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104.ヨミガエリ
「まずはこの場所について話そう」
年老いた獣人が対岸から語りかける。
その距離およそ二十メートル以上は離れているが不思議と声はハッキリと通る。
ミズハは湖に入らず、そのまま少女の傍らで話を聞くことにした。
年老いた獣人が言う。
「この場所は聖域、あるいはいざないの湖と呼ばれとる所。死者の国とこの世を繋ぐとも、死んだ命をよみがえらせる場所だのと云われておる」
「死んだ命をよみがえらせる…」
年老いた獣人の言葉を復唱するミズハ。
目が覚めたとき、森の生き物達に負わされた傷がだいぶ癒えていることに気が付いた。
それくらい長い時間眠り続けていたからだと思って気にしていなかったが。
年老いた獣人が付け足す。
「あくまで言い伝えじゃ。実際によみがえった話など、百年生きて一度も聞いたことはない」
「でも俺は瀕死の重症を負ってここに落ちてきたんだ。そのキズがほとんど治っているのは…」
ミズハの質問を遮って荒々しい獣人が言う。
「貴様はよみがえったんじゃない。死んでなかっただけだ」