何でも屋になる。
俺は憧れの冒険者ギルドに来ていた。
今は受付に座っている。受付嬢はやっぱり美人だ。異世界はやっぱり美人が多い。サイコーだ。
「ではこちらに登録名とパーティー加入でしたらパーティー名もお願いします」
受付嬢はちょっと奇怪なものを見る目でこちらを見ている。
それもそうだろう。今俺は魔道士が使うようなフード付きのローブに顔には顔を隠す仮面を付けている。怪しくないわけがない。と言うのも、これは俺が冒険者ギルドに行った時、知り合いになったら気まずいし、最悪問題になりかねないので無理を言ってロネースルに持ってきてもらった。
この仮面のデザインが何と無くキモいのだ。灰色の何も無い仮面に、大きく裂けた口と長い尖った鋭い牙、口の中は真っ赤に染まっていて、それ以外の目や鼻のデザインは無い。しかし内側からは外を見れ、匂いまで嗅げるという便利な代物だ。灰色だからリフィルとズリーはおそろいだと喜んでいた。なので余計に他のにしてくださいなんて言い難い。なのでこれにした。
「あ、はい名前ですね」
「パーティー名はロネースル何でも屋だ」
「はい。名前は偽名でも良いですか?」
「あぁ、構わねぇはずだが・・・なぁ?受付嬢?」
「はい。構いませんよ」
「じゃあアンダー・ドッグで」
「はい。ロネースル何でも屋のアンダー・ドッグ様ですね?」
「はい。それで良いです」
「お前もうちょっと自分に自身持った名前にしろよ・・・」
どうやらアンダードッグは異世界でも負け犬で通用するらしい。
「じゃあ仕事中は俺のことはアンダーって呼んでくれ」
「あぁ、分かった。」
「それでは登録は以上で終了となります。ステータスプレートを目指して頑張って下さい」
「有難う御座いました」
「またのお越しをお待ちしております」
受付嬢はそう言ってお辞儀をする。完璧な一部も隙のないお辞儀だった。
「それじゃあ皆んなのステータスプレートを見して貰っても良いか?」
「あぁ、良いぞ。おし、お前ら、出せ。あ、ズリーのは良いよな?」
「うん」
「じゃああっしからで」
そう言ってヤスがステータスプレートを取り出した。
「何々?・・・スキル『早業』に『見極めの魔眼』!?」
「へぇ。あっしは一定時間素早く行動できる上に、相手の隙や弱点を見極められるんでさぁ」
「あんたこんな強かったのか」
「それほどでもありやせん」
「でも片目だよな?」
「へぇ。あっしのこの眼帯の下は魔眼なんでさぁ」
明かされる衝撃の真実。マジかよ。
「じゃあ次私っすね!!」
「ほぉ~どれどれ?『俊脚』に『隠密』か」
「えぇ、私は脚が早くなる上に敵に気づかれにくくなるっすよ!!」
「だから運び屋やってるのか」
「じゃあ最後はアタシだな」
「うむ、どれどれ?『統率』、『指揮』?これもまたリーダー的なスキルですな」
「あぁ、アタシの仲間に成っただけでも身体能力が上がるし、指揮したことを実行しようとするとさらに上乗せで身体能力が強化される」
「ズリーあたりに指示出したら凄い事になりそうだな」
「取り敢えずアタシらのスキルはこんな感じだな」
「俺も早くステータスプレート貰いてぇなぁ・・・」
「それには早く銀貨四枚集めなきゃな」
因みにこの世界には鉛貨、鉄貨、銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、聖金貨、王金貨と言う貨幣があり、それぞれ日本円で言うと1、5、10、50、100、500,1000、5000、10000円である。
この国では宿屋一泊につき銅貨一枚程だ。
銀貨四枚何て早々貯まるもんじゃないのだ。
「だからまずは適当な依頼受けてこい。今のお前は最低ランクだからアタシ達と同じ仕事はまだ出来ねぇ」
「了解。じゃあFランクで稼ぎのいい仕事はっと・・・お?これはどうだ?子供の遊び相手銀貨一枚!?マジかよ!?どんな貴族だよ!?」
「お、良いんじゃねぇか?唯お前のその仮面だと泣かれそうだな・・・」
「・・・あ~、まぁ取り敢えず受けてきます」
「頑張れ」
そんなこんなで依頼を受けた。依頼内容は子供の世話及び遊び相手。報酬は銀貨一枚。期間は一日で、飯は勝手に作って食べてくれだと。こんな良い依頼もあるのか。
そう考えながら俺は貴族街に足を向けた。
で、貴族街なのだが・・・
「・・・でっけぇ」
貴族街の建物は軒並みでかい。特に必要ない面積が多すぎるのではないだろうか?庭こんなに居る?釣りが出来そうな程でかい池も在る。
「・・・おっと・・・此処だな」
俺がたどり着いたのは依頼主の家。これまた他と遜色ないぐらいにでかい。
ドアノッカーで元気に挨拶。
「ノックしてもしも~~~し!!」
ドアが今「おっぱアアアーッ!!」と言った気がするが、気のせいだろう。強く叩きすぎて金具あたりが鳴ったのだろう。
「は~い」
ガチャリ、と音を立ててドアが開く、其処には可愛らしい女の子が居た。
「貴方が今日私と遊んでくれるの?」
「はい。ロネースル何でも屋のアンダー・ドッグと申します。よろしくお願いします」
「えぇ!!仲良くしましょ!!」
「はい!!」
驚くことに仮面にはノータッチだった。
幼女に連れられて屋敷内を歩む。所々に高そうな装飾品が有り、歩くだけでもだいぶ怖い。
「此処が私の部屋よ!!」
「お邪魔しま~す」
其処には大量の本があった。絵本や学術書に魔道書まで在る。
「お嬢様は本が好きなんですか?」
「えぇ!!大好きよ!!今日も御父様がご本を買って帰ってきてくれるんですって!!楽しみだわ!!」
「そうですか。それは良き事ですな」
「貴方も本は好き?」
「えぇ、大好きですとも」
「おそろいね!!」
「そうですとも!!」
そんなこんなで幼女と楽しく過ごした。絵本を読み聞かせたり、魔道書の魔法を実際に使ってみたり、前世の知識を活かして勉強も教えて差し上げた。やましいことはしていない。お昼は珍しい事にお米が在ったのでチャーハンを作ってみた。お嬢様には好評だった。そうこうしている内にその御父様と御母様が帰ってきてめでたく任務終了と成ったのだった。
「ではそろそろ時間ですな」
「え~もう帰っちゃうのですか?」
「これ、あまり引き止めてはいけませんよ」
「はぁい・・・」
「これ、今回の報酬です。娘も楽しかったようで、少し、色を付けておきました。」
「そんな!!悪いですよ!!」
「いえいえ、気持ちですので」
「そうですか。なら遠慮無く頂きます」
「御父様・・・ご本は?」
「あぁ、とても珍しいご本が在ったから買って来たぞ」
「やったぁ!!」
「ふふっ・・・それでは私はこれで・・・」
微笑ましい光景を見ながら俺は事務所に帰った。報酬は銀貨二枚だった。ブルジョワ怖ぇ。貴族凄ぇ。
「初仕事はどうだった?」
「楽しかったですよ。報酬も色を付けてもらいましたし」
「へぇ・・・どれ位?」
「銀貨二枚だ」
「「「銀貨二枚!?」」」
皆んな驚いていた。そりゃあ驚くよな。俺も驚いたもん。子供の世話だけで銀貨二枚は凄い。
後二枚、頑張ろう。
そろそろ覚醒させたいですね。