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日常・新人教育

 大変遅くなりまして申し訳ありません。それでは、今回もお付き合いください。

 ~エト~

 クォージュの街から歩く事一時間程の森。

 街道から道をそれただけの比較的安全な区域に、今日もレラの声が響いていた。


「鋭き風、早き刃・・絶てよ風刃!」


 言霊と共に振り払った右腕から走る風の刃は目標にしていた岩に命中、僅かな傷を付けて消えた。


「う~・・・、失敗しなくなったのは嬉しいですけど、やっぱり威力不足です」


 自らの魔法で刻んで岩の傷を確かめ、レラがガックリと肩を落とす。


 俺も近寄って確かめてみるが、傷の深さは1sn(セミナトル=1cm)程であり、この岩の強度を考えれば確かに威力不足であると言える。


 魔獣種の中には弓矢所か剣を弾く程の外皮を持つものも存在しているのだし、剣という物質に頼らない風の刃であれば、せめてこの程度の岩は両断出来なければ及第点にも及ばないのは確かだ。


 まぁ、適性を知って僅か4日である事を考えれば、大した上達ぶりではあるのだが。


 ふむ・・、確か、この世界に置ける魔法に必要なものはイメージだったか・・。


 魔法資質の確認に辺り、神官から聞いた魔法の概要を思い出しながら、俺はレラが的にしていた岩の前に立った。

 斬撃の範囲内に入らず、尚且つ斬撃の様子がよく見える場所にレラを立たせ、抜刀の構えを取る。


 そして小さく呼気を吐くと同時に踏み込んでレヴグロウを抜き放った。

 踏み込みと腰の回転、それらに伴う重心移動と言った要素が込められた抜刀は、消して柔らかくはない岩を一刀の下に両断する。


 上部がずり落ちた事で覗く断面を見てみれば、鏡の様な・・とは行かないまでもそれに近いレベルにはなっており、俺としてはまぁ、及第点と言った所か。


 とは言え、未だ修正すべき点も多いのは自分でも解っている故、慢心は禁物だが。


 そんな事を考えながらレラに視線を向ければ、自分が風の刃を何度放っても切れなかった岩を簡単に切断された事に驚いたのか、目を見開いて固まっているのが見て取れる。


 その様子に小さく苦笑しつつ、今見たものをイメージしてみたらどうだと提案する。


「あっ、はいっ! やってみます!」


 元気よくそう答え、暫くイメージを固める様に目を閉じるレラの様子を、再び距離を取りながら見守る。


 余程集中しているのか、小さく「うむむ・・」と声が出ているレラに苦笑しそうになるがそれを噛み殺してみていると、やがてイメージが固まったのか目を開き、左の腰元に右手を添えた。


