表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
佐藤天谷の『違』世界事情  作者: 中棚彼方
8/8

7『裏の裏』




 ──友達。


 同胞、同僚、同士、同志。

 仲間、輩、相棒。

 親友、盟友、朋友(ほうゆう)、戦友、友垣(ともがき)

 竹馬の友、金蘭の友、管鮑(かんぽう)の交わり。

 Alter ego、Brother、Soul mate。


 意味は知っている。

 状況を問わず志を絆した者達の名称。

 地位、階級、家族関係、年齢に()らない対等。


 同胞──()()()()なら居る。姉が二人。

 異母兄弟を含めれば、もっと。

 しかしそうではないのだろう。

 血統の繋がりが無くて仲の良い人。楽しい時を共有し、自然と距離が縮まり、手を取り合い時には喧嘩だってあるだろう。それすらも何の隔絶に至らない人。

 友。

 いただろうか? そんな人。


 偶像を見るような目を向ける、羨望と畏れを隠そうともしない民。

 壊れ物、腫れ物のように、安全な遠くで此方を見る騎士、従者。

 恐怖し、気味が悪そうに距離を置く姉妹に父母。

 この呪いのような力と美貌を利用しようと、我が身にしようと、政争の道具にしようと、手籠めにしようとする政敵の形を模した異形共。

 自然と唯一の拠り所となった、生きとし生ける者、生けぬ物、遍く夜を銀光で道を照らす神、ルーナ、セレーネ。


 皆、友ではないのだろう。


 その強さ、美貌、在り方は、疎外されるには十分だったのだろう。

 今の自分(セレナ)は、その環境に身を十六年置き続けた証左だ。

 誰一人としてたった一人の少女と、或いは人間として見ていた者はいない。

 それが当たり前で、それを理解している。

 理解し、貴き血が動力の機械人形になった。

 

 だから、それでも、力ある自分がそんな者達を、神を守れるようにただ直向きに強く在ろうとした。

 しかし。

 

『助けたい、友達を』


 出逢ってから少年の行動を全て見ていた。

 言うことの聞かない、動く事も(まま)ならない。

 周りは鬼哭啾啾(きこくしゅうしゅう)。自分はそんなおどろおどろしい空間に雑多に並んだ檻の中にいて。


『殺すか否かは正気に戻せるか否かを先行してからだ』


 その躊躇いを。


『丸で借り物の力を無理矢理使ってるみたいだ、な!!』


 その慧眼を。


『言ってみるもんだ、言質も取った事だし、余計にアンタを殺すわけにはいかなくなった』


 その決断を。


『おぉーこれで此処ら一帯を更地に変えられるし及第点…………………………ていうとでも思ったかふざけんな!』


 ……ちょっと茶目っ気な所も。


『悪い部分を切り取る。お医者さんみたいにな』


 全て裏付ける、強さを。


 少年が後に伝えた全ては、それを伝える前に行動で示していた。

 誰にも守られた事のないこの機械人形に、なぜ、そうまで。


 なればこそ、何だろう。


 飢えた心に、暖かなコーヒー。

 

『助けたい、友達を』


 はて?

 いただろうか、そんな人。



 今、誰にも踏み込まれる事のなかった少女の()に、小さな熱が灯ろうとしている。

 小さな、もらい火のような、色鮮やかな火花が。



 ▼▼▼




 ──トモダチ。


 ソレは知らない。その存在を。

 ()()()()()()()()()()()は、創造した者の意志によって必要な知識以外を排斥された、故に知らない。

 あるのは飢餓、そしてそれを満たす手段。

 後天的に手にしたその手段を行使しなければ、万物の生命の規律に従って自身は衰退し、(やが)て消えゆくのみ。

 あまりにか弱く、獣の様な己に生きる道は唯一つ。


 喰らって、消化し、糧とする事。


 それが、気持ちいい。


 なぜ気持ちいいのだろう。

 無色透明だった飢餓には理解できない筈のそれ。

 ()()()()()()()()()()()

 その誰かの残滓。

 白紙の絵画へ絵具を描き殴る様に。白いから、透明だから何色にでも染まる、染まってしまう。

 だからソレには理解する必要がない。

 最初から()()()()から。

 誰もそれを咎めない、咎められない。強すぎるその絵具を、極熱を、止められる者はいない。

 それは例え数日前に取り込んだ女の『爛魂()』だろうとも。

 時が至れば、逆に染めてしまうのだろう。


 しかし何故だろうか。何でも取り込めるソレは、だからこそ知らないモノに疑問を呈する。

 トモダチ。

 なんだろうそれは。

 十全に取り込めず、心奥が掴めないあの女が言っていた。


 もしや、口を潤し喉を伝った、温く黒いあの液体。

 ()()()()()()()()()()()()()()を融かした、知らない苦味。

 女から伝わり同調した、あの知らない温もり。

 あれがそうなのだろうか。

 或いは、あの男がそうなのだろうか。

 だとするなら。

 嗚呼、ならば。焦がれるようなこの熱情。

 ()()()()()と、ソレは思った。


 どす黒い筈の()に、(かつ)てのような無色透明な熱が灯る。

 (まだら)な、火炎のような、強い欲が。




 ▼▼▼




 本来交わる筈のなかった(モノ)達が、たった一つを求め期せず相乗し合い、終着点へ至ろうとしている。

 それは果たして誰かの思惑の内か、それを淘汰する埓外か。


 その時は、刻々と近づいている。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