異端者
ギルドを出た後、俺達は受付嬢オススメの宿に来ていた。
「ここか」
はねやすめ停はこじんまりとした雰囲気のそこそこ大きな宿だった。
入ると受付嬢がオススメするだけあるのか結構賑わっており、ザ村人Aと言った感じのあか抜けた子が来た。
「二名様ですね、お食事ですか?ご宿泊ですか?」
「宿泊だ」
「承りました。1人1泊銀貨3枚です。お部屋と宿泊期間はどうなさいますか?」
ちらりとルターナを見る。
ルターナはニヤニヤ笑っていた。
俺が部屋をどうするかが楽しみのようだ。
……バカにするなよ?
そんな顔してんなら二人部屋にしてやんよ。
別に恥ずかしくなんて無いしね、夜もちゃんと寝られるよ?や、マジで。
「二人部屋で頼む。ベットはダブルではなく2つ、とりあえずはそれで3日」
……はい、最後にヘタレた蓮です。
ごめんなさいホラ吹きました、ルターナと一緒のベットはちょっと勘弁してください。
「お食事はつけますか?夜と朝について1回銀貨1枚です」
「ああ、たの─」
「─結構よ」
俺の言葉を遮りルターナが言う。
ルターナは俺をチラリと見て、軽く首を振る。
訂正しようとしてそう言えば食べられるものなのか?と言う疑問が湧き、何も言えなくなってしまう。
俺が何も言わないことを店員さんは肯定ととったらしく。
「では合計で銀貨18枚になります」
そう決まってしまった。
今更とやかく言うのもあれなので、もやもやしたまま銀貨18枚を店員さんに渡す。
「はい、確かに受け取りました。部屋は25番で、これが部屋の鍵です」
「わかった」
「部屋はあちらの階段を上がり左の奥にあります。ごゆっくりどうぞ」
そう言って店員さんは他のお客のところへ行ってしまった。
「なあ、なんで食事なしなんだ?」
「それは部屋で話しましょう」
そう言ってルターナは部屋へ向かう。
「飯が食えないとか泣くぞ、腹が─」
──あれ?あんまり減ってない?
空腹を通り越したのか?
ちょっとした違和感を覚えながら俺はルターナの後を追った。
……あいつ鍵持ってないから部屋に入れないし。
▽▽▽
部屋はまさに普通だった。
普通じゃないところは、トイレと風呂がないくらいだ。
奥にはベットが2つ並んでいて、端の方に机と椅子がちょこんと置いてある。
外国のホテルみたいなイメージだ。
ルターナは椅子ではなく、奥のベッドに座り俺の顔を見る。
「あらためて自己紹介ね。私はルターナ、元死神よ」
俺もルターナと同じく手前のベッドに座る。
「俺は天堂 蓮、人間だ」
たとえ種族が死神でもな。
死神をカッコいいと思うかは別として…
「あなたを殺すためにここに来たわ」
「知ってるよ、全くご苦労なことだ」
「今は夫婦なんだけどね?」
ルターナは冗談っぽく言う。
「真面目な話、俺は神とは生きる場所とか時間とか違うと思うが?」
「時間はもうあなたも一緒だし、場所は私が作ってあげるわ。嬉しい?」
ルターナは首をこてんと傾けて聞いてくる。
これ前もやっていたが癖なんだろうか。
癪だがかわいい。
「はいはい、嬉しい嬉しい」
「まったく、素直じゃないわね。話を戻すわ」
少しあきれたように笑って、顔を引き締めた。
「私があなたを殺しに来たのは、あなたが生と死のバランスを崩しかねない異端者で、私はそれを阻止しなければならない立場にあるからよ」
「それは前にも言っていたな」
「そう、あなたは異端者なのよ。何故だか、分かる?今のあなたは、死んでいるはずなのに生きているの。アンデットなんてものじゃないわ。アンデットのように魂の痕跡は全くない。あなたには魂そのものがないの。そんな状態ではこの世界の人はおろか、神さえも生きられないわ。どうして生きていられるのか、この私にも分からない。魂のない肉体で何故か生きている異物。それが天堂 蓮。今のあなたよ」
………そんな事を言われても、いきなりすぎてあんまり実感がわかないな。
「要するに俺は死んでいるのか?」
「それは分からないわ。生きられないはずなのに、見て、考え、動く事が出来る。むしろ私が聞きたいわね、蓮は生きているの?」
「……」
不思議そうに聞いてきたが、俺は答えることが出来なかった。
「私はそもそも人じゃないと思うわ。原因は分からないけれど、あなたは極々自然に存在しているバグのようなもので、誰かの意志の残骸か、何かが勝手にその意志を継いで動いている。ただそこに存在するだけで世界を歪めることの出来る神のような奇跡だけれど、人の力でもごく稀に起こり得るのかもしれないわね。」
ルターナは至極真面目な顔をして続ける。
「そう考えて殺しに行ったの。何かがあってからじゃ遅いからね。で、シーサーペントを殺したあなたを見つけて、存在を消した」
「存在を消した?」
「そう、高位の死神の特権よ。対象の魂を奪ったりするのではなく、世界から切り離して有を無にする。簡単に言えばゴミ箱にポイよ」
「……」
言い方が雑……
「でもね?あなたは世界から切り離されようとした時、ものすごい力で抵抗を始めた」
「まあ、すっごい苦しかったしな。よく頑張ったと自分を褒めてやりたいね」
「バカね、頑張った程度でどうにかなる問題じゃないのよ?」
何かすごい呆れた顔をされてしまった。
「それに抵抗を始めたのは気を失った後よ、あなたは周りにある魂を吸収し始めたの。あわてて止めると今度は私も対象になったわ。まあ神と人じゃ存在の格が違うから、最初は圧勝だと思ったんだけどね。あなたは私の神としての力をどんどん奪っていった。そして最終的には生命と言う生命を吸いつくして、周囲を砂漠に変えてしまった」
起きた時を思い出す。
あの広大な砂漠を俺が作った?
