幸せな青春の1ページ
父 「おい、春奈電話だ」
春奈「は~い」
夜の9時すぎ、家の電話に父がでていた。
私を呼ぶ声は、なんだか機嫌がわるい。
急いで階段を降りて、リビングの電話に向かった。
春奈「誰から?」
父 「・・・知らん。」
春奈「え・・・?」
春奈(電話に出て、私を呼んで、知らんって、変なお父さん)
保留になっている電話に首をかしげながら出る。
春奈「はい、もしもし、春奈です」
透 「あ、遅くにごめん、俺・・・」
春奈「えっと・・・」
透 「あ!ああ、櫻井だよ!同じクラスの!」
春奈「ああ!こんばんわ。なにかクラスの連絡?」
透 「あ、いや・・・えっと・・・」
春奈「・・・?」
電話の向こう側で車が通る音や遠くでヒトの話し声がする。
たぶんコンビニの前?
春奈「櫻井くん?」
透 「あ、ああ。。。明日さ、お前学校来る?」
春奈「そりゃ風邪でもひかなければ、学校は行くよ?」
透 「そ、、そうだよな、うん」
なんだかそわそわしたような声に、私もつられて俯く。
甘酸っぱい期待が、ちょっと頭をかすめた。
春奈「えっと、、電話してきたのって・・・」
春奈(まさか・・・告白とか?ハハッ!まさかね(笑))
受話器の向こうで大型のトラックの走行音が響く
透 「・・・んだ」
春奈「ん?ごめ、ちょっと車の音がうるさくて聞こえなかった」
透 「・・・俺、お前のことが好きなんだ」
春奈「!」
まさかが起きた。
そう、まさかの甘酸っぱい期待通りの言葉。
なぜまさかと思うかというと、彼「櫻井透」は、学校の中はもちろん、
学食のおばちゃんにも人気のアイドル演歌歌手か!
とつっこみたくなるほどモテる甘い顔と性格、スタイルのモテ男子だからだ。
私が彼と、特別親しく話をしたことがないから、勉強と運動ができるかは知らない。
春奈「えっと、、、なんだろ」
をい、なんだろって返事はなんなんだ!自分にツッコミたくなる。
透 「ごめん、突然電話でこんなこと言って」
うん、びっくりした。電話がきたことも告白されたことも。
春奈「えっと、、、」
透 「あ、いや今すぐ返事しなくていい!」
春奈「えっと、ちょっと待って」
透 「え・・?」
春奈「うん、えっと 電話で言われてもなんか、、ね?」
アイドルチックな櫻井くんにはちょっと悪い友人もいる。
外で、電話で告白、なんてなんだか遊ばれてる?とも勘ぐってしまう。
透 「えっと、、、そしたらさ、明日放課後、いいかな?」
春奈「うん、私も聞きたいことある」
透 「うん、わかった。じゃ明日」
春奈「うん、また明日」
部屋に戻っても、なんだかさっきの言葉が宙に浮かんでいる。
透 「・・・俺、お前のことが好きなんだ」
なにかの悪い冗談だ。
私は、クラスでももちろん、学校でも目立つ方じゃない。
成績も運動もなにもかもが平均範囲内だ。
どっちに逸脱しているわけでもない。
これといって目立つ趣味もないし、どこかで名を馳せたこともない。
春奈「なんで、、私?」
私には高校1年のとき、他の学校に少しの間だけ彼氏がいた。
告白されてなんとなく付き合う、というパターンだ。
なんとなく、だから好奇心以上に好きにならなかった。
そのうち、相手が「お前のことわかんねー」とか言って愛想尽かされて別れた。
普通の少女漫画パターンなら、赤面して頷いて。。ってなるだろう。
元カレに告白された時も、彼が私を好きな理由はわからなかったけど、そこそこカッコ良かったから、脳内に叩きこまれた「少女漫画告白されパターン」をなぞってみたら、付き合うことになった。
初めてのデートも、キスも、ドキドキしたけど、幸せ~!という感情とは
無縁だった。
春奈「ああっ!もうっ!わけわかんない!」
アイドルな櫻井くんに告白されたというのに、モヤモヤする自分を持て余す。
次の日(教室)
春奈「おはよう~」
梨花「あ、春奈!おはよう~!」
春奈「ねね、梨花、今日のお昼さ、学食いかない?」
梨花「うん、今日は特カレーの日だもんね!4限終わったらダッシュだね!」
春奈「特カレー、ゲットできなかったら、うどんにしよっと」
梨花「いいね!」
友人の梨花とそんな話をしながらも、目の端っこで教室の入り口を見てしまう。
彼、櫻井はまだ登校していない。
春奈「う~~~~ん・・・」
梨花「春奈、どうしたの?」
春奈「!ううん、なんでもない!あ、もう予鈴だね」
梨花「うん、じゃまた休み時間にね!」
ガラガラ・・・ッ!
