悩めるココロ
「目標、確保ォッ!!」
「拘束、用意します」
「終わったかな?」
「まだ!エリア制圧!」
「了解、散!!」
今日は立てこもり事件の解決の任務に当たった。当日用意したこっち側の人数は俺を含んだ5人。ちなみに俺は指揮官ということで外から見守ってる形になっている。特に指揮をするわけでもなく、現場の判断だけで概ね事件が解決の方向に進んでいる。
チェルは本当に成長している、チェルだけではなくもちろんユリカも。
今日の構成は4人1組、小隊長はチェル、そしてメンバーはユリカ、俺が抜けてすぐに加入した西川という男、最近加入した新人のアイナ。
西川はまだ現場熟れしていないのか、まだまだ甘い、アイナはよくいろんなものを見ている。ユリカは相変わらずの対応力だ、今の奴もなかなか想定外な動きを見せていたが、ユリカは攻撃をもらわず制圧した。
しばらく銃声が鳴ったり止んだりを繰り返ししばらくして
「制圧完了!!」
どうやらこの程度なら俺が出る必要もないみたいだ。
「お疲れ様チェルさん」
「ありがとうユリカさん、ナイスアシスト。アイナもありがとう」
「いえ…私もお役にたててよかったです」
挨拶をかわしてからチェルはこちらまで来て。
「わたし、この程度なら無茶にはなりませんよ?」
やけにいい顔で俺にそう言った
「ばか」
俺は一言いいながら頭を撫でる。
「怪我したら怒るからな」
「…はい」
チェルは頬をすこし赤らめながら言った。悔しいが、可愛いと思ってしまうのはまだまだ俺にも心に余裕があるということか。
「よし、ならユニット8、帰還するぞ…」
俺が言いかけた時だった。
ドン!と大きな爆発音が響いた。
立てこもり犯の実行犯を乗せた移送車が爆発した音だった。
「なん…」
チェルも含めたみんなが動揺を隠せないでいる。もちろん俺も焦りはするが。
「嫌な予感がする、お前たちは固まってその場で待機、俺が…」
「私が行きます!」
チェルは俺が言い終わる前にコンバットナイフとハンドガンを構えて突進する。
「やめろ!武装解除したからといって火器を持ってないとは限らないんだぞ!!」
ぱらぱらぱら…と、小径ライフルの弾がまかれる音がする。そしてチェルは走っているそのままの勢いを生かしたまま前のめりに崩れ落ちた。
「チェル!!お前らそこを動くな!!」
俺は叫びながら獲物を取り出しその場に向かう。
「らぁっ!!」
俺は声を上げながら爆発した車体の残骸を斬った。そして、その機械くずの隙間から何かが飛び出してきた。
「貴様やるな!!」
「お前か…おとなしく捕まってればいいものの」
その正体は今回の事件の実行犯のリーダー格の男だ。
「お前もサイボーグか」
「も?お前はサイボーグなのか。だとすると、民間のエリアで犯罪を起こすと生身の人間の倍以上重い罪に課せられるのはわかってるんだろうな」
「知ってるよぉ、でも、ここの方が楽で安全に稼げるだろ?まぁ、正直カイムの存在はうっとおしいが…」
そこまで言って男はしゃべるのをやめて獲物を携える、仕込みトンファーだ、ただし先端と腕側の部分は鋭利な刃物、武器の選択がなかなかやらしい。
「俺の敵ではない」
そこからはサイボーグ、体をテクノロジーに穢された者たちの戦いだ。
「お前の獲物は、日本刀…か?!」
「そうだが少し違う、俺のはスペシャルだ」
「なかなかの達人技じゃないか!」
この男、ただのチンピラかと思ったがそれなりにできる。かなり卓越した技の持ち主だ。簡単に言えば一刀流の俺に対し二刀流の敵、そしてそれが手と一体化している故に動きが精密だ。リーチが長い相手と殴り合いをしているような気分だ。
「なかなか攻めれないよなぁ、このままお前を殺して、そこにいる奴らも殺して…でも、転がってる女も後ろの女たちもいい女だな、お前を殺して楽しませてもらうぜ!」
