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神様、世界の現実に触れる


 それから1週間、私はリュディさんとマールさんから様々なことを教わった。神殿内には書斎みたいなのがあって、そこでマンツーマンで神様の勉強をする。

 本来なら神様になった時点で神の仕事を体に刻まれるはずが、転生に転生を繰り返した私には適用されたなかったので、とにかく学ぶしかなかった。

 ただ普通の勉強とは少し違って、教わったことを書くんだけど覚えたいと念じれば、勝手に体に記憶してくれるらしい。受験時期に欲しかった能力だ。

 それでもリュディさんは本来必要の無い事柄なのです、と説明してくれた。私に申し訳ないと謝るんだけど、それはリュディさんのせいではない。

 そんなことが勉強しているうちに何度もあったので、さすがに私はリュディさんにお願いをした。

 

「リュディさんが招いたことならいいんです、でもリュディさんが悪くないのに謝るのはやめて下さい。あまりいい気分じゃないです」

「ですが……」

「返事は一つだけですよ?」

「……はい」

 

 あまり納得していないようだったけど、私は強引にはいと答えさせた。もしかしたら私が死んだことに、リュディさんが何かしら関わっていて申し訳ないとか思ってるのかもしれない。

 なんでわかるかって?

 だってあまりにも過保護で悲しそうなんだもの。

 でも、今は今だから過去に囚われて欲しくないんだよね。

 今の私はあくまで「ミル」で「カスティア」じゃないから。

 

 そして学んだ結果を元に、私は神様として初めての仕事をすることになった。

 場所は私の神殿の一室で、この間リナアルド様と会った場所にとても似ていた。ソファーではなく白い台座があって、その上に水晶玉のような透明な丸い頭ぐらいの球体が鎮座している。

 この部屋に入るときも、できれば正装でということで長い服を着ている。

 そうそう、基本的に神殿内では気を抜きたいのでジャージ姿で過ごしてました。神様としての威厳も何もないけど、居住空間ですから良いと思いますよ、とマールさんは頷いてくれた。リュディさんは渋い顔をしていたけどね。マールさんに弱いというより、リュディさんより私を理解してくれている。その差だと思うんだ。

 リュディさんも私と同じような白いローブ姿で、ゆっくりと足を進めて台座の前に立った。私もその後を追う。

 

「これが統べる神が定期的に触れるべき宝玉です」

「触ると何か起こるんですよね」

「はい。この世界にとっての異変を感じ取り、それを解決するために統べる神は力を使用します。全ての神の中で、最も適した力を選ぶのです」

 

 この間教わった内容そのままを説明してくれるリュディさん。覚えて入るんだけど、実際に宝玉を見たのは初めてなので、聞きながらうんうんと私は頷いていた。実際に見るのって大事だよね。

 適した神様は自然と呼び出されるし、何も問題なければ問題点が脳内に浮かび上がることもないらしい。統べる神は最終兵器みたいで、基本的には各神様が采配してくれる。

 

 統べる神は滅多なことで力を奮わず、存在するだけで世界に安定をもたらす存在なので気負わなくていいとは言われた。

 勉強の合間に何度も同じフレーズや似たようなフレーズも聞いたけど、私が聞いた感覚だと統べる神は世界の大地に根付き、人が生きるために必要な自然全てを支える存在だと思った。

 統べる神が失われれば、大地は痩せ、空気は濁り、陽は陰り、水は泥と化すようなものですか、と質問するとリュディさんは真剣な顔で頷いた。


 だから誰もが頭を下げる、統べる神が安定をもたらすから、私の帰還を喜んだ。

 

「どのぐらいの期間で触れればいいんですか?」

「大体、世界の時間で1ヶ月に1度でしょうか。ですが、今は触れることを禁じられています」

「へ?」

 

 ここまで来て触れないの??

 

「今はいつ触れても、問題点が浮かぶのです。ですが解決する手段がないもので」

「解決するために神様がいるのに、解決できない?」

 

 とんち問題みたいな答えだ。

 それなら私はなんのためにここにいるんだろう。

 統べる神様の存在意義が失われてしまう。

 

「ミル様の疑問も理解できるのですが、あくまで現状ではですね。数年後に触れるならば問題はないかと思います」

「そんなに!?」

 

 1ヶ月に1回と教えてもらったのに、数年後まで一気に時間が延びてしまった。

 

「ご納得されてませんよね」

「もちろんです。なんのための神様ですか」


 口を曲げてリュディさんに抗議する。力があるのに助けないなんて、そりゃほいほい助けたら行けないと思うけど、そもそも問題点を確認できる力があるのに使えないってどういうことなんだよー!

 

「あくまで「今」なのです。まだミル様が戻られ……ミル様!」


 リュディさんの静止を振り切って、私は回り込んで宝玉に手を伸ばしていた。

 物分りは悪いほうじゃないと思う。だからこそわかってしまっているから、触らないという選択肢は私の中でなかった。

 

「駄目です! 触れてはあなたが──」

 

 だから私は宝玉に触れた。

 

 そしてある程度想像していたとおり、真っ白な閃光が宝玉から放たれて私を包み込んでいった。

 

 ゲームとかでよくある展開に似てたから、想像できたというか妄想力が発達してたせいかもしれないけど。光が鉄板だよね。

 

 光に包まれると何も見えなくて、とにかく真っ白だった。音ひとつない静かな空間。

 これが問題点がない状態なら、問題ないんだよね?

 全く、もう簡単に済む話だったじゃない。

 

 と気楽に考えた私を打ちのめすかのように、突然視界が真っ赤に染まった。そして黒い稲妻のような亀裂が刻まれ、赤から黒の世界へと変化する。

 

 何これ、光ひとつない……。

 

 突然暗黒の世界になって、私は体を震わせた。前をみても、後ろを向いても声を出しても誰も答えない。

 言いようもない恐怖に襲われて、自分の体を強く抱きしめる。

 光ひとつなくて、空気も音もない世界に残される恐怖なんで知らない。1人で暮らしてて静かな夜を過ごしていたけど、それでも虫の声がしたり、隣の人の生活音だってする。朝になれば明るくなるし、全くの「無」の空間は初めてどころか、一生味わうこともなかっただろう。

 

 怖い。

 こんなにも怖いなんて思わなかった。

 でもこれが世界の問題点なんだろうか。

 これをリュディさんは見せたくなかったのか。

 

 わからない。

 こんな真っ暗な空間に一人でいたら、思考も全て奪われてしまう。

 

 怖い。

 

 でも、これが世界の問題点なら。

 

 私が守るべき世界はこんなにも病んでいる。

 

 その現実と闇の恐怖に、私は絶叫しながらその場にうずくまってしまった。

 

 

 

 

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