閑話 天谷 剛の神隠し
「「師匠はどうやって習得したんですか?」」
修と沃土に言われて俺は修行を思い出しながら左右の脳を分けて使う方法について話し始めた。
「俺の場合は大変だったんだよ。初めは魔素生命と繋がっていなかったから情報も入らなかった。だから………これは話したらまずいかな?まあいいか。これから話すことは内緒だよ。誰かに聞かれてもノーコメントで。君達も俺と話していて変だなとかは感じてはいたと思うけどさ。君達は俺が4年間行方不明だったの知っているだろう」
「はい、栗原先輩から聞きました。その間に魔法を覚えたと聞いたので胡散臭いと思っていたんです」と沃土。
「胡散臭いかそうだろうな。実は行方不明の間、俺はこの世界に居なかった。別の世界に居たんだ。そこで魔法とか武技を覚えてきたんだ。どうやって向こうに行って帰ってきたかは聞くなよ、分からないから。両方とも森と山だったから戻ってきてからは近づかない様にしている。神様情報を調べたけど俺みたいのは過去に3人しかいなかったから問題ないとは思うけど俺に原因があったらまた行っちゃうかもしれないし」
「別の世界ですか?過去とかではなく」と修
「別の世界だよ。過去って?」
「いや、沃土と話していたんですよ。奥さんが現代人なら常識のようなことを知らないのに魔法に関する知識は異常にある。古代魔法人じゃないかとか話していたんです」
「いや過去ではないな。魔素生命も別物だったし、世界の法則とかは同じだったから並行世界とかじゃないかな。全然違っていたけどね」
「違うってどのように違うんですか?」
「まず自然環境が過酷だった。いや、自然環境が過酷と言うよりは文明が未開かな。文明が都市国家を造るレベルで魔法は発展していたけど科学技術とかは全然発展していなかった。あとは人が人間だけではなかった」
「人が人間だけではないって、それは古代魔法人が住んでいたような環境ですか?周りにネアンデルタールとかクロマニヨンとか他の人種がいたような」
「全然違う。う~ん……向こうでは知能がある程度有って魔法が意識的に使えれば昆虫だろうが爬虫類だろうがみんな人と呼んでいた。人として種類が多いのは鳥類と哺乳類だったけど個体として強かったのは両生類と爬虫類かな彼らは生きている限り成長するからね。まぁ、生きるのに適する環境が違うからあまり接触はなかったけどね」
「それはSFか何かに出て来るような環境ですね」
「そうだよ。だから生存競争が激しいんだ。魔法を使えるのは必須だからまず魔法を一通り使える様にする。その後で左右の脳を分けて別々に使うのを習得したい奴は鍛錬する。方法はアイテムボックスに何か入れながら魔法を使う。アイテムボックスを使うのは失敗した時に他者から分かり易くするためだ。向こうの世界は魔法を使える様になるのを優先する。こちらの世界はそんな必要はないから君達みたいなやり方の方が良いんじゃないかな。日本が特殊なのかもしれないけどさ」
「行き成り飛ばされてよく生き延びれましたね」
「飛ばされてすぐに聖職者の一族に保護されたんだよ。シイャンはそこの出身さ。それでこちらに戻ってから分かったんだけど聖職者の一族は古代魔法人の子孫なんだよ。だから娘ができたんだよね」
「どうしてそれが分かるんですか?向こうで進化したかもしれないのに」
「いや近縁の種がいないんだよ。全然。古代魔法人は向こうに家畜とかペットも持ち込んだみたいだけどみんな種として孤立していた。向こうでは気にする人はいなかったけどね。家畜なんかは人間以外の人にも広まっていたし、新しく家畜にした動物もいた。犬はあと少しで人になると思われていたな」
「近縁の種がいないってどういうことですか?」
「理由は分からないよ。だけど地球なら犬だったら狼とか狐とかいるし、猫でも山猫とか虎とかいる。それが周りに全然いないんだ。地球の馬みたいに野生種が絶滅したとかも考えにくい、自然は豊かだからね。向こうの人間以外の人は自身の近縁の種のことを人になっていない近縁とか呼んでいて住むのに適した環境も似ているから周りにいるしね。向こうの人は知能がある程度高くなった近縁の種は従僕にしていた。あと俺みたいな人が時々現れるのを知っていて現れると聖職者の一族のところに連れて行って家畜と交換しているんだ」
