16.「眼光 ――誘いの森の業者救出⑤――」
「ここから先は歩きだな」
バイクを降りて、明かりを頼りに森の中に入っていく。
足元は最悪で、履いてきたブーツはさっそくバイクのタイヤと同じ運命を辿った。
腰には動物避けのための鈴を付けている。
歩く度にチリンチリンと音が鳴り、人気のない森の奥へと消えていく。
しばらく歩くと足元がしっかりしてきた。
茶色だった地面に緑が目立ち始め、点々と赤や青の可憐な花々が現れる。
ちょうどその頃になると木々の隙間から獣特有の視線を感じ取れるようになってくる。
空が寝静まった頃合いに明かりを灯して森を闊歩する人間を、奴等は鋭い眼光で遠巻きに観察するのみ。
その中の一匹が近寄ってきた。
立ち込める霧のせいで視界が悪いが、見えたのは体長四メートルほどのオオカミだった。
「子供オオカミか。じゃあ近くに親がいるかも」
四メートルのオオカミは十分に大人サイズだが、ここでも目測の弱さが祟る。
やや薄汚れてはいるものの比較的キレイな毛並みのそのオオカミをにらみつけながら、ミズハは拳銃に手をかける。
一歩を踏み出すオオカミと互いに視線を外さないまま、静かに引き金を引いた。
「あまり時間と体力を消費したくないんでな」
空に向けて発射された空砲は、対峙していたオオカミを含めたあたりの動物達の注目を一手にひきつける。
あとはその隙に現場を離れるだけだった。
銃声と同時に上がった、若い人間の声を耳にするまでは。