油断大敵
俺は周囲の探索を始める前にまだ霊体化を試していないことに気づいた。
さっきみたいなぶっつけ本番はゴメンだからな、早めに試しておこう。
そう思い霊体化を使うと、足から体がスーっと透明になっていった。
地面には立てるのに物には触れないのか、面白いな。
自分でも見えない体を動かしていたら、ふと疑問に思った。
スキルってこんなに簡単に使えるもんなのか?
普通、初めてならもっとたどたどしくないだろうか。
まるで既に知っているみたいだ。
スキルってば、ほんとに凄いな。
そして、霊体化の最後の確認に入る。
それは浮遊能力だ。
霊体って浮いているイメージがあるし、何となく行ける気がする。
しかし……浮き方が分からない。
まあ…仕方ないとは思うよ?
出来るかどうかも分からないし、こんな状態、人生で初めての経験なんだ。
俺はそんな状態で1発成功出来る奴じゃない。
知ってたよ?別に悔しくなんか無いよ?ほんとだよ?
「………はぁー。」
あぁ、さっきまであったスキルへの自信が霊体化をオフにすると同時に壊れていくのを感じる。
▽▽▽
カツン─カツン─
洞窟をに自分の足音が響き渡る。
さまよいながら思ったが、俺はこの洞窟を少し甘く見ていた。
周囲の探索をして分かったが、この洞窟には何もない。
動物は勿論、植物も水も無い。
いるのはキラーアントみたいなバイオレンスな昆虫たちだけ。
しかも、キラーアントよりずっと弱い。
一応、魂魄強奪の効果範囲の中にいる奴らはおいしく頂いているが、進んで狩りに行くほど魅力も感じない。
もしも、ここに出口がなければ餓死する前に脱水症状で死ぬ。
もしかしたらその前に凍死するかもしれない。
ここ…寒いし。
この探索の時間で身に染みたが、これは冗談抜きでサバイバルだ。
衣食住、全て自分で用意しなければならない。
……どうする?
こんな洞窟で、都合よく飲める水があるとは思えない。
もしあったとしても、洞窟の水は不純物が多くて飲めなかったはずだ。
ろ過する物なんて持ってない以上、ここの水は無いに等しい。
出口がなければ詰んだ。
出口がなければな。
仮説だがおそらくここは洞窟じゃない。
そう言うには、あまりにも綺麗すぎる。
この洞窟の道は大きさがほぼ全て一定に保たれている。
明らかに、何かが作った道だ。
ここでは、不思議なほどキラーアント等の昆虫系以外見ない。
キラーアントだけは気持ち悪いほどいるにも関わらずな。
なら、キラーアントの巣と考えるのが妥当だ。
そう考えれば辻褄が合し、例えキラーアントの巣じゃ無かったとしても、ここは自然発生した洞窟じゃない可能性は高い。
そこまで分かれば出口を探すだけ。
そしてそれは比較的に簡単だ。
ここがキラーアントの巣だった場合、巣の外に食料などを調達しに行く奴が必ずいるはずだ。
ここ…なにもないしな。
後は、そいつを見つけて着いていくだけだ。
▽▽▽
という訳で来てみました。
ギチギチギチギイギイギチギチギグチュグチュチギチギチガサガサギチギチギチギチギイギイギチギチギチギチギチギチグチュグチュギチギチギチギチギチガサガサギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチ
右を見てキラーアント、左を見てもキラーアント。
現在、俺は周囲をキラーアントに囲まれていた。
おげぇ、気持ち悪!!
大量のキラーアントはまるで、台所のGだった。
もう蟻じゃないよこれ。
何か食ってる奴らいるし、臭いし、黒いし、テカテカしてるし。
しかし、寂しいことにみんな俺を無視する。
まあ、霊体化してるから見えてないだけなんだけどね。
半透明だったし、見えるかな?って心配だったが大丈夫だったようだ。
さすがにこの至近距離じゃ死ぬからな。
なので、ちょっと霊体化が切れないか心配だ。
キラーアントには1匹1匹に蟻みたいな役割があり、何かを運ぶ奴とか何かを運ぶ奴とかたくさんいた。
その中で一定数のキラーアントが何も持たず何処かに移動し始めた。
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キラーアント
LV42
体力:5200/5200
魔力:400/400
物攻:4800
魔攻:350
敏捷:6500
物防:5100
魔防:4700
スキル
〈酸攻撃LV5〉〈噛みつくLV5〉〈危機察知LV5〉〈暗視LV3〉
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他と比べて暗視のLVが低く、レベルとステータスが高い。
(ビンゴだ)
▽▽▽
キラーアントについていくと、だんだん当たりが明るくなってきた。
眩しいつーか、暗視のせいでむしろ痛い。
しかしまぁ、久しぶりの光だ。
明るいとは素晴らしいな。
俺は暗視をオフにしながら、出口と思わしきところを出る。
どうやら巣は岩山の中腹くらいに作っていたらしく、そこから下が一望できた。
俺はその景色を見て言葉を失った。
「………」
そこは森だった。
見渡す限り全て、往々と生い茂った木々。
地平線まで緑1色だ。
いっそ美しいとさえ思えるほど、その光景は幻想的だった。
だと言うのに、何故か寂しさを感じてしまう。
「……咲達は……どうしてるんだろうな……」
別れかたがあんなんだったからか余計心配だ。
美しい森を眺めながら、俺は深いため息をついた。
全然、割りきれてないじゃないか。
それから少ししてから俺はトボトボと、岩山を降り始めた。
▽▽▽
岩山を降りる途中、突然危機察知が前に警報をならした。
「ッツ!!」
咄嗟に左に身を投げながら霊体化を使う。
しかし、腹部に強い衝撃を受けた。
「おごっ」
一瞬、固い何かが腹を貫通したかと思った。
思わず顔をしかめる、霊体化が間に合わず直撃したようだ。
体がくの字に折れ水平に吹き飛び、硬い岩に凄まじい勢いで背中を叩きつけてしまう。
「かはっ!!!」
(…くそ…息が…出来ない……)
飛んで衝撃は幾分散らせたが、洒落にならない威力だ。
(足に力が入らない…次は避けられない!!)
