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BRAVER-大会編-(後)  作者: Tommy
第6章-時は進む-
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42.三人衆

ある、月の出た夜。


ブレイバー本部、資料室。

レックスがしばしば訪れ、事務をこなす場所だ。

部屋中にはびっしりと本が並んでおり、それは奥にまで続いていた。

が、彼が使っているのは入り口付近の机のみだし、他の隊員も殆ど出入りしていない。ほとんどレックスの部屋のようなものだ。

増してや最近では、レックスが「不在」の時に資料を管理している司書が、彼が来たら任せて部屋を後にするほどになっている。


そんな資料室だが、今宵そこには三人の男女が座って話していた。


ブレイバー剣士隊長、レックス。

ブレイバー医療班長、シルク。

そして―元ブレイバー、天竜 鳶人だった。


「どうだ? 調子は」鳶人が口を開いた。

「順調よ。凄い成長っぷり。まだ荒いけど、レベル5もそろそろ習得できると思うわ」シルクは言った。

「へぇ、レベル5! ワイヤーだっけ名前? やるじゃねぇか」鳶人は関心した。

「うん、でもちょっと疲れてるみたいだから、しばらく休ませてあげようかなって思ってる」

「そっか、シルクちゃんも疲れたんじゃないの?」

シルクは鳶人の目から、不純なものを感じつつも、黙っておいた。

「ホントよ。かなり疲れたわ。ぐえー」

彼女は机の上につっ伏した。

「エクセルも凄いぜ。 魔術が全然できなかったのに、今は立派に強化系を習得している。 マイノリティ優勝はもらったぜ」

「あらそう?」シルクは顔を上げた。

「まぁ、あいつも疲れてるし、今は寝てる。 けどな、明日からは再開するぜ」

鳶人は拳を握りしめた。

「お前はどうなんだ、レックス? さっきからずっと黙ってるけど、何かあったのか?」

「……」

レックスは、鳶人の方向を見ようとしなかった。

「どうしたんだよ本当に。あ、そういや森で見たぜ、スタンの火柱斬! お前の教え方が上手いんだろうなやっぱ」

「火柱斬って剣撃系レベル5じゃないの? すごい」シルクは感心した。

「スタンもやっぱ今寝てるのか?」

ここで初めてレックスが口を開いた。

「あいつは森に置いてきた」

「なっ!?」

「一人にしてきたっていうの!?」

「これは俺の意思ではないーーあいつ自身のものだ」

「スタン自身の」

「意思……?」

「あぁ。『残ってもっと鍛えたい』って」


「マジかよ……」

「まぁ、あいつなら大丈夫だろう。 以前より、信頼できる実力になった」

「……レックス、あなたの自信には本当にあきれる」


すると、入口からノック音がした。


「どなたでしょうか?」

シルクは問う。

「お取込み中失礼します。剣士隊長と会合したい方がいらっしゃいます」

ドアの向こうから、事務官が言った。

「こんな夜にか……いったい誰だ?」鳶人は言った。


「ギルバート・ウェイン人事管理長です」


「ギルバートが?」レックスは、その"懐かしい"名前に首をかしげる。

「ギルバートってあの"三人衆"の一人か?」鳶人は問う。

「あぁ。ブレイバーの中でも古い顔だ」

レックスはそういいながら、腰を上げた。


「いいだろう。どこまで向かえばいい?」

「はっ、部屋まで案内します」

「頼む」


**


 「よくぞ参りましたな、レックス剣士隊長」

その男――ギルバート・ウェインは静かに立っていた。

小さな丸眼鏡をかけた、細見で初老の男――その佇まいは"紳士"そのものであった。

右半分が黒く、左半分が白い隊員服。

が、その異常さを感じさせないほどに、彼はそれを礼服のようにきっちりと着こなしていた。

髪もしっかりと固めていたが、歳のせいか白髪が垣間見えた。


「よう、ギルバート」

レックスは軽い挨拶をした。

「性格は変わらずですな。オルダーで君を見かけた時と大差ない」

ギルバートはあざ笑うかの如く、眼鏡を押し上げた。

「ふん、どいつもこいつも昔話が好きなことだ」

レックスは面白くなかった。ミッチェルといい、久々に会った者は皆、昔話をするのかとあきれていた。


「さて、なぜ私が貴方を呼んだか、おわかりですかな?」

「"三人衆"が一人、ギルバート・ウェインからのお呼び出しだ。よっぽど大事なことなんだろう」

「その名は、もう無いようなものですがね。今の私は管理職だ。ほかの二人とは違いますよ」


 三人衆。

それは遥か昔――オルダー戦争よりも昔、世界を揺るがした三人の戦士のことだ。


 一人は目に見えぬ速さで恐れられた"俊足"のギルバート。

彼と対峙した者は、自分が殺されたことも分からぬ早さで死んでいった。

現在、新人ブレイバーの採用や昇給、役職配分などの人事管理を行っている。


 一人は常人ならぬ力の持ち主、"金剛"のスパイク。

たった一人で50人の重装兵の部隊を倒した実力を持つ。

現在はマジョリティ先鋭部隊に所属している。


 そしてもう一人は、三人衆が紅一点、"烈華"のアヤメ。

三人の中では最も実力があるとされ、ギルバートとスパイク共に一目置いている。

魔術に於いて博識であり、それに負けない精神力と集中力を持っている。

彼女に不可能な魔術は無い、と恐れられている。

現在、消息不明である。


「私が貴方を呼んだ理由は他でもない。あの黒い生き物のことですよ」

「悪魔どものことか」

「はい」

「過去の文献にデータが無い。……ただあるのは、"伝え"とか"物語"とか、絵本みたいな話ばかりだ」

「そうですね」

ギルバートはうなずいた。

「だが、大昔に起きたシュテンハイムの事件のデータが興味深かった。 未解決に終わったこの事件と、先日起きた事件――関わりが無いとは思えない。 そして、我々ブレイバーに襲撃をかけてきた」

「それについては、どうお考えですか?」

「目的は不明だが、何体かでまとまって襲撃したことを考えると、組織として動いている可能性は高いな」

「えぇ。そうでしょうね」

「で、本題は何だ?この悪魔どもが、どうしたというんだ?」


すると突然、ギルバートは険しい顔をした。


「"天使と悪魔の物語"――それが実際にあったものだとしたら、どうします?」


「なっ!?」


「私はその、千年前の"悪魔"に会ったことがあります」


「く、下らん! そんな出鱈目、信じるわけがないだろう!」

「失礼なお方だ」

ギルバートは再び眼鏡を押し上げた。


「見損なったぞギルバート、俺は忙しいんだ。帰らせてもらう」

レックスは剣を背負い直し、部屋のドアノブに手を差し伸べた。


「資料室のドアは、ライセンスがある者しか入れない」


「……それが、どうした?」

レックスは振り向いた。


「これ、誰のでしょうかね?」


ギルバートは、カード状のものを取り出し、レックスに得意げに見せた。


「なっ……俺のライセンス!」

ギルバートはレックスに気付かれぬ間に、彼の懐のライセンスカードを奪っていたのである。


「これが無いと、困りますよね?」


「……おもしれぇ、聞いてやろうじゃないか」


レックスは冷や汗をかきつつも、にやついた。

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