負け犬。
俺はその後も暫くギルドで仕事を続けた。
相変わらずこのパーティーは個人の仕事が多く、そのどれもが俺が手伝えるようなものではなかった。
俺に出来るのは相変わらず薬草集めや皿洗い、掃除や料理だった。
一回だけ懲りずに討伐依頼を受けたのだが、魔犬一匹に対して惨敗。ズリーの助けを得て事なきを得た。
その一件から俺は名前通りの『負け犬』と言う二つ名を付けられ、デビュー後わずか数日でギルドの有名人と成っていた。
今では『負け犬のアンダー』を知らないギルドメンバーは居ないとか。誇らしい事だ。
ってなるかい!!一人ノリツッコミをするぐらいには危機感を感じている。
俺の想像していた勇者生活はもっとキラキラ輝いていたぞ!?
それが今ではキラキラどころじゃないドロドロネームを付けられてしまったわ!!
どうしてくれる!?
・・・魔犬め・・・絶対許さんぞ・・・。
そして俺は討伐依頼を諦め、雑用依頼ばかりをこなしているわけだが、一向に金が貯まらない。
そりゃそうだ。雑用依頼の報酬なんてたかが知れてる。
一日のメシ代で全部消える。
ロネースル何でも屋の人たちは基本的に自分の事は自分でどうにかしなさいって人たちなので、俺は良い意味でも悪い意味でも放任されていた。
マジでゲームのチュートリアルの大切さが分かる。
あれは必要ないようで居て、しっかりとその世界での生き方を叩き込んでくれていたのだ。
それが無いと人はこうも負け犬街道ワンちゃんまっしぐらなのか。酷いなぁ。
頭のなかでそんな事を考えつつ俺はロネースル何でも屋本部の建物に帰って来た。
「うぉっと・・・」
「ん?アンダーか?丁度いい、今から皆んなで飲みに行くんだが、お前も一緒に行くか?」
「お伴します」
丁度ドアが開いて、中からロネースル率いるいつもの四人が出て来た。
「場所は何処で?」
「いつものマスターん所だよ」
「あそこは料理も美味いっすからねぇ」
「蜂蜜・・・酒・・・・」
「さっさと行きましょうぜ姉さん!!」
「おう!!」
そして俺達は五人でマスターの所に向かった。
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~酒場~
「おう、ロネ坊にヤスにリフィルにズリーに『負け犬』か」
「あ、マスター今、最後に俺を『負け犬』って呼ぶ為にわざわざ全員の名前呼びましたね?」
「ははっ!!悪ぃ悪ぃ!!その分今日はサービスするからよ!!」
「もうっ!!」
分かっている。本当はこのマスター、俺をおちょくって怒らせる事で詫びとして金の無い俺に色々サービスしてくれるのだ。ありがたいなぁ。
その後、俺達は飲みまくった。
今日何が在って、何をして、そんなとりとめのない事をひたすらに話し続けた。楽しかった。
そこで今まで黙って笑っていたマスターが機を狙ったように口を開いて俺たちの会話に割り込んだ。
「そう言えば、アンダー。お前さん、勇者だったよな?」
「うっ・・・そうですけど?」
「お前さんの武器の特殊能力ってよ、標識の再生だったか?」
「そうですよ」
「そいつぁ可笑しくねぇか?」
「え?」
可笑しい?確かにこんな雑魚が勇者ってのもおかしい話だが。
「嫌、良く考えてみろ、勇者の装備品ってそんなに簡単に壊れるもんかよ?」
「え?」
「だってそうだろ?実際にそいつは世界の意思から授かっているもんなんだし、そいつが簡単に壊れるのは可笑しくねぇか?まぁ、材質にもよるだろうが」
「でもこれは確かに俺が世界の意志から授かった物で、勇者の武器に違いないはずですけど・・・?」
「あぁ、俺が言いたいのはそう言う事じゃねえ。歴代の勇者の中には硝子で出来た細長い棒だった奴も居る。」
「でもそれじゃあ・・・」
「あぁ、戦闘のたんびにポキっと折れちまっていたらしい。そりゃ当前だな?」
「はい」
「でもその勇者の棒は戦闘のたんびに治っていたらしい」
「え?」
「その勇者の能力は何だったと思う?」
「ガラスの棒の修復ですか?」
「『透過』だったらしい」
「え?」
「透明に成って相手を攻撃出来たそうだ」
「え?じゃあ棒は?」
「おそらく勇者の武器が自動的に治っちまうのは当然の事なのかもしれねぇ。歴代の勇者の武器を見てみたんだが、傷一つねぇ。おそらく通常機能として勇者の武器にはその武器の修復の機能が付いているんじゃねぇかと思う」
「何でマスターがそんな事・・・?」
「調べたんだよ。お前があんまりにもしょげているんで、いつまでも『負け犬』扱いじゃあ可哀想だと思ってな。歴代の勇者の装備品とその歴史について調べまくったんだ。感謝しろ」
「じゃあ、俺には・・・」
「あぁ、おそらくだが、『お前にはまだ隠された能力が有る』って事だ」
「やったじゃねぇか!!アンダー!!」
「お、おぉ・・・」
「?何だ?テンション低いなぁ?」
「うお、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「うお!?こいつ涙流しながら絶叫してやがる!?」
言葉じゃ表現出来ない感動が俺の内側を支配していた。
嬉しいことには間違いないのだが、それを言葉に出来ない。
俺は唯、叫び続けた。
マスター、有難う。
その日のロードネス王国には負け犬の遠吠えが響き渡っていた。
酒場を中心に負け犬の感動が咆哮と成って轟いていた。