10.帰りを待つ少女
船で知り合ったゴーガと別れてから、ミズハはまっすぐ家路を急いだ。
彼の家は港から離れていない、住宅街の外れの方にある古びた二階建てのマンション。
カンカンと階段を上り扉の前に立つとお約束のポストからあふれるほどに突っ込まれた新聞の山。
それを横目に鍵を開けて部屋の中へ。
ベルトと共に腰に巻いたコルセットや二丁拳銃を床に落とすと、そのままなだれ込むようにベッドにダイブ。
長期に亘る遠島での依頼の帰りに予期せぬ海竜とのバトルで彼の疲労はピークに達していた。
普段ならシャワーを浴びてそれから道具のメンテナンスを行うところがこの日限りはそんな体力は残っていなかった。
ギュイーンと眠気が襲ってくる最中、ミズハはその【長期に亘る遠島での依頼の帰り】の件を思い出してもがいていた。
「そういえば、依頼のことギルドに報告するの忘れてた……けどまぁ、いっか」
やがてミズハは考えるのをやめて、深い眠りに就いた。
今日はひさしぶりに夢を見た。
普段は睡眠中に夢を見ることが少ないミズハだが、ハンターの仕事を終えた日の睡眠では高い確率で夢を見る。
もちろんただの夢だから深い意味などあるわけがないのだが、ミズハはその夢の内容を少し楽しみにしていたりする。
前回の夢は変な衣装に身を包み、深い森の中で見たことのない形の木の実を獲っている夢だった。
そして今回の夢は色とりどりのローブをまとった者たちと共に、お祭り会場らしき場所で食卓を囲んでいる夢。
前回の夢との共通点は、どちらもその食べ物を食べる直前で目が覚めてしまったことだった。
「おなか減った」
起き上がり一番につぶやいたミズハを迎えたのは、大好物のホワイトシチューの匂い。
匂いのする方角に目を向けると、柱の影から出てきた一人の少女と目が合った。
「あ! おはようお兄ちゃん」
緑のエプロンをつけたこの少女をミズハはよく知っている。
このマンションの斜向かいに立つ孤児院に身を寄せている、彼によく懐いている女の子。
彼女の名を呼びながらミズハが語りかける。
「ファルちゃん。勝手に部屋に入るふぁ……って言っておいたはずだぞ」
目をこすりながら、途中で大きなあくびも挟みながらミズハは言った。
「だって部屋の鍵掛かってなかったよ」
ファルと呼ばれた少女が反論する。
てっきり鍵を掛けたと思いきや、そんなに疲れきっていたのかと内心驚くミズハだった。
「もうすぐシチューできるから待っててね」
そう言い残してファルはやや急ぎ足でキッチンの方へ戻っていった。
部屋を見渡すと床に無造作に置いたはずの装備品の数々が、布の上に分けられて並んでいる。
ポストに刺さっていた新聞の数々もテーブルの上に折りたたんで置いてある。
濡れたままだったシャツも寝ながら脱いだのか、それとも脱がせてもらったのかはしらないが上半身は裸になっていた。
すっかり片付いた部屋を歩きながら、とりあえずクローゼットのシャツを一枚取り出す。