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神様、素晴らしい約束をする?

すみません、まだ飯になりませんでした。


 私が眠っていた神殿の台所に向かうと、そこにはエプロンを身につけたリュディさんが釜の前に立っていた。

「おかえりなさいませ、ミル様。リナアルド様との謁見を無事終わられたようで。マールもご苦労だった」

「はい、リュディ……様」

 

 歯切れの悪い返事をしたマールさんに、私は小さく首を傾げた。神様の階級制度とか身分とかさっぱりわからないけど、リュディさんのほうが偉いのかな?

 

「リュディさん」

「はい」

「マールさんとはどんな関係なんですか?」

 

 違和感全開でリュディさんに様をつけるマールさん。

 そしてマールさんには敬語じゃないリュディさん。統べる神の下僕は慈愛の神様より偉いかどうかわからない。

 その変もひっくるめて尋ねてみた。声には出してないけど、リュディさんは察してくれたようだ。

 

「私的な内容でも構いませんか?」

「むしろ勉強も教えてくれるリュディさんと、私の身の回りを助けてくれるマールさんのプライベートも知りたいです! でも、その仕事とかだったら、そこは踏み込んじゃいけない内容だろうし、話しづらい場合もあると思うので無理のない範囲で!」

 

 神様が仕事ってカテゴリーに含まれているかわからないけど。

 

「いえ、全く構いません。ミル様が不快に感じられなければ」

「大丈夫です! たとえ恋人同士でも全く問題ないです」

 

 うん、だって美男美女だから問題ない。むしろ素晴らしい目の保養になる。

 すると私のその言葉に、二人は顔を見合わせて笑っていた。


「真面目に言ったんですけど」

「はい、申し訳ありません。私たちはそういう間柄ではありませんよ」

「勘違いをさせてしまい、大変恐縮なのですが」

 

 少し気恥ずかしそうにマールさんは頬を赤らめている。この反応で恋人同士とかじゃないの?

 

「マールは私が人間として生きていた頃に生まれた娘になります」

「娘……えーーー!?」

 

 大変失礼ですがリュディさん、子供がいる年齢に見えないよ!?

 あ、でもこの世界では当たり前なのかな。結婚する年齢もずっと若いのかもしれない。

 

「娘さんですか」

「はい、公式の場ではリュディ様と呼ぶのですが、それ以外はお父様と」

 

 だからなんか言いづらそうだったんだね、納得した!

 

「現状で神の身分としては、私はマールより下ですが、父親であることには変わりないもので」

「ミル様がもう少し落ち着かれてからお伝えしようとしていたのです」

「むしろ話してくれてありがとうございます。変な勘違いし続けちゃうんで」

 

 ただならぬ仲=恋人同士って勘違いしてしまう私の安直な考えもどうかと思うけど、あまりにも親しいと勘違いもするよね。職場でもよくそんな噂話好きの女性とかいて、適当に相槌打ってたのが懐かしい。女性は面倒くさいのだ。

 

「ミル様の世界ではそうだったのですね。この世界ではそのような考えはないもので、新鮮なご意見です」

「……マール、それは違うぞ」

 

 眉間に深く皺を寄せるリュディさん。どうやら勘違いしてしまうのは、私の住んでいた世界と同じらしい。

 

「申し訳ありません、ミル様。娘は成人前に神に選ばれまして、その」

「それ以上言わなくてもいいですよ」

 

 マールさんの前ではとてもいいづらいのだろう、私だって言いづらいし。

 慈愛の神様だけど恋愛経験がないのだ。個人的には男性女性という垣根なく人を愛せる人として、変な色眼鏡で見る人よりはいいと思う。

 

「それなら公式の場がどんな場所か知らないですけど、それ以外は親子普通に接してください。私は気にならないし、今気になるのはこれです」

 

 甘い香りを漂わせる炊飯器に、私の目は釘付けになる。時間が経つに連れてお米の炊けるいい香りがするのね。リナアルド様と会って緊張していたみたいで、落ち着いたらお腹が空いてしまった。精神的な空腹で実際の体は減ってない。こういう時どんな言い回しすればいいか悩む。

 

「リュディさんが炊いたんですか?」

「はい、ご飯の炊き方を教えてくださいましたのでしっかりと米に水を吸わせてから炊きました」

 

 素晴らしい、リナアルド様が食べたいって言ってたからタイミングはばっちり!