閉まっていたドアが勢い良く開き、櫻井が滑り込んでくる
透 「うわっ・・ッ!と、、、セーフ!」
男子A「透、あぶね~!」
男子B「透がギリギリなんて珍しいな」
透 「あ、ああ・・・寝坊したんだよッ」
男子A「遅くまでやらし~ことでも考えてたんだろッ」
女子A・B「え~っ!!」
明らかな男子のシモネタに、櫻井の気をひきたい女子がトーンの上がった声をあげる。頬を両手で包んでいたり、口をおさえていたり。目線はもちろん彼。
透 「んだよ!ちげ~よっ!」
男子B「明らかに、焦ってるな。透、正直に言え」
透 「だからっ!!」
先生「朝礼を始める、そこ静かに!」
お昼休み
梨花「今日ラッキーだったね~!特カレーめちゃおいしかった!」
春奈「うんうん!月に1回じゃなくて、毎週でもいいのにね~!」
学食をでた私と梨花は、ジュースを片手に中庭のベンチにいた。
ふと中庭に面した自分たちの教室を見ると、下級生の女の子3人が
ドアの近くにいる。そのなかのひとりが誰かを呼んでいる様子だ。
真ん中の女子が真っ赤な顔をして、廊下のこちらを振り向き、俯いた。
パッと見、可愛い感じでスタイルもそこそこ。
制服のアレンジも3人お揃いっぽい。
梨花「ね、春奈、あれさ・・・」
春奈「ん?」
同じ方向をみていた梨花も気づいたようだ。
梨花「あれって、呼び出し告白タイムじゃない?」
春奈「え~お昼休みに?!」
梨花「ん~あれ、あの子って確か読者モデルとかやってる・・・」
梨花と二人でみているうちに、クラスから男子が出てきた。
櫻井透だ。
後ろ頭をボリボリ掻きながら、廊下に出てきた透は、ほかの男子の冷やかしに顔を向けている。両隣の女子に背中を押されたその読者モデル女子は、俯きながら何かを透に渡している。
なんだか見ているのが嫌になって、私は目を逸らした。
梨花「あ、、、あ~あ」
春奈「?」
梨花の落胆の声に、どうしたのかと再度見てみると、さっきまで
恥じらっていた女の子は両手を顔にあてていて泣いているようだ。
両隣の女子のうちAは透に怒っていて、Bは慰めている。
梨花「櫻井、やっぱしまた受け取んなかったね、あれ」
泣いている女子の手にはキレイにラッピングされたクッキーらしきものがあった。
春奈「え、またって?」
梨花「ああ、そっか、春奈は知らないだろうけど櫻井、あーゆうの1年ときから全部断ってるんだよ」
春奈「へ?確かすごいモテてるんじゃなかったっけ?」
梨花「うん、中学でも高校はいってもモテ男子代表だね、彼は」
目線を廊下に戻すと、今度は泣いていた子がキレている。
梨花「わ・・・怖ッ!自分に自信がありすぎる子って、キレると怖いね。敵にまわしたくないわ」
春奈「・・・・・(やばい、あの女の子の顔、マヂで怖い・・)」
もし、昨日の電話で櫻井が言っていたことが本当で、本気なら。。。
前みたいに、気軽に「まいっか」とは承諾できない。
あの子だけじゃない、クラスの女子や同級生からも妬まれるだろうし、
