11.見守るべき少女
「ファルちゃんは良いお嫁さんになれるよ」
完成したシチューをすすりながらのミズハの一言に、ファルは赤面してモジモジし出した。
「あんなに小さかったファルちゃんもいつの間にか十五歳だもんなぁ」
「もうすぐ十六歳だよ」
親指を曲げた手のひらを見せながらファルは指摘した。
「そっか。本当に結婚できる歳になるんだよな」
「うんっ」
少女は可愛らしい笑顔を浮かべてミズハを見つめている。
「だったら尚更こんな所に出入りしてちゃダメだぞ。男一人の部屋だし、銃やら火薬やら危ない物だらけだしな」
ファルには特別にこの部屋の合鍵を渡している。
使用できるのは自分が許可した時だけだという厳命を言いつけた上でだ。
ファルはニコニコ笑顔のまま言った。
「お兄ちゃんはもう家族みたいな人だもん。家族に好きな時に会えないなんておかしいよ」
孤児院で暮らすファルにとって『家族』という単語はとても深い意味合いの言葉になる。
「血が繋がっていない」なんて軽々しく言える訳がない。
ミズハは薄々気づいていた。
ファルが自分に対して向けている好意的な感情が、いつの頃からか愛情に変わって来ていることを。
そのことは彼女が暮らしている孤児院を営んでいるグリーンハウスさんからも伝わって来ている。
いつか「お兄ちゃんと結婚する」なんてことを本気で言い出す日が来るんじゃないかと今日も内心ヒヤヒヤしていた。
少女のことを大切に想っている。
だからこそハンター稼業などをやっている自分なんかと一緒になるべきではない。
いつまでも見守るべき存在として居てほしい。
それだけがファルに対して願う、ミズハのたった一つのささやかな願いだった。
暗くなった夜道を無事に家まで送り続けたミズハは肩まで届かない、彼女の小さな姿を見送りながら改めてそう思った。
「外に出たついでだ。ギルドに立ち寄ろう」
両手でほっぺをパンと叩く。
気合が入ったその足で、ミズハは二つの依頼の報告をしに仕事斡旋所ギルドへと赴く。