100.「ショウ ――獣人探索+⑲――」
ずっと考えていたことがある。
獣の少女にもう一度会えたら、まず何を話そうか。
底無しの落とし穴の先にあったのは小規模な原生林。
その中の広い湖面に飛び込んだミズハは最後の力を振り絞って岸に這い上がった。
目の前には体を背けて横になっている獣の少女がいる。
すぐ近くで大きな水音を立てたというのに警戒する様子もなく眠りについている。
背後から一歩ずつ、足を引きずりながら近づくミズハ。
声は要らない。
そのまま正面に回り込み、顔を確認する。
口元からは鋭い牙がのぞき、そして耳は彼と同じ人間の耳をしていた。
そこに横たわっていたのは確かにあの日、月明かりに照らされた高台で出会った獣の少女だった。
ミズハがずっと考えていたこと。
獣の少女にもう一度会えたらまず何を話そうか。
起き上がることのない彼女に向かい、彼は話しかけた。
「名前を考えていたんだ。いつまでも『獣の少女』じゃなくてさ。『ショウ』ってどうかな? 君に雰囲気がよく似ている仲間がいて、そいつの名前と漢字が一緒なんだ。気に入ってくれるとよかったんだけどな」
獣の少女は何も反応を示さない。
ただどこからか流れてきた一陣の風がミズハの頬を撫でるだけ。
皮肉にも、名前の候補にもなったその漢字とはかけ離れた姿になってしまった彼女の安らかな寝顔を眺めるうち。
ついにミズハは彼女に寄り添うようにして、自身も深い眠りについたのだった。
まだ続きます。
そして獣の少女に似ている仲間というのが何を隠そうクリスタルディスク本編の主人公(男)なのです。
名前などはまた他二名とともにどこかの機会で紹介できたらと思います。