「鋭き風、早き刃・・絶てよ風刃!」


 成程、よりイメージを確実なものにする為に、俺が見せた抜刀を真似た訳だ。

 そしてその行為は確実に実を結んだ様で、今度は的にした岩の半ばにまで到達する傷を刻んで見せる。


 それに悦ぶレラに小さく苦笑しつつ、やはりな、と思う。


 つまりはイメージの問題であった訳だ。

 俺の様に刀術を学び、『斬る』と言う行為に慣れた者と違い、レラは根っからの村娘である。

 当然、『斬る』と言う行為には経験がなく、イメージも湧かない。


 女戦士として戦いに出た経験もないのだから、薬師見習いと言う職業も手伝って精々が『包丁で食材を切る』程度の経験があるだけだったのであろう。


 即ち、それこそが原因だったのだ。


 『斬る』と『切る』では当然意味合いが異なる上、それらを元に構築されたイメージにもやはり差異は出てくる。

 早い話、包丁で岩を『切る』事は出来ないが、刀術を用いて『斬る』事は出来る。

 その違いである。


 明確なイメージとしてそれを構築出来なければ、当然、発動した魔法の威力もそれに準じたものになるのは自明であると言えよう。

 一度イメージを掴んでさえしまえば、後は練度の問題だ。


 術識の構築を繰り返す事でイメージの精度を上げ、発動を繰り返す事でより早く、正確に扱える様にして行けば良い。


 そして、この点に関してレラは明らかに優秀だ。

 下手なプライドがない分、自らを高めると言う行為に疑問を持たないのだ。


 何かを修練する際、確かに才能と言うものは必要ではあるが、時としてそれは最大の足枷ともなり得る。

 自らの才を過剰視する余りに、それを磨くと言う事を怠ってしまう。


 俺の場合は身近に阿鷺荒斗と言う高過ぎる壁が居た為に、自らを過信する余裕等生まれなかったのだが、それとは違い身近な壁と言うものが存在しないレラにとっては、飽くまで自らを律する以外に方法がない。


 その点で言えば、資質の問題もあって在野の使い手が少ない魔導師でありながら、自らを高める事を怠らないレラは間違いなく優秀であると言える。


 事実、俺が見ている前でレラが放つ魔法は段々と洗練されて来ており、この調子でいけば恐らく数日中には実践に出る事も適うだろう。

 ・・・経験を積んだ前衛と組んでいれば、の話ではあるが。


 ともあれ、レラの成長速度は俺の想定よりも格段に速いのも確かなので、そろそろ予定を早めるのも悪くはないだろう。


 この世界に置ける冒険者にはランク制が施行されており、保有するランクによって受けられる依頼が区別されている。


 これは一種の安全装置としての役割を持っており、経験と実力の伴わない冒険者が不用意に実力以上の魔獣や盗賊に挑む等で命を落させないと同時に、それによって引き起こされる二次災害――魔獣を刺激した結果、近くの村が襲われる等――を避ける為のものでもある。


 俺自身も経験がないではないが、力――それが刀剣に代表される武器であれ、魔術(異能含む)であれ――を若くして手にすると、己の力を見誤りやすいのだ。


 そして最初こそ危険性の低い兎や野鳥と言った動物を狩るに留めるにせよ、それが成功していくにつれて増長する。


 『俺は才能があるのではないか?』


 『こんなに簡単に狩れるのだから、もっと強い奴に挑んでも俺なら勝てる筈だ』


 まぁ、こう言った風に調子に乗り出す、と言う訳だ。


 その結果は言うまでもないだろう。

 自身の力量を上回る相手に挑んだ結果、自身の命を高い授業料として支払う事も少ないない。

 加えて、それだけで済むのならば冒険者として最低限の心得である『自己責任』の範囲内で収まるが、倒しきれずに手負いとなり、更には血の匂いで興奮した魔獣が暴れ出す・・等と言う事も決してないとは言い切れない。


 事実、ランク制が導入され、ギルドによる厳正な管理が施行されるまでは、その手の事件が少なくなかったと言う。

 中には、調子に乗った駆け出し冒険者が単身で大規模な盗賊団の拠点に殴り込み、それが原因で警戒された結果、後に予定されていた国軍による一斉討伐が失敗に終わったと言う記録もある。


 翻って俺の場合は、刀を手にした時点で徹底的に兄貴に打ちのめされた御蔭で、分不相応な自信は完膚なきまでに叩き潰されていたから良かったが、そうでなければchainとしての仕事にも支障をきたす様なミスをしでかして居たかも知れない。


 閑話休題。


 このランク制度だが、登録を終えたばかりの駆け出しであるFから始まり、Aまでと言うのが一般的に浸透している内容だ。


 一般的、と言うのはランクとしての最上位としては『S』が存在しているのだが、このSと言うランクは事実上存在しないからである。

 神話や伝説に伝わる勇者や聖者と呼ばれる存在がそれに当たり、言ってみれば一種の名誉職とも言えなくはない。


 要はSになりたいのなら、伝説に残る何かをして見せろと言う事だ。


 無論、そんな真似が簡単に出来よう筈もなく、ギルド創立以来Sランクの冒険者が世に出た事はない。

 あるとすれば、冒険者上がりで騎士団の上位職に抜擢された者の一部が『我こそはSランクの冒険者』と自称するだけに過ぎない。


 翻って俺はどうかと言うと、俺はBランクの上位に当たる。


 各ランクにはそれぞれ上位下位が存在し、そのランクに上がった直後、若しくは芳しい成績を残していない者は下位に当たり、優秀な成績を収めている者は上位と分けられている訳だ。


