いっくん♥ なっちゃん♥
(30分前ギリギリとうちゃぁ―く!)
衣織が公園につくとスタッフはまだ誰もいなかった。
まぁ集合時刻から準備が始まり、実質、その30分から1時間後に撮影が始まるのだから、仕方ないと言っていいだろう。普通、出演者はもっと来るのが遅くて、衣織はまぁ例外で、早すぎだ。
この公園は、大きな噴水があり、気持ちを落ち着かせるのにちょうどいい。また、家から近いために衣織もよく来ることがあった。
だいたいこの時間帯は散歩中のおっさんとかいちゃついてるカップルぐらいしかいない。今も例外ではない
とりあえず近くのベンチに腰掛け、携帯をいじっていると、隣のベンチから話し声が聞こえてきた。
「ねぇ、いっくん。今日はどこにいくのぉ?」
きっとさっきいちゃついてたカップルだろう。 特に興味もないので、そのまま携帯をいじっていた。
「あぁ、どこがいい? なっちゃぁん~?」
彼氏の方が、語尾にハートマークがついてもおかしくないような感じでしゃべりかけている。いやむしろ、もぅついているように俺には見える。
「う~んと、なっちゃんわぁ、いっくんと行くならどこでもいいよぉ?」
「もぉ! かわいいこというなぁ。なっちゃんわぁ」
彼氏が「コノコノォ~」とこずくマネをしている。
ここまで聞き、衣織は携帯をいじる手をとめた。
今、衣織から殺気のようなものがほとばしっていた。
はぁ――――――――――? いっくんなっちゃんってどこのベタベタカップルだよ!
「コノコノ~~」じゃねぇぇよ!
こんな真昼間から公衆の面前でいちゃつきやがって!
公衆の面前で……こうしゅ…………こ……おれの眼の前でいちゃつきやがってぇっ!!
……衣織は苛立っていた。
そんな衣織を知るわけもなくカップルは話を続けている。
すると突然、彼女の方が何かにきずいたように声をひそめて言った。
「ねぇ~。今隣に座ってる人、俳優の町川衣織に似てない?」
「えっ? まじで~?」
まぁ声をひそめたつもりでもまる聞こえであって、衣織は二人にガンを飛ばした。
そうだよ! 今あんたらはあの町川衣織の前でいちゃついてんだよ! 自粛しろ!
衣織は心の中で訴えかけた。
「ねぇいっくん、本物じゃない? チョー似てるし。なっちゃんファンだからわかるぅ」
えっまじかよ。なっちゃん俺のファンなの? ……まぁいいや。ファンでもいいからどっかいけっ気でも何でも使ってどっかにいってしまえぇぇ!!
衣織、渾身の叫びだった。
「あっでも、本物じゃないとおもうよ~。じゃなきゃこんな公園に一人でいるわけないじゃん」
えっ…………。
「う~~~ん。確かに言われてみればそうかもぉ? あの町川衣織がこんなとこで寂しく1人でいるわけないかぁ」
きゃははっとなっちゃんは無邪気に笑った。ちなみにその無邪気さは、衣織の心を深くえぐった。
「そうだよぉー! きっと今頃彼女さんとデートでもしてるよぉー! あっでも清純派だから彼女いないかも?」
彼氏の方が笑い飛ばした。
なっ…………。
「あ――、それかわいそぉかも? 清純だから、なっちゃんといっくんみたいにイチャイチャできないってことでしょ? 」
「そうだね~」
「あっ! 衣織――」
相変わらず早いね。と公園に現れたのは、明るい茶髪に(*注意*これは地毛です)セミロングで癖っ毛。耳の上で軽く止めた紫がかった桃色のピン。しっかりした雰囲気をただよわせる顔立ち。世間ではこれを美人と呼ぶらしいが、同い年なので衣織には理解できない……。それは、間違えるはずもなく楓そのものであった。
ちなみにその時衣織は楓が神様に見えたらしいです(後日談)
「えっ! あれって女優の楓じゃない!?」
「まじだ! 本物だ!」
