テンプレの無い登録
馬車組は突然の事で唖然としたままだ。
用もすんだし帰るか。
隠密を発動し、翼を広げる。
「あっ、あの!!名前をっ、名前を教えて下さい!!」
飛ぶ直前、そんな声が聞こえてきた。
「姫様!急に馬車からお出にならないで下さい!」
「お願いです!名前を教えて下さい!!」
「姫様!!」
視線を向けるとルターナより更に小さい、金髪碧眼の女の子がいた。
その子の周りにはアワアワしたメイドさんと他の騎士より頭ひとつ強そうな騎士がいる。
豪華だが品がある高そうなドレスも来ているし、あの子が王女さまか。
(名前ね…)
ふとした気まぐれで俺はその子の目の前まで行き、隠密を解く。
1度消えたはずの俺が急に現れたことで周囲は唖然とするが、そんなのは無視だ。
声バレしないよう、音魔法で声を変えておくか。
「我が名はグリム」
グリムとは死神を意味するグリムリーパーのグリムだ。
俺に相応しい通り名だろう。
…大鎌とか、ボロ黒ローブとかは無いんだけどね。
今度作っとこう。
「グリム…様、ありがとうございました。あなたのお陰で死者はいません、本当に助かりました」
王女は噛み締めるように俺の通り名を言い、深く頭を下げた。
「……まだ子供だろうに、立派だな」
ポロっと本音がこぼれ、自然とその子の頭を撫でてしまう。
「あっ」
しかし、そろそろ戻ろう。
ルターナも待ってるだろうしな。
そう思い手を離す。
「あっ…」
王女は何か言いたげだったが、その前に騎士達に言う。
「今度はこの子を泣かせるなよ?
この子は君達が思ってるよりずっと子供だ。
まだまだ一人では歩けない。
それを、ゆめゆめ忘れぬことだな」
そう言って俺は手品で煙となって消える。
ちなみに手品だからね、ネタばらしはなしだ。
誰にも見えない上空で町の門へ向かう。
………あ、木のマスクあそこに置いてきちゃった。
「はぁ、めんどくせぇ」
いいや放置で。
▽▽▽
マスクを作ったところに降りて隠密を解き、ルターナの方へ向かう。
「おかえりなさい」
「んー、ただいま」
列は大分進んでおり、そろそろ俺達の番になるようだ。
「とても退屈だったわ」
「それは俺も知ってる、今度暇潰しの道具でも作るよ」
「何を作るの?」
「それは決めてない」
そんな事を話してると俺達の番が来た。
「えらく軽装だな?」
「ああ、魔物に襲われて置いてきてしまったからな。この街の近くだったことと、金だけはあったのが救いだよ」
「それは災難だったな、だが金があるならもう安心しろ!この街は金さえあれば大体の物は揃うからな!」
「身分証も置いてきてしまったようでな、仮発行にはどのくらい掛かる?」
「仮発行は金貨1枚だ。二人だから2枚だな」
少し高くないかと思いつつポケットから出す。
勿論、ポケットに入っていた訳じゃなくそう見せただけだ。
「確かに受け取ったな、これが仮の身分証だ。この街を出るときに返してくれ」
そう言って何かが書かれた木の板を渡される。
それを持ち俺達は防壁の内側へと入った。
途端に広がる、異世界の街並み。
物語でしか聞いたことのない種族。
しかし、俺はそんな事よりも─
「寝たい」
─どこかでゆっくり寝たかった。切に…
しかし、仮の身分証があれなのでとりあえず冒険者になろう。
宿もそこで聞こう。
……どこで冒険者になるんだ?
