9.「覚えておくぜ ――海竜退治⑧――」
嵐の中で海竜と遭遇し、見事生還した始めての船。
船酔いや揺れの衝撃で船体にぶつかるなどして多数の負傷者を出したものの、誰一人死なせることなく病院に送り届けることができたのは同乗していたハンターの功績が大きいと皆口を揃えて言う。
また一つ名声を上げたミズハを、船で知り合ったゴーガが引き止める。
「あんたのおかげで助かったよ。報酬はこんなもんでいいかい?」
ゴーガが手渡した袋の中には金貨や珍しいコインなどがずっしりと入っていた。
目測の苦手なミズハでも、報酬としては十分な量が入っていることは一目で理解できる。
「いくらなんでも払いすぎだ。半額返す」
ミズハの提案をゴーガは強引に突き返す。
「大の男が一度出した金だ。また財布に戻させるなんてことはさせないでくれ」
この言葉に、ミズハは申し訳なさ気にポケットに仕舞い込む。
「あの時の話がまだ途中だったな」
別れを惜しむゴーガが最後に切りだした。
「あの時って?」ミズハは首をかしげる。
「いいんだ聞いてくれ。俺は今までハンターって奴のことをよく知らなかったし、どうせたいした能力もない若造がかっこつけてやってるだけの職業だと思ってたんだ。だがあんたを見て、ハンターがどれだけ凄ぇ奴なのか肌で実感したぜ」
ゴーガの言葉にミズハは耳がこそばゆくなった。
人に仕事ぶりを褒められることは何度経験しても慣れるものではない。
非常に嬉しいことなのだ。
人差し指で頬をかきながらミズハは忠告する。
「ありがとう。だが俺だけを見てハンター全部を理解するのは早いぜ。俺より優秀な奴はいっぱいいるし、あんたが言う粋がってるだけのろくでなしも多いのがこの仕事だ。そして」
台詞を途中で止めて、溜める。
右手を腰に当ててかっこつけたようにポーズを取りながら続けた。
「そして何より、ハンターもあんたらと同じ人間だ。強いハンターほど依頼主との相性っつーか、絆を重んじる」
ゴーガはニイッと歯を見せて言った。
「そうか。じゃあ今度またでかい仕事が入ったら、その時はあんたに積荷の護衛を依頼するよ」
そこまで言い切ったところでゴーガは思わず罰の悪そうな表情をした。
「おっといけねぇ。命の恩人に向かっていつまでもあんた呼ばわりじゃ運送業者の名が泣くってもんだぜ」
笑いながらゴーガが言った。
「なんだよそれ」ミズハも釣られて笑う。
「ありがとうミズハ。この名前覚えておくぜ」
ゴーガはそう言って、名を名乗ったあの時と同様に握手を求めてきた。
その手を一段と強く握り返してミズハは応えた。
「おう!」