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神様、懐かしい名を呼ばれる




「それでは改めてミル様、何を取り寄せられますか?」

「お米!」


 これ以外は今のところ考えられない、米があれば生きていける!


「米はこの世界にもありますよ。細長い粒ですよね?」

「細長いってなると……」


 タイ米とか外国の米に近い形状なのかな。


「味見してみればいいかもしれませんが、あいにくこの台所に材料がないもので。下界に降りて買出しに行かないといけませんね」

「買いに行かないといけないんですね」

「はい。そもそも食事が必要ではありませんから」


 それはそうだ。

 神様の世界では食事は嗜好品扱いなんだろうし。

 食事に困ったことのある私から見れば、食べなくても済むのはありがたい話。

 でも食べる楽しみがないのは、なんだか悲しいなって思う。美味しい料理を食べているとき、なんと至福な時間を得られるというのだろう。


「月に1〜2回、カスティア様は買出しに行かれまして。私もよくお供をしましたが、ええ。それはもう」


 リュディさんは何か思い出しながら、深い深いため息をついている。

 私は一体神様として何やってたのかな。そもそも神様の仕事かどうするんだろう、疑問は盛りだくさんだ。


「他にも食したい神々が材料を持ち寄ってきたりもしましたね。多すぎる時はパーティーになることも珍しくなかったですよ」

「それは楽しそうですね。とりあえずこの世界の材料はよくわからないのと、馴染みのある材料にします」


 さすがにそこまで挑戦する気はないから。

 あれ、そういえば。


「これ日本語で書かれているんですか?」

「私の目からはこの世界の文字なので、ミル様が読める文字に自動的に変換されているのかもしれません。これも神の力ですね。人の言葉だけではなく、動物など聞こうと思えば生きとし生ける者全ての声を聞けますので」

「便利ですね、でも余計な声も聞こえるとか?」

「それはありません。我々が望めば聞こえる程度です。この紙の文字は、ミル様が無意識に読みたいと願ったからこそ……ひとまず説明は明日致しましょうか」


 疑問だらけで全く話が進まないよね。リュディさんの言う通り、とりあえず私は指を紙の上に文字を書くように動かした。

 するとうっすらと光が浮き上がって、書き終わったと同時に文字が紙に焼き付いた。

 面倒くさいので名前はミルにして、欲しいものは日本のお米10kg(品種は問わない)と書いておいた。そこまでお米は詳しくはないけど、大体は美味しく食べられるし。


「その紙を箱の中へ」


 指示された通り、箱……電子レンジだ、もうそう呼ぶことにする。電子レンジを開けて、中に紙を置いて閉じた。中も円状の台があったし、オーブンレンジ(安)かな?


「あとはその丸いボタンを押すだけですね。場所の指定は必要ありません、適した世界へと転送されますので」

「わかりました!」


 電子レンジの真下についている手のひらサイズのボタンを押して――。



 ちーん。



 とてもとても聞きなれた音がした。紛うことなき電子レンジの音!


「紙が無事届けられたときの音です。大体すぐに鳴りますが、稀に時間がかかる場合がありますね」

「届いていない可能性は?」

「ゼロではありませんが、その場合でも紙が戻ってくる合図が必ず鳴りますね」

「どちらにしても鳴るように……」


 ちーん。


 また音が鳴った。

 返事が来たのかな?


「危険などはありませんので、どうぞ開けてください」

「……どんな物が欲しいのかな」

「そればかりは判断しかねますね」

「リュディさんは味噌汁と交換で何を渡したんですか?」

「そう、ですね」


 考え始めるリュディさん。どうしたんだろう、話したくないぐらい凄いものを望まれたのかな。


「思い出でしょうか」

「思い出?」

「はい。必ずしも物体とは限りません。互いの世界に悪影響を与えない程度の知識や個人間の情報という場合もあります。知識や個人の記憶もまた貴重な形無き財産ですので」


 お金に変えられない知識を差し出すってことか。

 そうなると本当にリュディさんは何を渡したんだろう。


「大切なものを渡したんだね、ご……ううん」


 謝るのはとても失礼だ。

 何かわからないけど、すぐに答えないからとても大切なものを私のために差し出してくれたんだと思う。


 だから、私が答える言葉はただ一つ。


「ありがとうございます!」

「喜んでいただけて良かったです」


 リュディさんは少し泣きそうな顔で、静かに頭を下げていた。

 逆に申し訳ない気持ちになってくるんだけど……。


「ミル様、ひとまず開けられてはいかがでしょうか?」

「はいっ」


 恐る恐るレンジを開けると、そこには懐かしい桜の絵が描かれた便箋が一枚置かれていた。文字らしきものも見えるけど、あれ。

 便箋の下には真四角の色紙とその横にはなぜか黒マジック(太)があった。どういうこと?

 手を伸ばして便箋を手に取って、はいっ!?

 内容に驚いて、思わず手から離してしまった便箋をリュディさんが受け止めてくれた。


「ミル様、どんな内容が……サイン? あの」


 困惑するリュディさんに、私は引きつった笑みを浮かべるので精一杯だった。


 手紙にはこう書かれていた。






 親愛なる「はるさめ先生」へ


 はじめまして私は地球の神の一人で、春の名を持つ神の一人です。

 先生が求めていらっしゃる米は、先生のサインと交換でお願いいたします。


 先生の連載されている「黒猫あずき」のお話がとても大好きだったのですが

 神の一人であるため、感想は死後の世界でなければお伝えできないと考えておりました。


 その先生が別の世界の神となられ、そして「米」を希望されこちらへと先生の字が送られてきたではありませんか!

 ぜひサインをお願いいたします!

 

 あずきちゃんが異世界を駆け巡るお話がもう大好きでして。

 

 また何かご所望のものがありましたら

 我が地球で作成した「箱」をご利用ください。

 

 ちーんという音を懐かしく思われますよう。





 いろいろ突っ込みどころはあるんだけど、どこからどうしようかな。


 はるさめ先生


 それは私がインターネット上で趣味で書いていたときに名乗っていた、ペンネームだったから。

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