いじめの的にされるのは明らかだ。
私が目立っているとか、他の女子より少しでも優れている部分が
あるとかなら、問題はないかもしれない。
だけど・・・・・自分はごく平凡以外、なにもない。
確かにイケメンで、人当たりもよく、おもしろいと思うことはある彼だけど、
たまたま2年で同じクラスになっただけで、まだ私は彼をそんなに知らない。
しかもクラスの皆のフルネームと名前が一致したのは、まだ半分くらいだ。
教室の外では、櫻井が女の子に謝っていた。
女子3人は走るように、その場を去っていっていた。
梨花「よし、戻ろうか」
春奈「・・・うん」
視線を教室に戻した時、櫻井と目が合った。
春奈「・・・・」
強い意志を感じるその眼差しに、しばらく目が離せなかった。
ほんの数秒・・・。
だけど、そこに周りの音も建物もなく、わたしたち二人以外
誰もいないようだった。
梨花「春奈?おいてくよ~!」
呼ばれるほうへ駆け出す。
春奈「・・・・(どうしよう、、、)」
教室
キーンコーンカーンコーン
先生「よし、今日はここまで、来週の試験は・・・」
6限がオワタ。
帰り支度をしていると、近くにヒトが立つ気配がする
何気なく顔を上げてみると、透だった。
春奈「・・・!」
透 「・・・えっと、自転車置場・・・待ってる」
声のトーンを抑えて、小声で要件だけ言った透は、足早に教室を出てった。
春奈(自転車置場っていっても、まだ帰るひといっぱいいるよね・・・)
梨花「ね、春奈?どうしたの?帰ろ?」
帰り支度の手が止まっていた私の顔を覗き込む梨花。
春奈「あ、ううん、ちょっと先生に用があるの思い出して」
梨花「あ~もしかして進路の書類?それ」
たまたまもっていたファイルと封筒を梨花は指差していた。
春奈「うん、ちょっと聞きたいこともあるから、今日は先に帰って~」
梨花「うんうん、じゃ、またあしたね~!」
春奈「うん、またあした」
今週中に提出と言われていた進路希望の書類、希望校は書いたが、まだ出していなくて助かった。
友人といえど、まさか彼に告白されたと言うこともできない。
理由もわからないし、自分の気持ちもまだ宙に浮かんだままだったからだ。
バッグと書類を手にもち、職員室へ向かった。
担任の先生に書類を提出しつつ、希望校へ入れるかどうかなどについてあたりさわりのない話をする。話をしていても、思考は自転車置場にまだ彼がいるか、どうかが気になっている。
再来年の春の問題より、いまの青春のほうが大きな課題だ・・・。
職員室を出て、ふと外を見てみる。
春奈 「あ・・・」
スマホを片手にじっとしているヒトが見えた。
時折吹く風が柔らかそうな髪を揺らしている。
透が待っている。
とたんに心臓がうるさくなってきた。
春奈(わわ・・・ッど・・どうしよう、、何て声かける?)
ゆっくりと歩き出していた足が止まる。
春奈(!!電話じゃね・・・って、私言ったんだ・・・!)
