15.「灰色のマント ――誘いの森の業者救出④――」
ハンターを乗せた一台のバイクが暗闇の道を突き進む。
誘いの森が近づく頃には辺りは濃い霧に包まれ、まるで侵入を拒むかのようにミズハの視界を遮る。
それでも大勢の人間を飲み込んだままの森に向かうためマントをはためかせて歩を進める。
街を出る直前にファルにばったり出会った。
ミズハがとっさにマントを羽織ったのは単なる偶然ではない。
連日の雨の影響で肌寒かったからでもないし、彼女がカーディガンを羽織っていたから対抗してみせたわけでもない。
ハンターである彼は全身が武器だ。
両腰には二丁拳銃と、するどい返し刃がついたチェーンワイヤー。
上着のポケットには医療器具のほかに小型爆弾やトラップ用品の数々。
さらには服の中に護身用のナイフとデリンジャーが仕込んである。
明るい未来が待っている十五の少女が見る必要のないものばかりが備わっているこの体を見せないためにこのマントを羽織ったのだ。
それからもう一つ。
このグレーのマントは、二年前のクリスタル事件で知り合った仲間から譲り受けた代物だ。
正確には形見の品でもある。
その仲間は、手を繋いだ者の生命力を上昇させる不思議な能力を生まれながらに持っていた。
そしてミズハ達はその治癒能力にずいぶん助けられた。
あれから二年経った現在も、ミズハは必ずこのマントを持参して仕事に赴く。
「願掛けのつもりか、それとも罪滅ぼしのつもりなのかな…」
バイクの速度を緩めながらぽつりとつぶやく。
雨でぬかるんだ地面にタイヤが取られる。
誘いの森の大きな木々が目の前に静かに広がってきていた。
第4話で『四人の仲間とともに』って一文がありますが間違いではありません。
ミズハを含め五人で冒険していたが、世界中の人々は五人目の存在を知らないだけなのです。と補足しておきます。