ロードネス王国にて。
「で、でよぉ・・・あいつらが・・・あいつらがぁ・・・裏切って・・・裏切ってぇ・・・」
「分かった!!辛かったんだな?おい!!マスター!!もう一杯だ!!」
「おう?ロネ坊、飲ませすぎじゃねえか?」
「うるせぇ!!良いから飲ませてやれよ!!忘れたいんだろ!!」
「いや、話は聞いてたから分かってるんだけどよ・・・ほれ、もう一杯だ」
「ありがとぉ・・・」
マスターは蜂蜜酒をおかわりさせてくれた。
此処はロードネス王国、その商業区の裏路地、ひっそりと構えてるには人の多い酒場である。
この盗賊の女の名前はロネースル・フォローリダと言う。俺の話を真剣に聞き、励まそうとしてくれた女である。
俺はロネースルに連れられてこの酒場に来た。ロネースルは厳密に言うと盗賊ではなく何でも屋らしく、カネさえ払えば依頼を受けて達成してくれるらしい。因みに俺のことを襲ったのは単に小遣い稼ぎだったらしい。はた迷惑な話であるが、こいつに目をつけられて良かったと思った。
「ほれ、サービスだ」
「マスターこれは?」
「鶏肉となんか色々炒めたりしたやつだ」
「ありがとぉ・・・うぇえ」
「あー!!もうっ!!泣くなよ!!」
「でもお金無いぃ」
「あー!!分かったよ!!アタシの奢りだ!!」
「お?あのロネースルが人に奢ってるぞ!!」
「槍でも降るんじゃねえか!?」
「「「「ギャハハハハハハハハッ!!」」」」
「うるせぇ!!」
此処は盗賊や犯罪まがいの仕事をするような奴が集まっている酒場らしく、居る奴らは大体ガラが悪い。
「ロネースル・・・さんは・・・」
「ロネースルで良いよ」
「ロネースルは・・・普段どんな仕事をしてるんですか?」
「あ?アタシ?アタシは特にこれといってなぁ・・・何でも屋だからなぁ・・・」
「いつも一人で?」
「いや、アタシは何でも屋のリーダーやってるからな」
「って事はお仲間が?」
「あぁ、何人かな。今は別の仕事しに行ってるがな」
「そうなんですか・・・どんな人なんです?」
「あぁ、スリが得意な『早業のヤス』、運ぶのが得意な『脚のリフィル』、戦闘が得意な『封印されし混沌のズリー』だな」
ちょっと待て最後の何だ。怪しい気配しかしねぇぞ?
名前的にリフィルは女かな?
「やっぱ盗賊みたいですね」
「まぁな、あとその敬語止めろよ。ムズムズする」
「分かった」
「それで良い」
ロネースルは満足気に頷くと、自分のグラスを煽った。
「ありがとう。だいぶ落ち着いたよ」
「そっか。今日はどうするんだ?宿とってねぇだろ?」
「うっ・・・そうだった・・・」
「丁度良いや、お前今日ウチの事務所に泊まってけよ!!」
「良いのか!?」
「あぁ、ウチの奴らと同じで良ければな」
ゲッ・・・って事は『封印されし混沌のズリー』と顔を合わせなきゃいけないのか。
「まぁ良いよ。それぐらい」
「そうか、じゃあ事務所で朝までどんちゃん騒ぎするか!!」
「おい!!ロネ坊お前またうちから酒勝手に持って行く気じゃねぇだろうな!?」
「何だよ!!こちとら傷心者を気遣ってだなぁ・・・器のちっちゃい男だぜマスター!!」
「ちげぇよ!!どうせなら一番良いの持ってけ!!せっかくだから銀蜂蜜酒出してやるよ!!」
「さっすがマスター!!わかってるぅー!!」
「現金なやつだぜ!!お前はよ!!」
「ふふっ・・・」
あまりにも漫才的なので笑ってしまった。愉快で面白い奴らだ。
「良しっ!!銀蜂蜜酒も持ったし、早速事務所行くぞ!!」
「おう!!」
ロネースルは足元をふらつかせつつ事務所に案内してくれた。
事務所らしき建物の前まで来るとロネースルはおもむろにドアをノックした。
「瓦礫に?」
「金塊!!」
するとドアの向こうから合言葉を求める声がし、ロネースルがそれに応える。
ドアを開け、ロネースルの後に続く。
中から出てきたのは薄ピンクの髪のショートカットに灰色の肌の女だ。おそらく魔族だろう。
「ボス、もしかして酔ってます?」
「あ?」
「もう!!酔うのは良いけどゲロ吐いても酒飲み続けんのやめてくださいよ」
「わーってるよリフィル」
「おや?そちらは?」
「あ、俺はロッドです。ロッド・ウィルソンです。ロッドで良いですよ」
「あぁ、客だ。もてなせ」
「私はリフィル・ロイートです」
「あぁ、こいつは魔族なんだが・・・仲良くしてやってくれ」
「はい」
このリフィルも美人である。胸はロネースル程ではないが、はっきりと主張してくる。