 当然の事ながら、失敗を繰り返していればランクは下がる。

 ランクが一つ上がるだけで依頼の危険度は跳ね上がる事を考えれば、Cランク以上に上がれる者は極少数なのである。


 対して、討伐対象の魔獣にもそれぞれ危険度に応じた討伐ランクと言うものがあるが、こちらはギルドランクとは少々意味合いが異なっている。


 例えば、俺がユライデ近郊で討伐したアイスベアは討伐ランクA+に指定されているが、Bランクの俺でも狩る事は可能だ。


 この事からも解る様に、ギルドランクと討伐ランクは同列ではない。


 魔獣の討伐ランクと言うのは、危険度の度合いを示す一種の目安であり、実際に戦うに際しての危険度に加え、種族の特性に対する危険度――繁殖力が高く群れを作る、若しくは、繁殖の為に人類種の女性を必要とする等――を加味したものであり、どちらかと言えば冒険者以外――近郊に存在する村や街、若しくは生息域を通る商人等――への警戒を訴える意味合いが強い。


 無論、ランクが上がるにつれて強くなっていくのは変わらない故、討伐を請け負う冒険者としても目安になるのは確かではあるが。


 と、些か話はそれたが、ギルド、及び討伐に関するランクはそう言ったものである。


 翻って、登録から日が浅いレラは当然Fランクの下位。

 これは一種の訓練期間と言って差し支えなく、このランクで請け負う事の出来る依頼はごく限られたものだ。


 城壁内にある店舗同士、或いは店舗から顧客への納品に始まり、城壁外に出て行う依頼で言えば『薬草の採取』か兎等の危険度の低い『野獣の討伐』までしか請け負う事が出来ない。


 城壁内に置ける見回り任務ですら、Eランク昇格しなければ請け負う事が出来ないと言えば、どれほど制限が大きいかが解るだろう。


 これは信用が命の冒険者としては、ある意味妥当であるとも言えるのだが、駆け出しで経験も浅く、年若い故に逸り易い志望者への一種の篩いであるとも言える。


 剣を手にし、冒険者の肩書を持った事で増長しがちな若者に冷や水を浴びせる為のものだ。


 冒険者とは言え、ただ単に魔獣を狩っていれば良いと言う訳ではない。

 商隊の護衛に付く事もあれば、地道な調査が必要な摘発依頼もある。

 それらに際して、見栄えが悪い、地味でつまらない等と投げ出す様では冒険者は務まらない。


 当然、その時々に応じて態度や言葉遣いも変えねばならない以上、学習は必須。

 故に、最初の段階である意味『お使い』とも言える地味な仕事を経験させる事で、それを学ばせるのだ。


 まぁ、中にはそれに耐えられずに止める者もないではないが、そんな輩が居残った所で依頼する側から見れば信用など出来ないと言う事である。


 その辺りはレラも承知しているので、Fランク相当の任務を地道にこなす事で経験を積んでいる訳だが、レラの場合、パーティーを組んでいるのがBランク上位の俺である事もあってある種の特例措置が適応されている。


 『パーティーに二階級以上上のランクの冒険者が居る場合、自身のランクより一つ上の依頼を受ける事が出来る』と言うものだが、これはパーティーを組む冒険者によってある程度左右される。


 詰まり、パーティー内に置ける最高位ランクの冒険者の信用によって変わってくる訳だ。


 当然、パーティー内のランク内訳も関わってくるが、パーティーに存在する上位ランク者が対処可能だと判断される範囲内であれば、一階級所か三階級飛ばす事も不可能ではない。

