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テンプレその二 とりあえずご主人様には嫌われる

こういうコンセプトです

「でもその前に、おっちゃんから頼みがあるんだけど、いいかな?」


妖精さん(おっちゃん)は、少し難しい顔をしながら私に声をかけてくる。


「え、あ、はい」

「そろそろ着るものがほしいんだわ。いつまでも下着姿(この格好)じゃ恥ずかすぃー」


妖精さん(おっちゃん)の胸を隠すしぐさに、なぜかとてもイラッとした。


















召喚の儀式―その日の午前中にこの学年のすべての学生は儀式を終わらす、午後の講義はすべて休校になっており、その時間を召喚獣との親睦を深めたり、今後の生活における必需品をそろえたりする。


「ちょっと、どういうことなの?お金これっぽちしかないってのは!」


渡された銀貨1枚を握りしめながら、担当の用務員にどなりつけた。

今どき、平民ですら独り立ちの支度金に銀貨10枚は用意するような世の中で、たった銀貨一枚でどうしろっていうのだろう。

これじゃ、新しい寝具一式さえ整わない。


「そんなこと言われてもな。ええっと…カーラさんだっけ?人間を召喚するようなケースは初めてなんだよ」

「そんなこといったって、学校の方からもっとお金でてるでしょう!?一人当たり金貨2枚程度の援助金が出ているって聞いているわ!」


ふざけている、きっとこの人は私が子供だから何も知らないと思ってるんだ。

私だってそれなりに苦労してきているから、それくらいの事はちゃんとお父様から聞いている。

援助金の金貨2枚が1/200の銀貨一枚になる理屈がわかんない!


「そりゃ、援助金をそのまま渡せば、金貨2枚になるし、俺も仕事も楽になっていいんだがな。そこにあるもんをみろよ。召喚獣に必要だろう敷料(ねわら)に、日持ちする餌、いざっていうときの薬に、玩具、何でもござれだ。援助金の大半はここにあるものに使ってんだよ。って、おい!おまえは、勝手に触るんじゃねーよ」


用務員があわてて、妖精さん(おっちゃん)に制止をかける。

というか、何やっているのよ…

いきなりロールに巻かれた敷料(ねわら)をほじくって遊んでいたかと思えば、いきなり口にくわえて…


「ねえ…それおいしい?」

「うーん。ありえないくらい、まずい」


くわえた草を床の隅にぺっっと吐き出して文句を言ってる。


「当たり前だろこのくそったれ。それは喰いもんじゃねえんだよ!それにな金だけ渡して、学生に全部買って来いなんて無責任なことは俺にはできねえんだよ。敷料なんかを学生に農家に買いに行かせるなんて真似できるか。本来なら、金もらいにくるような奴なんか、遊ぶ金、目当てで来る平民ぐらいしかいねえんだよ。嬢ちゃんも貴族ならここでそろわないのは、自分で金出して揃えな!それに、その金額には、そいつの着てる服の分の金額も引いてあるからな」


用務員さんはそれだけ言うと奥に戻って行ってしまった。

確かに、お金持ちの貴族は実家からの支援によって、高給なものを召喚獣に与えるケースは多い。

ここでそろえられるものは、やはり最低限のものであって、いいものではない。

先輩からも、小動物系が召喚できたら敷料でベッドを作るよりも一緒にベッドで寝てあげる方がいいよとアドバイスをもらっている。

だけど、目の前で配給品を漁っている妖精さん(おっちゃん)の方を見て思う。

このおっちゃんと一緒に寝るのは無理…生理的に無理。





















「どうしよっか…」


妖精さん(おっちゃん)の寝るところを、配給品の敷料で作るという案は、妖精さん(おっちゃん)によって却下されてしまった。

そのために、何も持たずに自室に戻ってきた私たちは、机の上に置いた銀貨一枚を見ながら呆然としていた。


「一つずつ揃えていくしかないね。さしあたって、おっちゃんの分の食事はどうなるのかねえ?」

「それは、食堂に言えば何とかなると思う。特殊なものしか食べられない召喚獣の場合、食堂で作ってもらってるケースもあるらしいって聞いたことあるから。でも、今日の分は、今からじゃ間に合わないと思う」


光の妖精や月の妖精なら、太陽光や月光を浴びればそれでよいが、氷の妖精などは、食事に氷をとったりするため、そのようなものは食堂に頼んで用意してもらう場合があった。


「それなら、おっちゃんはどこかで食べにいってくるよ。食べるとこある?」


机の上の銀貨を拾いながら、おっちゃんは私に聞いてきた。


「うん。学校の食堂は、部外者は使えないようになっているからだめだけど、この学校を出れば、食べるとこはあると思う。というより、この学校自体が、王都の中にあるからね。外は結構にぎわかよ。それとこれ、それだけじゃ食事して終わりだろうから持って行って」


