2.「水羽 ――海竜退治①――」
「海が荒れてきたな」
曇り空の下を一艘の中型船が進む。
船員も含めて三十名ほどが乗船しており、船倉に入りきらなかった分の荷物が甲板にまではみ出している。
そこから空を眺めて銀髪の青年がつぶやいた。
その隣でも同じようなことをつぶやく屈強な男がいた。
「また雨かよ、ついてねぇな」
「また?」と青年が反応する。
屈強な男は青年の方を向いて話しかけてきた。
「あんちゃん旅人かい? バレンシアはここしばらくずっと天気が悪いんだよ。嵐に発展する規模のやつもしょっちゅうでさ。おまけに変な霧まで発生してて、そいつのせいで動物が凶暴化してるって話だ」
屈強な男が色々なことを喋ってくる。
その話を横で聞いていた別の色黒の男も話に加わってきた。
「あぁ。うちのかみさんも洗濯物が乾かないってぼやいてたよ」
「ま。そんな天気でも出してくれるような船だから乗せてもらってるんだがな。なんせ俺達の仕事は足が無いと始まらねぇからよ」
屈強な男は親指を立てて、甲板にはみ出してきている荷物を差す。
どうやら荷物を運ぶ業者のようだ。
「しばらく街を離れてる間にそんなことになってたのか」
銀髪の青年が話を続ける。
「俺はハンターだ。ウェールズを拠点に活動している」
ウェールズはこの船が向かっている街の名前だ。
そしてハンターとは一言で表すと「何でも屋」である。
金さえ貰えば何でも依頼をこなすプロの呼び名であり、青年は腰に掛けた二丁の拳銃を見せてみせた。
「へぇ。その若さでたいしたもんだな」
屈強な男が言うように、ハンターの仕事は常に危険と隣り合わせ。
真っ当な人間には容易に務まる仕事ではない。
「仕事は主に化け物退治や護衛とかだ。他にも財宝探しから探偵稼業、飼い犬の散歩まで手広くやってるぜ」
青年の売り込みが始まる。
すると屈強な男が話に食いついてきた。
「へぇ。だったら是非とも退治して欲しいやつがいるんだが、いいかい?」
「もちろん」
「その前に名前聞かせてくれよ。俺はゴーガって言うんだ」
屈強な男はそう言って握手を求めてきた。
その手を握り返して銀髪の青年は名乗った。
「俺の名前はミズハだ」
色黒の男の名前はありません。彼はモブです。