「でもそれは他所から移り住んで近場に居ないだけではないんですか?」
「いや近縁の種は俺が向こうで疑問に思った切欠でね。向こうの人に聞いたり聖職者の魔素生命の情報を調べたりした結論が聖職者が別の世界から来た人の子孫だということで。向こうの人の記憶では『ある日、人間が集団で現れて集落を造った。人間が家畜を飼っているのを見て自分たちも家畜を飼い始めた。人間が集落の周りで実のなる植物を育てるのを見て自分たちも実のなる植物を育て始めた』となっていて、聖職者の魔素生命もその頃に造られたみたいで記録も同じ時期に始まっていてそれ以前が無いんだ。向こうではだれも気にしていないけどね。他の世界からも色々来ていてその子孫がいるみたいだから向こうでは普通の事なんだろう」
「それでこちらに戻ってから調べて彼らが古代魔法人の子孫だと分かったわけですね」
「まぁ、向こうに自由に行けるわけでもないし証明は出来ないけどね。俺が嘘を言っていないのは分かるでしょ。俺が調べた限りではこれが事実かな。あとこちらに戻って新しく気付いたことがもう一つある。沃土君は最近地球で魔法が使えない期間の事を魔素乱流期と呼んでいるよね」
「はい、古代史マニアも古代史の研究家もそう言い始めていますから」
「その魔素乱流期の始まりと終わりの前後に向こうの世界と繋がりやすいみたいなんだ。向こうの聖職者の始まりは地球で魔法が使えなくなったあたりみたいだし、俺が向こうに行って戻ってしばらくしたら魔法が使えるようになっただろう?だからまだ当分は向こうに飛ばされ易いと考えているんだ」
「当分は飛ばされ易いってどのくらいの期間ですか?」
「俺が神様情報を調べた限りでは前後千年ぐらいだと思う。あと向こうに飛ばされる注意も必要だけど。向こうから飛ばされて来るものによっては結構大変なことになりそうでさ」
「大変てどんな事を想像してますか?」
「動物が来ても騒ぎになるけどそれは新種が見つかったとかその程度だと思う。でも向こうの人が来たらどうなると思う?宗教によっては悪魔だとかなんとか言うレベルで違う人もいるんだよ。1人や2人ならともかく古代魔法人が向こうに行った時みたいに集団で来たらどうするの?」
「それが簡単に起きるようなら8万年前も飛ばされてきて痕跡ぐらいはあるのではないですか?」
「いや以前はこちらが氷河期で魔法も使えなくなったし向こうから人が来ても環境に適応できず魔法も使えずで死ぬか衰退するかだったと思うんだけど。今回はどうなるかな魔法は使えるし、温暖な環境だ。それに衰退はしていても向こうに行った古代魔法人の様に子孫が生き残っている可能性はあるから注意しておいた方が良いと思うんだ。出来れば味方にしたいからね」
「因みにどんな形態の人がいたんですか?会って人と分かれば良いですけど注意していても分からないと対処できませんよ」
「両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類なんかの人は個体の知能が高いのが特徴だから分かりやすいんだけど。虫や植物の人は個体では見ても全然分からない。俺が知っている虫の人は蟻や蜂と同じ感じで群れないと知性も何もない感じだった。一度彼らの縄張りに入って大変だったことがある。だから、君達も蟻とか蜂には注意してね。虫の魔素生命とかがいたら向こうの人か子孫かもしれないから気を付けてね」
「虫の人とかはどんな魔法を使うんですか?想像が出来ないんですが」
「大抵は自分の持つ機能を強化する魔法だよ。これは俺達と同じだ。ただ虫は毒とか酸とか持っているだろう。蜂だと針も持っている。それらを強化するんだよ。それと群れで一つの個体みたいな感じで3匹ぐらいで一つの意志を造る感じなんだよ。だから一人の人間から200ぐらいの魔法を仕掛けられる感じで普通はこんなの対処できないよ。縄張りから出れば向こうは満足するから逃げればいいだけなんだけどね」
「それって人間の集団でも出来ませんか?」