もう一度、外を見ると、今度は透が遠くを見ながら座っている。
春奈(えっと、待たせてる、、、ってことだよね・・。)
ほかのひとに二人でいるところを見られたくないのはもちろん、
答えが決まっていないことと、彼の摘心の告白を少々疑った自分から逃げていた。私は少々の罪悪感を感じながら、昇降口へ急いだ。
来週からのテストに備え、部活動もなく、用事のある生徒以外ほとんど残っていない校舎、昇降口にも誰もいなかった。
ゆっくりと深呼吸をして、靴を履き替える。
春奈「うん、よし、まずは話をしてみよう」
ゆっくりと昇降口の階段を降りる。
少し先を曲がったら、自転車置場だ。
心臓が痛いほど鳴っている。
春奈(えっと、まずは理由を聞こう。それから・・・それから・・・)
自転車の脇に立っている彼が見えた。
夕方の黄金色の日差しが、彼の整った顔を照らしている。
どこからか花の匂いも風が運んできた。
足音に気づいたのか彼がゆっくりとこちらを振り返る。
透 「あ・・・やっと来た」
春奈「・・・・待たせて、ごめんね」
透 「いや、あの俺も急にあんなこと・・・」
春奈(あんなこと、、、とは、昨日の電話のことだ)
後ろ頭を掻いている彼はぎこちない笑顔で、頬も少し赤い。
目線もチラチラとこちらを見るだけで、挙動不審だ。
その姿さえも、たぶんアイドル演歌歌手ゆえの顔だからか、かっこ良く見える。
春奈(まずい、たぶん私もいま、顔が赤い・・・)
そのまま二人とも沈黙してしまった。
放送「下校の時間です。まだ、校舎・校庭にのこっているかたは・・・」
下校を促す放送が二人の沈黙を破った。
春奈「あ・・・帰らないと・・」
透 「あ、えっっと・・・駅まで送る・・・」
透は自転車を出す。
春奈 「・・・うん、ありがとう」
待ってくれたこと、駅までさほどの距離でもないのに、送るってことは、
まだ話をしたいとか、まだ一緒にいたいとかなのか・・な。
自転車を押して歩く彼の横に並び、校門を出る。
駅まで続く遊歩道に二人の影が伸びている。
透 「まだ、、寒いな。」
春奈「あ、うん・・・そう、だね・・。」
透 「あ、ちょっとまってて。自転車持ってて貰える?」
春奈「あ、うん、いいよ?」
透は春奈に自転車を預けると足早に自販機に向かった。
透 「菊池~何飲む~?」
春奈「あ、えっと・・・ッ ココア」
透 「了解!」
あたたかいココア2つを手にもった透が戻ってきた。
透 「はいこれ、手あたたまる」
春奈「あ、ありがとう、えっとお金・・・」
透 「あ、いい こないだバイト代はいったし、俺のおごり」
春奈「・・・・・ううん、悪いよ、おごってもらうなんて・・・」
透 「こーゆー時くらい、カッコつけさせろよ」
きまり悪そうな声に、彼は顔を赤くしながら笑っていた。
春奈(ああっ!もうっ!はにかみ笑顔にほだされそう・・・!)
透 「少し、話いいかな。」
春奈「・・うん」
自転車を止め、遊歩道に設置されているベンチに、間を少し開けて座る。
透 「冷めないうちに、それ・・・」
春奈「あ、うん、イタダキマス・・・ありがとう」
透 「・・・うん」
遊歩道の前を流れる川を見つめながら、次の言葉を待っている。
電話じゃ・・・って言ってしまった手前、再度面と向かって言われる覚悟が必要なのか。
でも、、、答えがきまっていない。
彼のことどう思う?好き?嫌い?興味ない?堂々巡りで出口が見つからない。
透 「・・・あのさ、昨日・・・・」
春奈「・・・うん」
透 「電話でごめん」
春奈「・・・」
透 「電話じゃ、だめだよな。こーゆーことってさ。」
春奈(何か語りだしそうだ。でもこの語り口調が終わったら・・・)
透が飲んでいたココアを脇に置いて立ち上がった。
すでに薄暗くなり、街頭がついた遊歩道。
まっすぐにこちらを見つめる瞳は、私以外映っていない。
透 「俺、菊池のことが・・・高校入った時からずっと、好きなんだ」
春奈「!・・・(二度目の告白)」
透 「俺、あれから眠れなくって、もういちどちゃんと顔合わせて言わなきゃって、、、だから、俺と付き合ってほしい」
ガバっと右手を出された。
春奈「・・・・(どうしよう、この手を取ったらつきあうってこと?)」
透 「・・・・・」
春奈「・・・ありがとう、櫻井くん」
透が恐る恐る目を開け、こちらを見つめる。
透 「じゃあ・・・」
春奈「うん、でもごめん。私、櫻井くんのこと良く知らないから・・・」
春奈(我ながら惜しいことを言っているのは十分わかる。だけど半端な気持ちで答えちゃダメだ)
透 「だったら・・・」