タンスの中から銀貨5枚を取り出して、おっちゃんに渡した。

これは、バイトをしながら召喚獣のために1年がかりでためたお金だった。

学費の一部も出さないといけないから、あんまり貯められなかったけど、食費がほぼただだったので、その分を少しずつ回してためたもの。


「これで、必要なもの買ってきて。その間に、私は学校の食堂の方に食事を頼んで、校長先生のところに行ってくる。もしかしたら校長先生がもう少し援助してくれるかもしれないから、人間なんて召喚したケースもないんだしね」


おっちゃんと私は、日が暮れる前にと急いで、行動に移した。

日が暮れてしまえば、店も閉まってしまう。

そうなると今日寝るところにも困ってしまうだろう。















結論から言うと校長先生を頼ったのは失敗だった。

校長先生には、けんもほろろに追い出されてしまった。

なんでも、召喚獣は自分の一部、既定の援助以上は特定の生徒の肩入れになってよくないし、その程度は自分で何とかしろという事だった。

食堂の方では、よくあるケースなので、簡単に話はつき、むしろ食堂のおばちゃんには、そんな召喚獣で大丈夫かと心配されてしまった。

大丈夫でもないし、問題しかないけど、召喚してしまった以上面倒を見るしかない。

その事も校長先生に相談してみたが、『召喚は成功している。もし現在の召喚獣を破棄して新しく召喚をするというのならば、初回召喚自体を失敗として評価する』といわれてしまった。

召喚失敗などと評価されてしまったら、将来は絶望的になってしまう。

この学校をドロップアウトすることに等しい。

あわてて、否定して逃げ帰ってきてしまった。

部屋に戻っても、おっちゃんの姿はなくまだ帰ってきていないのだろう。

食事もあるから、そんなに早く帰って来ないのかなと思い、仕方なく、私は夕飯をとって部屋で待つことにした。




















時と場所は打って変わってカーラと別れて約30分後、おっちゃんは学校の正門から街にくり出していた。

門に詰めている守衛と話をして顔を覚えてもらうことも忘れていない。

ただ、学校の方から報告があったのか、おっちゃんがカーラに召喚された事実は簡単に認識された。

守衛と軽く別れの挨拶をすると、おっちゃんは金貨(・・)の入った袋の片手に繁華街の方へと歩いて行った。


「意外にいい金になったな~さって今夜はパーッとやりますかねん」


おっちゃんは上機嫌で鼻歌を歌いながら、夕暮れ時の街に消えて行った。





















「あ…」


気が付くと部屋は真っ暗になっていた。

燭台のろうそくも全部溶け切り消えている。

妖精さん(おっちゃん)を待っていたけど、待ちくたびれて眠ってしまったみたいだった。


「ん…あっ…ふぅー」


一つ伸びをすると窓を開けて月明かりを取り込んだ。

どうやらもう、深夜を回っているようだ。

窓からは、季節に似合わず涼しい風が入ってきている。

風と一緒に虫の鳴く声も聞こえる。


「おっちゃんまだ帰ってこないのかあ…どうしたんだろ?」


よくよく考えてみれば、妖精さん(おっちゃん)はこの街のことをよく知らないはずだ。

それを一人で行かせてしまった私が迂闊(うかつ)だった。

もしかしたら、迷子になっているのかもしれない…

人さらいにさらわれて奴隷に…?うん、それはないね。

あんな豚みたいな人間をさらってもそんなに値はつかないだろうし…

それでも、帰ってこないってことは、何か問題があるのかもしれない。

こんなところで、召喚獣を失うなんて、私の管理能力を問われてしまう。

ひどければ、この学校を中退させられるかも…

考えれば考えるほど、悪い予想ばかりたつ。

居てもたってもいられなくなって、飛び降りた私は、ドアノブに手をかけたときに変な歌が聞こえてくるのに気づいた。


『おっちゃんはね~♪おっちゃんって言うんだ、ほんとだよ~♪だけど、おっちゃん嘘つきだから自分の事おっちゃんって言うんだよ。優しいね!おっちゃん♪』


なんだか聞いているだけで、私の頭が痛くなってくるような意味不明な歌だった。

なのに無駄に美声だし、上手い。


『ちょっと、貴方。今何時だと思っているのですか!やめてください。それにここは女子寮…ああ、貴方が連絡にあったカーラさんの召喚獣ですね。特例として女子寮(ここ)に住むことをみとめますが、問題を起こしたら即叩き出しますからね!まったく、カーラさんにも伝えておいてください』

『は~い。わっかりましたー!美人の寮長さん!んでは!』


いきなり、妖精さん(おっちゃん)は寮長に目を付けられているし、私の評価まで落ちている気がする…

あんの豚は…もう!

調子のいい事ばっかり言って、寮長先生って今年50にもなる年配の方に向かって、美人とか…バッカじゃないの!