もう一度霊体化をし、意識が飛びそうになるのを歯を食い縛って耐え、崩れそうになる足に力を入れる。
そうしてやっとこさ顔を上げると、敵は既に目の前だった。
思わず目を見張る。
(───やばっ!!)
敵の攻撃は──俺の体をすり抜け後ろの岩を砕いた。
自分の攻撃がすり抜け、敵はポカーンとしている。
よかった…
今度は霊体化が間に合った。
間髪を入れず魂魄強奪でぶち殺す。
……………3回とキラーアントより少ないのが情けない。
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グレーターモンキー
LV28
体力:3400/3400
魔力:543/543
物攻:2500
魔攻:94
敏捷:2300
物防:4100
魔防:3800
スキル
〈身体強化LV3〉〈気配察知LV3〉〈根性LV3〉
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ステータスもキラーアントより弱い。
俺は浅く息を吐き、その場に座り込む。
しかし膝が笑って、こけた。
霊体化が間に合わなかったら…………死んでた。
(調子に乗ってたな)
この段階でそれが知れてよかったと思うことにする。
「ちくしょう…油断大敵だ」
そう呟き立て続けに奇襲されないよう、魂魄強奪で周囲の魂を全て削ぎ落とした。
その数、約100個。
森にはまだ距離があり、効果範囲の一部しか入ってないのにこれだ。
これは、結構しんどい森かもしれない。
(ステータスオープン)
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天堂 蓮
種族:人間?
年齢:18
職業:─
性別:男
LV1
体力:430/1300
魔力:1250/1250
物攻:1240
魔攻:1220
敏捷:1300
物防:1240
魔防:1220
固有スキル
【魂魄強奪LV1】
〈霊力550〉
〈取得可能スキル28〉
スキル
〈霊体化LV4〉〈暗視LV6〉〈危機察知LV3〉
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うひゃー
あれだけで6割くらい持ってかれた。
危機察知が無くても死んでたな、これは。
改めて背筋が凍る。
何か打開策に使えそうなスキルを取得しよう。
取り敢えず取得するのは〈再生〉〈気配察知〉〈気配遮断〉〈身体強化〉〈根性〉だな。
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スキル
〈再生〉
傷が治る。回復できる傷はスキルLVに依存する。
体力値は1秒にスキルLV×100回復する。
〈気配察知〉
周囲の気配を察知できる。スキルLVと使用者の資質に応じて精度と範囲が変わる。
〈気配遮断〉
自身の気配を遮断できる。スキルLVと使用者の資質に応じて精度と効果時間が変わる。
〈身体強化〉
身体能力を爆発的に上げる。スキルLVと使用者の資質に応じて精度と倍率が変わる。
〈根性〉
体力が少なくなればなるほど他のステータスに補正が入る。スキルLVと使用者の資質に応じて倍率と限界値が変わる。
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《魂から〈再生〉〈気配察知〉〈気配遮断〉〈身体強化〉〈根性〉スキルを復元しますか?》
yesだ。
《スキルを復元しました。その際、霊力を50失いました。》
前回も思ったがスキル1つで霊力10らしい。
他には特に有用そうなスキルはないため、残りの霊力は体力に300、物防と魔防に100づつ振り分ける。
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天堂 蓮
種族:人間?
年齢:18
職業:─
性別:男
LV1
体力:430/4300
魔力:1250/1250
物攻:1240
魔攻:1220
敏捷:1300
物防:2240
魔防:2220
固有スキル
【魂魄強奪LV1】
〈霊力0〉
〈取得可能スキル28〉
スキル
〈霊体化LV4〉〈暗視LV6〉〈危機察知LV3〉
〈再生LV3〉〈気配察知LV3〉〈気配遮断LV3〉〈身体強化LV3〉〈根性LV3〉
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今回は体力が減っている状態で、霊力を振り分けるとどうなるのかと言う実験も兼ねていた。
やはり、回復はしないらしい。
ちょっと残念だ。
再生の効果がもう出てきて傷が治りはじめる。
……それにしてもおかしい。
あまりにも唐突な奇襲だった。
俺は魂魄強奪の魂感知能力を常に使っている。
虫達から助けてもらってから、使ってるとなんか安心するのだ。
つまり、俺に奇襲できたあいつは俺の知覚速度を超えて、現在俺が知覚できる範囲外から攻撃してきた事になる。
まぁ、それはない。
そんな速度で攻撃されれば、いくらなんでも死ぬだろう。
なので、それ以外の方法で接近してきた事になる。
しかし、俺の魂感知はそう簡単に避けられるものじゃない。
仮に出来たとしても、あいつには無理だ。
現にステータスを読み取ることは出来たし、そこから読み取ったステータスからはそれらしいスキルもなかった。
なら、ここの立地に問題があるはずだ。
これをどうにかしないと、今後も突発的に奇襲を受ける可能性がある。
ゆっくりと立ち上がる。
「あっという間に治ったな」
改めてスキルの重要性を再確認する。
その後、体の調子を確かめるように軽くストレッチをし、今回の奇襲の原因を調べはじめた。