 まぁ、下手に実力以上の依頼を受けても、その際の恐怖等で精神的に潰れる事もあり得るので、余り大きく飛ばしたランクの依頼を受ける事はないのだが。


 俺にもこれは適用されており、霊晶喚起の特性もあって三階級の飛び級――FランクのレラがCランクの依頼を受ける――は可能だ。


 とは言え、現状のレラを相手にそんな真似をしても、潰すだけにしかならないのは確かである。

 よって、現在は『薬草の採取』依頼をこなしつつ、郊外に出た際に魔術の練習をしているのだが、これだけ進歩しているのであればそろそろ討伐依頼を受けても良い頃あいだろうと判断したのだ。


 俺は基本的に手を出さず、前衛として限定喚起した晶狼一体を配置しておけば、それなりには戦える筈である。


 レラ自身にも確認は必要だが、明日辺りから簡単な討伐依頼に手を伸ばしても良いだろう。

 そう考えつつ、レラに終了の声を掛けてクォージュへと戻る事にした。




 ~レラ~

「はい、薬草の確認が出来ました。10株全ての状態が良好、依頼の達成を認めます。報酬を確認したら達成確認の窓口でプレートを受け取ってください。お疲れさまでした」


「はいっ、ありがとうございますっ」


 笑顔で依頼の達成金――銅貨10枚を渡してくれる職員さんにお礼を言って、報酬を受け取ります。


 たった銅貨10枚、一晩の宿代にも足らない位の金額ですが、やっぱり自分で働いて稼いだお金と言うのは嬉しいものです。

 確りと受け取ってお財布に入れ、たすき掛けにしていたポーチの中へ。


 この鞄、登録が終わって装備を整えに行った際にエト様が買って下さったもので、見た目の大きさの何倍も仕舞う事の出来る魔法の鞄です。

 一番安い『積載量(小)』のこの鞄でも金貨3枚もする高級品で、見た目の三倍も仕舞う事が出来るんです。


 余りに高価な品物なので、当然私は遠慮したんですが・・・


『冒険者を生業にするなら必要なものだ』


 と押し切られてしまいました、はい・・。


 恐る恐る受け取って、使わせていただいているんですが・・・。

 何と言いますか、凄い便利です。


 私はまだまだ駆け出しで弱いですし、素質があるとは言え回復魔術はまだ殆ど使えませんから、当然郊外に出るに当たって回復薬(ポーション)は必需品です。


 幸い、ユライデの村でも薬師見習いをしていましたので、薬草が記された本は要らないのですが、それ以外にも色々と用意しておかないといけないものもありますので、何だかんだで結構な量になってしまいます。


 そうなると、やっぱり重さもそれなりにありますし、荷物が大きくなると動きづらくなってしまうので、重さも大きさも気にしなくて良い魔法の鞄は大助かりなのは間違いありません。


 まぁ、もの凄く高くて性能の良いものと違って、『時間凍結』は付与されていませんから、薬草も採取して時間が経つとしなびてしまうのですが、それはエト様がご指導下さった御蔭で何とかなっています。


 根元で切り取るのではなく、根っこ毎――それも少し土を残して掘り起こして、水で濡らしたタオルで根っこの部分を包むんだそうで、言われた通りにやってみると、掘ってから数時間経ってギルドに戻った時も萎れたりしないで元気なままでした。


 それで凄いなぁって思ったんですけど、よく考えると、採取した薬草を一つ一つ、全部そうやって持っていくと結構な荷物になっちゃうんですよね・・・。


 そう考えると、やっぱり魔法の鞄が必要だったんだなぁ、って思いました。


 ただ、ついそう言っちゃった所、ギルドで買い取りをやっている職員の方は苦笑しながら、


『普通の駆け出し冒険者なら、そんな高いの使えないわよ? だから出来るだけ荷物を少なくして、さっさと採ってさっさと戻ってくるって方法を取るの。レラさんみたいに一株一株処理して、夕方近くに帰ってくる~なんて普通は居ないわよ?』


