第一章『プロローグ』
*2016/4/27誤字修正
大きな屋敷がある。その屋敷は瓦付きの漆喰壁に囲まれており、ここ古都金沢の郊外の景観と合って独特の雰囲気をだしていた。
この屋敷の前には半地下のガレージがあるが、決してその上の日本家屋の雰囲気を損ねていない。建設に詳しいものがみればため息をつくだろううまい調和の仕方だった。
この屋敷の正面には二人の門番らし黒い作務衣を着た男性が立っている。いまどき、ボディガードをこうあからさまにやとう家も珍しい。その門を訪れる男性が一人いた。
その男性は高級そうなスリーピースの背広を着ている。おそらく仕立てた背広であり、靴もおしゃれなデザインの革靴である。
しかし、そういった装いをしている男性には余裕がなさそうだった。
その男性はぼそぼそとした声で門番に取次ぎを頼むと、門の中へ案内された。流水式日本庭園がそこにはあり、掛け落としの竹の音が聞こえてくる。
男性は屋敷の玄関には上がらず、わきにある四阿に案内された様子でそこでしばらくまっていた。そこにさきほどの作務衣の男性がやってくるとそのあとをついていって、屋敷の奥のほうの玄関から屋敷にあがった。
男性が案内された奥の座敷にはひとりの精悍な男性が肘掛に腕を置きながら、正座で座っていた。
彼こそは森家宗家である森菊介である。森家の宗家は代々花の名前を宗家襲名時につけることになっており、菊介の名前もそれによるものだ。初代の森蘭丸から続く北陸森家の宗主ある。
一方、名古屋のほうにも森本家があり、これは森蘭丸の伯父や従兄の家系の家柄で、血縁的にはそちらのほうが宗家であるが、力関係は森蘭丸の系譜が宗家として君臨している。
また面倒ごとだなと菊介は内心で溜息をついていた。おそらくだが森家の名声に関わるなにかだろうことがわかる。それはこういう新注に来た分家の富山森家の当主である将成の顔から想像できる。
将成は菊介の前に礼儀を守って座ると、両手をついて頭を下げた。
「この度は宗家に貴重な時間を設けて頂き恐悦至極でございます。」
菊介はいちいち大仰なやつだなと、内心うんざりしていた。森家の宗家として身につけさせられた礼儀作法やものいいは菊介はあんまり好きではない。しかし、宗家である以上それに従わざるを得ない。
よくテレビドラマなんかで悪者役をやってる財閥の宗家なんかは好き勝手なことをしているが、現実の財閥の総帥でもある菊介には権限はあってもそれほど自由な行動がゆるされているわけではない。
「よい。それよりわざわざ将成君がきてくれたということは何かあるんだね?」
将成は頭を上げた。
「はい。富田家の縁戚筋のものが富山三区から自由民主党の党員としてこんど出馬することになっています。」
またかと菊介は思った。森家を縛る二百四十年の鎖。それは富田家の系譜の存在そのもだった。
「わかった、こちらで手を打っておこう。三区か・・・となると立花家の連中をあてればよかろう。立花には富山の家から連絡しておいてくれ。」
「わかりました。」