「お陰で私は死神として力の失い、今じゃ実力は亜神もいいとこね。私、結構エリートだったのに…」
ルターナはそうぼやいて、チラチラこっちを見てくる。
「……まあそれはバカの自業自得としてだ、なんでそれが食べ物の話になる?」
「ぶち殺すわよ?」
軽くため息を吐いた後、結構大事なことらしく丁寧に教えてくれた。
「大有りよ、蓮は死神になったと言ってもそれは魂に限った話。肉体としてはゴミもいいところね。確かに魂が死神になったとき多少改善されてはいるけど、まだ人の域よ。肉体が本格的に作り変わるのは魂が肉体に馴染み始めた頃なんだけど、食事はそれを阻害するの。だから止めておきなさい」
それだけ聞くと別に問題ないように聞こえる。
ルターナは俺の顔から、色々察したようだ。
今度は疲れたことを感じさせる、深いため息を吐いた。
「今の蓮は魂と肉体のバランスが不安定なのよ。だからこのままでいると、そう遠くないうちに強すぎる魂を支えきれず肉体が朽ちていくわ。まずは髪が抜け、全身の体毛がなくなった後、皮膚が変色してぐじゅぐじゅに腐っていくの、それがだんだん体の芯までおよんでキツイ腐敗臭を撒き散らすようになる、そして最後には─」
「─やめい!」
説明が無駄にリアル過ぎるわ!!
話題を変えよう。
「と言うか、ルターナは食べなくて大丈夫なのか?」
「私は亜神と言っても神よ?食事はとらな─」
──ぐぅぅぅ──
・
・
・
ルターナの顔が固まる。
誰か…今の不意打ちで笑わなかった俺を褒めてくれ。
危うく吹き出すところだった。
「ご飯、食べに行くか?」
そう言うとルターナの顔はみるみる赤くなった。
あっ、なんかプルプル震えている!
どうしようヤバイ、俺笑っちゃう!
必死に堪えたが、無理そうだったので隠すためにルターナに背を向けこの宿の食堂に行く。
「まっ、待ちなさい!違うの!これは違うの!」
部屋から出たところでルターナがそんな事を言ってきた。
「はいはいそうですねー」
無駄な抵抗をするバカを軽くあしらい、俺は階段を下りた。
「くっ、蓮のくせにぃ」
▽▽▽
「お前……食ったなぁ」
積み上がった皿を見て俺は感心する。
本当によく食べた。
具体的には4回もおかわりしてた。
おかわりをする時のルターナの顔といったら、まさに傑作。
色々ごちそうさまでした。
俺…なにも食べてないけど。
「く、屈辱だわ」
「おいしかったならよかったじゃねえか」
恥ずかしそうにするこいつが子供みたいで、なんだか笑ってしまう。
「うるさいっ!」
まだ顔が真っ赤だ。
ならおかわりしなきゃよかったのに。
「まあどっちでもいいが、俺はもう寝るぞー」
そう言って席を立つ。
「私も寝るわ…」
ルターナも席を立つ。
きっとたくさん食べたことで集まっちゃった注目が恥ずかしいのだろう。
こんなルターナはかなりレアだと思う。
部屋に向かいながら、ふと思い出したことをルターナに聞く。
「そう言えば盗賊の時の特性って結局なんだったんだ?」
「あー、あれね。魂によく触れる死神が、魂に傷をつけちゃダメでしょ?だから死神は魂に触れても大丈夫なようになっているのよ」
「そりゃまたなんで?」
「そうだから、としか言えないわね。まあでも、傷をつけようと思えばつけられるわよ?」
「はーん、なるほどねぇ」
人間でも分からない身体構造とかあるしな。
死神も似たようなもんか。
そんな話をしている間に部屋についた。
扉を開け、そう言えば鍵しなかったなと後悔する。
今度からはちゃんと閉めよう。
「私は奥のベットで寝るわ」
「なあ、ルターナ神なのに寝る必要あるのか?」
「……肉体が受肉しちゃったのよ。お腹が空いちゃったのはそのせいね。だから睡眠も必要なの」
「そら大変だな」
「ほんとよ」
そう言ってルターナはローブを脱ぎ、中に着ていた軍服?っぽい服も脱ぎ──脱ぎ?