「へへへへ~そんなに私に見とれちゃって~照れるっすね~」
その視線に気づいたのかリフィルは両手を顔に当てくねくねしている。
「おう、馬鹿なことやってねーで入るぞ」
「はい」
俺たちはそのまま二階に上がった。
其処には広めの部屋があり、其処には既に二人の人影が在った。
「おう、ヤス、ズリー、帰ったぞ!!」
「姉さん!!お帰りなせぇ!!」
「姉御・・・無事で何より・・・」
其処には眼帯のこれぞ盗賊って感じの男と、ツノ付きの兜を被った黒いフルプレートの奴が居た。多分眼帯の方がヤスだな。
「お、姉さん、そいつぁ?」
「おう、こいつは宿がねぇってんでよ。泊めてやることにしたんだ」
「へぇ、姉さんが男連れてくるなんてなぁ」
「そんなんじゃねぇ!!片目えぐり抜くぞ!!」
「怖っ!!」
「そんなことよりおら、マスターに銀蜂蜜酒もらってきたから飲むぞ!!」
「イェーイ!!寝ゲロするまで飲むぜー!!」
「いや、片付けんの私なんすから勘弁して下さいよ~」
その後はヤスとズリーにも挨拶をして一緒に酒を呑むことになった。
「ズリーさんも飲みます?」
「あぁ・・・頂きます・・・」
以外に礼儀正しいなズリー。
そしてズリーが兜を脱いだ
「ーーーーっ!?」
兜を脱ぐと其処には傷だらけの顔がーーーー
無かった。
って言うか
「美少女!?」
めっちゃ美少女だった。いや、ロネースルもリフィルも美人だったが、ズリーは凄い。何で兜なんて被ってるんだろう?
「あぁ・・・最初にズリーの顔見たらそりゃびっくりするよな」
肌は灰色で髪は淡い白っぽい紫のロングだった。
ん?この肌の色・・・
「もしかしてリフィルと姉妹ですか?」
「あぁ・・・姉ですが・・・よく分かりましたね・・・」
「何で兜なんか?」
「いえ・・・その・・・」
「奥ゆかしくていいですね」
うむ、可愛いしとても奥ゆかしい。
残念ながら鎧のせいで体つきは分からないが、あのリフィルの姉なら期待できるだろう。今日だけでめっちゃ美少女と会いまくってる。一人旅サイコー!!
あれ?周りの視線がなんか変だぞ?
「あれ?俺何か変な事言いましたか?」
「いや、お前、怖くないのか?」
「いや別に?ってか何で?魔族だから?魔族なんてそんなに珍しくないよね?」
「姉さん、こいつひょっとして大物なんじゃあ・・・」
「あぁ、そうだな、ヤス」
「え?何が?」
「貴方、お姉ちゃんが怖くないんですよね?」
「うん」
「ちょっとこれを見て下さい」
差し出されたのは一枚の金属板。長方形で表面には光る文字が浮いている。
「これは・・・ステータスプレート?」
「えぇ、そうです。そしてこのスキルを見て下さい」
「え~と?『凶者の風格』?何ですか?これ?」
「そいつぁですね、常に発動するタイプのスキルでして、肉体の大幅な強化をする上に周りを自動的に威圧するんですわ」
「なるほど」
「普通は仲良い奴以外には問答無用で動けなくなるぐらい威圧しちまうんですがねぇ?」
「こんなに可愛いのに?」
可愛いと褒めるとズリーは顔を赤くして照れた。可愛い。
「それが効かないとすると・・・アタシはロッドのスキルに興味が出てきたねぇ?」
「あ、すいません、俺ステータスプレート無いんすよ」
「へ?兄貴ぁ勇者なのにステータスプレートが無いんで?」
「珍しいっすね」
「駆け出しだからね。って言うか今日初めて旅に出たんだけどね」
初めて旅に出た日に小遣い稼ぎ代わりに襲われかけたり逆にそいつに奢られた上に宿を用意してもらったり、人生って分からんなぁ・・・前途多難ってやつかな?難って感じじゃないけど。
「よしっ!!アタシは決めたよ!!ロッド!!アンタ、明日からアタシらのパーティーに入って金を稼ぎな!!」
「えぇ!?」
「そいつぁ良いかもですね姉さん」
「人出が増えて言う事無しっすね!!」
「私は・・・構わない・・・」
「え、ちょ」
「ステータスプレート貰えるまでで良いからさ、どうだい?此処も自由に使わせてやるよ」
「うーん、そういうことなら」
金を稼げてしかも寝床まで貰えるなんて最高だね!!断る理由がない。
「明日から宜しくお願い致します!!」
「おう!!よっしゃ野郎ども!!新顔の入隊祝いだ!!今日は朝まで飲むよ!!」
「「「おう!!」」」
全員で銀蜂蜜酒の入ったグラスで乾杯した。
因みに酔いつぶれてヤスは寝ゲロを吐いてリフィルに切れられていた。