ああ、場所がわからないならステータスを見て探すか、プライバシーの欠片もないけど。
▽▽▽
戦闘職が集まる場所を探し、行ってみるとビンゴ。
冒険者ギルドだ。
海斗いわく冒険者ギルドでは絡まれるのが通例らしいが、今は疲れてるしやめてほしい。
まあそんなほいほい絡まれたらたまらないと思いながら中に入る。
昼だからかちらほら人がいる程度で安心した。
ちゃっちゃっとおえようと、受付嬢のところに行く。
「冒険者登録をしに来た」
「かしこまりました。新規の冒険者登録は銀貨5枚が必要となりますがよろしいですね?」
「ああ」
「それでは、こちらの用紙にご記入をお願いします。代筆は必要ですか?」
「なぁ、ルターナ文字書けるか?」
「書けるわよ?書けないの?」
「頼む」
そう言ったあと受付嬢に必要ないと伝え紙を貰う。
しかし、1枚だけしかくれなかった。
「ああ、言葉が足りなかったな。こいつも冒険者になる」
「え…っと、よろしいので?」
受付嬢は少し訝しんでいたが、やはり冒険者は自己責任の面が強いのか気にしないことにしたようだ。
そうしてもう1枚紙を貰う。
結構しっかりしている紙でちょっとビックリした。
紙をルターナに渡し、当たり障りなく書いてもらう。
書く項目は、名前、人種、年齢、使用武器などなど…
ちなみに名前はレン、人種は人族、年齢は17、使用武器は剣だ。
使用武器は剣にしたが他の武器も使ってみたいと思ってます。男の子ですから。
人種見て人族?って思った奴ぶっころ。
「ふふっ、蓮ってば文字も書けないのね」
「いや仕方なくないか?」
クソやっぱり言ってきやがった。
勝ち誇りやがって、後で文字練習しよう…
ルターナに渡された紙を受付に返す。
「これでいいか?」
「はい、大丈夫です」
「あとこれ金な?」
そう言って銀貨を10枚渡す。
「確かに受け取りました」
そう言って受付嬢は鈍く光るカード?を渡してきた。
端の方に大きくFと書かれている。
「これは冒険者カードです。所有者を固定するために血が必要ですので、カードに血を一滴でいいので落としてください」
と言って針を渡してきたので鑑定で普通の針か確認し問題無かったので安心して刺そうとしたら、折れた。
「ほほう」
どうしろと?
「こんなんで傷がつくわけないでしょ?」
ルターナはそう言いながら指の腹を歯で噛んで、カードに押しつけた。
なるほど、俺もルターナに習い指を噛んでカードに押しつける。
そうするとカードが光り──光るだけで特に何も起きなかった。
ショボいな。
そのショボいカードをポケットに仕舞ったところで、受付嬢がギルドについて説明を始めた。
「そちらがレン様とルターナ様の冒険者カードになります。それでは簡単にギルドのシステムについて説明させて頂きますね。
まずレン様とルターナ様は登録されたばかりですのでFランクとなっています。冒険者のランクは下からF、E、D、C、B、A、Sとなっていて、冒険者カードはランクが上がるごとに更新をしていきます。そして、下から順にC、B、A、Sで素材が変わります。
レン様とルターナ様はFランクですので、鉄が素材です。
冒険者は自分のランクより一つ上までなら依頼を受けることもできますが、依頼に失敗すると違約金が発生しますので気をつけてください。
Dランクまではそのランクの依頼を10回達成すればランクが上がります。一つ上のランクなら2回分のカウントになります。しかし、Cランクより上は昇格試験が必要です。
依頼には常時、討伐、護衛、採取、特殊の5種類があります。
常時は常に狩らないと数が増えすぎてしまう魔物を間引く依頼です。ゴブリンやウルフなどですね。こちらは受けなくても討伐の証拠があれば大丈夫です。
討伐の場合、倒したモンスターの体の一部を討伐証拠として必要になります。素材の依頼の時はそれも持ってきてください。
護衛は街間の移動の護衛が主となります。
採取は依頼されたものを採取してきてもらいます。
最後に特殊は魔物の大群などが現れた時に起こるもので、ランクによっては強制参加になったりします」
「質問だが冒険者のいざこざは、どこまで許容されている?」
「ギルドは基本的に不干渉になっています。
ですが攻撃されたから相手を殺しましたなどのことがあると、いろいろ面倒なことになるので基本的に軽いケガで済む程度の争いばかりですね。
しかし、そういうことばかりしている人はCランク以上になる時の試験を受けられなかったりします」
なるほどね。
あと聞くのは宿だな。
「最後にオススメの宿はあるか?」
「宿ですか?それならギルドから出て右に行き2つ目の曲がり角を左に曲がったところにある「はねやすめ亭」という宿がお勧めですよ」
「助かった」
「いえいえ、ではこれからギルドの一員としてよろしくお願いします」
「ああ」
そう言って俺達は冒険者ギルドを出た。