「させるわけねえだろ!」
俺が力を込めて相手を弾き、少し距離が生まれた。
「やるなぁ、まぁ、どっちにしても俺が撃った女はなかなか俺のタイプだ、お前を殺せなかったとしても貰って帰るぜ」
男はこれ以上長引くのは不利ととらえたのだろうか、チェルを撃ったであろう仕込みマシンガンを構える。
「これで撒いてジ、エンド金は入らなかったがいい女は手に入る、それで良しとしといてやる。久しぶりに腕の立つやつと戦えたのは嬉しい限りだしな」
卑下た笑みを浮かべる野郎だ。そしてその表情と今の言葉で俺の中の何かが切れた。
「は?」
「あん?……あ…」
俺は瞬間的にバッテリーをオーバーロード寸前まで回転させ、ノーモーションからやつの懐まで飛び込み、薙いだ。
「俺の女に、手を出すな」
一言冷たく言い放ち、更に俺は残った鉄の塊を切り捨てた。
「…チェル!!」
そして俺はそのままチェルに駆け寄った。
「チェル、無事か?」
「う…由貴さん?ちょっと痛いです…」
「すぐに医務に見せてもらおう」
「はい…」
「ユニット8、撤収!今すぐに帰還するぞ、あとは処理班に任せる!!」
それからだいたい小一時間、俺たちは指令所の救護室にいた。
「…それでは、私たちは上がらせてもらいます」
「あぁ、お疲れ様」
俺はチェル以外のみんなを帰らせ、チェルと二人きりになる。
「甘かったな」
俺はひとこと、チェルにかけた。
「そうですね、私もまだまだです」
チェルはベッドの上で、目線を動かさず一言返して、目を閉じた。
言葉はなく、ただ沈黙だけで時間が過ぎる。
それからしばらくして、チェルは口を開いた。
「こんなんじゃ私…また由貴さんのとなりに立てない…」
瞳にいっぱいのなみだを溜めながらつぶやいた。
「どうしてだ?」
「だって、足を引張ってしまったから、もし由貴さんがいなければ私たちは全滅してました、あのサイボーグに勝てる技量は私にはなかったし、皆束になっても勝てないと思います」
「だから?」
「私はもう引退したほうがいいのかもしれません、自分を過剰評価しすぎてました」
チェルはどうあってもひとりの戦士でいたいのだと、俺はその時思った。その上で俺はチェルに言った。
「戦わなくたって、俺の隣にいればいいじゃないか。何も戦うだけが全てじゃない。疲れて帰る俺を、帰る場所で温かく迎えてくれる、それも一つの形じゃないか」
「…由貴さん、それは…」
「そういうことで俺のとなりにいろよ。いきなりやめろなんて言わないけど、そっちに流れていってもいいんじゃないかと…俺は思うけど」
「私、家事すごい苦手だけど、頑張ります…!」
チェルはそう言って、緊張の糸がようやく切れるかのように眠りについた。
そして、とんでもないことを言ったんだとあとから気づく俺自身だった。
そしてそんな会話から一ケ月ほど経った頃、俺は如月に呼び出された。
「どうした如月、任務でもなく呼び出しなんて」
「お前に伝えておきたいことが二つある。ひとつは、お前の恋人…正確には元恋人だったサヤカ・レインエイジを殺害し、お前をその体にするきっかけを作った男、アンダグのことだが、やつは三年前、マフィア間の抗争の際に死亡していることが判明した」
「……なんだって?」
俺は、このアンダグという男を殺すためにこの世で二度目の生を受け、生きてきた。泥水を啜ってでも生き延びる気概でいたのに、これでは俺は何故今、この世にいるのかわからない。それほどに俺は奴を殺すことを目的に生きていた、この手でやつの息の根が止まるのを感じながら殺してやりたかったというのに…!!
「そしてもう一つが元ユニット8のメンバーが復隊する…おい由貴、何処へ行く?
……ちとあいつにはこの話題は刺激が強かったかな…」
俺はあとの言葉を聞かずにその場を去った。
フラフラとした足取りで俺は自室に戻り、鍵をかけて篭った。