どうやら、隣のカップルも楓にきずいたようだ。
待ってましたとばかりに俺はベンチから勢いよく立ちあがり、楓に声をかけた。
「よぉ!」
なっちゃんは唖然としている。そしていっくんが まさかという顔で言った。
「ここに女優の楓がいるってことは、まさかそれじゃぁ」
今まで言われたい放題だった復讐をかねて、俺はいっくんの言葉をさえぎっていってやった。
「いやぁ楓――――。俺らこれからさ、つ、え、い、だよなぁ? 決して一人でさびしくいるわけじゃないよな――――?」
二人の顔が強ばるのが見えた。
「えぇ?ま、まぁ」
楓はカップルと衣織を交互に見ては首をかしげている。そりゃそうだ。
「あと彼女とかってさぁ! 別に作ろうと思えば作れるけど、あ、え、て、つくってないだけだよなぁ?」
「はいぃ?」
「いや、そんなこといわれても――――ってかあんた誰にむかって話してんのよ」と楓がこずいてきた。
だが無視してとどめを刺すことにした。
「あぁ~~。もぅスタッフさん達きたかなぁ? じゃぁそろ そろ、さ、つ、え、い、の準備始めようぜ!」
「えぇ? うっうん」と楓は状況が読み込めないといった様子だ。
「ご…………ごめんなさぁぁぁぁああい!!」
いっくんはなっちゃんを連れて公園から逃げるように駆けて行った。
「え? 私達なんで誤られたの!?」
わけがわからないと楓は動転している。
衣織に関しては、してやったりとい言う表情だ。
そんなことをしていると公園にプロデューサーが入ってきた。どうやらさっきのカップルいじめは以外と時間を食っていたようだ。
「お! 二人とも、今日はよろしく頼むね~~」
『はい!』
「あと、楓ちゃんちょっといいかな?」
「あ――はい! わかりました」
「なんだ呼び出しかよ、なんかやらかしたんだろ~」
「ち……違うわよ! うるさいわねぇ。もぅ練習でもしてれば!」
「はいはーい。ったくそんなに邪険に扱わなくてもいいじゃんかよ―」
そうゆうと、衣織は近くにあった椅子に腰掛け、今回撮影する“GAME”の台本をみ始めた。
“GAME”
それは、亮という少年がある日、突然家族を失うことから始まる。
その事があって以来、希望を失った亮はおかしな夢をみるようになってしまう。その夢はここ(現実)とはかけ離れたGAMEのような世界感の場所ではじまり、亮はずっとそこを歩き続けているのだ。
また、その日もいつもみたいに寝たのだけど、その日見た夢はいつもと違っていた。目の前には泉がありそこからこえがするのだ。(お前は家族をどんなことをしてでも生きかえしたいと願うか?)声は亮にそう問いかける。そんなことはできるわけがない! と亮はいったが、でももし生きかえさせられるなら……どんなことでもやってのけると誓った。そのとたん、亮はその泉の中にすいこまれてしまうのだ。
目が覚めると、そこはGAMEの世界だった。手には“クリアを目指せ”とだけ書かれた紙が握られていた。亮は同じ状況下でここにいる他のプレイヤーたちとともにクリアを目指して戦う…………。
そんなストーリーだ。 んなもんあったら苦労なんかしねぇよ、と衣織は思いながら、亮に感情移入していると
……プロデューサーから始まりの合図がかかった。
「じゃぁはじめよう!」
プロデューサーの掛け声でみんなが位置についたとき
「あっちょっと待って!」
そして、言った本人がみんなを止め走り出した。
はい? 衣織は訳がわからず困惑した。となりをみると楓は、なぜか
ひそかに笑っていて、疑問におもい、声をかけようとしたその時だった……。
ふわっと衣織の方に向かって何かが飛んできた。
よくみるとそれは麦わら帽子で、衣織はそれをつかみ、きずいたら少し強めに握っていた。