旅立ちは人それぞれ。
その後、俺は自分の部屋に帰った。
今では学校の寮で暮らしている。婆さんが死んだわけではない。俺の独り立ちを促すためである。
あの時在ったことを、俺達は誰一人先生に報告していなかった。唯、傷は、傷跡が僅かに残るように回復魔法をかけておいた。あの時の悔しさを忘れないようにである。
そして、翌日、遂にその日が来た。
「は~い、それじゃあ皆さん、パーティー組んで~」
パーティー決めの日である。
小学校の頃、二人一組作って~と言う言葉はまさに凶器だった。友達の居ない人間を強制的に炙りだす、地獄の言葉。
今俺が置けれている環境は、それよりももっと過酷だろう。
なぜなら前日にやらかしているからである。普通魔犬にすら勝てないやつをパーティーに入れたりはしない。スキルによっては戦わなくてもいい役職もあるが、残念ながら俺はそうではない。って言うかこの場にいる全員のスキルはまだ判明していないのだ。
スキルとは、人が生まれながらにして持っているもの、あるいは、努力して手に入れるものの二種類がある。授かりの儀を終えた人間は必ず一つはスキルを賜るのである。
しかし、この自分がどんなスキルを賜ったのかは知らされない。なので、普通は冒険者ギルドに所属し、鑑定を受けて初めて分かるものなのである。
このパーティー決めでは、その冒険者ギルドに行き、そのままパーティー登録するメンバーを決めることになる。
そんな場でロッドは孤立してしまっていた。
「あれ?ロッド君はパーティー決めに行かなくていいんですか?もう数個はパーティーできてますよ?」
「え?・・・あぁ・・・はい」
先生の純粋な疑問が痛い。
まぁ心配いらないけどね!!俺にはローイ達がいるし、この日のためにあいつらとは約束もしてたしね!!
勢い良く振り向いた先にはローイ達が居た。
ローイにアンナに、肉壁に、いつものメンバーだ。何だかほっとする。
「おーい!!ロー「やっぱりいつものメンバーが一番だよな!!」
肉壁の大声に遮られる。
いや、まぁ、言ってることは正しいよ?でもタイミング考えよ?
「ロー「そうだね、みんなと一緒にこの槍を振るえるなら最高だね!!」
ベルンに遮られた。
「あの「そうですわね!!皆さんがいれば向かう所敵なしですわね!!」
今度はエイリーか。
流石に泣きそう。
涙目に成って後ろにいるアンドレア先生に振り向く。
「ちょっと!!貴方達!!ロッドくんを無視しないであげて下さい!!」
アンドレア先生は頬を膨らませながら怒っている。誠に威厳がない。
しかし、その一言には効果がしっかりとあったようで、教室が静まり返った。
やっとローイに話しかけられる。
「おいローイ俺も混ぜてく「ごめんね」
ん?何がだ?
遮るようにローイは謝ってきた。
「ごめん。悪いけど、ロッドくんをパーティーに入れられない。」
「え?何でだよ?俺たち約束して・・・」
パーティーには基本的に人数制限はなかったはずだ。
「入れてもらえるとでも思ってたのかよ」
「馬鹿じゃねぇの?」
「あの実力でローイのパーティーに入ろうと思ってたのかよ」
「役立たずのくせに?」
顔もろくに覚えていない生徒から野次が飛ぶ。誰だよお前ら。
「でも、俺達約束して・・・」
「ごめん」
「ごめんじゃねぇよ。いや、戦闘が全てじゃないし・・・」
「ごめん」
「いや、でも、それ以外ならなんだって・・・雑用から料理、金の管理から土地の案内だって・・・」
「ごめん。足手まといなんだ。」
頭が真っ白になった。
足手まとい。
俺が、俺は、そうならないように努力して・・・。
気がついたら自分の席に座っていた。
周りは笑っていた。先生は固まっていた。もうどうでも良かった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~自室~
俺は布団の上に座るようにしてうずくまっていた。もう何もやる気が起きなかった。
そこへ遠慮しがちなノックが数回。返事をするのもめんどくさかったからほっておいた。
「・・・ロッド君、いるんでしょ?」
ローイの声だ。約束を破られたことに対する怒りと当たり前かという諦めがふつふつと湧いてきた。
「僕達もう行くから・・・と言ってもそれぞれ家に挨拶に行ったりしなきゃだけど・・・」
「そうかよ」
「僕達、皆んなロッドくんに教えてもらった事とかについては感謝してるし、ロッドくんだったらこの学校の先生を目指してみるのだって・・・」
「うるせぇ!!死ね!!てめぇに何が分かる!!」
普段は絶対に言わないような暴言を吐きながら、ドアに向かってとっさに手にとったものを投げる。
ノートのようなものがドアにあたって大きな音を立てる。
ドア越しにもローイがビクつくのが分かる。
悪いのは俺が授かりの儀で大した武器を引けなかったことだ。
ローイが俺との約束をやぶるのはしょうがないことだ。
わかってる。
しかし、わかっているのにローイにあたってしまう。
自分のやりたいことがうまく行かなくて癇癪を起こす子供のようだ、と自分で苦笑する。
