17話剥き出しの心
「ガッ・・・!?」
俺の右腕から放たれた弾丸は皮剥ぎの剥き出しの皮膚を貫いた。
正確に言えば、本来皮膚があるべき所、だ。
皮剥ぎの顔面は焼けただれたように皮膚が剥がれ落ち、その部分が黒くくすんでいた。
「てめえええええええええ!!あああああああああああああああああああああああ!!」
皮剥ぎは両手で顔を抑えてのたうちまくっている。
「まだ生きてるのか・・・!?」
「あぁ、クソ!!やりやがったな・・・!!俺の顔!!あああああああああああああああ!!・・・あ・・・」
ひとしきり打ち上げられた魚のようにのたうち回った後、皮剥ぎは動かなくなった。
「死んで・・・無いよな・・・?」
皮剥ぎは白目を剥いて気絶している。
ここまでやってまだ死なないのか・・・。
「あれ・・・?なんかこいつ見たことあるな・・・」
何だったかな?
「あ!!こいつ、掲示板の前で俺に話しかけてきたやつじゃん!!」
そう、俺が鑑定を受けたあの日、S級賞金首の掲示板に群がる人ごみに紛れていた、あいつだ。
俺はあの時S級賞金首本人に話しかけられていたのか・・・。
下手をすればあの場で死んでいたかもしれない。
俺の背筋を何か冷たいものが通った気がした。
その時。
「皮剥ぎが現れたのはこっちか!?」
ガチャガチャと音を立てて近づいてきたフルプレートの集団。
王国騎士団だ。
さすがにS級賞金首クラスともなれば団一つが動くのか。
それにしても到着が遅い気がするが。
「・・・ここでのびているのが皮剥ぎか?」
避難民たちに隊長と思しき男が声をかける。
声をかけられた避難民は若干そのプレッシャーに押されつつも頷く。
「っと言うことは、ここにはS級賞金首を撃破した者がいるということか!?」
「は、はい!!」
「どの御仁だ!?礼がしたい!!」
「あ、あの人です」
「あ、あの仮面の?」
やっべ、こっちに来た。
「貴殿が・・・その・・・皮剥ぎを・・・?」
「は、はい、そうですけど」
「にわかには信じられんが・・・いや、避難民たちの証言もある。それにその腕、ここで相当な戦いが繰り広げられたのは想像に難くない。王国騎士団を代表して、避難民たちを守ってくれたこと。礼を言おう」
「いや・・・あの・・・」
フルプレートの男に頭を下げられるのがこんなにも緊張するとは思わなかった。
こんな時、勇者なら何て言うだろう。
「いえ、頭を上げてください。当然の事をしたまでです」
くぅー!!言ってみたかったんだこう言う事!!
「し、しかし・・・我々は所詮国民の危機に間に合わなかったボンクラ・・・」
「そ、そうです・・・日頃から気を引き締めて鍛錬とか言っている割にこの始末・・・」
「国王様に合わせる顔がありません・・・」
「私なんて焦って剣を落としました・・・」
変な所で卑屈な騎士達だな。
「いえいえいえ、本当にやめてくださいよ!!」
フルプレートがお辞儀しまくっててガチャガチャうるさい!!
「で、では後程報酬を渡しに行きます」
「ありがたくいただきます」
「・・・団で」
「出来れば一人で来てほしいんですが・・・」
なんかありがた迷惑な奴らだな。
・・・悪い奴じゃなさそうなんだけど。
「では、回復魔法をこの方にかけて差し上げろ。怪我が酷い」
「・・・え?」
俺は自分の腕を見る。
さっきまでの変形した腕はかろうじて腕の形を留めているだけの肉塊になっていた。
ここで俺は情けないことにショックと出血による貧血で失神したのだった。
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「・・・ンダー」
「んぅ?」
「アンダー!!」
「おわっ!?」
「アンダーが起きたっすよー!!」
「へぁっ!?」
目が覚めたら目の前に完治したリフィルの顔があった。
脇腹の穴はふさがっているようだ。
良かった。痕は残っていないようだった。
「「「「アンダーッ!!」」」」
「うおぁっ!?」
「も、もう大丈夫なのか!?」
「ゲンさん!!」
「お前・・・その手ぇ・・・」
「うん?」
俺は自分の手を見る。
確かに少し痕が残ってしまっている。
まぁ、これぐらいなら大丈夫だろう。
「これぐらいなら大丈夫ですよ。それよりもゲンさん達に怪我が残らなくてよかったです」
「ッ・・・良くはねぇんだがな」
「まさか痛みが残っているんですか?」
「そうじゃねぇよ。お前が怪我すんのが良くねぇっつう話だよ」
「そうっすよ!!何っすかあの腕!!死にかけだったじゃないっすか!?」
「そうだそうだ。あんまり無茶してんじゃねぇぞ!!」
「いや、でも・・・」
「「あぁ!?」」
「すんません!!」
何で謝ってんだろ、俺。
「まぁそれで助かったのは事実だしあまり強くは言えねぇんだがな・・・」
「でもでも、もう無茶はしないでくださいっすね!!」
「はいはい」
周りを見渡せば見たことのあるような面々。
何でも屋の皆や今までに依頼に来た国民。
フルプレートの男たちに皮剥ぎ。
・・・皮剥ぎ!?