「無理だね。虫の人の場合は群れで一つの意識とたくさんの意志がある。虫の人は魔素生命と女王が重なって一体となっている感じなんだ。俺が遭遇した虫の人の感じだけど蜂の女王の生体魔法回路が魔素生命になって他の蜂と繋がっている感じかな。これについては術師の一部が研究していたんだよ。俺達と明らかに違う魔法だから何か応用できないかって、応用の結果が式神とか使い魔なんかなんだけど人間同士では上手く行かないみたいなんだよ」
「上手く行かないって………なんで?」
「ある程度の差が無いと互いに繋がっても使役することが出来ないみたいなんだ。蜂なんかは女王蜂と働き蜂では全然違うからね。人間はそこまで個体差が無いだろう?それに他人と体験情報を共有することになるんだ。死んだ後ならともかくリアルタイムでそんなことしたいかい?繋がっている間は情報も互いに遮断できないんだよ。俺なら我慢できない。試したかったら使い魔の魔法を習ったときに遣ってみたらどうかな」
「それは遣りたくはないかな。 植物の人とかはどんな感じですか?」
「植物の人はね。花畑とか森全体に意識がある感じなんだよ。木なんかだと寿命は千年単位がざらだし、草だと枯れても根っこは生きてたりするだろう?それで感覚自体が動物とは違うから意思の疎通自体が困難で分かるのは好かれているか嫌われているかぐらいだった。でも理由は分からないんだ。普通の植物でも動物の嫌がるような匂いや化学物質を出したりするだろう。あれを魔法で強化したりするんだ。嫌われたら森には一歩も入らない方が良い。無理に入ると致死性の毒とかが周りに漂うことになる」
「なんか神話に出て来る精霊みたいな感じですね」
「俺は地球にも精霊みたいなのがいると思っているけど、魔法が使えなかったから今まで何もなかっただけじゃないかな。虫の人も地球産の種がいてもおかしくはない。俺は魔素乱流期が無ければ地球も向こうと同じ様な世界になったと思っているんだ。ただ気になっているのは向こうの世界の方が魔素が濃かった気がするんだ。戻った当初は魔法が使えなかったし、魔素生命との繋がりも認識できない状態だったから勘違いかもしれないけどね。でも勘違いでないとすると魔法に何か影響があるはずなんだよ。戻ってきたのが魔素乱流期が終わった後だったら分かったのに………」
「データボックスの情報で違いが分かるのでは?それと向こうの世界の方が魔素が濃かったら何かあるんですか?こちらの世界でも多少の濃淡はあると思うんですけど魔法は普通に使えているのではないかなぁ」
「蓄積されている情報はあくまで脳が感じた情報だから状況が変わって時間に差があると比較しても違いが良く分からないんだよ。それと魔素が濃い方が魔法が使い易いと言うか効きが良くなると言うか、同じ効果を出すのが楽になるはずなんだ。魔法は魔法回路を使って魔素の流れを擬似物力に変換するだろ。魔素が濃いと魔素の流れが強くなるからその分だけ擬似物力も強くなる。向こうではもう少し魔法を使うのが楽だった気がするんだよなぁ。2年ぐらい魔法を使えなくて鈍った可能性もあるから何とも言えないけどね」
「魔素が濃いですか、逆に魔素が薄かったら………魔法が使えないだけか。どのくらい魔素が薄くなると魔法が使えなくなるんでしょうか?」
「それは俺には分からない。戻って来た時も魔素が薄くて魔法が使えなかったのではなくて魔素の流れが分からなかったから使えなかったんだ。だから魔素乱流期と呼ぶんだろう?魔素が薄かったら魔素希薄期と名付けたはずだ」
「へぇ~魔素の流れが乱れて魔法が使えなかったんだ。知らなかった。沃土は知ってたの?」
「俺はネットでその手の話は読んでるから知っている」
「最後にもう1度だけ言っておくけど。異世界の話についてはまだ栗原君と君達2人にしか話していない。俺が良いと言うまでは内緒にしておいてね。暫くは血筋を整える魔法の関係で手一杯で異世界の事で人が来ても弟子を増やせないから。まぁ、1年ぐらいは無理だな」
ここまでは俺がまだ日本政府とは関係が何もなかったころの話だ。
この後、俺は大学に囲い込まれてすぐに日本政府に囲い込まれることになった。
異世界の話はまだ公表されていない。