「あのね・・・僕達が、いや、僕が、帰ってきたら伝えたいことがあるんだ。」
「・・・さっさと行けよ。裏切り者が」
最低だ、と自分でも思う。
ローイを傷つけても何も変わらないのに、自分の運の悪さを全部回りに当たり散らしている。それで何が変わるわけでもないのに。
ローイが走り去っていく。
「嫌われちまったよな・・・」
自分でも女々しいな、と思いながら部屋の片付けを始めた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~ローイ視点~
「嫌われちゃったかな・・・」
青ざめた顔でローイが呟く。
「仕方ないでしょ。それにこれはあいつを下手にパーティーに入れて怪我でもさせたら大変だからって皆んなで決めたことじゃない。今はあんなに荒れてても、あいつならきっといつか時間が経てば分かってくれるわ。」
周りにはアンナや肉壁、ベルンにエイリー、そしてラーフが居る。皆んないつものメンバーだ。ロッドを除いた・・・。
「そうだといいなぁ・・・うぅ・・・」
「いつまでウジウジしてんだよ。さっさと魔王倒して帰ってきて仲直りすればいいじゃねぇか」
「そうですわよ。私だって本当はロッド様と旅がしたかったですわ」
「・・・・・・」
ラーフは相変わらず喋らないが、頷いている。
「とにかく、早く皆んなの家に挨拶に行くわよ。挨拶だけで何日かかると思ってんのよ」
「確かに僕とアンナ以外は皆んな遠くに実家が在ったんだよね」
勇者の養成学校に通う生徒の中には遠くの村や都市や果ては違う国から通っている生徒も居る。
「しかも皆んなバラバラのところだし・・・」
「ローイとアンナの家の次は私の家ですわね!!精一杯もてなしますわ!!」
「ラーフの家が遠いんだよなぁ・・・」
「・・・山奥・・・だから・・・」
そんなことを話しながら、唯一人残した親友の事を気にしながら、また一つのパーティーが旅立ったのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~ロッド視点~
「はぁ・・・俺何やってんだろ・・・」
使えない武器を引き、周りに嫉妬し、焦って一人で勝手に突っ走って失敗して、周りに迷惑をかけて、ローイにあたってしまった。
こんな事するつもりじゃなかったのに・・・
自分がこんなに器の小さい人間だとは思わなかった・・・
「俺勇者目指してたはずなんだがなぁ・・・」
その時、コンコココンコンとリズムよく扉がノックされる。
「ロッド君?居ますか?」
「あ、はい。先生ですか?」
「入っても?」
「どうぞ」
そんなやり取りをしながらアンドレア先生が入ってくる。
「女の人を部屋に入れるのなんて初めてですよ」
「思ったより元気そうですね?」
「そう見えます?」
「てっきり布団にくるまって泣いてるかと・・・」
「俺今年で十八なんですけど」
まぁ中身はもっと上なんですけどね。
「私にとって年齢なんて関係ありません。何歳だろうが私の大事な生徒ですから」
よく出来た先生だなぁ・・・褒めてほしそうに胸を張ってるあたりがそれをあまり感じさせないのだけど。
「有難う御座います」
「いえ、当然です」
「すいません、わざわざ気にしていただいて・・・」
「いえ、謝るのは私の方です。貴方が苦しんでいる時に何もフォローできませんでした・・・私はダメな先生ですね・・・」
「先生が謝らないでくださいよ。これは俺がつまらない意地を張ってしまったせいなんです。先生のせいじゃありません。」
「つまらない意地なんかじゃありませんよ。ロッド君は今まで彼らを守りたくて頑張ってきたんですよね?それなのに最後の最後でそれが果たせなく成って焦ってしまっただけなんですよね?」
「でも・・・俺は今まで自分の力を過信して、周りよりも努力している自分に酔っていただけなんだって・・・」
実際そうだ。俺は努力している自分に酔っていた。血反吐吐いても体を酷使して皆んなのために頑張っている俺カッコイイとか思ってたのだ。
「良いじゃないですか。それでも」
「え?」
「努力している自分に酔うのは悪いことですか?酔っていたとしてもそれは貴方が周りのためにしていた努力じゃないですか。努力した人は褒められるべきなんです。ちょっとぐらい酔っていたって最後に皆んなで笑える結果を目指せるのならそれでいいじゃないですか」
「先生・・・」
「どんなに派手にやらかしても、最後に皆んなで笑える結果になったなら、いつか良い黒歴史に成りますよ」
「良くねぇ!!最後の一言いらねぇ!!」
「ふふっ、やっといつもどうりに成りましたね」
「あ」
「元気になってもらって何よりです」
どうやらいつの間にか俺の沈んだ気持ちをいつものテンションまで引っ張りあげてくれたらしい。頭が上がらないなぁ。
「ありがとうございます」
「いえ、良いんです。それに本題はここからですし」
「本題?」
「えぇ、大事な話です」
俺と先生の間に大事な話なんて在っただろうか?まさかこの展開は愛の告白か!?