はぁあ…心配して損した…


―コンコンコン


意外にも妖精さん(おっちゃん)は扉の前に戻ってきていきなりはドアを開けずにノックをしてきた。

遅い時間だし、荷物もあるだろうから私は答える前にドアを開けてあげた。

ただ、私はこの時ほど、妖精さん(おっちゃん)に親切心を持ったことを後悔したことはない。


「たっだいま~。おっちゃんですよ~」


妖精さん(おっちゃん)は手を大きく広げて、抱擁をしようと近づいてくる。

それをよけながら、私はとてつもないことに気づいてしまった。

おっちゃんが手ぶらなのだ。

暗闇でよくわからないが、顔も赤い。

なにより、ものすごいアルコール臭がする。


「お…おっちゃん。なんで手ぶらなの?何も買わなかったの?」

「うん?ああ、うん。それには、深ーいわけがあってだな。ほらおっちゃんて妖精さんじゃない?こまっている子がいたら助けてしまうという深い(ごう)があるんよー」


妖精さん(おっちゃん)は腕を組みながら、うんうんとうなっている。


「それでねー。街を歩いていたら、見るからに不幸そうな子に出会ってしまったのよ。話を聞いてみれば、聞くも涙、話すも涙、チリ紙なくて語れない!。なんでも、悪い奴に騙されて借金を背負ってしまったらしくてねえ。今日中にある程度お金を工面できないと家ごと家族ごとそいつのものになってしまうらしいんだ」

「それで、もしかしてお金あげちゃったとかいうんじゃないでしょーね?」

「それは、おっちゃんのことなめすぎだって。お金なんてものはむやみやたらと上げるものじゃないさ」

「そう、ならいいんだけど。その話とおっちゃんが今酔っぱらってる上に、何も買ってこなかったことと何の関係があるの?」

「まあまあ。そんな焦んないで☆お金は上げられない。だけど、その子は困ってる。だからおっちゃんはお金を貸すことにしたのさ。全額ね!いやー人助けって気持ちがいいねー。それで、お金を貸してくれたお礼にって、その子のおうちの方で、食事とお酒をごちそうになってきたってわけよ!楽しかったな~」


―ブチリ


その時私の中で何かがキレた音が聞こえた気がした。

多分部屋がもっと明るければ、顔が赤くなって体が小刻みに震えているのがわかっただろう。


「ふ…ふ…ふ…」

「ふ?ふもちー?」


ご機嫌な妖精さん(おっちゃん)が余計に火に油を注いでいる。


「ふざけんなああああああ!嘘ならもっとわかりにくい嘘つきなさいよ!お金のない家が、そんな豪華な食事にお酒付けられるわけないでしょうが!どうせ、全部嘘で、酒場で全額使ってきちゃったんでしょう!」


気付いた時には、家具を妖精さん(おっちゃん)に向かって投げつけていた。


「私がっ…どんなっ…ひっぐ…思いで…うっ…あのお金を…ためたと…うぅ…思ってるのよ…」


蝋燭台、本といった小物から始まって、椅子まで投げて壁にぶつかって足が取れていた。

妖精さん(おっちゃん)は、『落ち着けって、危ない』って言いながら、入ってきた扉から逃げて行った。

あのお金は、ほしい本もアクセサリーも服も我慢してちょっとずつちょっとずつためてきたお金だった。

この一年の終りに召喚される愛しい召喚獣のために。

学校での勉強の後のアルバイトだからろくに友達とも遊ぶ時間もなくって、休み時間も自習しないと勉強について行けなかった。

それでの、自分の分身にもなる召喚獣のためなら辛くなかった…

私には友達がいない、友達と遊んでる余裕がないんだから当然だ。

それでも、召喚獣がいてくれればさみしくないと思って頑張ってきた。



しばらく物を投げつけて、投げるものがなくなった私は、糸が切れたように座り込んでしまう。

悔しくて、悲しくて、泣いているといろんな人が起きだして集まってくる。

最終的には寮長先生が騒ぎを聞きつけて飛んできてしまう事態にまでなってしまった。

泣いている私を見て驚いて、泣き止むまでずっと慰めてくれる寮長先生に久しぶりに甘えてしまったのかもしれない。

事情を私から聞いた寮長先生は、こめかみをもみながらやさしくわかったといい、『片付けは明日でいいよ』といって泣き疲れた私をベッドまで連れて行ってベッドに寝かせてくれた。

泣き付かれてしまった私は、意外にもあっさりと意識を手放し、翌朝きれいに片付いていた部屋と廊下を見て寮長先生のやさしさにまた泣きそうになってしまう。

私は、一人では生きていないんだと…この時初めて寮長先生のことが好きなったかもしれない。




でも、それから妖精さん(おっちゃん)は、私が朝食を終えて登校する時間になっても姿を現すことはなかった…


妖精さんはごみ屑でしたとさ。ちゃんちゃん


ストックとか難しいことは、赤ほるにはわからないので更新は不定期になります。

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