バッ!っと顔をそむける。
(あいつなに考えてるんだ!?俺は仮にも男だぞ!?)
その後、よく分からない謎空間に脱いだ物をいれ、そこからパジャマ?みたいなゆったりした白い服を取り出し着て、もそもそベッドに入り、すぐ寝てしまった。
…めちゃくちゃ寝付きがいいな、疲れてたのかね?
俺も寝たいがその前にやることがあった。
(ステータスオープン)
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天堂 蓮
種族:死神
年齢:──
職業:強奪者
性別:男
配偶者:ルターナ
LV1
体力:error
魔力:error
物攻:error
魔攻:error
敏捷:error
物防:error
魔防:error
固有スキル
【魂魄強奪LV9】
〈霊力99999999+〉
〈取得可能スキル999+〉
【空気圧縮LV─】
【鉄砲水LV─】
スキル
〈霊体化LV7〉〈暗視LV7〉〈危機察知LV7〉〈再生LV9〉〈気配察知LV7〉〈気配遮断LV7〉〈身体強化LV7〉〈根性LV7〉〈風魔法LV7〉〈雷魔法LV7〉〈飛行LV8〉〈索敵LV7〉〈魔力操作LV8〉〈魔力感知LV8〉〈水魔法LV7〉〈氷魔法LV7〉〈水棲LV7〉〈空間魔法LV7〉〈火魔法LV7〉〈体術LV7〉〈剣術LV7〉〈槍術LV7〉〈棒術LV7〉〈弓術LV7〉〈空間把握LV7〉〈音魔法LV7〉〈鑑定LV7〉〈隠蔽LV7〉〈隠密LV7〉〈魔力視LV7〉〈手品LV5〉〈絵描きLV5〉〈彫刻LV5〉〈料理LV5〉〈武器錬成LV6〉〈錬金術LV6〉〈付加魔法LV6〉〈無属性魔法LV6〉
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スキル見ずれぇ……
もう少しなんとかなんないのかね。
今からやることを考えると気が遠くなる。
俺が何をしようとしているかだが、ただ取得していないスキルを取得するだけだ。
門で待ってるときは吟味してたが、これ全部取得出来るんじゃね?と思っちゃったのだよ。
霊力限界突破してから全然減らないしな。
そう言えばルターナが飯食ってるとき教えてくれたが、余程高位の死神でない限り触れずに魂をとることは出来ないらしい。なのに、俺が出来るのは別に高位の死神だからではなく固有スキルによるものだと言う。ルターナいわく反則だそうだ。
あらためてこいつには助けられてると思う。
そんな事を思って魂魄強奪を見てたらスキルの効果画面が開いてしまい、それを見て俺は固まってしまった。
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【魂魄強奪LV9】
魂を認識出来るようになり、任意の魂を吸収する。
肉体が持つ魂は数回に別けて吸収する。
数回に別けて吸収した場合、吸収した魂によって得られる霊力に差がある。
霊力は任意のステータス、スキルに割り振れる。吸収した魂を魂が持つスキルに復元することも出来る。
効果範囲はスキルLV×2㎞
〈霊力99999999+〉
〈取得できるスキル999+〉
[スキルLvUPによる追加機能]▼
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………追加機能?
こいつ、いったいどこまで強くなるんだ?
今のままでも神(仮)が反則って言うんだぞ?
しかしなんだろうかこの気持ちは、ワクワクしてる?
やっぱり俺も男の子だなー。
そんな事を思いながら▼をポチっと押してみる。
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[スキルLvUPによる追加機能]▲
LV2魂魄略奪
肉体が持つ魂も1回で奪えるようになる。
LV3魂魄擬態
奪った魂から魂の持ち主に化けることが出来るようになる。
LV4魂魄想起
奪った魂から記憶を見ることが出来るようになる。
LV5魂魄経験
奪った魂の経験を得ることが出来るようになる。
LV6不可収得
LV3~5までの事を奪わずに出来るようになる。
LV7物質付加
奪った魂を物質に付与する事が出来るようになる。
LV8肉体付与
奪った魂に仮初めの肉体を与えることで使役できるようになる。
LV9魂魄改変
奪った魂をある程度改変する事が出来るようになる。
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……。
……ヤバない!?
まさに反則だろこれ。
なんか死神よりヤバそうなんだけど?
そんな事ないのか?
チラリとルターナを見る。
いやあいつは参考にならないな。
しかし、なんか、あれだな…
…後ろ暗いことに使えそうなのばっかですね。
これ、普段は絶対使わないだろ。
……まあいいや。
深くは考えないことにしよう。
とりあえずは取得可能スキルを取得するか。
そうして必要そうなスキルを取得し、俺は久しぶりに寝た。
そう言えばルターナとあったとき寝てたから、久しぶりでもないなと思いながら。




