14.「心配 ――誘いの森の業者救出③――」
「気をつけてねミズハ。最近は変な霧のせいで森の動物たちも凶暴になってるから」
去り際にソラが声を掛けてきた。
心配性な性格は親父さん譲りだ。
そしてミズハも、船の上でゴーガが話していた『動物を凶暴化させる霧』の事を思い出していた。
「大丈夫だよ」
その言葉だけ言い残してミズハはギルドを後にする。
二週間ほったらかしだったバイクのエンジンを温めている間、ミズハは装備を整える。
「足場が悪くなってるらしいからワイヤーは装備したほうが良さそうだ」
ミズハは自身のハンター装備を三パターン用意している。
二丁拳銃や応急処置器などの必要最低限の道具だけを持って身軽に動ける軽装備パターン。
それにワイヤーによる移動手段や連絡機器を追加して行動範囲を広げる標準装備パターン。
そしてさらにそれ以上、予期せぬ事態や凶暴な動物を仕留めるために遠距離用ライフルなどを持ち歩くフル装備パターン。
状況によって多少変わるが、今回は足場が悪い森での人命救助ということで医療道具を多めに持ち歩く標準パターンで行くことにした。
支度を終えてバイクにまたがる直前に背後から視線を感じた。
ゆっくりと振り返ったミズハが見つけたのは、街灯に照らされたファルの姿だった。
陽も落ちて肌寒くなっていたファルはピンクのカーディガンを一枚羽織っている。
「これからまた仕事?」と言いたそうな不安げな表情を向けるファルに、ミズハはグレーのマントを羽織ながら先手を打った。
「ちょっと行って帰ってくるだけだよ。あったかくして寝な」
精一杯の優しい表情でそう言ってバイクにまたがるミズハ。
エンジンを噴かすその最中、背後からファルの声が飛んできた。
「明日も、ご飯作りに行っていい?」
ミズハは顔だけ振り向き、さきほどの場所から五~六歩近づいてきていたファルに向かってこくりと頷いて見せた。