春奈「ね、櫻井くん、理由を聞かせて?その、、、高校入った時からっていう気持の理由・・・」
透は気持ちを落ち着かせるためか、ベンチに座り直した。
じっと前を見つめ、ポツポツと話始めた。
透 「入学式の時さ、俺、菊池の斜め後ろにいたんだ」
春奈「うん」
透 「髪・・・長かったろ・・?」
中学のとき、さほど髪の長さに規則のない学校だったから、髪を伸ばしていた。
肩より少し長い子もいたけど、その中でも私は肘に揃うくらいまで長かった。
でも、しばらくして目立つのも嫌だな、という理由で10cm以上短くしていた。
透 「すごくキレイな髪だな・・って思ったのがはじめ。」
春奈「・・・うん」
透 「隣のクラスだったけど、廊下で合うたび目で追っていた」
春奈(うわ・・・なんか恥ずかしい・・・)
透 「体育祭のときさ、ドッヂボールやったじゃん」
春奈「・・・うん、、、」
透 「自分のクラスの応援って言いながら、菊池のこと、、、応援してた」
春奈「え・・・全然気づかなかった・・・」
透 「菊池に当てないように、ほかのやつ目掛けろみたいなこと言ってた」
春奈「ああ、、、(そうだ、最後まで狙われてなかった・・・)」
透 「でも、最後バウンドしたボールを一生懸命取ろうとしている菊池が、その・・・」
春奈「・・・(確か・・なかなかつかめなくて必死だった記憶が・・・)」
透 「・・・っ かわいくて・・・さ」
苦笑しながら、耳まで赤くして違う方向を向いてしまった透
春奈「いやいやいや、ぜんぜんボール取れなくて、かっこわる!とか思ってた・・んだけど・・っ!」
情けない姿が、このひとにはかわいく見えてたということに、ちょっとびっくりする。
自虐的な私のことばに、顔を赤らめて微笑む透。
透 「俺、なんかわかんないんだけど、目立つみたいでさ・・・」
春奈「うん・・・(自覚ないのか・・・)」
透 「友達にも、お前の彼女は相当かわいくないと満足できないだろとか言われて」
春奈「・・・(そりゃそうだ。こんなに顔面偏差値の高い男子の隣に立つには、それ相応の質が必要だ)」
透 「でさ、俺のなかの相当かわいいっていうのが、、、菊池だったんだよ」
春奈「!」
透 「でもそのあとさ、同じクラスのやつから彼氏がいるとかって聞いて、すげー落ち込んでさ」
春奈「ああ・・・」
透 「なんで俺、すぐ菊池に言えなかったんだろうって、すげー後悔してさ・・・」
春奈「う、うん・・・」
透 「ハハ、、、ちょっとグレた」
春奈「え・・・(ちょっとマテ。まさかちょっとグレた原因が私??!)」
ざっと強く吹いた風が、最後の桜を散らしていく。
透 「2年のクラス替えで、一緒のクラスになったって見て、すげー嬉しかった」
春奈「・・・うん」
櫻井くんは、私が櫻井くんを知らない間に私を観ていた、ということだ・・・。
入学式、体育祭、2年になった時。
透 「その、、前につきあっていたひととは・・・」
春奈「うん、2ヶ月くらいで別れた・・・」
透 「そっか」
春奈「電話で告白されてつきあってみたんだけど、本気で好きには、、なれなかった」
透「!」
びっくりしたように、私を見ている透
春奈「えっと、、たぶん、告白されたことにびっくりして、理由も聞かずになんとなく、、だったの」
透 「・・・」
春奈「だから、愛想つかされた、みたいな。あはは」
たぶん今、きっとすごい情けない顔している。
愛想つかされたってことは、振られているから、ちょっと情けない。
透 「・・・そっか・・・だから、聞きたいことがあるって・・・」
春奈「うん・・・」
視線を落として見たココアはもう、ぬるくなっている。
ふと、前が暗くなった。
驚いて見上げると、間近に透の顔があった。
春奈「!」
透 「俺、菊池のことが好きだ。本気だってことわかってもらいたい」
両肩を掴まれて、この整った顔が間近にあるってのは、心臓に悪い。
透 「ゴミ当番かわりにやってたり、学食のカレーが月イチのたのしみだったり、あと、あと!」
春奈「・・・」
透 「友達の自転車のチェーン直してあげたり、あといろいろほかにも!菊池のこと知っていくうちに」
春奈「(あれ、見られてたのか・・・。特技とはいえないけど外れたチェーン直すのは何故か得意だ)」
透 「でも・・・たぶん菊池は俺のこと知らなかったよな・・・」
春奈「あ、いや、うん、そんなことないよ?その・・・」
透 「ああ、、、目立つ・・からか」
春奈「・・・うん」
透 「でも、みんな本当のオレのことなんて、みてないよ」
寂しそうに俯く透。肩にかかった手は少し震えている。
え、まさか泣いてる?
