99.「あと一秒 ――獣人探索+⑱――」
こぼれ落ちた弾薬を諦めて先を突き進むミズハ。
しかし健闘むなしく、すぐにコウモリの群れに追い付かれてしまった。
手で追い払おうにも数が多すぎる。
「うぜぇんだよ!」
怒鳴ったところで攻撃の手が止んでくれるわけもなし。
回数制限のあるチェーンワイヤーを使う。
しかしそれすらも先端の鉤爪が正常に動作せず。
通常は人差し指のトリガーでワイヤーを巻き取った後、小指のトリガーを引くことで鉤爪が変形して飛び出すのだ。
ところがもう、その機能が働いていない。
必然、鉤爪は木の幹に食い込んだまま外れずミズハの体もそこに叩き付けられる。
意識がぼんやりしてきた中で、無防備な体はワイヤーによって吊るされたまま。
吸血コウモリにとって格好の餌だ。
「死にたくない」
心から強くそう願ったミズハは、右手の拳銃のトリガーを引いた。
発射された銃弾が彼の体を縛る鉤爪を捉えた。
鈍い金属音の後に地面に着地するも両膝をつき、まともに歩ける状態ではなかった。
そこにコウモリ達の容赦の無い狩猟行動。
肉を噛まれ、血を吸われ、手足のつま先から一気に熱が引いていく感覚に襲われる。
それと同時に、噛まれた箇所が痛くなくなっていく感覚もある。
大仕事を終えて家に帰ってきて、ベッドに倒れ込んでからのひとときに似ている。
「これが、死か」
抗うことの出来ないその感覚に身を委ね、ミズハは静かに目を閉じた。
目を閉じたまま、ミズハは再び起き上がった。
全身をおびただしい数のコウモリに噛まれたまま。
鉤爪を狙い撃って落下している時に、彼の瞳があるものの存在を捉えた。
それだけを頼りに彼は立ち上がった。
それだけのかすかな希望が彼の体を突き動かし、ミズハをその場所まで導いた。
やがて本当に力尽きて倒れ込んだ彼の体は、その重みによってえぐれた土と一緒に底の見えない穴へと落ちていく。
今度はワイヤーを飛ばさない。
ただ終着点を目指して落ちていくだけ。
加速していく落下速度。
風圧によって次々と引き剥がされていくコウモリ達。
やがて狭い穴を抜けて開けた空間に出る。
そして見えてきた落下地点。
ドボンと飛び込む一秒前に彼が見たのは、ずっと探し続けていたあの少女の姿だった。