「な、何であいつがまだいるんだ!?」
「あぁ、今捕縛術式を入念に組んでいるらしいっす」
「へぇ・・・」
捕縛術式ねぇ・・・本来は一人で詠唱するものだが、相手が相手だけに複数人で重ね掛けしているらしい。
魔法で作られた檻の中で、空間に浮かんだ魔方陣から出た光の鎖に縛られている皮剥ぎが見える。
顔は下を向いていて見えない。
意識は・・・無いんだよな?
「おや?お目覚めになられましたか!!」
「おう、隊長」
「見ての通り、現在捕縛術式を組んでいる最中でして!!」
「おぉ・・・凄いな・・・これは・・・」
近くで見ればわかるが、だいぶレベルの高い術だ。
それをこんな数用意するとは・・・さすが王国騎士団、っと言った所か。
「もう移動するんですか?」
「はい!!今は最終段階ですな!!少々お待ちを!!」
「どこに移動させるんですか?」
「取り敢えずは、情けない話ですが、我が国では、このレベルの犯罪者を収監できる収容所がございませんので、少し先にある二コスタリアという国にある魔導収容所に収監します」
魔導王国、ニコスタリア。
魔導王国という名前だけあって、魔法の技術力で発展した国。
国王のほかにそれぞれの属性においてトップレベルの技術力を持つ魔導士達、8人と、それらを束ねる『大魔導』と呼ばれる人間が統治すると言う変わった国だ。
噂によればこの国の魔法技術の殆どは大魔導が発展させた物だと言う。
これから皮剥ぎを収監する収容所、『鎖の螺旋城』と呼ばれる収容所もこの大魔導が作り上げた物だと言われている。
「そんな遠い所まで・・・ご苦労様です」
「いえいえ、これも国の、果ては世界のためですからな!!」
「・・・あが」
「!?」
「アンダー殿!!離れて下さい!!」
「アンダアアアアアアアアアアアアアアア!!」
ガシャンと大きな音を立てて皮剥ぎは両手を拘束されたまま檻に頭を打ち付ける。
ちょうど目の前に立っていた俺の顔の位置にその頭がある。
「拘束を強化しろ!!急げ!!」
「アンダー!!」
「な、何だよ!?」
「俺はなぁ・・・へへへへっ・・・お前の顔、覚えたぜぇ」
瞼が剥がれかけた瞳で皮剥ぎは俺を見つめる。
「か、仮面は着けているはずだが?」
「そうじゃねぇよ・・・俺は『強欲の罪人』、皮剥ぎのカイだ。覚えておけ。また逢う事もあるだろう」
「答えになってねぇよ!!何なんだ!!それ!!」
何だ?強欲の罪?
何の話をしているんだ?こいつは。
「お前はな・・・俺と同じ臭いがすんだよ・・・」
「な、何を・・・!?」
「さっさと連行しろ!!術を常に掛けながら移動するんだ!!」
「じゃあな!!また逢おうぜぇ!!」
「あ!!おい!!」
皮剥ぎは俺に何かを囁いてから騎士団に連行されて行ってしまった。
「アンダー?」
「あぁ、リフィル・・・」
「大丈夫っすか?まだ具合が悪いんじゃ・・・?」
「いや、そんなことないよ。ありがとう」
まぁ、今は気にしてもしょうがないだろう。
それよりも。
「よっしゃ!!アンダーも起きた事だし、宴にすっぞ!!」
「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」
いつの間にか酒の準備をセッティングしていたロネースルと酒場のおっちゃんがグラスを片手にはしゃいでいた。
そうだ。俺はこの皆を救えたのだ。
俺自身もまだ生きている。
今はそれだけで良いじゃないか。
俺はリフィルの手を引いてその宴へと飛び込むのであった。