で、でも俺なんかでいいんだろうか?
いやーこんな展開初めてだから緊張しちゃうなぁ!!
俺はもちろんウェルカムだけどね!!二人はお互いに気持を伝え合った後はそのまま布団へ・・・ってか?さらば童貞の諸君!!俺は童貞を辞めるぞ!!そしてこんにちはマイフューチャー!!
「俺は構いませんよ先生!!何なら今からでも!!」
「え?えぇ、貴方が良いならそれで良いんですが・・・今から・・・ですか?」
しまった!!タイミングをミスったか!?クソ!!まだだ!!まだ行ける!!
「いえ、準備が必要ですもんね」
「えぇ、準備なしに始めるなど自殺行為ですからね」
自殺行為!!自殺行為ときましたか!!生命を作る行為だというのにねぇ!!不思議だよねぇ!!(錯乱)
「では、私の言いたいことが最初から分かってくれていたんですね・・・さすがロッドくんです」
「いえ、当然ですよ。さぁ準備を始めましょう!!」
「えぇ、ではまずリュックにランプやナイフを入れましょう。後地図も忘れてはいけませんね」
・・・ん?どんな特殊なプレイなんだ?
「入れました」
「では次は非常食ですね・・・干し肉でいいでしょう」
「入れましたよ?」
「え~と、次は・・・」
そう言うと先生は顎に手を当てて考えこんでしまう。
「まぁ、あとは少しばかりのお金と装備品を渡しておきます」
先生は何処から取り出したのかお金の入った袋と皮の鎧を渡してくる。
「あの・・・先生これは・・・」
「良しっ!!出来ましたね!!一人旅の準備が!!」
「え」
俺はどうやら一人で旅に出ることに成ったらしい。
「先生は此処で応援しています!!貴方が立派な勇者になって帰ってくるのを楽しみにしていますよ!!」
「いやいやいやいやいや」
「まぁ、何を持って勇者とするのかは難しいところですが・・・先生はロッドくんなら魔王ですらも倒してしまえると思っていますよ!!」
「え、ちょ、まっ」
「でも・・・魔王も倒したらすぐ別の魔王が出てきますからね・・・むむむむ・・・」
「あの」
「今の魔王を倒せたらもう英雄ですよ!!」
マジか
いやマジか
アンドレア先生はやたらとハイテンションで重い任務と期待を寄せてくる。
「一人で、ですか?無理じゃないですか?俺の能力見ましたよね?」
「そんなこと関係ありません!!私もかつては一人で活動する冒険者でしたし、其処から勇者を目指していました!!ロッドくんならきっと出来ます!!私と違って授かりの儀を受けていますからね!!スキルも授かっているはずですよ!!さぁ!!さぁ!!」
なんだこれ今までにないぐらい先生が興奮していららっしゃる。
鎮まれ!!鎮まり給え!!なにゆえそのように荒ぶるのか!?
「わ、分かりましたよ。でも、あんまり期待しないでくださいよ?」
「いえ、ロッドくんならきっと出来ると思います」
「でも、俺は一人だし」
「仲間なんてそのうち出来ますよ。大した問題じゃないです!!さぁ、出発ですよ!!」
「えぇ・・・」
その日、俺は押し切られるような形で一人旅に出た。