 

「ミル様、なぜお父様が米を炊いているとはお考えになりませんか?」

「私の空腹を察してとかじゃないです?」

 

 あ、いけない。お米の匂いに負けて、どうにもこうにも都合のいい答えしか返さなかった。そんなわけないよね。

 

「一つ覚えておかれるとよいかもしれません。ミル様が強く希望されることがあると、その下僕に声が届くことがあるのです。強く願えば願うほどです。ミル様はリナアルド様の前でおにぎりとおっしゃいましたか、作ると宣言されました。その声がお父様に届いた結果、ひと足早くお米を炊くこととなったのです」

「幸い、ミル様が昨晩私とガンツに米の炊き方を懇切かつ熱心に説明されたので、悩まずに炊くことができました」

 

 そっか、そんなことがあるんだ。

 うっかり考えたら、リュディさんに伝わっちゃうじゃない。これ結構恥ずかしいよね?

 

「年中ではありませんし、何より強く祈ればの話ですから。ミル様が食に対して執着心があるのは、昨晩の話で重々存じ上げています」

「そんなに熱心だったのですか?」

「仕方ないなぁ、マールさんにも……」

「ミル様、そろそろ炊きあがりますので、おにぎりという物に具材は必要なのでしょうか?」

 

 懇切丁寧に美味しかった料理を説明しようとして、リュディさんに遮られる。TKGから教えようとしただけなのに。

 

「塩むすびでもいいんだけど、できたら海苔が欲しいかな。具も色々あったほうがいいから」

「それならばこちらにお書き下さい。炊きあがる前に返事が来れば良いのですが」

 

 リュディさんに渡された紙に急いで具材一覧を書いて、電子レンジに投げ入れてスイッチを押す。

 ちーんと鳴って、なぜかすぐに二回目が鳴った。早くない?

 レンジを開けて返事の内容に目を通して……これ望むものっていわれても。

 相手が定時してきた内容に、私は唸ってしまった。

 

「どういたしましたか? 無理な内容であれば、私が……」

「できなくはないんです。でもこれ」

 

 リュディさんに紙を手渡して読んでもらう。少し考えてから説明をしてくれた。

 

「そうですね、神の仕事は多忙ではありませんが、ミル様は学ばなければなりません。執筆される時間は作れますが、他がないがしろになってしまっては問題が生じます」


 リュディさんの流れるような言葉の羅列に、私は深く深く頷いた。

 

 相手はまたこの間と同じ神様で、望むものはなんと「連載の続き」だった。

 書けなくはないと思うよ?

 終わりは覚えてるし、紙で残すとかすればいいけど、ただ設定資料とか確認できる媒体もない。

 少し話が変わるかもしれないけど、それでもいいのかな。

 その前に神様的にどうなんだろう。

 

「あの、ミル様はお話を書かれていたとか……私も興味が」

「マール」

 

 照れくさそうに頼んでくるマールさんが、ものすごく可愛らしい。読みたいと言ってくれる人がいるのはとても嬉しいし、書き手冥利に尽きる。

 

「ミル様、ここはリナアルド様にお伺いをたててはいかがでしょうか?」

「それがいいかもしれないですね。リュディさんも判断がつかないなら……」

『構いませんよ、息抜きにお書き下さい。ただし神として支障が出ない程度であればです』

 

 頭の中でリナアルド様の声が響き渡る。え、いいの?

 

「問題ないのであれば、ミル様が望まれるならば書いていただければ……」


 中途半端に止まってるから、問題は全くないんだけど覚えることも多いのに大丈夫かな。

 ま、仕事しながら書いてたわけだから気分転換と思おう。

 

 書きますと返事を出すと、またすぐに音が鳴ってあまりのレスポンスの速さに私は驚いたし、リュディさんは少し呆れていた。

 

「こんなに早いのははじめてみますね」

「それだけ待ち望んでくれて……うわーー!」

 

 開けた瞬間、私は叫んでいた。

 当たり前だよ! 叫ぶに決まってるじゃない!

 

 続きを書くと答えれば、定期的に日本の食材を送ると書いてあったから、それはもうありとあらゆる具材がテーブルの上に並んでいた。

 でも一つだけ、ぽつんと中に置かれているものがあった。

 

 それは私が愛用していた中古PCで、貼られているぐったりとした卵のキャラクターシールもそのまま、少し剥がれそうなところも!

 

「ミル様、こちらは?」

「マールさん、これが私の書くための道具と今まで書いていた話が入ってるパソコンという道具ですよ!」

 

 やった、これで執筆できる!

 

 こうして私は連載の続きを書くのと引換に、日本の食べ物を送ってもらう約束を得たのだった。

 

 頑張って書いて、いろんな食材をお願いするぞ!

 

 

 

次回こそ飯テロ。


神様は書けば書くほど食べ物が手に入ることに喜んでますが、果たして見合ってるかはわかりません(笑)


あとリュディには子供がいました。

この設定出したかったので、ようやくかけて良かったです。


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