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神様、一歩踏み出す

「おはようございます、カ……ミル様」


 ん、んー。

 優しい声と共に、私はゆっくりと目を開けた。マールさんの声は優しくて、聞くだけで心が落ち着く。


「おはようございます、マールさん」

「よく眠られたようですね」

「はいっ」


 たくさん食べて、たくさん話して満足した私は二人と別れた後すぐに眠ってしまった。

 お腹がいっぱいで食べられないという感覚はなかった、それが神様の体で食べて寝るのは太るとか気にしなくていい、といってくれたのはガンツさんだ。ある意味食べ放題の体だけど燃費悪いよね。

 食べる行為そのものと、他愛のない話に満足して心が満たされたんだと思う。


「心が満たされるのは良いことですね。どうしても元々人であった神は感情があります、心の安定は最優先事項の一つです」

「それだと人から神様になった人は、大変じゃないですか?」

「はい。ですから人から神になった者は、定期的に入れ替わることが多いのです。神は……このお話はまだ早いかと」


 マールさんは素直に、早いのではないかと私に告げてくれた。

 まだ何も知らないに等しい私に、知識を詰め込まないようにしてくれる。

 ありがたい話だよね。

 ラノベとかで、問答無用でこうしろああしろとかいわれる展開とか見かけるけど、私の歩調に寄り添ってくれているのは純粋に嬉しい。


「お食事ができたということは、動くことも問題ないと思われますので、本日はこの神の世界を創造する神に会っていただきます」

「神の世界を創造する神って、神様の中の神様ですか?」


 それだと統べる神とか呼ばれてる人より偉いのかな?


「いえ、統べる四人の神が神のいただきに立つ者です……説明は説明してくださるようなので」


 そういってマールさんはにこやかに微笑みながら、私に手を伸ばしてくれた。

 立ち上がる手伝いではなく、行きましょうという合図だった。







 とりあえずジャージ姿は却下された。

 神の国では目立ちすぎてしまうから、というのがマールさんの言葉だった。

 私が着ているのは、最初に見たマールさんの服と同じで、真っ白なローブ姿で、髪はなぜかポニーテールのように結ばれている。前はショートカットだったから、髪を結ぶのがなんだか懐かしい。

 そうそう、髪の色も目の色もすっかり変わっていて、これぞ異世界人って感じだった。

 髪の毛も目の色も葉っぱに近い色で、もう少し薄くした色合いになっていた。マールさんの瞳の色にとても近い。背も前は150cmだったのに、165cmまで伸びていて少し細身の体型になっていた。前も太ってはいなかった、というか栄養不足だったかもしれない。よく職場でお菓子もらってたなぁ、食べてって心配されたんだよね。その前に、給料日一週間前は大体もやしで生きてるっていったからかな。だってもやし近所のスーパーで、1袋10円セールしてることがあったんだもん。

 脱線脱線。

 で、マールさんに少しだけ話を聞くと、元々「カスティア」という人は、体をよく動かしていたので無駄のない体つきをしていたらしい。とにかくよく動かれます、とマールさんが笑顔を浮かべながらも眉間にしわがわずかに寄ってたのも見逃さなかった。


「おーーーー!」


 そんな話をしながら神殿を出ると、そこは地平線の端まで広がった真っ白な世界だった。

 雪景色とかじゃなくて、白磁の世界みたいな。

 でも堅苦しい感じではなくて、自然の白が広がるそれはきれいな世界だった。

 空も雲ひとつない青い空が広がっていて、白と青のコントラストが美しかった。

 ところどころに神殿が建っていて、傍に森があったり湖や川があったりと様々だ。


「これが神の国エテルクです。目に見える範囲外にもまだ広大に土地が広がっておりますが、詳細は少しずつお伝えいたします。ではこちらに」

 

 神殿の入り口からほんの数十秒歩くと、そこにはアーチ状の白い扉が建っていた。扉だよね、たぶん。

 扉はないんだけど、なんか潜る予感がする。


「ここを潜れば、様々な神の神殿に向かうことができます」

「これ使えば神様のところに行けるわけですね」

「はい。神の国ではこれを利用します。他の神殿にも同様のものがあれば、移動は可能になっております。行き先を念じるか声に出せば移動できます。どんな神に会いたいか念じるだけでも可能ですが、あまりお勧めはいたしません。必ずしも会いたい神が神殿を空けている場合もありますから、できるだけ連絡をしてから向かうのがよろしいかと。本来ならば連絡もしやすいのですが……」

「マールさん、マールさん。説明が長くなってますよ」


 しまったと、口元に手を当てながら頭を下げるマールさん。

 そうじゃないって!