 と言われてしまいました。


 えっと、やっぱりエト様の御蔭で、私って特別待遇みたいです、はい。

 装備も駆け出し冒険者としては破格のものを貰ってますし、私ってもの凄く恵まれてるんだなぁと実感しました。


 登録してから今日で四日目。

 毎日薬草採取の依頼を受けてきましたが、この四日で稼ぐ事が出来たのはたった銅貨40枚。

 宿屋に泊ったら二日で無くなってしまう金額です。


 ですので、普通は薬草の採取だけではなく、城壁内でのお使いの依頼を一緒にこなしてその日を過ごすお金を稼ぐのが、普通の駆け出し冒険者なのだとか。


 私みたいに、薬草を採ったら魔法の練習をして終わり・・・なんてのはあり得ないんだそうです。


『そうねぇ・・。貴族様の息子さんとかみたいに、スッゴイお金持ちだったりすると、ない事もないわよ? 部下の騎士様を護衛に連れて採取に言って、荷物ぜ~んぶ持たせて帰ってくる~って人も。中には薬草探しから採取まで全部部下にやらせて踏ん反り返ってるって勘違い君も居るけど・・・レラさんはエトさんと一緒だからね~。恵まれた環境ではあるけど、その辺りはキッチリ扱かれてるでしょうし、安心して良いかな?』


 あ、あはは・・どうなんでしょう?

 流石に全部人任せ~なんて事はないですし、自分に出来る範囲で精一杯やってるつもりではいますけど、やっぱりエト様に御頼りしてる部分って結構ありますし。


 なんて言うか、これが私の成果なんだ! って胸を張るにはちょっとって気もします。

 うん、もっと頑張らないと!


 そう、お館に帰った後にだって、私には頑張らないといけない事がいっぱいあります。


 と言っても、お家の事なんかはナルアさんとバンザさんがほとんどやってくれてますから、私に出来るのは御手伝いくらいしかなかったりもしますけど。


 うぅ・・、何だか最近、本当に奴隷じゃなくなっちゃってます、私。


 本当はお家の御掃除だとかお料理、お洗濯、お馬さんの御世話、とかって全部奴隷の私がやらなきゃいけない事なんです。


 なんですけど・・・


『だっはっは。な~に、気にすんじゃねぇっての。第一、オレはその為に雇われてんだぜ? 手伝って貰う位なら兎も角、嬢ちゃんに全部任せちまったらおまんま食い上げになっちまわぁ』


 ってバンザさんには豪快に笑いながら頭を小突かれ、


『良いの良いの。ワタシらはこれがお仕事なんだからね。これでお給料貰ってるんだから、気にしないで良いのよ。第一、レラちゃんだって冒険者始めたばっかりなんだから、色々大変でしょ? お家の事位ワタシらに任せなさいな』


 ってナルアさんには頭を撫でられてしまいました。


 気遣って貰えて嬉しいですし、有難いんですけど・・・。

 すいません。冒険者のお仕事って、今の所そんなに大変じゃないんです。


 どっちかって言うと、冒険者としてのお仕事より、エト様とご一緒させて頂いている訓練の方が大変だったりしてます、はい・・。


 動き易い服装に着替えて御庭を走ったり、腕立て伏せ(?)ですとかスクワット(?)ですとかの筋肉トレーニングって言うものをやったりしてます。


 あ、あと、エト様から護身術って言うのも教わってます。

 何でも、魔術師だからって近づかれない保証はないんだから、せめて身を守れる程度には接近戦には慣れておけ、だそうです。


 それを聞いて、成程なぁって思ったので教えて貰ってるんですが・・。


 ハッキリ言って、これが一番キツかったりしてます。

 いえ、別にエト様が滅茶苦茶な事させてるって訳ではないですよ?

