲しくも辛くもないと、いくらわめいても、心は悲痛な叫びをあげる。
あまりにも救い難い、この想い──
「この…想…い…は…嘘…じゃ…無い…って………」
言い切る前に、意識が闇に溶けた。
▽▽▽
「……………う………」
ふと、意識がもどる。
いったい、あれからどのくらい時間がたったのか。
今は昼くらいだろうか?
日差しがまぶしい。
だが、生きてる。
俺は生きている。
なんていい気分なんだ!
生きてることをこれ程喜んだことが、かつてあっただろうか?
いや、ない!!
そんな事を考えながら体を起こして、俺は固まった。
と言うのも服が綺麗に直っていたからだ。
破れ、血で汚れていたにも関わらず、ほぼ新品同然だった。
そして、周りを見てまた固まった。
「……ここはどこだ?」
あたり1面、砂漠だったからだ。
当然、混乱する。訳が分からない。
シーサーペントを倒したら原因不明の不調に襲われ、目が覚めたら砂漠。
森にいたのに自然もクソもない砂漠。
砂漠。
砂漠。
砂漠。
ふぅ、まあまて落ち着け俺。
とりあえずステータスを確認しよう。
混乱したらステータスを確認なんて、随分異世界に染まってきたなぁ。
「ステータスオー…」
「ねえ」
「?」
「ねえ、ちょっと」
幻聴じゃなかったようだ。
そう思いながら振り返ると、黒を基本とした金の刺繍のある大きなローブを身に纏った小柄な女の子が立っていた。
俺はその子の姿に強く心を揺さぶられた。
長く青みがかった銀髪に、血のように赤い目。
透き通るように白い肌に、目と同じ色の唇。
そして──咲とそっくりなその顔。
「この私を無視するとはいい度胸ね。それとも見とれているの?」
(──咲?)