春奈「うん、ごめん、私もよく知らない」
透 「・・・!なら、さ・・・」
肩にかかった手が更に強くなる
透 「俺のこと知ってほしい。なんでも話すから!俺、菊池がいいんだ!」
うーん・・・確かにイケメンだ。
たぶん天然で、かわいくも思える。
人当たりもいい。
友達も、彼を好きな女子も、たくさんいる。
そんな彼に、こんなにも純粋にまっすぐ、ここまで何度も好きだと言われてしまった・・・。ここで私が彼のことを彼の気持ちと同じくらい好きであれば、素直に頷いて承諾していただろう。
だから・・・
本気には、本気の気持ちで返さないと、寄り添わないと後悔する。
春奈「櫻井くんのこと、知ってから・・・じゃ、遅いかな・・・」
都合がいいことを言っているのは、わかっている。
だけど、本当に彼のことを同級生という以外知らない。
もしかしたら、知ることで私も、今の気持ちより好きになるかもしれない。
それに・・・嫌いでもないから、バッサリと断るのは心苦しい。
透 「いい!全然いい!俺、自分のこと全部、菊池に話すから!」
やば、、、子犬に見えてきた。尻尾を振っているのが見えそうだ。
春奈「そ、、その!友達としてってことからで、いい?」
透 「もちろん!すぐに俺の彼女だって、あいつらにも紹介したいけど、ゆっくりでいい!」
春奈「!! 紹介とか・・・困るッ!」
透 「え・・・俺、菊池と付き合えることになったら自慢したいんだけど・・・」
春奈「いや、その・・うらまれそ・・・(絶対女子からの攻撃対象になるのが目に見えてる)」
透 「?」
春奈「と!とにかくっ!まだ学校では普通の友達ってことでお願い!」
まだ恨まれる覚悟もできてないから、及び腰になるのはあたりまえだ。
がばっと立ち上がり、背の高い彼を見上げて手を合わせて懇願した。
次の瞬間、彼の腕に包まれた。
春奈(え、うそ、、、抱きしめられてる・・・?)
私を抱きしめる透のその腕が、さらに強くなる。
春奈「えっと、、、さ、、さくらい、、くん?」
透 「ごめん、少しだけ・・・」
前に付き合った彼とは、手を繋いだり、キスを交わしたことはあったけど、
強く、思いのままに抱きしめられたことはなかった・・・。
透 「菊池だけだから・・・俺がこうしたいって思うの、ほんとに・・・菊池だけだから」
ああ、ズルイ。ほんとにズルイ。
こんなにまっすぐに告白されて、理由を素直に教えてくれて、
かわいいって言われて、思いのままに抱きしめられたら・・・
顔が熱いし、胸も痛くなる。
ほんとは、2年になって初めて教室に行った時・・・
「菊池、おはよう!よろしくな!」
って、満面の笑顔で言ってきた透に・・・惹かれていた。
だけど、モテ男子であることと、質や世界が違うこととか、
自虐的な自分にまったくの自信は持てず、たまに盗み見していたほどだ。
もちろんそんな僅かな恋心に満たない思いは、誰にも言っていなかった。
たぶん、、、彼のことを知っていくうちに、、、どんどん好きになるのだろう。
今はただ・・・
友達から始まる恋が、お互いに本物になる日が遠くないことを願っている。
Fin
テレビシナリオや映画シナリオを書きたいと思い、いくつか書いてきましたが、まだコンテストや投稿はしたことがありませんでした。
このサイトをたまたま知り、練習と考え、まずは短編をいくつか投稿していきたいと考えています。
甘酸っぱいオリジナルの青春ものから、大人向けシナリオゲーム、ドラマ、映画に挑戦するための一歩です。よろしくお願い致します。