 私の体力ですとか、運動能力に合わせて訓練をして下さっていますので、キツくはあるんですけど何とかついていけてます。


 ただ・・・、接近戦なだけあってエト様との距離が、すっごく近いんです。


 攻撃の避け方、捌き方もそうですけど、投げ技なんてものを教えて貰うには、エト様に密着しなければいけないので・・・。

 緊張だったり、照れてしまったりで、精神的にイッパイイッパイと言いますか、心臓がバクバク言ってるのが自分で解る位です。


 まぁ、それでも自分では真面目にやってる積りですし、エト様からもお叱りは受けていませんので、多分出来ているんだとは思います。


 とはいっても、始めてからまだ四日程ですから、あんまり上達はしていません。

 エト様からも、『この手の鍛錬は、長期に渡って継続して初めて意味を為すものだ。焦らず、気長にやると良い』って言われてますので、毎日真面目に確りと、ですけど気長にゆっくりやって行きたいと思っています。


 そしてもう一つ、やっている事があります。


 それは、お勉強です。

 ユライデの様な小さな村では、簡単な算術所か自分の名前さえ書けないなんて人も珍しくありません。


 幸い、私は薬師見習いとして必要でしたので、文字の読み書きと簡単な算術は教わっていましたが、本当に必要最低限と言った感じで、日常生活に不自由しない程度のものでした。


 ですが、それではこれから先、エト様の奴隷としてお手伝いしていくのは難しいと思いましたので、エト様にお願いして教えて頂く事にしたんです。


 そうしたら・・・。

 凄かったです。

 何て言えば良いのか良くわからないんですが、エト様は本当に色んな事を知っていらっしゃるんだなぁって言うのが良くわかりました。


 私だって、算術は苦手ではないつもりで居たんですが、普通にやったら難しい筈の二桁や三桁、若しくはそれ以上の足し算引き算、それどころか掛け算や割り算まで簡単に、そして正確に出来る方法を教えて下さいました。


 エト様曰く、筆算って言うんだそうです。

 書くものが必要なんで、どこででもって訳には行きませんが、慣れてくればある程度は頭の中だけでも出来る様になるんだとか。


 それ以外にも、面積だとか体積だとか色んな事を教わっています。


 最初はそんなのがどんな事に役立つんだろうと思いましたが、それを覚えているとどの位の荷物がお部屋や馬車に詰めるか、なんて事が大体見当が付けられるんだそうですし、やろうと思えば建物や木なんかの高さなんかも計算出来るって仰っていました。


 何と言いますか、そんな事を当たり前の様に仰っているエト様は、何処かの賢者様なのではないかと思ってしまったのも、無理はないんじゃないかなぁって。


 そうやってお勉強を教わっている時にお話ししてくれた言葉で、やはり印象に残っているのはアレでしょうか。


『知識とは力だ。それがどの様なものであれ、己の道を広げてくれる』


 エト様が尊敬する方から言われた言葉だそうで、実際にエト様はその言葉があったからここまで来れたのだ、と仰っていました。


 私にはそれがどういう意味なのかまだ良く解りませんが、こうやって頑張って行けばその内わかる様になれるのかな、と思っています。


『だからな、やりたい事があったらやってみろ。その経験は、必ずお前の糧になる筈だ』


 そう言って笑ってくれたエト様の為にも、色々頑張って行こうと思っています。

 さし当たっては・・・、毎日の訓練にお勉強、そして冒険者のお仕事ですね。


 よぉ~しっ! 明日からも頑張ろう、私!


「あぁ、レラ。明日からは討伐依頼も受ける事にする。無論、俺も同行するが心の準備は決めておけ」


 ・・・・はい?

 えと、あの確かに討伐依頼も受けようかってお話はしていましたし、私も了承しましたが・・・・いきなり明日からですか!?


 いえ、エト様が判断されたんですし、今の私でも何とか戦えるって言う事なんでしょう。

 だったら頑張ってご期待にお応えしないとですね。

 うん、頑張りましょう! 


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