「私が質問したせいですよね、私こそごめんなさい。まずその神様に話を聞いたほうがいいですよね」

「いえ、ミル様は……そうですね」


 言い合っても仕方がないと、マールさんは笑いながら私の手を握った。


「本日は私がご案内いたします。複数の場合は誰か一人が念じれば、目的の神殿に向かうことができますので」

「わかりました!」


 手を引かれながら、心臓のどきどきが止まらない。

 話を聞いたり読んだり書いたりするのと、実際に体験するのは全く違う。

 一生縁のない話だと思ってたんだから、興奮するのも仕方ないよね。


 扉に足を踏み入れて、そして一瞬で景色が変わった。

 瞬く暇もないぐらいの時間に、目を大きく瞬かせる。

 

 潜った先は、これまた真っ白な巨大な箱のような部屋だった。

 その中央には天井から星みたいな粒子を振りまきながら白い布が、天井から垂れ下がっていた。

 真下には同じ材質で作られたと思われる10人ぐらい座れるんじゃないかと思われるソファーがあって、その真ん中には人が鎮座していた。


「近くへ」

「はい」


 人、いや神様だろう。その神様は口を開いて私たちを呼び寄せる。

 不思議な不思議な声だった。

 情感が全くこもっていないのだ。

 でも、機械のように無機質な声でもない。

 しかも男でも女でもない、性別不明だ。


 ただなんか引っかかる、何だろう。

 嫌な予感じゃないのね。


 そんなことを考えながら近づくと、その神様は何の色にも染まっていない、真っ白な神様だとわかった。

 白い髪はソファーの上に泳ぐように流れ、肌も白に近く、白いローブの布もまた長い。

 額についているのは、飾り気のない銀色のサークレットだったけど、その神様にはとても似合っていた。

 そしてなぜか目はずっと閉じたままで、開く気配は全くない。目が見えない神様なのかな。

 神様だから目が見えなくても不便してなさそうだけど。勝手な予想だけどね。


「おかけなさい」


 神様の前に立つと、背後に同じ形のソファーが現れた。

 昨日の服が簡単に着替えられるといい、物が出せるといい神様の力ってすごいよね。

 言われるがまま私とマールさんは座る。


「ふわっ!?」

「どういたしましたか、ミル様?」

「何これ」


 ふわっふわなんだけど!

 座り心地最高だし、こんなのはじめて!


「人を駄目にするソファーだ……」

「相変わらず良い反応をしますね、カスティア。いえ、石動いするぎ 美瑠みる


 呼ばれ慣れた名前を聞いて、私は背筋を強張らせた。

 なんか緊張してしまう。


「忘れていますか、ミル」

「忘れて……ええと」


 思い出すんだ、この神様は何を言ってるのか。

 違う、言ってるんじゃない。

 中世的な声、声って――。


「あ」

「思い出しましたか?」


 淡々と聞き返してくる神様に、私は声を絞り出した。


「私が死んだときに、神様になるっていってくれた……」

「はい、思い出しましたか」


 そうだ、なんか引っかかると思ったんだ。

 はじめましての人じゃない。


「こんなにすぐ会うなんて知りませんでした」

「そうですか。あの時は名を名乗る時間はありませんでしたので、名を告げさせて下さい」


 立ち上がることなく、神様の口が緩やかに言葉を紡ぐ。



「私は神の住まう国の世界を護る神、全ての神を支える神のために存在する神、名をリナアルド・イム・クレイシス。統べる神が一人、カスティア=イスターシアの帰還をお待ちしておりました」

「神様のために存在する神……?」

「リナアルド様は、エテルクの世界を作られた方であり、神の中でも代替わりをしていない神の歴史を知る者であり、まだ神になって日の浅い神を導く者と崇められております」


 長老様みたいなことかな?

 でも世界を作った神様だよね。統べる神より偉い気がするんだけど。


「マールの説明は正しいですが、正しくはありません。私はあくまで神のための住まう場所を提供し、時には神に必要な物を渡します。それが形であるか情報であるか、わかりません。私は「神」がいて成立する「神」であり、人の世に関与はできません。私があなたにできることは、あなたが神の世界において必要な物を用意するだけ。ですから最初に語りかけたのです、あなたは神になるのだと。同時にあなたには願いと神は何をするか伝えなければなりません」


 淡々と感情一つ含まれない説明に、私は息を呑んだ。

 私は神様になると教えてくれた神様は、ようやく私に何をすべきか教えてくれるのだ。




 



貧乏性全開の主人公ですみません。もやし一桁単位のスーパーもあるんですよね。

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